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グローバル化と大都市制度の新たな地平

開催概要

去る2012年11月15日(木)、中野区コングレスクエアにおいて、新・地方自治フォーラム主催シンポジウム「グローバル化と大都市制度の新たな地平」が開催された。

本シンポジウムでは、急速に進展するグローバル化・情報化の中で少子・高齢化や財政危機を迎えている大都市の現状と課題、そしてそれらを克服するための新たな制度の在り方等について活発な議論がなされた。

シンポジウムの冒頭、横浜市の林文子市長、中野区の田中大輔区長が現状の大都市制度下の課題や今後の展望等について講演を行った。その後、名古屋市の入倉憲二副市長、経済同友会の柏木斉副代表幹事が加わり、北海道大学公共政策大学院の宮脇淳院長のコーディネートによるパネルディスカッションが行われた(横浜市は鈴木隆副市長が参加)。

基調講演

林文子横浜市長が現在、横浜市の抱えている課題を挙げた上、その解決のために新たな大都市制度である「特別自治市」制度が必要であると提言した。

横浜市をはじめとする大都市の主な現状・課題として、

  1. 人口減少と高齢化
  2. 都市間競争の激化
  3. 公共施設の老朽化

を示すとともに、政令指定都市制度の課題として、

  1. 府県との事務・権限の分担
  2. 特例事務に見合う財源措置

を示した。そして、これらの課題を解決するための方策として、新たな大都市制度である「特別自治市」の必要性を強調した。

「特別自治市」制度については、「横浜特別自治市大綱素案(骨子)」(平成24年6月)において、

  1. 現在、県が横浜市域において実施している事務および横浜市が担っている事務の全部を処理
  2. 市域内地方税の賦課徴収
  3. 近接市町村との水平的・対等な連携協力関係を維持・強化
  4. 特別自治市内部の自治構造を行政運営の効率性と住民自治の両立可能な行政区とする

としている。この「特別自治市」制度の導入により、上記の問題を解決し、経済成長を促す好循環を形成することが可能であるとした。また、このような大都市の権限強化にあたっては、近隣自治体との水平・対等な連携や大都市の一体性を確保した上で住民自治を強化することが重要であると強調した。

特別講演

中野区の田中区長から中野区での行政運営を基に、都区制度の現状と課題について講演された。特別区における基礎自治体としての事務・権限の制限などの自治行政権の実態や、東京都と特別区との独自の財政調整制度などの自治財政権の実態についての解説があった。戦後の東京都と特別区との交渉は、区の自治権拡充の歴史であるとし、特別区が東京都の内部的団体から基礎的自治体として法律上に明示されたのは平成12年だと、比較的最近のことであることを解説した。

地方自治体の原点は地域を単位として形成する運命共同体であるとし、今後も地方自治体の権限を強化していくことが重要だと主張した。ただし、同時に経済的な独立性を伴わなければ住民が自己決定・自己責任を全うできないという理由で、地方自治体は一定以上の規模を保つ必要があると強調した。他方、広域自治体は国からの権限移譲を進めるべきであるとした。

パネルディスカッション

パネルディスカッションは、北海道大学公共政策大学院の宮脇院長のコーディネートで進められた。

名古屋市の考える大都市制度のあり方

冒頭、名古屋市の入倉憲二副市長が「名古屋市の考える大都市制度のあり方」を説明した。名古屋市も横浜市と同様に「特別自治市」への移行を目指しているが、近隣市町村との水平連携の強化を重視している点を特徴として挙げた。周辺自治体の財政力が平均的に高いこと、名古屋市を結節点とする道路・鉄道網等の交通インフラが充実していること、近隣からの通勤・通学者が多い圏域唯一の大都市であること等から、名古屋市は特別自治市とともに近隣市町村との広域連携を目指しているという考えを述べ、この圏域を牽引していくために新たな大都市制度が必要であると強調した。

今後の日本の経済成長を左右する地方自治体への期待

次いで、経済界からのパネリストとして経済同友会の柏木副代表幹事が「今後の日本の経済成長を左右する地方自治体への期待」を述べた。グローバル化と新興国の台頭、人口減少と少子・高齢化等の我が国を取り巻く環境変化を示した上で、地方自治体への期待として、

  1. 効率・効果的な行政サービスの提供
  2. 住民生活・企業を支えるインフラ整備
  3. 規制緩和と強化の両面での規制改革

を挙げた。その実現に向け、

  1. 国と地方の役割分担を改める権限移譲
  2. 税財源移譲
  3. 広域行政機能の確立

が課題であるとし、補完性の原則に基づく「地域主権型道州制」の導入が必要であるとの認識を示した。

道州制と「特別自治市」の関係について

各パネリストからの提言が一通り説明されたところで、コーディネータの宮脇院長からディスカッションの皮切りとして、道州制と「特別自治市」の関係について、横浜市の鈴木副市長に質問が出された。鈴木横浜市副市長は、道州制においては、広域自治体の規模が拡大する一方、住民に近い基礎自治体がしっかりと機能することが重要であるとし、特別自治市は道州制にも馴染む制度であるとの見解を示した。また、道州制における基礎自治体は、必ずしも“30万人”といった人口規模で一律に分けるのではなく、多様な基礎自治体があって良いとし、特に大都市制度は諸外国での成功事例もあると指摘した。

他方、名古屋市の入倉副市長より、名古屋市では、県・市が一体となって強い地域を創ることの必要性や生活に根差した住民自治を重視しているとの見解が示された。名古屋市では、近隣自治体の連携を中心に置く「尾張名古屋共和国構想」の中で、これまでも地域連携のあり方を研究してきた。入倉名古屋市副市長は、地方が多様な制度を自由に選択できることが必要であることを強調した。

特別区の合併について

関連して広域自治体という観点から、「特別区の合併」という課題について中野区の田中区長に質問が出された。田中区長は、特別区の合併に関しては、地域として経済的独立を保つには一定規模の人口が必要であることから、現在のブロック等にとらわれない、地域的な近縁性に基づいた合併などがあってもよいのではないかとした。

経済同友会の柏木副代表幹事からは、各階層の行政主体にそれぞれの役割に見合った権限・財源を与え、可能な限り階層間の調整を必要としない制度にしなければ、結果として補助金等を通じた上からの介入を招いてしまう懸念があるとの指摘があった。

地方自治体同士の水平的な財政調整について

関連して、コーディネータより、「過去に国でも議論になったことがある地方自治体同士による水平的な財政調整が、現場感覚として実現可能なのか?」という質問が出された。これに対し、鈴木横浜市副市長から、「市でも過去に検討した経緯があるが実現は非常に難しく、横浜市に関していえば財政調整するほど財源が偏っているわけではない」との回答があった。

さらに、大都市が周辺自治体との連携を考えるにあたっては、財政資金以外にも一定規模の組織でなければ賄えない専門職員や大規模施設等の共用も視野に入れる必要があることが指摘された。また、連携にあたっては官のみならず民間の資源・ノウハウも活用することが重要であるとの指摘があった。

大都市内部の自治のあり方について

以上のように、各階層の行政体間の関係や地方自治体間の関係について一通り意見が述べられた後、議論は「大都市内部の自治のあり方」に移った。

議論の嚆矢として、コーディネータから、基調講演で行政区への権限移譲に積極的に臨んでいると話した横浜市に対し、もう一歩進んで、「行政区を基礎自治体にする考え方」についての質問がなされた。鈴木横浜市副市長は、行政区には一部予算編成権の付与や区づくり推進市会議員会議、地区懇談会等の仕組みを整備しているとした上で、それでも行政効率や横浜市という有機体としての一体性を考えると、現在の状態が最適なのではないかと答えた。

他方、入倉名古屋市副市長は、区役所を総合行政機関にしていきたいという思いはあるが、横浜市ほど予算編成権の付与は進んでおらず、区長の権限や議員との関係等、今後検討が必要な課題が多い、とした。また、議会制度は間接民主主義に必須であるとした上で、選挙の時しか住民が権利を行使する機会がないという点に課題もあり、現在も区政協力委員制度による協議会等で補完しているとした。この点、名古屋市と横浜市の双方から、住民自治を進めるほど、議会が持つ選挙による代表と住民に最も近い自治組織の役割との関係が難しくなるとの指摘があった。

中野区の田中区長からは、自己決定の単位であるコミュニティは重層的に存在しており、住民自治の仕組みは多様に作ることができるが、地方自治体については、行政運営の効率化の観点から規模についても重視せざるを得ないのではないかとの意見が出された。

柏木副代表幹事からは、グローバル化や少子高齢化の中で、これまでと同じサービスを一律に提供することは難しくなっており、各地域の多様性に応じたサービスを住民が自己選択・自己責任で求めることができる制度に地方自治体を組み替えていくことが重要であると指摘があった。

まとめとして、地方並びに日本全体が今後の厳しい経済社会環境を生き抜くためには、地域住民の力を最大限に発揮することが重要であり、そのために最適な行政体を柔軟に形成していくことの必要性が改めて各パネリストより強調され、パネルディスカッションは終了した。

今後の地方自治体運営における首長のリーダーシップのあり方について

シンポジウムの最後には、名古屋大都市圏に位置する小牧市の山下史守朗市長より、「今後の地方自治体運営における首長のリーダーシップのあり方」について講演があった。他自治体同様、同市でも今後の人口構造や財政面で課題があることを示した上、その解決のためには戦略的な市政運営が重要であるとの考えを示した。「市政戦略本部」や「市政戦略会議」の設置等により、市民とともに戦略的に市政運営を進めている同市の取り組みが紹介されるとともに、二元代表制における議会との役割分担の中で首長がリーダーシップを発揮していくことの重要性が強調され、シンポジウムは幕を閉じた。