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「PPPによる地域価値の創造と民間化の実践」

~超・製造業をめざして~

北海道大学大学院法学研究科
教授 宮脇 淳

我々行政学をやっている人間が注目するのは、改革派とよばれる首長の退陣後、その行政組織と地域が構造的に従来と変わっているかという問題です。現状ではおしなべてもとの体質に戻ろうとする力の方が強いようですが、日本や地域を取り囲んでいる環境の変化は大きく、後戻りはできません。本当の意味での見直しや改革を行うのであれば、これからお話しするパートナーシップの本質は何なのかをきちんと整理し、踏まえていく必要があります。

【NPMからPPPへ】

「官から民へ」というのは、基本的にはNPM(New Public Management)の考え方で、我が国の今の行政改革の基本理念です。できるだけ市場に任せましょうという考え方で、小泉総理がよく言う「民間でできることは民間で」ということです。自治体の政策評価、国立大学の独立行政法人化、PFIなどもNPMの考え方から実践されているものです。

NPMの成果として「公的部門の組織的スリム化」「財政再建への寄与」「民間部門の領域拡大」などが挙げられますが、反面、公共サービスの質的改善が不十分というデメリットも生じています。その理由は民間企業へ過度なリスクとコスト負担を強いた結果であり、また官僚行動システムが変わっていないことによって十分な官民の連携がとれなかった結果と言えます。官僚行動システムが変われば住民・企業の方々と行政との関わり方も変わってくる筈です。

このような問題点を踏まえて、「行政の中にそもそも存在している民間サービスの民間への委譲」「公共サービスの官独占の排除」「公共サービスの単純民営化論反対」「公共部門のモニタリング機能充実」を柱に形成されたのがPPP(Public Private Partnership)という考え方です。これは公共サービス提供を民間に担っていただく仕組みとして重要であるばかりでなく、行政の内側の仕組みを変えていくためにも重要であります。

このような官民の連携を図る際には、両者が共通の言語と意識で話し合える仕組み、そして官僚行動システムを変えることが必要です。また、仕組みを変えていくときには、新しい資源を投入しなければいけません。そこにサードパーティビジネスという新しい分野のビジネスが形成され、住民、NPOとの連携の場も提供されます。単に官がやっていたものを民間に移行するというNPM的な考え方ではなく、官と民がそれぞれ持っている資源を組み合わせることによって、第三の領域を形成しようというのが、サードパーティビジネスの考え方です。

仮に公共サービスを全部民間に委ねても、決して財政はよくなりません。また、公共サービスをすべて行政側で行なっても、財政がさらに悪化することは実証ずみです。何故公共サービスを全部民間にお願いすると財政は悪化するのでしょう。それは行政側に民間相互の調整と監督のために膨大なコストがかかるからです。そこで必要になってくるのが、官と民がお互いに連携を取る場をパートナーシップという形でつくっていくことです。単に官から民へという形に変化させるだけでは、それぞれのサービスが専門化されてしまい、その結果コミュニティ、パートナーシップが崩れてしまうのです。

【PPPの必要性】

では、なぜPPP、パートナーシップということが必要になってくるのでしょうか。その理由のひとつがステージ変化です。工業化社会から情報化社会になり、より一層変化のスピードが速くなっていき、時間的スラック(余裕)がなくなってしまいました。これまではそれを行政が穴埋めしてきました。しかし、さらに変化が加速してくると、行政ではその変化スピードに対応できなくなり、その結果、貧富の格差拡大という問題が生じるのです。

デフレ社会が到来した本質的な原因もこのステージの変化にあるのですが、この問題は行政の世界にも存在します。都道府県は国と基礎自治体をつなぐいわば中間卸売業です。これまで都道府県が担っていた役割を直接基礎自治体でできるようになると、その存在価値はどんどん落ちていってしまうという構図です。情報社会になって、行政の中の資金、情報、モノの流れが変わってきたのです。その変化に対して官と民が共に対応できるようなシステムの形成には、お互いのパートナーシップがなければ難しいのです。

しかし、特に地方自治体の場合、自分たちがやりたいことは一体何のためにやるのかということを突き詰めることが従来十分ではありません。行政改革に当たっては、このような「無意識」を「意識化」させることが必要です。情報社会の激しい変化に官僚組織がついていけなくなった時、行政側に意識改革を促すための手法のひとつがパートナーシップなのです。

そしてもうひとつの理由は、現在我々はグローバル化に直面しているということです。国境を取り払って世界標準に合わせていく戦略、つまりグローバル化が進めば進むほど地域の価値観に徹底的にこだわっていくリージョナリズム(地域主義)を確立しておかなければ日本の安定は難しくなります。何故ならば、グローバルスタンダードが倒れたときに国全体が均一化していると国全体が立ちいかなくなってしまうからです。一方、ローカルスタンダードを持っていればどこかが支えることができるのです。しかし、現状では基礎自治体が地域と連携しながら地域の価値を見いだしていく仕組みが日本には欠けています。つまり、地域の価値を形成するコミュニティが非常に弱くなってきてしまっているのです。地域の価値を形成するには、NPOや住民、民間企業などが地域に根ざしてやっていくことが必要です。そのためには、やはりパートナーシップをつくっていくことが重要なのです。

戦後50年間やってきた均衡ある国土の発展は、国内的なグローバル化です。その結果、全国にあった異なる資源が失われ、同質化していきました。しかし、一方でそれぞれの地域で独自の価値観、資源を形成して、異質の中の競争をしていかないと、地域経営はきわめて難しくなります。そのためのプログラムを行政・地域・民間企業が一緒に形成していくことがパートナーシップであり、そこにいい意味での新しいビジネスも形成できるということなのです。

結局、PPPとは、行政が担ってきた公共サービスの部門で、民間サービスとしてお願いできないところについて、官と民とのパートナーシップでやりましょうということです。

【PPPの具体化】

その具体的な手法として、まず民間移行、外部委託がありますが、その際には行政側の行動システムも変えなければなりません。外部委託といっても従来のように、単に作業だけを民間にお願いするのではなく、一緒になって作業を進めるのです。

また、初期のPFIは価格競争でしたが、これからはもっと質の要素を考えていくべきです。さらに、サードパーティビジネスの例として、英国国民貯蓄庁を挙げさせていただきます。英国では、グローバル化に対応できる組織体にするために国民貯蓄庁の4000人の人材と業務全体を15年間完全に民間に委ねました。その間その民間企業は国民貯蓄庁の業務に支障がない範囲で、その人材を活用することができ、公的セクターのノウハウと民間セクターのノウハウを組み合わせた新しいサードパーティビジネスに投入することができました。

コンセション契約というのはフランス型PFIです。これは、施設は行政が担うが、経営は徹底して民間にお願いするというやり方です。施設は行政が担いますので最終的には公共サービスの継続性は担保できます。

つまり、本当の公共サービスの質が担保されていれば、いろいろな手法があるわけです。これから日本に必要なのは、そのつなぎ手であると言えます。

【最後に】

地方自治体では、団塊の世代が2008年ころから退職の時期を迎えだします。この世代の公務員を前提とした今の行政を次の世代に結び付けていくためのひとつの積極的な手法としても、PPPを考えていかなければなりません。このPPPというやり方は、単なる財政削減のための問題ではないのです。

今重要なことは、財政削減よりも政治ニーズや潜在的な住民ニーズを含めた全体のあり方を問いかけることです。そうしたものを、経営という観点も入れて、トータルにマーケティングするノウハウが行政側には求められており、そこにもパートナーシップというものが求められていくのではないかと思います。