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「新しい地域の原動力・市民のホスピタリティ」

-民が力を存分に発揮できる社会-

横浜市長
中田 宏

【私の時代認識と基本理念】

私は5月の市会で、市長として初の施政方針演説を行いました。そこで強調したことは、私の時代認識と目指す横浜の都市像でした。

「もはや右肩上がりではない」とよくいわれますが、ではどういう時代なのか明らかにされないまま、解決を先延ばしして放っておかれている案件が大変多いと思います。そこで私は、「非『成長・拡大』」という言葉を使って時代認識をはっきりさせ、成長・拡大の時代であったからこそ成立していたメカニズムは全部見直しの対象として、成長・拡大を前提としない仕組みづくりをしていくことを明確に打ち出しました。その上で目指す横浜の都市像として、「民(みん)の力が存分に発揮される社会」という基本理念を掲げました。

ここでいう「民」とは、個人・サークル・NPO・ボランティア・営利企業等をすべて含みます。横浜市という行政体は、それぞれが活発に活動できるよう環境を整え、行動を応援する仕事に徹すると私は申し上げたのです。これは、裏返せば私の価値観かもしれません。しかし決して独りよがりからではなく、市政を預かる者として、さまざまな方の意見もお聴きした上で申し上げていることは言うまでもありません。

【新しい地方自治に向けた都市経営】

「民の力が存分に発揮される社会」をキーコンセプトとして、この7か月間にさまざまな具体策を実行してきました。まず、情報公開です。市長交際費の全面開示、一般会計に加えて特別会計、企業会計についての市債残高の公開、土地開発公社の保有土地の実勢価格の公開、今後5か年の財政見通しの公開と進めていきました。

次に、「横浜リバイバルプラン」を発表し、政策・財政・運営の3つを連動させるというコンセプトを明確にしました。このプランには、横浜を再発展させようという思いを込めています。5か年間を計画期間とする「中期政策プラン」の事業規模2兆7800億円は、私の就任前に提示された従前の計画素案を5200億円縮減したものです。これでようやく責任を持てる政策展開のスタートラインに立つことができたと考えています。

【民の力で変わる横浜】

このほかにも、基本理念に基づいてさまざまなことを実施してきました。市長になって最初に行った現場は、マンション建設予定地です。マンション建設にはトラブルがつきものです。近隣住民の気持ちは個人的には理解できるのですが、業者は違法行為をしているわけではありませんから住民は無力です。行政としてはせいぜい条件交渉しかできません。このままでは同様の事案が他の地域でも繰り返されるだけだとの思いから、「まちのルールづくり相談センター」をオープンさせました。市民の皆さんに声をあげていただき、行政がそれを全面的にバックアップする仕組みをつくったのです。法的強制力にまではつながらなくても、地域の情報共有という意味で大きな効果があるに違いありません。

また、馬車道にあった富士銀行横浜支店が2年前に撤退した際、この歴史的建造物を横浜市に寄付してくださったので、土地は横浜市が買い上げ、これを博物館や歴史記念館として利用する方法を検討しています。その本格利用までには時間がかかりますので、今はNPOの共同オフィスとしてオープンさせ、そこに公開審査会で選定した計14団体が1か月1万円の家賃で入居して横浜市との協働を実験的に行っています。

非「成長・拡大」の時代には税収も伸びず、行政だけでは力不足ですから、市民やNPO組織の協力は必須です。私は国会議員時代、NPO法の制定に力を注ぎましたが、今度はそのNPO法という仏に魂を入れるべく、NPOに横浜で大いに活動していただこうと考えています。

そのほかに、市民の緑の保全ボランティア募集、小・中学校の校庭の芝生化、交通機関の敬老パス(シルバーパス)の見直しなどにも取り組んでいますが、いずれも市民から声をあげていただく仕掛けをつくり、市民の意欲を引き出す仕組みを整えているところが特徴です。

横浜市は声をあげた市民にはきちんと責任を持ちますという考え方は、住民基本台帳ネットワークへの対応でも同じです。住基ネットはe-Japan構想において大きな位置付けがあり、「そもそも論」は国会レベルでやる必要があります。しかし、私が言っているのは、あくまで法秩序上の問題で、住基ネットと個人情報保護法とは一緒に運用すると言った以上はそれを守らなければいけないという「筋論」です。ですから、個人情報保護法が成立すれば住基ネットに参加している人のデータは全部送ると言っているのですが、改善して欲しい点は多々あります。例えば、私たち市町村長は、住民の情報について法律上責任を持たされているのですが、今の仕組みでは横浜市民の情報がどこかで漏れた場合、私たちは責任を果たしようがありません。ですから、この仕組みでの責任の所在を明確にして欲しいのです。また、情報漏洩には罰則がありますが、不正利用について罰則がないことも問題です。これらの穴をきちんと埋めて運用しなければ、社会の秩序はおかしくなってしまうのではないかとの懸念を抱かざるを得ません。

【横浜から日本を変える】

中期政策プラン一つ取ってみても、財政的な裏付けがないままに進めることの怖さをよく認識しなければいけません。住基ネットについても同様です。「自分の責任の持てないことはやりません」と、私は課せられた責任を果たすために総務省に言うべきことは言いました。それができたのは350万人という日本最大の人口を擁する横浜市長だからこそかもしれません。そのため、全国の市町村から毎日のように叱咤激励をいただいております。

最後に総括しますと、やはり市民が声をあげて一緒になって手足を動かせるいろいろなメニューを用意していくことが、これからの地方自治の経営には大変重要なことだと思っています。それらの積み重ねで、「公共サービス=行政サービス」の社会から、公共サービスの担い手は多様であるという認識を広げていくことが、これからの地方自治体の経営においては絶対に欠かせない視点です。

水道、福祉、医療など、今までやってきたあたりまえの行政は、これから先も継続することが求められています。一方、介護や子育ての社会化またDVへの対応など、新たな行政サービスを実施していくには、新しい方策を考えていかなければいけません。すなわち、今までやっていたことも新しいものもやらなければいけないのです。しかし、税収は伸びないという時代です。その中における解決策は、民の力を存分に発揮してもらい、そして行政とパートナーシップを組んでもらうことです。まさに「PPP」です。これは、間違いなくこの時代に私たちが要請された取り組みです。私たち横浜はそれを率先してやるべく、今施策を進めているところです。