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Japan

イラク戦後と湾岸の将来

第1セッション

ドイツの中東・中央アジア政策:イランを中心に
ヨハネス・ライスナー

イラク戦後の最も緊急かつ重要な問題とは、米国がイランを如何に扱うかである。イランは、地政学上、中東、湾岸、コーカサス及び中央アジアという広範囲な地域にわたる影響力を有しており、その果たす役割は今後更に重要となってくることは否めない。最初に、イランの政治体制の特徴とその安定性につき述べる。イランの政治体制は、宗教的独裁体制かつ民主主義体制の二重構造で、このような体制には柔軟な要素も多く含まれている。また、イスラム主義の精神がナショナリズムの堅持役となっている。今日の改革派と保守派の争いは、イランの政策に新しい潮流を形成するもので、それが今後、社会、経済、外交面において如何に影響を及ぼしてくるか注視すべき点である。第二に、周辺地域におけるイランの役割について考察する。90年代、イランの政策は国益重視型、すなわち領土の維持と民族の統一が最重要課題であった。ソビエト崩壊後の米国主導の世界情勢下、この最重要課題が維持されることが望ましいことなのか問題となっている。第三に、ドイツと欧州連合の対イラン及び周辺諸国政策を考える。イランは、これまでの経済的に重要なパートナーとしての位置付けに加えて、今後はむしろ地域の安定性に貢献するためのパートナーとしての役割が増す。現在のドイツ及び欧州連合の対イラン政策は、2002年12月に始まった貿易及び協力協定の交渉の開始により、新たに策定されたもので、米国との協調の上、進めて行くことが今後の課題である。

第2セッション

フランスの対中東政策
ジャン・マルク・クワコウ

イラク戦争は、米国の対中東政策及び中東地域に対する関与と責務に複雑な課題を増やすこととなった。しかし、対中東政策のこれまでの基本路線は維持される。米国は、イラクの復興に深く関与していく一方で、アフガニスタンに対しても同様の国家復興に関する取り組みを引き続き支援していく方針である。このような取り組みを続けていくことは、米国にとって、パレスチナ問題の解決に対する試みであり、イラク戦争によって関係が悪化した世界各国との関係修復のための努力であり、テロリズムに対する警告、イスラム国家色を強めるイランの政治体制をはじめとし、その他のイスラム地域が持ち合わせる政治、軍事、経済的な課題に対する取り組みなのである。米国がこのような取り組みを進めていく中で明らかにされてきた重要なこととは、列挙したような米国の中東地域に対する個々の課題が、一見、政治的にはお互いに独立した課題に見えるものの、実はそれぞれがお互いに非常に複雑な様相を呈しつつ絡み合っているという点にある。これに加え、現在の低調な米国国内経済の動向、欧州の同盟国との悪化した関係、その他政治的な不確実要素等を視野に入れ考察すると、米国の対中東政策はより一層複雑で、リスクの伴うものであると言える。ここでの議論は、勿論、米国政府の課題ではあるが、このような米国の課題はより広範な地域や世界にとっても同様に重要な意味を持っている。

第3セッション

イラク戦争後のアメリカの中東政策
ジェロルド・D・グリーン

イラク戦争は、米国の対中東政策及び中東地域に対する関与と責務に複雑な課題を増やすこととなった。しかし、対最初にフランス外交の政策形成に関し、まずその概要から説明する。フランスの外交政策の決定要因として、フランスの国益、国際社会におけるフランス外交政策の影響、バランスパワーの維持の3点が基本的決定要因として挙げられる。戦略的かつ地政学上においてフランスにとって重要である西アフリカ及び中東に対するフランス外交政策もこのような観点から策定されることは言うまでもないが、そのいくつかについて説明する。第2に、フランス外交政策は、大統領の権限下にあるが、政治的緊張があるときには、首相及び外相もこれに重要な役割を果たす。国際問題に関する基本的なフランスのスタンスとは、平和的解決であり、それを第一の優先課題としている。これがグローバルな世界において大国の重要な特徴であることについても言及する。第3に、フランスの対中東政策につき詳しく述べる。基本的に、フランスの対中東政策は、現在、価値観と利益の狭間で揺れ動いていると言える。このように対中東政策に関し、フランスが複雑かつ不安定な状態にあることの原因は、フランスが中東地域の様々な国と独自の関係を築いてきたということに起因する。第4に、人権とテロリズムの関係についても言及する。最後に、先に終結したサダム・フセイン政権下でのフランスとイラクの関係と90年代のフランスとイラクの関係について比較する。この中で、イラク戦争に関するフランスと米国の利害対立による衝突の背景にあったいくつかの要因についても説明し将来のフランスの対中東政策につき示唆する。

第4セッション

中東における政治情勢の展望:サウジアラビアと戦争のインパクト
フィリップ・ロビンス

イラク戦争の終結後、戦争自体がサウジアラビアに与えた影響は限定的にとどまった。サウジ政府はイラク攻撃に対して、米国に予想以上の支持を与えた。しかし、支持することによって生じた多くの脅威に関しては理解されていない。この点に関し、注視していくべき分野を3点挙げる。1点目は、イラク戦争終結による政治的な帰結としてスンニ派の失墜及び孤立とシーア派の台頭である。2点目は、イラク原油生産回復後のサウジの中期的原油収益の見通し、3点目は、この地域の治安の問題である。これらの点を踏まえて、サウジの今後の課題とは以下の2点に集約される。第1に、世界の超大国、米国との間に戦略的な関係を維持しつつ、しかも、これまで歴史的に緊密な関係を築いてきたワッハービ派、イスラム原理主義との関係を継続していくこと。第2に、今後石油収入の減少が見込まれる一方で、人口の急増に伴い国家財政の逼迫が予想されるが、この状況下で、これまでのような王室政治が存続できるかである。アブドラ皇太子のリーダーとしての資質、直近4年間の石油収益の急増、国王位の継承権に関わる内部的な政治取引、等に見られる状況を見ると、短中期的な見地からは、サウド家による同国が抱える現況の政治、経済面での課題の克服は可能と判断できる。2000年以降、サウジはパレスチナ問題を解決すべく努力しており、また9月1日テロ事件以降も、米国との関係を維持している状況からすると、極めて緊迫した要素をはらんでいるこれら問題の本質を考慮しても、サウド家は依然として政権担当能力を持っている。しかし、アブドラ皇太子による経済改革政策の挫折は、経済自由化に対し、サウジ経済がはらむ構造的問題の存在と、その克服の困難さを物語っている。サウジのシステムのあり方を考慮した際、改革規模の増大なくしてその達成は可能になるとは考えられない。イラク戦争による影響よりも、経済改革の失敗こそ、サウジにとって大きな打撃となりうる大きな意味をはらんでいる。

2003年6月16日

 

Speakers

Dr. Johannes Reissner
Senior Research Fellow at the German Institute for International and Security Affairs
Stiftung Wissenschaft und Politik (SWP)
(German Institute for International and Security Affairs)

Dr. Jerrold D. Green
Director of International Programs and Development
Director of RAND Center for Middle East Public Policy
Professor of International Studies, at the RAND Graduate School RAND Corporation

Dr. Jean-Marc Coicaud
Senior academic Officer, Peace and Governance Program
United Nations University

Dr. Philip Robins
University Lecturer in Politics and International Relations at the University of Oxford with special reference to the Middle East
The Fellow of St. Antony\'s College, the University of Oxford

詳細

プログラム

13時30分~13時35分
開会挨拶
鳴戸道郎 富士通総研会長
Opening Remark
Michio Naruto, President, FRI
講演
13時35分~14時30分
【第1セッション】
「ドイツの中東・中央アジア政策:イランを中心に」
ヨハネス・ライスナー
ドイツ国際安全保障問題研究所
【Session 1】
"German Policy towards the Middle East and Central Asia:Focus in Iran"
Johannes Reissner
German Institute for International and Security Affairs
14時30分~15時25分【第2セッション】
「イラク戦争後のアメリカの中東政策」
ジェロルド・D・グリーン
ランド研究所
【Session 2】
"US Middle East Policy in the Post-Iraq War Era"
Jerrold D. Green
Rand Corporation
15時25分~15時45分休憩
15時45分~16時40分【第3セッション】
「フランスの対中東政策」
ジャン・マルク・クワコウ
国際連合大学
【Session 3】
"French Foreign Policy on the Middle East"
Jean-Marc Coicaud
United Nations University
16時40分~17時35分【第4セッション】
「中東における政治情勢の展望:サウジアラビアと戦争のインパクト」
フィリップ・ロビンス
オックスフォード大学
【Session 4】
"The Political Developments in the Middle East: Saudi Arabia and the Post-Iraq War"
Philip Robins
Oxford University
17時35分~17時40分閉会の挨拶
池田成史
中東協力センター常務理事
Closing Remark
Seishi Ikeda,
Managing Director, JCCME