港湾における混雑の解消に向けたデータ解析とAI(人工知能)技術を用いた実践検証

概要
AIとビッグデータ解析を用いたシミュレーションによる港湾混雑解消の実証
富士通および富士通総研は、シンガポール科学技術研究庁の組織であるハイパフォーマンスコンピューティング研究所(IHPC:Institute of High Performance Computing)、シンガポール経営大学(SMU:Singapore management university)と、海上貿易が盛んで船舶の交通量が多いシンガポール港における「バース(注1)混雑の解消」および、「港湾ゲートにおける混雑の解消」をビジネス課題とし、AI(人工知能)とビッグデータ解析などを用いたシミュレーションによる実践的検証をシンガポールの港湾業者をパートナーとして実施しました。
課題
バース混雑の背景・課題
バルク貨物(注2)を取り扱うシンガポール港では、First Come First Served(早く到着した者勝ち)ルールのもと、入港に際してはシンガポール港と船舶との相互調整を繰り返しながら入港日を決定し、1日前に港湾バース計画(注3)を最終化していました。入港する船舶の多くは、「シンガポール沖で待つために、とにかく急いで運航」し、着岸できるまでにシンガポール沖で通常2日から3日間、沖待ちすることが当たり前の状況でした。
船舶はシンガポール港に着岸後、荷降ろしに通常4日程度(平均)滞在しますが、バルク貨物は天候に影響されやすく、一旦天候が悪化すると、計画した滞在日数を超えて荷降ろし作業を行うことになり、荷降ろしに際してのクレーン配置や人員配置、次に来航する船舶のバース計画に大きな変更が発生していました。港湾としてもバース計画は熟練者の経験によって計画するため、最適化されておらず、業務運営が非効率になっていました。
【図1】船舶の沖待ち混雑
ゲート混雑の背景・課題
シンガポールの経済成長とともに取り扱い荷物のボリュームが増加し、シンガポール近隣道路やシンガポール港の港湾ゲートでは、船舶の来航日時に関係なく来港するトラックが荷主の配送計画に基づいて港湾に荷物を引き取りに来るため、特定時間にトラックが集中して港湾ゲートの混雑を引き起こす要因となることが想定されていました。
また、トータルゲート数の調整や車両を特定した専用ゲートの開閉時間は熟練者の経験によって管理されているため、ゲートの人員配置が最適にできず、業務運営が非効率になっていました。
【図2】港湾のゲート部分における混雑
解決策
課題解決へのアプローチ
シンガポール港協力の下、マリタイムサプライチェーン(注4)領域における業務ノウハウと、解決する最適化、予測技術に強みをもつIHPC、SMU、富士通、富士通総研にて、バース計画業務やゲート管理業務の大量データを受領し、データ分析によって事実を把握し、傾向分析を行い、統計解析などを駆使して現場実証を繰り返し、混雑の解消に向けた取り組みを推進しました。
港湾におけるバース予約の最適化
まず船舶から事前予約登録(予約希望日の31~60日前)を受け付け、これにより一定期間先の船舶予約数の把握が可能になりました。次に予約に対して数理最適化処理を行い、船舶からの予約希望日を可能な限りずらさずに各バース利用率の最大化を行うことができました。これにより、バースの稼働率とともに船舶へのサービスレベルも向上できました。
【図3】バース予約の最適化
港湾におけるゲートオペレーションの最適化
過去の通行量の実績データから交通量/渋滞モデルを構築し、トレンドを予測しました。このモデルをもとに、貨物量の増減に伴った交通量の変動を離散事象シミュレーションで予測することによりプロアクティブな運用計画を策定しました。
【図4】渋滞量予測シミュレーション
「どうすれば渋滞を解消できるのか」という問いに対して、最適な回答を数理最適化技術で算出しました。渋滞解消だけを考えれば、ゲートを全て開放したりゲート自体を増設したりすれば解決するでしょう。オペレーション最適化エンジンでは、ゲート渋滞を解消しつつ運用コストを最小化するオペレーション計画を提示しました。
【図5】オペレーション最適化
成果
本実証実験の結果として、以下の効果が得られました。
バース混雑:船舶から要望される着岸日に限りなく一致したバース計画を立案することができ、港湾におけるBoA率(注5)の向上、待ち時間の解消と港湾稼働率の平準化が実現
ゲート混雑:ゲートの渋滞を解消しつつオペレーション時間を最大17%(平均9%)節約
【注釈】
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注1:船が貨物の積み卸し、停泊のために着岸する場所
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注2:穀物、塩、石炭、鉱石などのように、粉粒体のまま包装せずに積み込まれる貨物
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注3:配船計画システムで事前に決定された使用船舶と仕向け地および各船舶に積載する製品情報をもとに船舶ごとの作業バースと各作業バースでの荷役時間帯を決定すること。
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注4:海上物流における荷物の供給者から最終需要者に至る全体的な価値の連鎖
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注5:Berth on Arrival rate 着岸予定申告日に対する実到着日の割合(船側の申告日時)
関連サービス
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注本事例中に記載の数値、社名・固有名詞等は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

本記事の執筆者
ビジネスサイエンスグループ
マネジングコンサルタント
小川 敬造(おがわ けいぞう)
製造業のお客様を中心に、情報戦略策定、グローバルITガバナンス、ビジネスサイエンス分野コンサルティング活動を多く手掛ける。

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シニアコンサルタント
佐藤 文孝(さとう ふみたか)
データサイエンティストの視点により、様々な課題をデータ分析で解決に導くAI活用のコンサルタント。

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コンサルタント
池上 敦士(いけがみ あつし)
社会インフラ分野や安全保障・通商分野を中心に、中央省庁の政策立案支援、民間企業の研究開発戦略・事業企画支援等に従事。一般財団法人防衛技術協会・客員研究員を兼務。同財団が発刊する「防衛技術ジャーナル」にも複数寄稿。
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