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  5. 社会資本の生産性と公共投資の効率

No.84 : 社会資本の生産性と公共投資の効率

主任研究員 長島 直樹

2000年6月

要旨

  1. 「小さな政府」の必要性が指摘されている。しかし政府規模についての判定基準は必ずしも明確でない。したがって日本の政府規模が「過大である」あるいは「肥大化しつつある」ことを示す確定的な統計数値は存在しない。政府規模が大きすぎるか否かは結局、その状況が(1)サステナブルかどうか、(2)効率的に公共財・公共サービスを提供できているかどうか——の2点に集約される。(1)のサステなビリティーを所与とするなら、(2)は公共サービスが付加価値へどれだけ寄与しているか(プロダクティビティーの問題)、あるいは付加価値に直接寄与しなくても、例えば公共施設などが社会にどの程度の効用増をもたらしているか(ユーティリティーの問題)———が判断基準になる。
  2. しかし、公共投資(公的固定資本形成)に限れば日本の水準は欧米先進諸国と比べて突出している。また、計量的手法に基づく試算によると、公共投資の結果として形成される社会資本の生産性は30年間で約2分の1に低下したという計測結果が得られる。一方、日本は都市部を中心に必要な社会インフラ整備が先進国の中では遅れているという背景もあり、公共投資に関しては量的縮減・質的な再検討がともに必要である。
  3. どのような公共投資を削減し、逆にどのようなものを充実させるべきかについて政策的なコンセンサスを形成する必要がある。総額で抑制することは必要であり、橋本政権の財革法(財政構造改革法)のコンセプトは間違っていなかった。しかし、実施時期や改革速度に対する批判を別とすれば、重点削減項目に関する議論が乏しかったため"一律削減"に向かったことに最大の疑問が残る。
  4. 公共投資が建設関連偏重になっている弊害は大きい。それは2つの理由から、マクロベースの生産性に悪影響を及ぼすためである。第一の理由は、建設業の生産性自体が製造業などと比べて低いため、建設業シェアの拡大は全体の生産性向上を損なう、という事実である。資本・労働といった経営資源が生産性の高いセクターに流れずに、低生産性セクターに滞留することによる弊害、と言い換えることもできる。二番めの理由は、建設業では知識ストックの蓄積が期待できず、このために技術進歩を通じた中長期的な成長・発展の可能性が小さい、ということである。
  5. 建設関連の公共投資が優先されがちな理由は政治家や省庁の利権絡みだけではない。都道府県ごとの生産誘発効果という点からみると、東京都、静岡県といった例外を除き、ほとんどの都道府県では建設関連(土木・建築)による生産誘発効果が電子・通信機器などハイテク投資のそれを上回る。この結果、少なくとも目先の県内生産・県内所得という観点からみると、地方自治体自身にとっても建設依存を続ける誘因が存在する。
  6. しかし、全国ベースで生産誘発効果を調べると、ハイテク産業が建設関連を大きく上回る。この理由は、ハイテク産業から誘発された需要が都道府県単位でみると、移入に逃げてしまう割合が大きいためである。この結果、全国レベルで望ましいハイテク関連投資が都道府県レベルでは望ましくない、というミスマッチが起きている。しかし、都道府県単位でも中長期的な視点を持つなら、建設への過度の依存が将来の成長・発展の可能性を減殺していると考えられる。
  7. 現在、公共投資の目的は、(1)社会資本の整備、(2)景気対策、(3)地元の雇用対策、(4)地域間所得の差異分配———の4つに整理できる。このうち公共投資以外の手段による達成が難しいのは(1)であり、したがって(1)が本来的な公共投資の目的と考えられる。(1)を主目的としたプロジェクトは個別に費用・便益の比較によって評価するしかないが、概して言えばハイテク分野と都市部の社会インフラの整備を優先すべきである。道路・鉄道などの建設関連でも都市部の生産力効果は高いことが知られている。また、ハイテク分野ではITSの推進、行政サービスの電子化、知的情報データベースの整備など、新たな公共財・公共サービスは未だ過小であり、限界的な便益は大きい。
  8. (2)は財政のサステナビリティーの観点から極力抑制すべきだが、財政の経済安定化機能を放棄して良いわけではない。必要な事態に至れば、(1)の目的に沿ったプロジェクトを前倒しする、という方針で行なうことが必要だ。需要創出なら何でも良い、といった発想は財政破綻と生産性低下を助長する。
  9. (3)が主たる目的になっている公共投資は廃止し、失業保険、職業紹介、職業訓練といったセーフティーネットに吸収するべきである。(4)についても一時凍結すべきではないか。地域間の所得格差とナショナルミニマムに関する議論は必要であるし、財政による所得再分配機能を完全に捨て去るわけにもいくまい。しかし、(3)、(4)の目的が前面に出過ぎているために建設関連偏重の公共投資が過剰に行われてきたという事実認識が必要だ。また、現在は生産性危機にあって、地域間格差の是正を優先する余裕はない。(3)や(4)の目的で建設関連の公共投資が拡大すると、現在の生産性危機が加速度的に増幅する危険がある。
  10. 1998年から行われている公共投資の再評価制度(時のアセスメント)においても、公共投資プロジェクトごとの性格づけを目的別に明らかにする作業から始めなければならない。プロジェクト間の相互比較によって(3)、(4)の色合いの濃い事業を中止するとともに、目的(1)と判定されるの事業に関しても優先順位を明確にする必要がある。一律削減の発想ではなく、「必要な社会インフラは何か」という視点から厳しく選別・査定する体制作りによってしか公共投資の改革は進まない。

全文はPDFファイルをご参照ください。

社会資本の生産性と公共投資の効率 [145 KB]