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実践知リーダー対談 第5回

「実践知研究センターでの訓練から得たもの」

このシリーズでは、実践知研究センターの初代センター長である野中郁次郎との対話の場を通じ、「実践知」について考えていきます。

第5回 対談相手:
実践知研究センターでの訓練期間を修了し、その後、実践知リーダーとして継続的な活動を進めているOBの多田さん、澤根さん、坂口さんにご参加いただき、野中理事長と実践知リーダーの挑戦について議論しました。

~それぞれのフィールドの活動について~

【野中】
はじめに、みなさんの現在の活動について伺いましょう。

「写真1」

【多田】
第1期生の多田です。富士通東海支社に所属し、名古屋に拠点を置く地場の色々なステークホルダーを訪問して活動を開始しています。東海地区の中小企業、主には製造業、それから地域の自治体やNPOを訪問し、今何が課題として捉えられているのか、それぞれの立場からどのように現状を見ているのかなどについてヒアリングすることからスタートしました。ヒアリングを通じて、それぞれのステークホルダーの“業際”に注目して、そこから新たな価値を生み出していくことができないかと思い、“考えながら走る”を実践しています。実際行動してみると、何か一つのケースを創ろうとすると、前に進まない抵抗勢力に沢山ぶつかっていますが、経済産業省と連携して、中小企業、製造業に対するテストプロジェクトの立ち上げに結びついています。まだまだ、挑戦はこれからですが、業際に注目し、異業種連携・研究を通じて仲間を増やしている最中です。この他にも、中山間地域における、地域の活性化、限界集落の問題、山村における企業のサテライト・オフィス誘致などをテーマに活動しています。

【澤根】
第2期生の澤根です。私の場合“地域の課題解決”や、“地域を元気にしていく”、あるいは“経済合理性の追求だけで本当にいいのだろうか”というような問題意識を持ちながら、色々なところで対話の場をつくり、問題意識に共感してくれた方々と一緒に“ものづくり”のプロジェクトを進めるという実践活動をしています。今は九州地区が中心になっているのですが、例えば、宮崎県の都城市で地域のある社団法人の方々と対話をしながら、われわれが作った“もの”を中心に地域をうまく回す仕組みが構築できないだろうかと検討しています。共に活動を進める中で、地元のみなさんが周辺自治体を巻き込んで、広域のグループを作り、国の予算で、一緒に実証実験をやって行こうという活動に発展しています。従いまして、機運は高まってきているのですが、この先、これをどういうビジネスにしていくか、それまでに、ハードルがまだまだあって、事業化はこれからだと考えています。我々が開発する製品が、単なる既製品ではなくて、地域個別のカスタマイズを繰り返していきながら、出来上がった製品がそれぞれのオリジナリティを持って、日本の中で普及していけばいいと考えています。それが例えば、日本の農業が抱える後継者不足の問題解決につながる仕組みになればと思っている訳です。
活動を続けて2年が経ちますが、野中先生の実践知の考え方に触れて、自分達の活動に理論的な裏づけをいただいたと感じています。当初は自分達の進め方に疑心暗鬼で、本当にこれでいいのだろうかと悩んでいましたが、われわれの活動は間違っていないのだと、訓練を通じて背中を押してもらったと思っています。今後は、従来の経済合理性という考え方だけでは立ち行かない部分について、別のロジックと融合して、地域の中でうまく回るような仕組みにまで仕上げていくかが課題だと考えています。

「写真3」

【坂口】
第3期生の坂口です。デザイナーです。私が活動しているテーマは“デザイン思考の開発”です。今盛んに取り上げられているフューチャーセンターのセッションやワークショップのような“場”をどういう風にビジネスの中に取り込んでいくかということをテーマに活動しています。いわゆる直感的に“いいね”と感じることや、“人間の本質”などをもっとビジネスに活用できれば、まさに“共感”をもっとプロジェクトの中に作りこんでいけるのではないかと考えています。訓練期間中にいくつかのプロジェクトでフューチャーセンター・セッションをやって、共通善に対するみなさんの考えとは何だろうかというプロセスをお客様と一緒に共有し、その後にワークショップで、現場でお客様を交えて一緒に五感で体験するというようなことをやってきました。元々ビジネスモデルが先にあってデザイナーが後でということが多かったのですが、今は全くそのプロセスが逆になっています。直感で“こういうものがあったらいいな”とか、“こういう風にあるべきなのだ”というところからビジネスモデルをデザインしていくというプロセスに変化しているのです。活動を通じてそのプロセスをお客様に体験してもらう機会が増えました。また、おかげさまで色々な事業部から声をかけていただく機会も増えていて、富士通という大所帯で、多様な人がいる会社だからこそグループ内でそれをすぐにプロトタイピングしてみる態勢があると感じています。これからはこれをもっとお客様に伝えて行ければいいなと考えています。

~バウンダリー・オブジェクトは、新たな“知”の源泉である~

【野中】
多田さんが言及した“業際”、これを我々はバウンダリー・オブジェクトと言って表現していますが、場と場の境界に実は新しい知の発生源があるというか、要するに境界には色々な知が混在しているのです。したがって、普段の場が段々同質化してしまって知の発生の停滞が起こるのであれば、場と場の境界のところで異文化交流を促進させて、多様な知が湧き出る坩堝のようにする訳です。そこからどうやってイノベーションを起こしていくかということが最近色々な形で表れていると思います。
実践知リーダーとしてのみなさんの役割は、坩堝の中に混在する知を総合する時に非常に重要になります。つまり、シンボルを創ることです。国旗なども好例です。国旗を見たり、国歌を歌うという行為では、自然発生的にみんなが立ち上がる、そういうシンボルのようなモノやコンセプトを提唱し、そこに集う人達から湧き出てくる思いや知を境界やサイロを越えて総合することが重要です。これを実践しようと思うと、澤根さんが指摘したように、短期な経済合理性だけを評価しているようでは、何も実を結ばないかもしれない。ダイナミックにその場その場の文脈を読みながらその都度、最適な判断をするしかない。これは坂口さんの取り組みが、まさに場の文脈を編んでいくという作業でありますね。
共通善というのは唯一最善の解がないので、人それぞれの価値観をぶつけ合いながら、そういうものがあるよねと認識し合うことから始める訳です。我々の個々の知力に限界があってみんなでお互いの価値観を共有し合いながら何がより良いのかという議論をやり、あるいは経験を共有しながら、より上を追求していくというプロセスを不断に継続するしかないのです。実践知は非常にリスキーな知である側面があります。判断を誤ると、とんでもない結果をもたらすかもしれない。そこはやはり最後はリーダーの持続力・人間力が問われる部分だと思います。

~リーダーの言葉の重要性~

「写真2」

【野中】
新しい知やビジネスモデルを創りだすというのは、未来を作ることとも言えます。ですから、やってみるまで、それを証明できる根拠・データは限られています。そうなると実現させるためには、説得力、レトリック、夢を語る、あるいはビジョン、究極はその人間の持っている信念、“あいつ本物だな”という全身全霊をかけた言葉を駆使することが必要になります。データが多少貧困でもそれをカバーする言語能力、物語の構成能力が重要です。そして、最終的には、やる気というか、非言語的であっても、そのように心的全身的に発信する、我々の覇気が、言葉以上に思いを表明することもあるのです。ですから、あらゆるコミュニケーション手段を駆使して説得するということが大事ですね。
先ほど、澤根さんの問題意識にありましたが、経済合理性ということを考えてみても、関係性を大きく広げる方が最終的にはリターンは大きいはずだという命題はあるわけです。それを、どれ程もっともらしく言うかというのが重要になるのではないでしょうか。定量的パフォーマンスの予測は必ずしもうまくなくても定性的に物語で語れることは沢山あるはずです。何らかの価値が存在するのであれば、コンセプトや物語、ストーリーとしての表現は可能なので、記述するというのもある種の質的測定な訳です。プロセスとは記述から成り立つし、それが物語になります。物語にするというのが重要ですね。起承転結、やっぱり最後はこうなるみたいな展望がないとなかなか人は説得できませんから、プロトタイプを見せながら説得する、あらゆるコミュニケーション手段を使うしかないのではと考えます。

~ビジネスモデルをどう捉えるか~

【野中】
もう一つ、みなさんに伝えておきたいのは、ビジネスモデルをどう見るかということです。ビジネスモデルというのは論理的である一方で、物語的側面もあるわけですね。我々が実践知研究センターで伝えているビジネスモデルは、何が価値命題なのかが最初にきます。そして、顧客は誰で、価値を実現する能力はこうで、という順番に考えていく。その上で、コストと利益のバランスを見極めていくという考え方です。
ただ、最初から演繹的に考えるのではないというのが一般的に言われるビジネスモデルとは異なる特色であります。マイケルポーターが提唱するような競争戦略は純粋な理論を前提に、完全競争市場下での完全情報というのを仮定に現実を比較する。問題なのは現実と理論にギャップがあったとき、現実が間違っていて、理論の方が正しいと言ってしまうわけです。演繹とは、現実と一切関わらなくても成立していて、ロジックでは唯一最善の解、それは理想郷として定義される訳ですね。しかし、ビジネスモデルというのはもっと演繹というより帰納的で、やってみないとわからない、という部分があります。関係性を紡いでいる内に、色々なことが連なっていって、プロトタイプを繰り返すことで、顧客と一緒にコラボレーションしながら判ってくる側面の方が多いわけですよね。だから、我々の行っているビジネスモデル的な戦略というのは、定量的にはなかなか把握できない。まさにプロセスそのものなので、やっているうちに判ってくるわけで、プロセスを表現するのはさっき言った物語になる訳です。しかも、プロセスは固定化せずに常に変化する訳です。静止したものであれば、全体の部分を引っ張りだしてきて、何パーセント機能を良くするというような機能的価値の説明、いわゆるモノ的価値で説明が済みます。
しかしながら、ビジネスモデルにおいて大事なのは、動的な、コト的価値ですからプロセスを磨かないといけない。それはまさに記述、ストーリーという形でしか描けないので、随所においては、定量的なもので補足しながら使うというのが知恵のあるやり方である訳です。結局、ビジネスモデルにおいて、解は最後の最後に見えてくる訳です。色々やってみたのだけれどもやっぱりコレだよね、と。だからその場合には顧客とコラボ―レーションを進める以外に方法は無い訳です。顧客自身のニーズ、ウォンツが最初からわからない訳ですからね。向こうのニーズ、ウォンツはわからなければ、一緒に走る以外にない。共体験しながら、最後にこれじゃないかというものが出てくるわけです。SECIモデルが、S=Socializationから始まるというのは、直接経験、すなわち共感からスタートしているということです。それを踏まえて言語化していくわけで、PDCA(Plan Do Check Action)とは根本的に違うのです。PDCAは最初にプランありき、分析ありきですが、我々は、その前に人間の直感があるだろうと言っている訳です。

~政治力とタイミングの重要性~

【野中】
我々の言っているビジネスモデルは実験主義的ですよね。だから実現には苦労が伴う。実践知リーダーの能力で言っている政治力の要素は、ものすごく重要です。ビジネスモデルの成功というのは途中でやめてしまうとわからないものですよね。松下幸之助が偉かったのは、とにかくやり抜くというところ。短期的にみれば失敗かもしれない、でも、中長期的に夢は必ず成功するということを実践した人です。リーダーというのは半ば“ホラ吹き”のようなところがある訳です。やろうとしていることはその時点では、まだ夢ですからね。でも、政治力を駆使してまた、言葉の力で、“コイツの言うことを聞いてないとひょっとしてまずいんじゃないか”と係わる人たちをその気にしていくことが重要です。もちろん、最初から皆が賛同する訳じゃないし、対立も起こる訳ですが、ここは、コンセプトとか偉人の共通善に頼るとかね、いろんな手法を駆使する訳です。
もう一つは、タイミング。タイミングを失すると今までのプロジェクトが一挙につぶれる可能性がありますよね。失敗させようと待ち構えているヤツもいるからね。そこのタイミングは絶えず上司や仲間作りを進めるなかで常に意識しておかねばならないところです。実践知というのは、関係性を読む空間軸の判断と時間軸の判断の両方が総合されている訳です。時間と空間、この両方が重要になってきます。ビジネスモデルを考えるときプロセスが重要な訳ですが、時間軸的な視点も入れ込む。“この辺りであれだな”と、シナリオ・物語の中に時空間を入れて未来を描く歴史的想像力(ヒストリカル・イマジネーション)が重要じゃないですかね。

~野中先生の本質に迫る~

【坂口】
野中先生の話を伺うと、デザイナーっぽいなと思います。直観的に掴んだものをメタファーを使って説明するのだとおっしゃいます。今まではデザイナーはそれをやると、他の人から“何をわからないことを言っているのだ?”というような目で見られてきました。しかし、野中先生の実践知の考え方は、直観とメタファーを重要視しています。野中先生はどうやって直観を磨いてこられたのでしょうか。

「写真5」

【野中】
基本的には私はビジネスマンなのですよ。富士電機に9年いましたから。ありがたいことに色んな仕事をさせてもらって、教育やら、色んな経験、修羅場経験をしました。事故の担当をしたこともあったので、人間の死についても身近に触れることもありました。それから、研修でも工場の現場研修をやったり、同時に組合活動もやったりしましたね。組合活動もいい経験でした。また本社では慶應のビジネススクールの先生と協力して幹部の教育もやりました。トップ層のものの見方みたいなものを研究しましたね。その内、だんだん頭でっかちになったんで、現場に行きたいって言って、配属された先は、営業企画・調査部門でした。それから、最後はお金の絡むところでの修羅場を経験していないということで、企画部で関係会社の管理をしました。ほとんど赤字の会社ばかり管理していました。そういう意味で、9年間で企業での現場経験というのは随分色々やりました。
今では、私は、暗黙知と形式知やスパイラルと提唱していますが、私のもともとの原点は暗黙知なのです。形式知は欧米の考えだから、はじめに言葉がある。でも、われわれは言葉をもって生まれてこない。どう考えてもはじめに経験ありきです。成長してからも、人の伝聞で経験するというのではなくて、自分自身で全五感を駆使して、直接経験することが創造性とかアイデアの源泉なんですね。五感を全部総合するというのは、ある意味で非常に研ぎ澄まされた未来予測です。
デトロイトの自動車産業に貢献した人々を称える自動車の殿堂(Automobile Hall of Fame)には、本田宗一郎が手を地面につけて、ライダーの目線に合わせて這い蹲って観察している写真があります。あの姿は、ライダーの身になって仮説をつくっているのです。眼で見、耳で聞き、鼻で匂いをかぎつつ、地面に触れた手からエンジンの振動を感知し、次にどう設計すればよいかと考えをめぐらせています。
このようなことが重要なのです。我々の、日常の生きた経験が一番重要なわけです。でも、このような作業は、あまりにも当たり前すぎて、軽視したりする人もいます。だから欧米の人々は、コンセプチュアルに人よりも目立つことを言うわけですよ。しかし、大体が空虚です。中には本質的なものをつかんであっと思わせるコンセプトを創る人もいます。でも、大企業のヘッドクォーターあたりにいる人たちは、綺麗な絵をかいて、分析的にきれいごとを言っている人たちが少なくありません。これらは非常に観念論です。間接経験しかしたことの無い連中が多いわけですから、いくら良いことを言っても、実体は無いし、実行力が全く伴わない。

~直接経験から未来を予測する~

【野中】
私が直接経験に拘るのは、直接経験によって、我々は実際に未来予測ができるからです。変化の予兆というのは、必ず我々が生きている現実の微細の現象からしか見えてきません。全五感を駆使したときにそういう変化が感じ取られます。未来については、何が起こるかわかりません。だけれども、五感で直接経験していると、道を歩いていてもちょっと目の前に石があるとか、そういうものを瞬間的に感知して回り道をするとかジャンプするといった回避行動がとれる。五感のすごさは未来予測を実際にしているということです。
本田宗一郎は全身でライダーの視点になって、ライダーの目で次のコースはどう乗りこなすか、判断するかというところまで見るわけです。あれは、ロジックでは見えない。直接経験のすごさはこういうところにあるわけです。直接経験を基にした実践知というのは、身体性が必ず伴います。そこにはまさに人間存在があるわけで、未来予測と同時に希望、自分のポテンシャリティを絶えず進化させて未来に向かう姿勢そのものなのです。そういうところまで実は直接経験は暗に読んでしまっているのです。だから、経験こそがすべての知の源泉なのです。これを絶えず磨いていって、質が高まれば高まるほどデザインにもそれが出てくる。こういうことが重要な訳です。
ところが昨今では、経験を抑える傾向があります。質のいい経験を与えようというマネジメントではなくて、形式論理というか、分析過多や、オーバープランニングに陥っている訳です。がんじがらめで、空虚な、ありもしない理想形を作ってしまうことに労力を割いてしまっている。人事評価制度にしてもそうです。何でも人間を純化して現実的には存在しないようなスーパーマンみたいなモデルが目指すモデルとして指標化されて、それで評価を実施したりしている。現場の人間はこれではたまったものではないですね。指標と差があると「現実が間違っている」と。そんなはずはない。論理が間違っているのです。結論としては、やはり、直接経験と質量、これが重要です。これを日々研磨する、あるいは意図的に自分でチャレンジしていくということなのではないでしょうか。
もう一つ、色々な境界で多様な人間に間接的ではなく直接会うことが大切です。環境の中で一番知的な存在は人間ですからね。多様な経験と人と直接会ことで、意図的にネットワークを広げていくということが、最終的に強みになってくるでしょう。

「写真4」

【澤根】
実践知の活動をしていくなかでも、世の中では経済的な考え方は絶対に変わらないというコンセンサスが存在するように思うのですが、これを変えていかなければとはお考えになりませんか?具体的には、経済の仕組みそのものは今後も変わらないというのが世の中の大前提になっていると感じますが、経済の仕組み自体も、価値の変化として進んでいくものとお考えですか?

【野中】
少なくとも、もっと大きな関係性を俯瞰すれば、大きな次元での持続可能な利益の追求というか、利益の循環ということはないがしろにできないわけですよね。ですから、仕組みというよりは、どの次元でエコシステムを捉えて、経済的な持続性を追求するかという大きな視点が重要になります。そういう意味では、目先の利益を最大化するという短期的な目標追求に比べるとより複雑な関係性を読むというか模索、紡いでいく活動が必要になりますよね。
我々の持っているプロセスをベースにして未来を創るという戦略の本質は、ロジカルに定量的に機能的価値を提供するのが必ずしも容易ではないわけです。容易ではないのだけど、ストーリーをつくっていくうちに色々な定性的項目が見えてくるはずです。その定性的項目を極力部分的に数値化する可能性が必ずあるはずです。ある共通善の価値に基づいて、あらゆる項目を一貫して繋いでいくと、一部は近似的にはこういう形の数字に変換できると、そこで説得性を持たせていく訳です。

【澤根】
今まではうまく表現できていなかったことを数字に見せる、スタイルの追求ということなのでしょうか?

【野中】
その通りですね。君が色々こういうことがあるのではないかと話して、相手と一緒にこういうこと、こういうことと、関係性(文脈)を紡ぎながらコンセプトや物語をつくりながら、近似的にこういう数字、客観的な形で指標に落とせるものが幾つかでてくるはずです。結局、アナログとデジタルをスパイラルに回しながらレトリックを構築していくわけです。熱意を含めてね。経験と言語を相互変換する手法を駆使するというのはすごく重要です。
留学した先は、カリフォルニア大学バークレー校。ここでは徹底的にロジックを勉強しました。ハーバード大学と違って、バークレーは、ケーススタディなんかはやらないんですよ。ロジック、セオリー、コンセプト、そういうことばっかり議論していました。経営学が第1専攻だけど、第2専攻で社会学を学び、本を沢山読みましたね。
社会人時代は、現場でやってきたので、大学院に入ってからは理論を勉強することができ、バランスがとれていたのかもしれませんね。でも、これはやっているうちにわかってきたことです。常にベターを追求しながらやっていこう、やっていくと運はついてくる、って思います。

【多田】
新しい指標に対して、共通善に基づいて、皆で考えていくのが大切なことだと理解しました。私たち自身が、社内で力を入れて、お客様と一緒にそれを実践して行く必要があると思っています。

【野中】
実践知リーダーというのはある意味、共通善という理想を持ちつつ、一歩一歩できるところからアクションを通じて実験主義的にやっていく職人道の追求のようなところがあると思います。本田宗一郎、井深大、松下幸之助、シャープの創業者・早川徳次もみんな職人気質なんですよ。プロデューサーというか、プロジェクト・リーダーというか。マネジメントは別に任せていたわけですよね。藤沢さんとか盛田さんとか、松下幸之助には番頭がいましたから。
一方で、実践知研究センターの研修生であるみなさんの場合は、プロジェクト・リーダーとして新しい価値を生み出すという、社長の分身、つまりフラクタル(相似形)のような役をクリエーターとして担って欲しいと期待しています。ひとつのものを未来に向かって創り出すと共通善につながります。そういう手本になってもらいたい。これが何十人かできれば、富士通は根本から変わりますよね。ぜひそれを志してやってもらいたいですね。

  集合写真

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野中 郁次郎

野中 郁次郎(のなか いくじろう)
(株)富士通総研 経済研究所 理事長、実践知研究センター長
一橋大学名誉教授、クレアモント大学大学院ドラッカー・スクール名誉スカラー
【略歴】 早稲田大学政治経済学部卒業。カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて博士号(Ph.D)を取得。2008年5月のウォールストリートジャーナルでは、「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」に選ばれる。
【執筆活動】 『知識創造経営のプリンシプル』(共著)2012年 東洋経済新報社、『流れを経営する』(共著)2010年 東洋経済新報社、『イノベーションの知恵』(共著)2010年 日経BP社、その他多数


【第1期生】 多田 一明 富士通株式会社 東海支社
【第2期生】 澤根 慎児 富士通株式会社 イノベーションソリューション事業本部
【第3期生】 坂口 和敏 富士通デザイン株式会社 ソフト&サービスソリューションD事業部