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深掘りと広がりを見せた中国の「一帯一路」構想

深掘りと広がりを見せた中国の「一帯一路」構想

発行日:2018年3月7日

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要旨

  • 中国が主導した「一帯一路」構想は、5年の歳月が経った。陸と海に限らず、「空中シルクロード」や「デジタル・シルクロード」も提起されている。また、2017年10月には中国共産党の規約に編入され、長期にわたる国家ビジョンとして位置付けられた。
  • 国連機関ESCAPでは、当構想に含まれる6つの経済回廊の経済効果は、1.2兆ドルに及ぶと試算した。インフラ整備、工業団地造成、ユーラシア鉄道の増備等、構想はすでに実施段階に入った。特に中国から欧州までのユーラシア鉄道の運転数は、2013年の80両から2017年には3,270両まで急増した。ただ、頓挫するプロジェクトも現れた。
  • 「一帯一路」構想は、中国が86の国と国際機関と協力取り決めを結び、支持は広がっているが、欧州の一部や米国、豪州、インドなどは反対か懸念を表明している。論争の渦中にある構想ではあるが、北極航路を中心とする「氷上シルクロード」や中国とラテンアメリカ大陸を結ぶ「太平洋海上シルクロード」も合意され、広がりを見せている。

中国共産党の規約に編入された「一帯一路」構想は長期戦略へ

  • 中国の「一帯一路」構想が公式に提起されたのは、2013年11月に中国共産党第18期三中全会で採択された、60項目にわたる「改革プラン」においてである。当該改革プランには、(1)対外・対内投資の市場開放や制度設計、(2)自由貿易協定の加速、(3)内陸部・辺境沿い地域の対外開放加速からなる中国全体の新たな開放政策が盛り込まれたが、(3)には「一帯一路」構想(陸上のシルクロード経済帯と海のシルクロード)と、その構想を支える開発金融機関(アジアインフラ投資銀行AIIB、シルクロードファンド)の設立も含まれた。
  • 中国が想定している「一帯一路」構想の相手対象地域は、アジア、欧州、アフリカにわたる六経済地域((1)中国・モンゴル・ロシア経済回廊(CMREC)、新ユーラシアランドブリッジ経済回廊(NELBEC)、中国インドシナ半島経済回廊(CIPEC)、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIMEC)、中国パキスタン経済回廊(CPEC)、中国・中央アジア・西アジア経済回廊(CCAWAEC))から構成され、新興国や途上国を中心とする64か国(東アジア1か国、東南アジア11か国、南アジア8か国、中央アジア5か国、西アジア・北アフリカ19か国、東欧20か国)からなる(注1)。
  • 以上の64か国の対象地域に対応して、中国国内では西部、東北部および一部の沿岸地域を中心に、18の省と直轄市がマスタープランに含まれ、新疆ウィグル自治区は陸上「一帯」対応の「核心区」(コア地域)に、福建省は海上「一路」対応の「核心区」と位置付けられている。日本が「一帯一路」に協力する代表地域は福建省を選定しているようだ。
  • その後、「一帯一路」構想は、第13次5か年計画(2016-2020年)の重点分野に組み込まれ、2017年10月には中国共産党の規約に編入された。これにより「一帯一路」構想は、長期にわたって実施される国家ビジョンになった。
  • また、これまでの陸上と海上に関係する「一帯一路」構想に加えて、航空サービス産業を対象とする「空中シルクロード」や、デジタル経済を振興する「デジタル・シルクロード」も中国とメンバー地域の国々によって提案され、「一帯一路」構想は、立体的で、リアルとバーチャルを兼ねた構想になってきている。

実施に移された「一帯一路」構想の経済的効果と進展

  • 経済的に、「一帯一路」構想提起の背景には、国内開発モデルの限界と、日米主導のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)や米欧主導のTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)の外に置かれた危機感があったと思われる。中国の沿岸部開発優先の政策により、内陸・辺境地域の経済発展は大きく遅れた。例えば、2016年に内陸・辺境地域(中国の東北部、中部、西部)の面積や人口は、全国の90%と62%を占めているが、貿易総額と外資導入は17%と22%しか占めていなかった。住民の可処分所得も東部地域の60%~70%前後にとどまっている。一方、TPPの外に置かれた場合、貿易や投資の転換効果により、輸出・外資導入主導の沿岸部の経済発展にも支障をきたす懸念があった。
  • 地政学的な情勢変化も中国に「一帯一路」構想をもたらしたと考えられる。経済成長に伴い、中国のエネルギーや資源の対外依存が日増しに高まり、地域情勢の不安定さというリスクが高まり、リスクをヘッジする必要性があった。陸のシルクロード(一帯)と海のシルクロード(一路)を同時に提起したのは、物理的にエネルギーや資源供給のリスクヘッジが可能であるからと考えられていたようだ。また、2010年前後から中国は周辺国との不調和音が高まっていたため、「一帯一路」構想を通じて周辺諸国に経済的利益を提供し、「安定」という戦略的利益を得ることも想定されているのではないかと考える。例えば、国連機関ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)の試算によると、「一帯一路」の推進で、その一部である中国インドシナ半島経済回廊(China-Indochina Peninsula Economic Corridor)において3,720億ドルの経済効果が認められるが、ASEAN諸国は5%(インドネシア)~15%(ベトナム、カンボジア等)前後のGDP増が見込まれる一方で、中国自身は2%前後にとどまるという(注2)。
  • 実施に当たっては、インフラ整備が先行して、貿易拡大が重点分野とされ、様々な進展も見られた。例えば、中国と欧州を結ぶユーラシア鉄道「中欧班列」では、沿線諸国の協力によって、開通線路は中国35都市と中央アジア・欧州12か国34都市の間で57に上った。運営車両数は、2013年の80両から2017年には3,270両まで急増した。汎アジア鉄道では、「中国・ラオス鉄道」(投資額約70億ドル)と「中国・タイ鉄道」(投資額約115億ドル)はそれぞれ、2015年12月と2017年12月に着工し、2021年と2022年に開通する見通しとなった。また、中国は、「一帯一路」の24か国に75か所の「産業パーク」を設立し、中国からの投資総額は500億ドルに上り、現地に20万人の雇用を創出したと中国側は成果をアピールしている(注3)。
  • また、2017年の中国と「一帯一路」国々との貿易伸び率(人民元ベース)は17.8%で全貿易より3.6%ポイント高くなり、「一帯一路」国々で受注したプロジェクト額は1,443億ドルで前年比14.5%も伸びた。また、報道によると、中国国家開発銀行と輸出入銀行は「一帯一路」地域に1,100億ドルの貸し出しを行い、輸出信用保証会社は、輸出と投資に3,200億ドルの保険を引き受けた。また、「シルクロードファンド」は、17プロジェクト(総額70億ドル)の契約を結んだという。
  • ただ、中国とメンバー国との利益調整がうまくいかないこと、メンバー国内の政治的合意が変化したこと、地政学的理由などから頓挫するプロジェクトも出てきた(注4)。これらプロジェクトの頓挫については、政治的に中国にマイナスの影響を及ぼすと考えられるが、経済的な合理性が吟味されているのは正しい方向にあると考える。
  • 以上のような実施状況から、中国と「一帯一路」地域との経済貿易関係が強まっていることは間違いない。実際、中国の国内で「一帯一路」とかかわる地域の雇用増加も他の地域より大きいという分析もある。今後、中国はさらに、「一帯一路」関係国とのFTA締結、「シルクロードファンド」の増資や公的金融機関の「一帯一路」プロジェクト向け融資枠の拡大、「一帯一路」地域からの政府奨学金留学生の拡大など、リソースを増加して、経済関係の緊密化を強めていくとみられる。実際に、政策的な優先扱いもあり、2016年には「一帯一路」地域からの留学生は207,746人となり、13.6%増で全留学生442,773人の約47%を占めるに至っている。

欧米からの大きな疑問を抱えながら、構想はグローバル的に拡大

  • このように、「一帯一路」構想は提起されてから5年目に入ったが、上述した一部の具体的プロジェクトの実施段階に入り、進展があったとともに、政策面では世界の86の国と国際機関と100以上の協力文書を結んだという。特に世界銀行、IMF、アジア開発銀行(ADB)等主要な国際組織からの支持を得ている。英国政府は、「一帯一路」を支援する10億ドルのファンドを中国と共同で設立するに至っている。
  • 設立当初は大きな物議を引き起こした中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、設立時(2016年1月16日)の57か国・地域から2年後の現在では84か国・地域まで拡大した。2017年には世界の三大格付け機関から最高評価「トリプルA」を得た。2年間で「一帯一路」地域に24件、総額42億ドルの融資を実施しており、最近ではAIIBに対する不信感も薄れてきている。
  • ただ、米国、欧州の一部、豪州、インド等の主要国では、「一帯一路」構想に対して反対や疑問の声も聞かれる。これらの懸念は主に地政学、価値観、ルールに基づいたものである。例えば、ドイツは中国に友好的な国だと言われるが、ガブリエル外相は「中国は『一帯一路』を利用して民主、自由、人権を無視する価値観を宣伝している」と批判し、北京駐在のドイツ大使Clauss氏も「『一帯一路』は中国式のグローバル化でEUのルール(プロジェクトのグローバル公開入札)とは相いれない」と不満を表した。インドは、「一帯一路」プロジェクトがパキスタンとの係争地域で行われていることや南アジアにおける中国のプレゼンス向上に反対している。豪州は、AIIBに加入したときと同じように、米中の立場に配慮して「一帯一路」を支持する取り決めを中国とかわしていないが、反対も言わない。他方、米国は、ルールや透明性に関する懸念はドイツなどと同じだが、価値観よりもこれまでの築き上げた米国の利益が「一帯一路」推進によって阻害されることを懸念している(注5)。ただし、北京駐在の米大使館内では「一帯一路」ワーキンググループを設置して米企業をサポートしている。
  • 以上で見てきたように、「一帯一路」構想の実施においては、プロジェクトの頓挫や欧米先進国からの批判に直面しているが、中国は、プロジェクト選定や実施手法を修正しながら、「一帯一路」構想をさらに広げようとしている。例えば、2017年に中国とロシアは、中国から北極の東北航路を経由して北欧に到達する「氷上シルクロード」(Polar Silk Road)の建設を共同提案している(注6)。現在の中国・欧州航路より三分の一の時間が短縮できるだけでなく、北極地域の豊富なエネルギーも活用できるという「一石二鳥」の経済効果が期待されているようだ。実際、中国も、「一帯一路」プロジェクトとして出資したロシア領内(北極圏)のヤマルLNGプロジェクトは、2017年12月に生産を開始し、中国への年間400万トンのLNG輸出が始まっている。また、2018年1月に開催された、第2回中国・ラテンアメリカ共同体(構成国は33か国)閣僚会議では、「一帯一路」枠組みの下で「太平洋海上シルクロード」(“Trans-Pacific Maritime Silk Road”)建設を推進する合意特別文書を結んだ。こちらもやはり、南米地域のインフラ需要やエネルギーその他の資源開発を狙う中国の戦略がうかがえる。
  • 日本政府は、慎重な姿勢から条件付きで中国主導の「一帯一路」構想を支援する立場に変化したが、日系企業においても「一帯一路」をビジネスチャンスとして理解する機運が高まっている。しかし、上述したように、「一帯一路」構想自体がまだ完全に確立しておらず、プロジェクトの実施も試行錯誤の段階にあり、ビジネス参加を図るには、綿密な情報収集や分析、パートナー戦略によるリスクヘッジ手法の採用、政府支援による信用補強などが求められる。

注釈

  • (注1)
    中国政府の正式文章には「一帯一路」構想対象国が定義されていないが、中国の政府系研究機関には64か国としているもの(国家情報中心(2017)「「一帯一路」貿易合作ビッグデータ報告」)もあれば、西欧のギリシャとキプロスを含む66か国としているもの(国家開発銀行・北京大学・UNDP(2017)“The Economic Development along the Belt and Road”)もある。
  • (注2)
    UN ESCAP (2017) “The Belt and Road Initiative and the Role of ESCAP”
  • (注3)
  • (注4)
    VOA“Pakistan, Nepal, Myanmar Back Away From Chinese Projects”
    https://www.voanews.com/a/three-countries-withdraw-from-chinese-projects/4148094.htmlOpen a new window
  • (注5)
    Jonathan Hillman(2018) “Statement Before the U.S.-China Economic and Security Review Commission-“China’s Belt and Road Initiative: Five Years Later”
  • (注6)
金 堅敏

本記事の執筆者

主席研究員

金 堅敏

 

【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。

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