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  5. 中国の排出量取引導入とEV普及によるCO2削減

中国の排出量取引導入とEV普及によるCO2削減

発行日 2018年2月2日
上席主任研究員 濱崎 博

【要旨】

  • 2017年12月19日に中国全土で排出量取引制度の導入が発表された。導入初期段階では、対象は発電部門のみとされるが、それは単に排出量取引制度の対象となる企業の数を限定するだけではなく、EV(電気自動車)の普及による二酸化炭素(CO2)削減効果を高めることも目的としている。
  • 現在の中国の発電はCO2排出量の多い石炭火力中心であるため、EVの普及によるCO2削減効果は限定的である。排出量取引制度により電力の炭素原単位低下を実現し、EVの普及によるCO2削減を実現する。
  • 排出量取引制度は電力部門の低炭素化を通じて、EV以外の新エネルギー自動車(NEV)の普及、電気自動車を蓄電として利用するV2G(Vehicle-to-Grid)、蓄電としての水素製造等、技術進歩が激しく、将来の予見が困難な技術の競争・普及の環境整備につながる。

今のままでは中国でのEV普及のCO2削減効果は高くない

  • 多くの人にとって、「EV=エコ」という認識が強い。確かにEVは走行時にCO2排出は行わないが、EV走行時の排出量を評価するにはEV走行時に使用した電気の発電時の排出量を考慮する必要がある。仮に旧型の効率の悪い石炭火力で発電していた場合、EVへのシフトによるCO2削減は大きなものとならない可能性がある。各国・地域で電源構成が異なるため、どこでEVを普及させるかによりEVの環境負荷低減効果は大きく異なる。
  • ロンドンのImperial Collegeは、中国、米国、英国でのEV普及によるCO2排出量削減の効果を発表した。各地域で最も売れているガソリン自動車と主要電気自動車(テスラ・モデルS、日産リーフ、BMWi3)との比較を行っている(図表1)。これを見ればわかるように、米国、英国と比較して中国でのガソリン自動車からEVへのシフトによる温室効果ガス排出量削減の効果は低い。
  • 金(注1)の指摘するように、中国では、エネルギー安全保障や都市環境保護のために自動車産業の電動化を進めているが、現状のままではその効果は穏やかなものになると言わざるを得ない。
  • この原因は、発電量比で70.3%の発電を発電単位当たりのCO2排出量の高い石炭火力発電に依存しているためである(図表2)。Climate Transparency Initiative(注2)によると、米国の電力炭素強度(電力量当たりのCO2排出量)が480gCO2/kWhであるのに対して中国は650gCO2/kWhであり、中国の方が同じ電力量を発電するのに約1.4倍のCO2を排出していることとなる。

  • 図表1:自動車種別によるCO2排出原単位各国比較

    図表1 自動車種別によるCO2排出原単位各国比較

    (出典:Grantham Institute, Imperial College London (注3))


  • 図表2:主要国の電源別発電電力量の構成比(2015年)

    石炭 石油 天然ガス 原子力 水力 その他
    中国 70.31% 0.17% 2.49% 2.92% 19.07% 5.05%
    アメリカ 34.23% 0.90% 31.94% 19.32% 5.84% 7.76%
    イギリス 22.81% 0.63% 29.74% 20.92% 1.87% 24.03%

    (出典:日本原子力文化財団、「原子力・エネルギー図面集2016」(注4)、IEA, WORLD ENERGY BALANCES 2017 Edition)

中国排出量取引制度で電力炭素原単位は改善されるのか?

  • 2017年12月19日に、中国国家発展改革員会は中国全土で排出量取引制度の導入を発表した(注5)。制度としては、「導入当初は、年間2.6万トンのCO2を排出する発電部門を有する企業のみ」と発表されるにとどまり、削減目標の割り当てに関しては明確となっていない。排出量取引制度参入者に対して厳しい目標を課した場合には、電力炭素強度の大幅な改善が期待できる一方、削減対策に要した費用が電力価格に加算されるため電力価格の高騰の可能性もある。
  • 本稿では、富士通総研経済研究所が開発した一般均衡モデル(注6)を活用し、排出権価格、電力価格への影響、電力炭素強度の改善といった効果に関して定量的評価を行った(図表3)。
  • 既に中国で導入されている試行排出量取引制度での排出価格(図表4)を参考に、50元/トン・CO2周辺の排出権価格(56.2元/トン・CO2)となる電力部門削減15%の場合、電力部門の温室効果ガス削減目標達成に要する費用により電力価格が上昇し電力の消費量が低下したため、削減目標よりは低い電力炭素原単位の改善ではあるが、電力炭素原単位は9.19%の改善が期待できる。
  • 米国と同程度の発電炭素原単位を達成(26.2%の改善)するには、40%程度の削減目標(原単位25.6%改善)が必要となる。その時の排出権価格は204.6元/トン・CO2となり、試行排出量取引制度導入当初に100元超の深センの価格を大幅に超える排出権価格となる。その場合、電力価格は52.2%程度上昇する。実際には、一足飛びに米国の水準にまでもっていくとは考えにくいが、温室効果ガス削減を実現する技術の価格低下、関連ビジネス市場の拡大、電力価格の上昇等、経済側面での影響・便益両面からその削減目標を引き上げていく必要がある。
  • 排出量取引制度は既にいくつかの国・地域で導入されているが、削減目標の割り当てがその成否を決めると言え、過剰な排出権の割り当て(低すぎる削減目標)は、たなぼた利益(Windfall Profit)を与えることになり実際の削減に寄与しないものとなる一方、過剰な削減目標の設定は経済成長停滞につながる。
  • 企業が将来の投資判断を行いやすい透明性のある中長期的視点での制度を確立できるかが重要である。

  • 図表3:電力部門排出量目標と効果/影響

    電力部門削減目標
    10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50%
    排出権価格
    注7
    元/トン・CO2 35.9 56.2 78.6 103.6 132.1 165.3 204.6 252.4 311.8
    CO2排出量 % -4.50 -6.79 -9.11 -11.45 -13.82 -16.21 -18.62 -21.05 -23.48
    電力価格 % 5.92 9.42 13.32 17.71 22.69 28.40 35.03 42.83 52.18
    石炭消費量 % -3.95 -6.09 -8.29 -10.56 -12.89 -15.26 -17.67 -20.10 -22.55
    電力炭素
    原単位
    % -6.09 -9.19 -12.34 -15.55 -18.82 -22.16 -25.55 -29.01 -32.54
    GDP % -0.03 -0.06 -0.10 -0.15 -0.21 -0.28 -0.38 -0.49 -0.63

    (注:ベースラインからの乖離)
    (出典:富士通総研経済研究所)


  • 図表4:中国試行排出量取引制度排出権価格推移

    図表4 中国試行排出量取引制度排出権価格推移

    (出典:http://www.tanpaifang.com/ accessed on 24th January, 2018)

エネルギーシステム全体の改善を視野に入れた動き

  • 予想を超えるスピードの電池価格の低下・性能向上が進んでおり、EVは価格・航続距離などの性能もガソリン自動車と競争できるレベルになりつつある。今回、中国は排出量取引制度の導入を決めたが、まずは電力分野というのは、対象企業が比較的少なくその測定方法も比較的透明性が高いという運用面での理由のみならず、EV普及に合わせての電力分野での低炭素化を目的にしていると言える。
  • 排出量取引制度の導入は単にEVを普及させることが最終目標ではなく、中国政府は、風力発電、太陽光発電といった不安定型再生可能エネルギーによる系統安定化のためにEVを蓄電池のように利用するV2G(Vehicle-to-Grid)、系統蓄電池、電気分解による水素製造などエネルギーシステム全体での最適化を実現といったエネルギー転換及びその市場の牽引役を目指していると言える。
  • 例えば、武漢市は、水素の製造、貯蔵及び輸送のコア技術開発を推進し、今後水素インフラ改善を目指すとし(注8)、中国初の燃料電池工業団地(Fuel Cell Industrial Park)となることを計画している(注9)。排出量取引制度はこのような動きを後押しする作用を持つと言える。
  • 中国の排出量取引制度に関しては、賛否両論渦巻く状態(注10)ではあるが、その導入は単に環境問題解決への貢献だけではなく、次世代エネルギーシステムを中国の次の経済成長エンジンとして位置付けている証である。
  • 次世代エネルギー分野の研究開発は激しくなる一方、今後の価格・性能に関して見通すことは困難である。今回の排出量取引の導入は、個別の技術単位で勝者を事前に決めるのではなく、研究開発を停滞させずに市場で決定する取組の一環であり、中国での次世代エネルギーシステムへのシフトのための環境は整いつつあると言える。

注釈

  1. http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/newsletter/2018/no18-001.html
  2. http://cti.climateworks.org/sectors/?Sector=Power&Subsector=All
  3. http://www.imperial.ac.uk/grantham/our-work/mitigation/the-path-to-a-low-carbon-future/climate-impact-of-electric-vehicles/?utm_source=Grantha%E2%80%A6
  4. http://www.jaero.or.jp/data/03syuppan/energy_zumen/energy_zumen.html
  5. 中国排出量取引制度に関しては、金振(2017)、「中国排出量取引制度(ETS)の開始に関する速報」に詳しい。
    https://www.iges.or.jp/files/announcement/20171220/20171220.pdf
  6. 米国パーデュー大学提供のGTAP version 7 standardモデルに、富士通総研経済研究所においてエネルギー・CO2排出モジュールを追加し、排出量取引制度の効果の評価を可能とした。
  7. 2011年人民元、1元=0.154796ドル(2011年)、http://www.principalglobalindicators.org
  8. http://www.szdaily.com/content/2018-01/23/content_18316219.htm
  9. http://www.xinhuanet.com/english/2017-12/24/c_136849031.htm
  10. Jamie Condliffe, China Is Creating the World’s Biggest Carbon Market, MIT Technology Review, https://www.technologyreview.com/the-download/609814/china-is-creating-the-worlds-biggest-carbon-market/