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  5. 中国の新エネルギー車をめぐる動向(下):市場参入を狙う内外資企業の動向

中国の新エネルギー車をめぐる動向(下)
:市場参入を狙う内外資企業の動向

発行日 2018年1月16日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 新エネルギー車(NEV)市場で出遅れた外資系メーカーは、中国の「双積分政策」に促されて、対策を急いでいる。短期的にはNEVの有力地場メーカーとの戦略提携が多く、長期的には、中国の内外資無差別政策を見て独自政策を取るとみられる。
  • 中国では、NEV生産・販売市場への参入は認可制を取っており、2017年末現在認可された企業は224社の3,233モデルにも上っている。市場シェアトップ10は、在来の地場自動車メーカーばかりである。特に、吉利汽車、長安汽車、北京汽車等は、自主ブランドで2025年にガソリン車販売停止等の無謀な電動化計画を宣言し、話題を呼んでいる。
  • NEV市場拡大を見込んでエコカーベンチャーブームも起き、VCなどの資金も経営者やシニアエンジニア等の人材も有力ベンチャー企業になだれ込んできている。昨今は、特にネット大手BATのサポートを受けている数社の有力ベンチャーが注目されている。

「双積分政策」の施行を控え、遅れて動き出す外資系自動車メーカー

  • ニューズレター「中国の新エネルギー車をめぐる動向(上):急拡大する市場と育成政策の転換」で述べたように、中国は、自動車メーカーに一定の新エネルギー車生産を義務付ける「双積分政策」を2018年4月1日に施行し、その義務付けは2019年から始まる。「双積分政策」の導入に対して中国のガソリン車市場で優位性を発揮している外資系メーカーは大きな反発を見せた。日米欧の政府首脳や自動車業界の陳情を受け、義務付けの時期は1年延期されたが、点数管理方法や点数計算指数等、規制の基本方針は変わらなかった。
  • 中国の自動車専門誌である『汽車商業評論』は、2017年上期の各メーカー販売実績に基づいて「双積分政策」に従い、各メーカーの点数を推定してみたが、新エネルギー車の「黒字」(点数の販売が可能)は、BYD、北京汽車、吉利汽車等の7社であり、民族系ばかりである。一方、「赤字」(点数購入が必要)メーカーは、VW、GM、日産、フォード、トヨタ、ホンダ等の外資系と、ガソリン車の販売を伸ばした長城汽車、長安汽車、広州汽車乗用車等の民族系である。ガソリン車で大きな市場シェアを持つメーカーほど「赤字」幅が大きい。
  • これまで外資企業が中国の新エネルギー車市場への参入に遅れたのは、NEV市場自体が未成熟で市場参入のインセンティブが低かったとともに、地場産業育成・保護を図る中国の政策に影響された側面もあろう。例えば、中国の財政補助を受けるためには中国政府によって認定された「新エネルギー車普及応用車リスト」に載せなければならないが、載せるためには認定された地場電池メーカーの製品を使用する必要があるという現地報道があった。内外資を差別する明確な規定はないが、政策運営によって影響が出ると推測される。例えば、韓国系サムソン電子SDI、LG化学、パナソニックの現地電池生産子会社はいずれも政府認定電池製品リストから外れている。また、中国の財政補助が適用される輸入NEV(例えばテスラ)はリストにはないし、NEV購入税の免除でさえもごく一部の輸入車しか適用されていない。ちなみに、現地生産で財政補助や自動車購入税の免除が受けられる新エネルギー車種を導入している外資系生産メーカーは、ダイムラーとBYDの合弁企業「DENZA」、東風日産、北京現代と上海GMなどのごく少数の車種モデルである。
  • ただし、「双積分政策」の実施を控えて、上述した「赤字」を抱える内外資メーカーは対応を急いでいる。外資系では、ダイムラーはBYDと、VWは江淮汽車と、フォードは衆泰汽車と、それぞれ新しく新エネルギー車の合弁企業を設立するのに対して、内資企業では長城汽車が河北御捷汽車への出資比率を高めた。これらの動向は、いずれも合弁相手の新エネルギー車の実績(認定電池製品を使用するだろうと推測)を活かして「赤字」を解消しようとするものである。ただ、長期的には、各社は、自社開発の新エネルギー車の導入を早める計画を打ち出している。例えば、ホンダは2018年に中国市場専用のEVを導入する計画があり、トヨタも2020年には自社開発のNEV社をまず中国市場に投入する。また、VWは、2025年までに中国市場でのNEVの生産開発に約1,330億円を投資すると宣言。フォードは「2025中国計画」で2025年までに15車種のNEVを投入すると打ち出している。
  • 他方、中国も、市場拡大に伴い内外資無差別の「内国民待遇」を意識してか、2017年に日産系のオートモーティブエナジーサプライ(AESC、現在中国系ファンドへの売却手続き中)からの輸入電池を使ったNEVを、その後パナソニックと中国側の折半出資合弁企業である三洋能源(蘇州)から提供された電池を搭載したNEVを、それぞれ政府認定NEVリストに載せた。中国メディアは、外資系電池を搭載したNEVの認定はNEV育成政策をこれから内外無差別で運用するというシグナルとして取り上げられている。実際、外資系NEVメーカーによる中国投資への資本規制(50%まで)も緩和すると発表しており、テスラの中国生産が伝えているように、これからは外資のNEV関連中国進出がさらに加速されるとみられる。

市場や政策の変化に備えてNEV戦略を強化する地場メーカー

  • 実際、中国内資のNEV市場(生産・販売)への参入も国家発展改革委員会による投資認可と、工業信息化部(省)によるNEV企業認定や車種モデル認定が必要である。非認定の企業とモデルは中国市場で販売ができない。2017年末までに認定された生産企業(一部の外資系合弁企業を含む)は224社、3,233モデルにも上っている。
  • 内資系企業は、既存の自動車メーカーによるNEV参入と新規NEV参入に分けられるが、2016年のNEV市場で上位を占めるのは、BYD(10万台)、吉利汽車(4.9万台)、北京汽車(4.7万台)、衆泰汽車(3.7万台)、奇瑞汽車(2.1万台)、上海汽車(2.0万台)、江淮汽車(1.8万台)、江鈴汽車(1.6万台)、長安汽車(0.5万台)、東風汽車(0.4万台)の順になっている。2003年に自動車産業に参入した自動車部品メーカーの衆泰汽車を除き、ほとんどは名を知られている在来自動車メーカーである。ただ、今後、NEVへの取り組みは強弱がみられる。
  • 民族系メーカー長安汽車は、2017年10月19日に、2025年に純ガソリンエンジン車の販売を廃止し、すべて新エネルギー車にする電動化計画「シャングリラ計画」を発表し、市場関係者を驚かせた。長安自動車の「シャングリラ計画」で言う新エネルギー車はEVとPHEVのみを指しており、2016年に長安汽車の新エネルギー車対全車種の販売割合は、自主ブランドで1.79%、外資との合弁を含むと0.67%しかなかったので、ガソリン車販売の廃止目標はいかに「無謀」な目標かが見て取れる。ちなみに、トヨタは2050年に純ガソリン車の販売をゼロにする電動化計画を発表しているが、その後も内燃エンジンを備えるハイブリッド車HVが大きな役割を果たしていくと考えている。
  • また、2017年12月9日に国有企業の北京汽車も自主ブランド車について、ガソリン車の販売を2020年には北京市で、全国の生産と販売を2025年には停止することを宣言した。ただ、ガソリン車以外にハイブリッド車HVが含まれるかどうかは厳密に定義されていない。
  • さらに、国有自動車メーカーである長安汽車、北京汽車と対照的に、民営企業である吉利汽車は、早くも2015年11月に「ブルー吉利行動」(電動化計画)を打ち出して、2020年にHEV、PHV、EVを含む電動車の販売比率を全体の90%に引き上げると宣言した。吉利汽車のいう新エネルギー車にはHVも含まれているので、トヨタの電動車の定義に近いが、2020年に販売台数90%に達するという目標はやはり野心的であると言わざるを得ない。業界関係者の間では実現可能性を疑問視する声が伝わっている。

テスラをベンチマークに競い合うEVベンチャー企業

  • 上述した政府認定NEV企業かどうかを問わず、新興自動車メーカーは60以上(商用車や特殊車両が多い)があると報道されている。中には、衆泰汽車のように在来の自動車部品メーカーや他の在来製造業からNEV産業に参入してくる企業もあれば、まったく新しい新規の創業ベンチャー企業も数多く存在する。エコカー創業ブームが生じていると言ってもよい。
  • これらの新興自動車企業は、在来自動車企業を買収して自動車生産の資格を獲得するか、自社による新規投資を行って資格を取るのか、在来自動車産業にOEM生産を委託してモデルリストに載せるのか、知恵を絞ってNEV市場参入を果たそうとしている。収益の上がる事業に育てるまでの資金調達や人材確保も大きな課題として新興企業にのしかかっているものの、現在に至ってもNEV創業ブームは退潮していない。
  • 2017年には、EV乗用車のベンチャー企業の動きがもっとも注目されるようになってきた。資金ショートで事業が行き詰まった「楽視」(LeEco)も話題になったが、一部の有力EVベンチャー企業には資金も人材もなだれ込み、コンセプト段階(中国ではPPT自動車メーカーという)から量産車デビューの段階に入りつつある。特に、中国のネット大手BAT(百度、アリババ、テンセント)から資金バックアップを受けた「蔚来汽車(NextEV社、英文名NIO)」(テンセント、百度を中心とする投資)、「小鵬汽車(Xiaopeng Motor's)」(アリババを中心とする投資)、「威馬汽車(WM Motors)」(百度を中心とする投資)は、2017年末にかけて大規模増資と量産車の発表を行い、ネット技術と自動車製造の融合として注目されている。
  • 2014年末に自動車情報関連のネット企業(ニューヨーク上場)の創業者によって設立され、2017年12月に量産車ES8を発売した「蔚来汽車」は、3年間で5回にわたり146億元(約22億ドル)の資金調達ができ、2017年3月15日には評価額50億ドルでユニコーンの仲間入りを果たした。潤沢な資金をてこに、内外自動車メーカーの北京汽車、奇瑞汽車、上海汽車、広州汽車、BMW、フィアット、レクサス、ボルボ等からシニアマネージャーやシニアエンジニア級の人材を大量に迎え入れている。ちなみに筆者の知り合いであるボルボPolestar中国のCEOも、2017年末に品質管理の副総裁として招かれている。また、江淮汽車、長安汽車、広州汽車とはOEM生産を含む戦略提携を進め、在来自動車メーカーの製造能力やノウハウを活かすとともに、自社生産拠点の建設を急いでいる。
  • アリババが買収したUCブラウザ事業の創業者等によって2014年に設立された「小鵬汽車」も、3回にわたって7億ドルの融資を完了し、2017年10月にはOEM生産(自社生産拠点も建設中)でテスト量産車ができあがり、2018年には一般消費者向けの量産車を発売する予定である。「小鵬汽車」も、テンセント、小米等のネット関連企業や第一汽車、広州汽車等の自動車メーカー、P&G等の消費財メーカー等から数多くの人材を迎え入れている。特に、2017年10月にはテスラに在籍したAutopilot2.0開発の主要メンバーを副総裁に招き入れ、車載AIの研究に全力を挙げている。
  • ネット企業出身者によって創業された「蔚来汽車」と「小鵬汽車」とは違い、「威馬汽車」は、2015年12月に自動車の専門家であるボルボ中国の会長によって設立され、2017年12月にははじめての量産車EX5を発表し、2018年4月に一般消費者への発売を開始すると宣言した。これまでに120億元(約18億ドル、ユニコーンに当たる金額に達したが、まだ海外では評価されていない)の資金調達を行い、自社生産拠点の整備も着々と進んでいる。スポーツカーを手掛けるドイツのベンチャー企業イズデラ(Isdera)と提携して、EVの開発、製造、資金調達に関する協力を進めている。同社では、ネット系と異なり、穏健なベンチャー活動が展開されている。