GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. ニューズレター >
  4. 2018年 >
  5. 中国の新エネルギー車をめぐる動向(上):急拡大する市場と育成政策の転換

中国の新エネルギー車をめぐる動向(上)
:急拡大する市場と育成政策の転換

発行日 2018年1月16日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • ​中国でいう新エネルギー車(NEV)は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を指し、日本メーカーが得意なハイブリッド車(HV)を中心とするエコカー市場とは異なる。「中国製造2025」の下で設定されるNEVの販売台数の目標(上限)は、2020年に300万台、2025年に700万台、2030年に1900万台である。
  • NEVを振興するため、購入者への大規模な財政補填等のデマンド政策を実施している。「官製市場」とも言えるNEV市場は、2014年の7.5万台から2017年の約70万台までに急増した。ただし、財政負担の拡大や補助金不正受領と言った政策の弊害も顕在化した。
  • 市場の拡大と政策の弊害を踏まえて、中国は、財政支援(デマンド政策)から「双積分政策」と呼ばれる一定のNEV生産を義務付けるサプライ政策へと転換した。さらに自動車メーカーへの影響の大きいガソリン車販売禁止時期を検討し、内外の論議を呼んでいる。

野心的な新エネルギー車の市場/産業育成目標

  • 中国では、エネルギー安全保障、都市環境保護や渋滞対策、新規産業育成、並びに最近ではモビリティの「シェア」化や自動運転などの視点から自動車産業の電動化を強力に推進している。2012年6月に公布された「省エネと新能源自動車産業発展計画(2012-2020)」という自動車産業政策において、省エネ自動車は内燃機関を主たる動力システムとする自動車であり、新エネルギー車(「新能源汽車」:NEV)は新型エネルギーを主たる動力システムとする自動車であると定義した。つまり、新エネルギー車は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV、ハイブリッド車の中でもガソリンエンジンではなく電気モーターを主とするもの)、燃料電池車(FCV)を指す。
  • 以上の定義に基づくと、日本の自動車メーカーが得意とするハイブリッド車(HV、ガソリンエンジンを主とするもの)は省エネルギー車には含まれるが、NEVには含まれない。したがって、HVは、中国の新エネルギー車への財政補助政策には適用されない。
  • 2012年の自動車産業発展計画では、2015年にEV・PHEVの販売は累積50万台で、2020年に生産能力は200万台、累積500万台を目標としていた。しかし、2015年に公布された「中国製造2025」政策の下で制定された「省エネ・新能源自動車技術ロードマップ」(2016年10月公布)では、自動車市場における新エネルギー車(EV・PHEV)の割合目標は、2015年の1.5%から2020年に7%~10%、2025年に15%~20%、2030年に40%~50%までに引き上げられた。
  • 他方、「ロードマップ」では2020年、2025年、2030年の新車販売台数が3,000万台、3,500万台、3,800万台と見込んでいるので、新エネルギー車の販売台数(上限)は、300万台、700万台、1,900万台と推定される。2017年12月に、トヨタ自動車も2030年に自社の得意とするハイブリッド車(HV)を含む電動化目標50%(550万台)を公表した。トヨタの目標と比べ、HVを除く中国の新エネルギー車の目標は非常に野心的と言えよう。

財政支援で急拡大する「官製市場」

  • 中国がこれほど高い目標を立てたのは、これまでの産業市場育成の成功体験や電池など電動化に必要な技術の急速な進展を見込んでいると考えられる。例えば、新エネルギー車の振興政策は2009年に始まったが、近年になって拡大のペースが急速に速まってきた。販売台数は、2014年の7.5万台から2015年の33.1万台、2016年の50.7万台と急増し、2017年は70万台前後となる。
  • ただし、2015年より中国は世界最大の新エネルギー車市場となり、保有台数も世界の50%以上を占めるようになった。因みに、2016年の欧州、米国、日本の新エネルギー車販売台数は、20.7万台、16.0万台、2.2万台であった。
  • しかし、このような市場拡大は、自動車購入税免除や財政補助、ナンバープレート優先割り当て等の市場育成政策(デマンド政策)の支援ではじめて可能で、「官製市場」とも言える。2009年に始まった財政補助は、世界金融危機の対策も兼ねて、北京・上海等の13の大都市で公共交通機関、タクシー業界、官庁用車、郵便や環境関連車両の公共サービス部門から始めた。その後、普及補助の都市が拡大され、2010年6月には5都市から個人購入の新エネルギー車も財政補助の対象となった。補助金額は基本的にガソリン車との差額となるが、生産規模や技術の進歩を考慮に入れ、次第に低下していく仕組みとなっている。因みに、財政補助期間は、2010~2012年、2013~2015年に続けて、2016年~2020年期間中も実施されている。
  • ただし、新エネルギー車の販売台数の拡大で財政補助の金額は膨大となり(2015年では中央と地方を合わせて300億元(約5000億円)以上)、また、2016年には大規模な補助金不正受領事件が生じてしまった。そのため、補助金交付条件を厳しく設定するとともに、補助金のフェーズアウト(段階的廃止)の加速政策も打ち出されている。

財政補助から「双積分政策」へと育成政策が転換

  • 市場育成政策の弊害に直面した中国は、自動車市場スケールの大きさ、新エネルギー車の技術進歩、電動化に向けた各国の政策動向などをも鑑み、財政支援による市場育成のデマンド政策から「双積分政策」と呼ばれる、自動車メーカーにEV・PHEV・FCVの生産割合を義務化する政策(サプライ政策)へと政策を転換することにした。これは、ガソリン車と新エネルギー車の両方とも一定の計算方式で点数(目標と実際)をそれぞれ積算し、「実際点数-目標点数=差額点数(積分)」をそれぞれ管理する政策である。
  • ガソリン車の点数管理は燃費規制に対応するが、新エネルギー車に対する点数管理は、ガソリン車の生産抑制と新エネルギー車の生産奨励を兼ねたものであった。因みに、NEVの目標点数は、「ガソリン車(生産台数)×割合(政策的に設定される)」で計算される。ただし、一般的に、この割合は自動車メーカーに新エネルギー車の生産割合を義務づけるものと理解されるが、実際の「新エネルギー車/全生産台数」とは異なることに注意しておく必要がある。因みに、「双積分」が義務化される2019年の割合は10%で、2020年は12%と要求されている。「双積分政策」のコンセプトは、米カリフォニア州のゼロエミッションビークル(ZEV)規制に由来しているが、点数の計算や割合の要求は中国独自のものがある。
  • 上述したように、「双積分政策」の点数規制は、ガソリン車と新エネルギー車に対して並行して行われるが、新エネルギー車の目標点数計算がガソリン車の生産量とリンクし、かつ割合の引上げにより目標点数が上昇するとともに、新エネルギー車のプラス点数はガソリン車のマイナス点数を相殺させることができ、新エネルギー車の点数が足りないメーカーに販売することも可能である。つまり、「双積分政策」は、自動車メーカーに新エネルギー車の生産拡大を促す経済的なプラスのインセンティブを有する。他方、合格点数を満たさないメーカーには罰則を科せられるマイナスのインセンティブが働くことになる。したがって、これまでのデマンド側に対する財政補助の役割をガソリン車の生産メーカーに転換させようとする意図を持つと考えられる。

論争のあるガソリン車(内燃機関車)販売禁止問題

  • ガソリン車販売停止に関する世界的な論議が加速している中で、2017年9月9日に中国の産業政策担当官庁の高官は、「中国もガソリン車の生産販売停止のタイムテーブルを研究している」ことを明らかにし、世間を驚かせた。ガソリン車から新エネルギー車への転換の流れ自体は理解できるとしても、停止あるいは禁止の時期が注目の的となっている。
  • 深刻な環境汚染に苦しんでいる中国社会全体の雰囲気は、ガソリン車の販売禁止時期を早めるべきだという世論が高まっている。しかし、上述した「省エネ・新能源自動車技術ロードマップ」の研究・制定を主導した中国汽車工程学会や自動車産業界などは、急進的な議論に左右されず、産業発展の規則や消費者の選択という市場の成熟度に従って政策を検討すべきであると慎重な姿勢を見せている。また、デンマーク等の再生可能エネルギー大国と違い、中国はなお石炭が発電の主力となっており、自動車の電動化といってもライフサイクルの視点からは100%クリーンとは言えない。さらに、国民経済において自動車産業は大きなウェートを占めており、ガソリン車禁止政策は自動車産業へのインパクトが大きい。このような点からも、慎重に検討すべきという意見も存在する。
  • 上述したロードマップでは、楽観的に見積もっても2030年の新エネルギー車販売台数は、自動車市場の半分程度であり、2030年代前半までにガソリン車の生産・販売を禁止するのは非現実的であると思われる。
  • ただし、トヨタ自動車は、2015年10月に、2050年にはガソリン車の販売を停止することを宣言し、最近では2040年代に前倒しするとの発言もみられたが、それでも世界最大の自動車市場である中国におけるガソリン車生産販売禁止時期の議論は日系自動車メーカーにとって重大な関心事となっており、対応が急がれる。