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米中の通商交渉と巨額商談成立の背景を読む

発行日 2017年11月22日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 双方に不均衡是正に対する認識やアプローチ方法の相違。米国はモノの貿易の不均衡に着目、中国に不均衡是正を迫っているが、中国は、米国に大きな黒字を計上しているサービス貿易や投資収益も含むトータル均衡を考えるべきであると主張。また、米国は中国市場の閉鎖性、知財侵害、強制的な技術移転等を問題視し、中国は米国による対中ハイテク規制等にも不均衡の原因とアピール。
  • 不均衡是正のアプローチに中国は「対話」による解決にこだわるが、米国は、「対話」とともに「301条調査」という法的手段を併用、「対話」の成果を見て「301条調査」に基づく報復措置をとるかどうかを決めようとする。
  • 「301条調査」という圧力も相まって、米中間で巨額商談が成立するに止まらず、中国に金融市場の大幅開放などの構造改革の兆しも見られた。日米通商交渉への影響が注目。

(1) 貿易不均衡是正に対する認識やアプローチ方法の相違

  • トランプ大統領の訪中は、中国による『紫禁城』貸し切りでの接待や、大統領自身による孫娘の中国語歌録画の披露、2,500億ドルを超える商談の成立など、にぎやかに行われた。その一方で、北朝鮮の核兵器開発をめぐる制裁問題や貿易不均衡の是正に関する激しいせめぎ合いもあったことが、双方から発表された資料の内容から見てとれる。特に、貿易不均衡是正に対する認識やアプローチには大きな相違があった。
  • これまで、著しい貿易不均衡が存在し、このままでは持続不可能であり、米国の対中輸入制限という「縮小均衡」方式ではなく、対中輸出拡大の「拡大均衡」方向で解決するという点で米中は一致を見ている。しかし、米側は中国の市場制限政策に不均衡の主な原因があるとして市場開放を求めているが、中国は米国の対中輸出規制にも大きな原因があり、対中ハイテク製品の輸出規制が撤廃されれば、米中間の貿易不均衡は14%~34%が解決されると主張して規制の撤廃を要求している。
  • また、米国側が主に着目しているのは、拡大し続けている貨物貿易の巨額赤字である。トランプ大統領は訪中の際の演説で「米国の貿易赤字は5,000億ドル前後に達し、これは一方的で不公平だ」と不満を噴出させた。米国側の不満に対して、中国は、サービス貿易において米国側の黒字(2016年は約400億ドル)が急拡大していることや、中国で活動している米国企業の売上高は約3,500米ドルに達しており、米国で活動している中国企業の売上高約250億ドルに比べると大きな差(3,200億ドル以上)があることをアピールしている。習主席は、「米ビッグ3は中国の自動車市場で年間500万台を販売しており、大きな利益を得ている」と演説した。つまり、中国側は、モノの貿易に限定しないサービス貿易や投資収益を含んだ米中経済関係は、比較優位に基づくwin/win関係にあると主張する。
  • さらに、米国側は、短期的で目に見える貿易収支の改善を求めているのに対して、中国側は、中長期的で動態的なバランスを図るべきと反論している。トランプ大統領は、貿易不均衡に関して「中国を責めないが、『無作為』の歴代の米政府を非難する」としている。これに対して習主席は、「今後5年で中国は10兆ドルを超える輸入を行い、出国する観光客は7億人を超える」とアピールし、成長する中国市場を活用するよう米国を説得した。

(2) 不均衡是正に「対話」と「301条調査」の併用

  • 貿易不均衡是正のアプローチ方法に関して、中国は「対話」による解決を好み、「包括経済対話」フォーラムの設置を米国に提案して「100日プラン」や「1年計画」等を通じて問題を解決しようと試みた。
  • しかし、米国は、上述した「対米ハイテク規制」の緩和による不均衡問題解決という中国側の提案を無視し、これまでの「包括経済対話」による問題解決の結果にも不満を示した。そして、「301条調査」という米国の市場パワーに依存した一方的な法律手段を活用して、圧力による問題解決のアプローチを併用しはじめた。米国は、「301条調査」という威嚇政策を掲げることで「包括経済対話」の効果を引き出すととともに、不均衡をもたらす構造問題の改善も目論んだと見られる。ちなみに、今回の対中「301条調査」の内容は、1)中国の技術や知財政策がWTO上の義務に違反していないかどうか、2) 米国の輸出業者やサービス提供者、知財保有者に損害を与えるような「不合理」と「差別化」な慣行が中国に存在していないかどうかの2点にある。
  • つまり、中国 対米国は、「対話」対「対話&法律」という形をとって、不均衡是正のアプローチは「the Double-rail Mode」(二重軌道モード)で行われるようになった。2つの問題解決アプローチは、独立しているが相互に影響しあう存在となった。2017年3月末に出された米国の「スペシャル301条報告書」では、米国は、中国を自動的に調査しなければならない“Priority Foreign Country”(優先国)と認定しなかったにもかかわらず、その後、「対話」による実績を不満として、知財侵害に対応する「スペシャル301条調査」ではなく、一般的な「301条調査」を用いた。10月10日には対中「301条調査」の(形式的な)公聴会を行わせ、トランプ訪中の成果を見て、対中報復措置を取るかどうかを決める構えをとった。

(3) 巨額の商談成立で通商問題は一時先送りへ

  • 中国は、建前では米国の対中「301条調査」発動を「WTOルールを無視した、米国内法に基づく調査は無責任で、中国に対するアンフェアな貿易慣行の非難も客観的ではない」と反論している。ただし、中国は対米輸出依存度が高く(輸出総額の19%、中国側統計)、米国と真正面から貿易報復合戦を展開する余裕はないため、自ら進んで米国の不満を和らげる対応を取らざるを得なかった。ちなみに、米国の対中輸出依存度は、貿易総額の8%(米国側統計)となっている。
  • 実際、中国は、米国による対中「301条調査」開始決定(8月18日)後間もなく、「外商投資知的財産権保護行動プラン」を公布して、関係政府機関が9月~12月までの4ヵ月間にわたって外資企業の知財に対する侵害行為を取り締まることを決定した。中国側の行動は、もっぱら米国の「301条調査」に対応した措置とは言えないが、時期的にはこの調査を意識したと言わざるを得ない。
  • 他方、トランプ大統領の訪中に合わせて、両国は、双方の多国籍企業の協力を得て、34プロジェクト、総額2,535億ドル(約28兆円)に上る中国の対米輸入や双方向投資の商談をまとめて、調印式を行った。実際、ビジネスチャンスを見込んで100社以上の米有力企業がトランプ大統領訪中に随行しようとしたが、最終的には、GE、ボーイング、ゴールドマン・サックス、クアルコムを含むエネルギー、農産品、電子・電機、金融を中心に29社が加わった。合意を見た商談(基本合意や契約を含む)の大まかな内訳では、シェールガス開発などのエネルギー投資関連が1,276億ドルで、旅客機300機370億ドル、スマートフォン用IC120億ドル、大豆1,200万トン50億ドル等の米国の対中輸出が含まれている。
  • 合意された商談に関して、米国のメディアには、正式な契約ではない基本合意が含まれているので「真水」はどのぐらいあるかを疑問視する向きがある。また、トランプ政権は、商業契約に傾きすぎ、不均衡をもたらす構造問題は疎かになったのではないかと問題を提起した。
  • ただ、両国トップが見届ける中で合意された商談であるため、特に米国政府は、その履行を厳しくモニタリングしていくだろう。また、市場アクセス改善等に関する構造問題について、米国ではあまり報道されていないが、中国側の発表によると、トランプ大統領の訪中に合わせて、中国は、自由貿易試験区内で電気自動車や専用車の外資規制の緩和(外資マジョリティ出資を可能にすること)を2018年6月までに行うこと、金融業の市場アクセスの大幅な拡大や自動車関税の引き下げを自主的に行うことも約束した。トランプ訪中が終わった11月10日に中国は、外資が証券・保険業等をマジョリティ出資、そして数年後に100%出資を可能とする金融市場開放政策を発表した。
  • 上述した米中間の巨額商談成立や中国による自主的市場開放政策は、「拡大均衡」志向による積極的な取組の結果だと評価されるが、対中「301条調査」という米国の圧力が実ったとも言えるだろう。この意味で、日本は、「戦果」を見たトランプ政権が日米の貿易不均衡にどう取り掛かってくるかを注意深く見ていく必要がある。