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人材流出を懸念するシリコンバレーと人材を引き付けようとする中国

発行日 2017年2月15日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 選挙期間中には、トランプ氏はシリコンバレーを批判する言質もあったが、米国の技術・イノベーション政策に触れることは少なく、新政権のイノベーション政策は不明確である。しかし、ビッグデータ技術が選挙の勝利に役立ったことなどから、トランプ氏は新技術に無関心ではなさそうだ。
  • 他方、政権関係者によるシリコンバレー人材像への批判や政権の移民政策に関連して、専門技術者を海外に大きく依存しているIT企業は人材流出の懸念を強めている。
  • 一方、技術革新立国を目指している中国は、シリコンバレーとの関係を強めている。近年、中国資本VCやインキュベーターが大量にシリコンバレーに進出して、トランプ政権の移民・人材戦略を懸念する国際人材の誘致を拡大しようとしている。中国から製造業を引き戻そうとする米国の政策に対して、中国は米国から人材を引き付ける戦略をとっている。

トランプ政権のイノベーション政策は不明確

  • 一般的に米国経済の強みとしての最大の特徴は、シリコンバレーに代表されるイノベーションの活力であると評価されているが、トランプ政権がどのような技術・イノベーション政策をとるのかが注目されている。米国の「ITとイノベーション・ファウンデーション」(ITIF)は、選挙後の2016年11月9日に「President-Elect Trump’s Positions on Technology and Innovation Policy(トランプ時期大統領の技術・イノベーション戦略)」というレポート(注1) を出して、選挙戦で言及された政策意向を踏まえてイノベーションとR&D政策、教育、インターネットとデジタル経済、貿易などの側面からトランプ新政権の技術・イノベーション政策や技術産業の将来像を探ろうとしていた。
  • しかし、検証されたのは、海外人材に依存しているシリコンバレーにマイナスの影響を与えると懸念される海外技術人材導入のH1-Bビザの厳格化、国内の安全を確保するための個人データベースの整備や監視強化、TPP脱退などの保護貿易的な動き、海外へのアウトソーシングによる企業活動のグローバルな最適化に対する牽性、アマゾンドットコムの「独占地位」への批判、在来エネルギー依存への言及など、米国の技術業界に不安を抱かせるような政策意向が多かった。法人税率の大幅削減や教育支出の拡大を除いて、イノベーション政策に対する言及は少なかった。
  • 確かに、トランプ大統領は選挙期間中や就任後を通して製造業の復活に大きな関心を寄せている一方、シリコンバレーに代表されるハイテク分野に関する政策表明はあまり聞かれない。例えば、当選後に設立され、米国の代表的な大企業トップで構成された「戦略政策フォーラム」のメンバーは、製造業や金融、コンサルティングファームなどで構成されており、IT関連はIBM一社だけであった。その後、批判を受けてシリコンバレーの代表企業であるテスラとウーバーのCEOを追加したとともに(注2) 、12月14日には代表的なハイテク企業13名の経営者と会合を開き、イノベーションを大いに進めようと激励を飛ばした。この意味でトランプ大統領は、シリコンバレーと対立姿勢を持つスタンスにはなかったように思われる。
  • また、日本では、ビッグデータ分析などを通じた大統領選挙の予測は失敗したとか、限界があったという報道が多かったが、米国では、ビッグデータはトランプ当選に役に立ったという分析もあった(注3) 。
  • 今回の選挙戦を通じてツイッターの威力も理解しており、トランプ大統領はハイテク音痴ではないと評価するシリコンバレー投資家もいる。

人材流出を懸念するシリコンバレー

  • 他方、トランプ新政権の首席戦略官に指名されたスティーブ・バノン氏が、選挙期間中にトランプ候補との公開対話番組でシリコンバレーの技術企業CEOにアジア系が多すぎる」(Steve Bannon Suggests There Are Too Many Asian CEOs In Silicon Valley)と発言したことは、シリコンバレーに懸念を増幅させていた。
  • アジア/アメリカ人材調査機関Ascend は、2015年5月に「HIDDEN IN PLAIN SIGHT:Asian American Leaders in Silicon Valley」というレポートを出して、シリコンバレーの代表的な大手IT企業における人材の多様性を明らかにしている(注4) 。レポートによると、ヒューマンリソースデータを公表したシリコンバレーの代表的な企業において専門職(professionals) に就くアジア人あるいはアジア系アメリカ人は全体の27%で、マネージャーレベルでは19%未満、役員では14%以下となっている。
  • つまり、スティーブ・バノン氏が言っている役員レベルではなく、専門職レベルではアジア系がシリコンバレーのIT企業を支えていると評価されよう。シリコンバレーのIT企業がトランプ新政権の移民政策やビザ発給厳格化に懸念しているのは、米国に欠けている開発現場のSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)専門職を採用できなくなることと言えよう。
  • 実際、トランプ政権の難民入国規制に関する大統領令は、米国の大手IT企業につとめる数千人規模の従業員に影響を与えると見込まれ、これらIT企業の経営者は相次いで懸念を表明している。

シリコンバレーの人材を引き付けようとする中国

  • 技術革新による経済成長戦略を打ち出した中国は、シリコンバレーのイノベーションリソース活用を強化している。その方法としては、シリコンバレーのインキュベーションシステムの中国国内への導入(例:アクセラレーターである500StartupsやPlug&Playの中国国内への誘致など)、ベンチャー企業の中国国内での産業化、海外中国人を中心とする海外人材の中国国内への受け入れなどである。また、中国系VCやインキュベーターのシリコンバレーへの進出も加速している。因みに、シリコンバレーには40以上の中国系VCが進出し、20以上の技術インキュベーターが設立されている。
  • 調査会社Rhodium Groupによると、2016年6月までに不動産投資を除いて中国から60億ドルの資金がシリコンバレーに入っている。半分以上は2015年初から16年央のあいだに投下された(注5) 。中国資本は特に、AR/VR、AI、ビッグデータ、バイオなど中国が遅れている技術分野に関心を寄せているという。
  • 近年、筆者も度々、調査でシリコンバレーを訪問するが、中国地方政府の訪問団、企業や投資家の視察団、ベンチャー企業家たちの研修団など、中国からのシリコンバレーの代表企業キャンパスへの訪問団を多く見かけた。また、中国系VCが主催するシリコンバレーでの投資説明会、人材誘致商談会、ベンチャー企業ロードショーなども数多く行われている。数年前までは、シリコンバレーで活躍する中国人技術者が注目されたが、この1、2年では中国系VCが注目されはじめ、シリコンバレーで中国VCの投資を欲しがるベンチャー企業が増えている。
  • その流れに合わせるように、トランプ新政権の登場でシリコンバレーが動揺していることを国際人材導入のチャンスとして捉えているのが中国の有力企業である(注6) 。例えば、中国の検索大手Baidu(百度)の創業者である李彦宏氏は、シリコンバレーで不安を感じている国際人材を中国に迎え入れ、シリコンバレー並みのイノベーションハブを作り上げようと呼びかけていた。中国の製造業を国内に引き戻そうとする米国とは対照的に、中国は米国にいる人材を引き付けようとする戦略を強めている。
  • ただし、シリコンバレーの現場では、トランプ政権の移民政策に懸念を持つ中国系の技術者は少ない。むしろ、トランプの移民政策改革により不法移民の取締りや低スキル移民の制限で自分たちの優位性が発揮されるようになってくると自負している考えが目立つ。つまり、トランプ政権の移民政策は、ブルーカラーをはじめとする移民の入国は厳しくなるが、高いスキルを持つ専門者は引き続き歓迎されると考えているからである。
  • このようにトランプ政権のイノベーション政策や移民・人材戦略は大いに注目され、目が離せないのである。

  • 写真

    写真:シリコンバレーに設立された中国系インキュベーターと華為技術のR&Dセンター
    (出所:筆者撮影)


注釈

  1. https://itif.org/publications/2016/11/09/president-elect-trumps-positions-technology-and-innovation
  2. その後、UBERのカラニックCEOは、トランプ政権の移民政策に反対してメンバーを辞任したと報じられた(2月3日)
  3. Big data helped Trump even after he scorned it (https://phys.org/news/2016-12-big-trump-scorned.html)
  4. http://www.ascendleadership.org/news/230114/
  5. “China is flooding Silicon Valley with cash. Here’s what can go wrong.” (washington post, 2016.8.6)
    https://www.washingtonpost.com/business/economy/new-wave-of-chinese-start-up-investments-comes-with-complications/2016/08/05/2051db0e-505d-11e6-aa14-e0c1087f7583_story.html?utm_term=.b8f2fbb08c99
  6. “China Chases Silicon Valley Talent Who Are Worried About Trump Presidency” (NBC news, 2016.12.4)
    http://www.nbcnews.com/news/china/china-chases-silicon-valley-talent-who-are-worried-about-trump-n688271