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変貌するニューヨーク: ビジネスの中心からイノベーションの拠点へ

発行日 2017年1月31日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • ニューヨークは、金融・商業都市というイメージが強いが、入国管理の最新設備導入による効率向上のほか、インフラ整備においてもデザイン性、先進性、省エネルギーなどが見られる。
  • また、民間資本によるスマートシティ整備に公衆電話ボックスというレガシー資産を活用したLinkNYCの仕組みは、先進国のスマートシティ建設のモデルになりうる。
  • さらに、ニューヨークは、ベンチャー投資の金額も件数もシリコンバレーに次ぐイノベーション活動の活発な中心都市になっている。一部の分野(例:フィンテック)はすでにシリコンバレーを凌駕している。ニューヨークのベンチャー活動は主に市場志向で、技術志向のシリコンバレーとは性格が異なる。 日本の産業界は、シリコンバレーだけに目を捕らわれるのではなく、ニューヨークのベンチャー活力も取り入れるべきである。

変貌するニューヨーク

  • 昨今、トランプ新大統領の登場で金融・経済都市ニューヨークが政治の都市に変身したように見えるが、ベンチャー活動が活発な都市にもなっている。近年、筆者は、米国のベンチャー活動がどのような方向に向かっているか、世界各国がいかに米国のイノベーションリソースを活用しているかを調べるため、米国のニューヨークを訪問する回数も増えてきた。訪問するたびに変貌するニューヨークの姿を実感させられる。
  • 例えば、米国への入国審査に1~2時間かかるのは常識だったが、最近訪れたJFK空港では、入国審査システムに大量の自動審査機械が設置され、米国国民やグリーンカード保有者に限らず、短期滞在ビザ免除者、B1(商用)/B2(観光)ビザ保有者にも適用され、約15分で入国手続きが終わった。これまでのような長時間待ちの「苦痛」が解消され、効率改善に感心した。
  • また、2016年8月に開業されたニューヨークの新名所である新しいワン・ワールド・トレード・センター駅(World Trade Center Transportation Hub)の オキュラス(Oculus)を訪れた。新施設は、10年以上の歳月をかけて40億ドルも費やした高価な駅である。米国の他の多くの公共インフラが老朽化しているのに比べ、芸術性の高いデザインや数多くの省エネ技術や建築技術を結集させた総合商業施設でもある。
  • オバマ大統領はよく中国や日本のインフラを称賛して、米国にインフラ再建の必要性を謳っていた。また、トランプ新大統領の経済政策では、インフラ整備投資を加速するのが目玉になっている。ニューヨークのオキュラスに限っては、筆者が経験した世界中のどの公共交通施設に負けないほどモダンで、先進的な名所と感じた。「9.11」事件の遺跡で整備された新たな公共施設という特殊な事情と関係なく、ニューヨークないし米国の老朽化したインフラをリニューアルするモデルになるか注目してみたい。

レガシーを活用するスマートシティへの取組み

  • もう一つ感心したのは、ニューヨーク市で無料Wi-Fiの公衆エリアが急速に増えてきたことである。ニューヨーク市が2014年に取り組み始めたLinkNYCというプロジェクトがある。このプロジェクトは、街にある使われなくなった公衆電話ボックスを、Wi-Fi等を提供するキオスク(高速無料Wi-Fi/米国内向けの無料通信/地図検索などのアプリ/公共サービス/無料充電などの機能を備えた拠点)に変えるというもので、2016年7月までに計500個以上のキオスクが設置されており、数年以内には7500個にまで拡大される予定という。キオスクには二つの液晶パネルが備えられ、一つは広告用、もう一つはユーザー操作画面として使うようになっている。
  • このプロジェクトは、Qualcomm、Googleなどによる民間事業体の主導で進められ、運営費用は広告などで賄っており、かつこの民間事業体は市政府に数億ドルの税金を納入することが見込まれる。過日、経験したWi-Fi機能は、高速で使いやすいものであった。
  • この無料サービス機能を利用するには個人のメールアドレスを提供することが必要であり、公共通信機能のセキュリティ問題やGoogleが町を「支配」するのではないかという懸念も聞かれるが、市場メカニズムによるレガシー資産の活用や情報化社会におけるスマートシティの実現を試みているのは、他の国における公衆電話といったレガシー資産の活用法にも参考になると考える。

  • 写真

    (出所:筆者撮影)

ベンチャー活動の中心都市となったニューヨーク

  • もっとも、筆者の関心事は、ニューヨークにおけるイノベーション活動である。実際、グローバルなベンチャー活動のメッカとしてよく知られているのは、シリコンバレー(現在では、サンノゼからサンフランシスコまでのベンチャー企業の集中するベイエリアを指す)であるが、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス(南カリフォニア)などの都市圏においてもベンチャー活動が活発であり、米国におけるイノベーション拠点の広がりを見せている。
  • 特に、ニューヨーク都市圏では、2011年以降ベンチャー投資の金額は、年率平均で47%の高い伸びを遂げ、2015年に73億ドル(約7500億円)のベンチャー投資(投資件数512件)を受けいれた。この投資額は、全米ベンチャー投資総額(588億ドル)の12.4%を占め、シリコンバレーの274億米ドルに次ぐ第2番目となっているが、その差は縮小しつつある。2015年日本全国のベンチャー企業の資金調達額は1658億円であるから、これより約5倍の金額を受け入れたことになり、実際に訪問してもその活力がうかがえた。ニューヨーク都市圏のうち、ニューヨーク市は、ベンチャー活動の中核で2015年には60億ドルの投資額で件数も395件に達した。世界的に見てもベンチャー活動のもっとも活発な都市となっている。ちなみに、ニューヨーク市のベンチャー投資額と件数はそれぞれ、全世界総額/件数の6.1%と6.2%を占めた。
  • なぜ、ニューヨークにベンチャー活動が盛んになったのか。訪問先で聞かれた理由としては、
    1. メディア、金融、ファッション、出版、流通、エンタテインメントなどのいくつかの産業がグローバル的に集積していること
    2. グローバルフォーチュン500企業の約1割がニューヨーク周辺に立地していること
    3. 人材が豊富で多様性に富んでいること
    4. 移民が多く、テストマーケットとして機能していること
    5. コーネル大学技術学院の新設など、非地場技術系企業やVC・ファンドなどがニューヨークに窓口を開設したことなどによって技術関連のエコシステムが形成されたこと
    6. 生活の質を考えれば、ニューヨークの技術者の人件費は必ずしも高くないこと(下表参照)
  • などがあげられる。

  • 米国11都市のソフトウエアエンジニアの平均年給

    米国11都市のソフトウエアエンジニアの平均年給

    注: 調整後の平均年給とは、同様の生活質を維持するのにサンフランシスコでの生活コストと比較して必要な平均年給
    (出所)HIRED(2016.02)“State of US Salaries Report”

  • 例えば、スタートアップのシェアリングオフィスモデルで成功したWeworkはニューヨークで生まれた。また、ニューヨークのFintechへの投資額がすでにシリコンバレーを超えて米国最大のFintechベンチャー集積地になっていることは、伝統的な金融機関からの支援や連携があったからである。上述したLinkNYCのビジネスモデル革新も、大都市ニューヨークで生まれた発想といえよう。
  • このように、ニューヨークでは、以前からコンテンツ型・メディア型のベンチャーが多かったが、最新の都市インフラを活用した新しいライフスタイルやFinTechを基礎にした新しい金融サービスなどを提供するベンチャー企業が増えてきている。そのような意味で、シリコンバレーのイノベーション活動が技術志向と位置付ければ、ニューヨークのベンチャー活動は市場志向・都市型であると評価できるだろう。シリコンバレー vs ニューヨークのベンチャー活動に目を離せない。