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非財務情報開示の要請と標準化

発行日 2017年1月19日
上席主任研究員 生田 孝史

【要旨】

  • EU指令や海外の証券取引所での上場条件など、企業に対して財務情報以外の情報開示を要請する動きが世界各地で強まっている。非財務情報の義務付けがない日本国内でもESG投資に対応するための情報開示への企業の関心が高まっている。
  • 非財務情報開示のガイドラインを策定してきた国際NGOのGRIが2016年10月に新たにGRIスタンダードを公開した。モジュール化による随時更新と使い勝手の向上が特徴で、各地の関連施策でも参照されやすく、国際標準化がより進むだろう。
  • 日本企業においても、世界各地の非財務情報開示の動向に注意を払いながら、社内の非財務情報の共有を図り、非財務分野のパフォーマンス向上につなげるように、投資や市場から選択されるためのコミュニケーション手段として、非財務情報開示のあり方を総合的に検討し、体制整備を図ることが求められている。

非財務情報開示の要請の広がり

  • 近年、企業に対して財務情報以外の情報開示を要請する動きが強まっている。KPMG、Global Reporting Initiative (GRI)、国連環境計画などのレポート “Carrots & Sticks” 2016年版によれば、非財務情報を意味する持続可能性報告について400近くの施策が世界全体で導入されており、その数は過去3年間で2倍以上に急増したという。
  • 非財務情報と言えば、企業活動による環境・社会問題への影響や貢献、さらにはガバナンスに関する情報が代表的である。リーマンショック後、企業のリスクや機会を評価するには財務情報だけでは不十分との考えが普及したことで、政府や金融当局、株式市場などが企業に非財務情報の開示を強制あるいは自発的に促す動きが加速してきた。
  • EUでは2017年1月から非財務情報開示指令の適用が始まった。域内の従業員500人以上の企業は、17年1月1日を含む会計年度に非財務情報を開示することが義務付けられた。対象企業は6,000社を超える。日本企業の現地法人も、従業員500人以上かつ域内で株式上場していれば対象となる。
  • 海外の証券取引所では、上場条件に非財務情報開示を義務付ける例が増えている。欧米で始まったこの動きは、最近では、香港や上海、シンガポール、クアラルンプール、サンパウロ、ヨハネスブルクなど新興国の証券取引所にも広がっている。
  • グローバル企業の間では、非財務情報の開示要請に関する各地の動向を把握するニーズが高まっている。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)は、2016年12月から各国の非財務情報開示に関する情報の多言語対応オンラインプラットフォームのベータ版を公開し、17年夏からの本格開始を予定している。
  • 日本国内では、会計報告に準じるレベルでの非財務情報開示の義務付けはないものの、大手企業を中心に、社会・環境報告やCSR報告が積極的に行われてきた。財務報告と非財務報告を合わせた統合報告に着手する企業も増えている。
  • 環境、社会、ガバナンスの取り組みを重視・選別するESG投資に対応した情報開示への関心も急速に高まっている。その背景は、130兆円の運用規模を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の動向である。GPIFは、ESG投資を推進する国連責任投資原則に2015年9月に署名し、ESGを考慮した国内株式の運用の準備を進めている。

GRIスタンダードと非財務情報開示の標準化

  • 非財務情報開示のガイドラインといえば、国際NGOのGRIが20年にわたって策定してきたガイドラインが、事実上の国際標準となっている。90か国以上で数千社の企業がGRIのガイドラインを参照しているという。2016年10月に公開された新ガイドライン「GRIスタンダード」についても、多くの企業が対応を検討することになろう。
  • 現行の第4版ガイドライン(G4)は2018年6月末で効力が失われる。同年7月以降公開される非財務報告は、GRIスタンダードを参照していなければ、GRIのガイドラインに準拠していることを宣言することができなくなる。
  • G4とGRIスタンダードには大きな内容の変更はないが、形式が大きく異なっている。G4までは1~2冊のまとまったガイドライン文書として改版を重ねてきたが、GRIスタンダードはモジュール化され、36の分冊から構成されている。今後は全体の改版はなく、必要に応じて分冊ごとに改訂されるため、情勢変化への迅速な対応が容易となる。
  • 企業の使い勝手も向上している。情報開示内容が項目ごとに「要求」と「推奨」のレベルに明確化され、背景や例を示す「ガイダンス」も記されている。モジュール化によって自社の重視する項目を選択して参照することができるため、非財務情報の開示を検討している中小企業にとっても、参入障壁が低くなるだろう。
  • GRIは他の国際的な枠組みとの連携も進めている。例えば、統合報告におけるGRIスタンダードの活用について、国際統合報告評議会(IIRC)と協働して検討を行っている。また、2030年を目標年とする国連持続可能な開発目標(SDGs)についても、企業のSDGs関連情報開示におけるGRIスタンダードの活用を2017年から検討開始する。
  • 各地で導入が進む非財務情報開示の施策においても、網羅性が高くモジュール化によって随時更新されていくGRIスタンダードが参照される傾向が強まるだろう。GRIスタンダードは、文字通り、ガイドラインから「標準」になりそうだ。

総合的な非財務情報開示の検討を

  • 世界的な非財務情報開示の要請の強化と標準化の流れは不可逆である。日本企業においても、喫緊のESG投資への対応に加えて、統合報告やGRIスタンダードへの対応をも見込んだ非財務情報開示のあり方を総合的に検討する必要があるだろう。
  • グローバル拠点を持つ企業は、拠点各地での非財務情報開示に関する動向に注意が必要である。グローバルなサプライチェーン上に位置する企業においてもヒトゴトではない。サプライチェーンの非財務情報開示を考慮した企業が調達方針を変更し、取引先に環境・社会・ガバナンス等の取り組み強化と情報開示を求めるケースも増えるだろう。
  • 特に重要となるのが社内の非財務情報の共有である。ESG情報、環境・CSR報告、統合報告など、非財務情報開示ニーズが多様化しているが、社内の非財務情報源は同一である。IR、環境・CSR、経営企画などの関連部門が共有できる情報基盤を構築し、部門個別の非効率な対応とならないように情報開示方法の共有を進める必要がある。
  • 企業に求められているのは、単なる非財務情報の開示ではなく非財務分野のパフォーマンス向上である。投資家や政府などが企業の存立要件として非財務分野に注目しているのである。投資や市場から選択されるためのコミュニケーション手段として、非財務情報開示のあり方を検討し、体制整備を図ることが今まさに求められている。

  • 図表) 世界の持続可能性報告関連施策数の推移

    図表 世界の持続可能性報告関連施策数の推移

    (出所:KPMG et al. (2016) “Carrots & Sticks” を基に富士通総研作成)