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中国で急増する「衆創空間」を読む

発行日 2016年12月8日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 中国では「大衆創業、万衆創新」という政策の下で創業ブームが生じている。政策の目的は、新たな経済成長の原動力形成や創業奨励による雇用拡大効果のほかに、中国社会にイノベーションの理念・精神や起業文化を根付かせることにあると解される。
  • また、大衆創業・創新の初期段階の活動を支えるためのインキュベーター、「衆創空間」の設立を大いに奨励している。「衆創空間」とは、海外でいうCo-Working SpaceからMakerspace、Hackspace、そしてStartup Acceleratorまで含まれる概念である。政府は、イノベーションサービス産業の育成を目指しており、その設立が奨励され急増している。
  • さらに、「衆創空間」政策では、国際化が強調され、海外の進んだインキュベーターの仕組みや経験が取り入れられようとしている。海外インキュベーターの中国進出や「衆創空間」の海外進出が加速している。

創業ブームを促した「大衆創業、万衆創新」政策

  • 中国政府は、消費主導の経済成長や産業の高度化を加速させるために「革新主導の発展戦略」を打ち出している。その戦略を実現するために数多くの政策が策定されたが、その一つとして「大衆創業、万衆創新 (注1)」という政策が挙げられる。草の根レベルの創業やイノベーション活動を奨励する政策で、2014年半ばごろに検討されたが、2015年3月の全人代における政府活動報告に政府の有力政策として取り入れられた。2015年6月11日には「大衆創業万衆創新の推進に関する国務院の若干政策措置の意見」という96条にも及ぶ政策措置が公布された。さらに2016年5月12日には「大衆創業万衆創新モデル基地建設に関する実施意見」も公布され、国全体に普及できるような仕組みや経験が模索されている。現在では、政策支援が中央政府から地方政府まで大いに押し進められている。
  • 「大衆創業、万衆創新」政策の目的は、経済成長の新たな原動力形成に止まらず、創業活動による雇用拡大効果も挙げられるが、究極的には中国社会にイノベーションの理念・精神や起業文化を形成し、根付かせることにあると解される。中国は、「大衆創業、万衆創新」政策の推進によって次の華為技術(世界トップの通信機器メーカーであるファーウェイ)や「BAT」(中国3大ネット大手の騰訊(テンセント)、アリババ(阿里巴巴)、百度(バイドゥ))が出現するように願っていると言えよう。
  • 「大衆創業、万衆創新」政策推進の下で創業ブームが生じている。中国の統計によると、2013年の新規企業登録数は月ベースで20.86万社であったが、14年に30.4万社、15年に36.16万社、16年1~9月には44.56万社まで加速してきた。統計データから計算すると、中国の開業率(年間新規設立企業/前年末の企業総数)は2013年18.3%から14年と15年の23.9%、16年の約25.0%にまで高まってきた。創業活動の主戦力は、大学新卒、海外留学帰国組、大企業で経験した経営者・マネジャー、国立大学・国立研究所の技術者など、中国でいう創業の「新西軍」である。特に、毎年700万人に上る大学新卒は、創業者の大半を占めているという。

創業創新を支援する「衆創空間」も設立ブームへ

  • 上述した創業ブームに乗っている「新西軍」は、ビジネス経験が浅く、創業に必要な資金力も弱いため、創業しても失敗で終わる可能性が高い。例えば、中国のある調査によると、大学生による創業企業の5年後の生存率は30%しかなく、全社会の創業企業の約50%よりはるかに低いことが判明している。
  • このため、中国は、「草の根」の創業・創新をサポートする新たなインキュベーション政策が打ち出され、中でも大衆創業・創新の初期段階向けのインキュベーターに当たる「衆創空間」の設立を大いに奨励している。2015年3月2日に「「衆創空間」の発展による大衆創新創業を推進する国務院弁公室の指導意見」、2016年2月18日に「「衆創空間」の発展加速による実体経済のリストラ・高度化への寄与に関する指導意見」がそれぞれ公布された。
  • 「衆創空間」とは、「広範な創新創業者に良好なオフィス環境、ネット環境、社交環境とリソースのシェアリング環境を備え、低コストで利便性が高く、あらゆる側面での創業支援、オープンな空間であり、創新と創業、オンラインとオフライン、孵化と投資の両立を実現する総合サービス・プラットフォームである」(法的登録した企業法人でもある)とされている。つまり、「衆創空間」は、海外でいうCo-Working SpaceからMakerspace、Hackspace、そしてStartup Acceleratorまで含まれる概念である。「衆創空間」の整備によって、「衆創空間」(早期)、中国的インキュベーターである「孵化器」(中期)、産業パーク(後期)という新規産業インキュベーション・システムが整ったのである。また、これらの「衆創空間」(登録された企業法人)の大部分は民間資本によって設立されたものである。つまり、中国は、「衆創空間」をイノベーションサービス産業として育成していくことになる。
  • これまで中央政府が3回にわたって認定した「衆創空間」は1,337社に上り、地方政府が認定したものと非認定のものを合わせると、2,300社以上に急増している。このように新設された「衆創空間」は、政府の取っている税制優遇や財政支援を獲得する狙いがあろうが、成長するベンチャーから高いリターンを狙う投資や、伝統産業のビジネスポートフォリオ再構築における新ビジネスのネタ探し、ベンチャー企業の活力を社内に取り入れる大企業の経営戦略など、ビジネス本来の目的も大いに存在する。ただし、産業として育成する以上、「衆創空間」の間で競争が広げられ、経営がゆき詰まって倒産するものも出てきており、一部の中国メディアではバブルはいつ崩壊するのかと警鐘を鳴らすほどである。

「衆創空間」の国際展開へ

  • これまで中国で設立された「インキュベーター」は、ベンチャー企業成長の中期・後期にフォーカスしたもので、「草の根」の大衆創業・創新の初期段階に向けた新型インキュベーション・システム(創業指導、シードやエンジル資金提供、市場マーケティングサポート等の機能を備えた創業初期段階のインキュベーター)については、国内だけでは経験が浅く、シリコンバレー等の国際経験が欠かせない。実際、中国の「衆創空間」発展政策には、国際化が強調されている。「衆創空間」の国際化には、海外の進んだインキュベーターに関するシステムや経験を、合弁事業や人材導入などを通じて中国国内に導入することと「衆創空間」の海外への展開を含んでいる。
  • 実際、マイクロソフトやノキア、IDGといった海外の企業が、中国における自社設立の「衆創空間」を活かして中国大衆のイノベーション活力を見出そうとしている。また、インテルは単独ではなく地場の12の「衆創空間」と共同で取り組んでいる。また、2011年にシリコンバレーで設立されたインキュベーターHAXLR8Rは、数年前に深せん市にハード製品開発創業者を育成する拠点を開設している。シリコンバレーの500Startups、plug&playも杭州のベンチャー集積地「夢想小鎮」に進出した。テンセントも、著名なWeworkとRocketSpaceと戦略提携を結んだ。そのほかにイスラエルのインキュベーターも中国大連に進出したという。
  • 他方、一部の「衆創空間」は、米国のシリコンバレー、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、韓国のソウル、東南アジア等のイノベーション都市に進出し、在外中国人創業者等の海外にあるイノベーションリソースを取り入れようとしているほかに、海外の進んだインキュベーションスキームやベンチャー投資の手法を学ぼうとしている。報道によると、シリコンバレーには40以上の中国系VCが進出し、20以上の技術インキュベーターが設立されている。
  • 例えば、中科招商は、2015年10月にシリコンバレーのスタートアップ企業AngelList(シード・エンジェル投資プラットフォーム企業)への4億ドルの投資(4000万ドルの出資とその他投資基金)に続き、2016年10月にはロンドンのAI関連インキュベーターFounders Factoryに数百万ポンドの出資をすることを明らかにした。これまで中国VC資本はもっぱらシリコンバレーを中心とする米国のイノベーション地域に目を向けていたが、最近ではロンドンなど欧州やイスラエルなどのイノベーション拠点に注目するようになっている。
  • 筆者も、中国の「衆創空間」を多く訪問したが、国内での設立ブームを実感しただけでなく、彼らが海外進出を図っていることを強く感じた。確かに、補助金目当てあるいは不動産投機に化けてしまう動きも見かけられ、「衆創空間」の差別化経営やサービス能力向上あるいは競争力向上が求められているが、創業者が全面的にバックアップされ、イノベーション活動が活発になっていることも事実である。また、中国資本の大量進出でシリコンバレー等では、中国ベンチャー資金を目当てに起業家が動き回っていることも目の当たりにしている。「衆創空間」という中国的なイノベーションシステムが成功するかどうかに注目し続けていきたい。

注釈

  1. 「創新」は、中国語で「イノベーション」の意味である。