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二次的自然環境の保全における課題

発行日 2016年11月2日
上級研究員 楊 珏

【要旨】

  • 2016年9月に環境省が開催した「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律あり方検討会」にも関連して、二次的自然の保全が近年重要視されている。その背景には、気候変動、乱獲、陸域環境の変化や社会経済状況の変化が挙げられる。
  • 既存の法律の改正や新しい制度の導入が検討されている中、日本のみならず、世界的にみても入山料の徴収、募金制度や認証制度の構築など経済的なアプローチも推進されている。
  • 認証制度の多様化と評価基準の複雑さや従来の利用慣習が、利用者(消費者)の支払い意欲に負の影響を及ぼす可能性がある。これらの制度における保全内容の具体化とその効果の明示が、保全活動の継続に重要と思われる。

二次的自然の保全のニーズが高まる

  • 二次的自然とは、人の生活に密接した自然環境である。たとえば、都市公園、里山里地、採草地や放牧地もこれにあたる。
  • 近年、気候変動、乱獲、陸域環境の変化により、二次的自然に生息する生物の多数が絶滅する恐れがあり、保全対策の策定が喫緊の課題になっている。たとえば、淡水魚の約42%が希少種として第4次環境省版レッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物の種のリスト)に登録されている。
  • 二次的自然生態系の保全対策として、たとえば、環境保全型農業交付金の増加(平成27年には平成23年の約50倍まで増加)や市民農園整備事業の拡大(平成20年以来年間3%の増加)、漁業法と水産資源保護法の改正など様々な施策が講じられている。
  • さらに、2016年9月15日に第4回「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律あり方検討会」が環境省で開催され、業者による大量捕獲を禁止するなど、種の保全法が改正される見込みである。
  • 二次的自然の保全対策として、入山料の徴収、募金制度や認証制度の導入など経済的アプローチも注目されている。

利用形態の変化に伴う利用者負担への保全方式の実行可能性

  • 入山料制度は、過剰利用を防ぐために自然地域を訪れる観光者から一定の料金を徴収する制度である。近年、世界遺産の富士山や屋久島など自然環境保護地域で実施されている。
  • 2015年に日本ジオパークとして登録された山口県秋吉台では秋芳洞などに利用料金を設けているが、草原保全に関しては国と自治体の支援が中心となっている。秋吉台は江戸時代から農業生産のため、山焼きで森林から草地に変わり、その後毎年の山焼きにより自然環境が維持されてきた。ここは二次的自然環境の代表例として、絶滅危惧種であるヒメタチヒラゴケをはじめ、貴重な動植物が1200種も生息している。
  • 現在の秋吉台でも山焼きが地元の集落で継承されており、観維持や植生再生につながっている。しかし、近年高齢化が進み、地元の学校や企業に協力をしてもらっているものの、観光者によるごみ大量発生問題や過剰利用による裸地化など、火入れのコストが問題となっている。
  • 秋吉台の草原利用収入は、定期開催されるエコツアーからのもののみである。そこで、九州大学の野村久子(農学研究院 附属国際農業教育・研究推進センター 講師)が「秋吉台カルストウォーク」の参加者を対象に、保全のための支払意思額について調査を行った結果、より多様な価値を求める人やボランティア活動に参加していた人が比較的高い支払意欲があった(野村 2016)。
  • 屋久島や富士山では、入山料の徴収以来、登山者が減少傾向にある。そもそも入山料制度など利用料制度の導入目的は過剰利用による植生の破壊問題の解決であるが、地域の観光事業の維持にダメージを与える可能性がある。秋吉台のような地方の観光資源の利用を二次的自然の保全につなげるためには、多様な価値を発信できるコンテンツの充実や、取り組みやすいボランティア活動のメニュー開発(野村 2016)など複合的なアプローチが必要であろう。

認証制度の多様化とその情報発信

  • 1990年代以来、森林の持続可能な利用を目標として発足した森林認証制度をはじめ、持続可能な漁業認証制度やオーガニック・コットン・プログラムなど、農林水産業からアパレル業界まで環境認証制度が浸透してきた。
  • その中で、1980~1990年代の後半に構築されたコーヒー認証制度が、近年急速な普及を見せている。2008年に生産されたコーヒー豆のうち、認証製品は15%であったが、2013年には40%にも上った。その背景には、国際環境NGOや産業界など多様なステークホルダーによる認証制度の開発と取得への呼びかけがあった。
  • 現在、コーヒー関連の環境認証ラベルは、4C Association、UTZ Certified、Fairtrade、Rainforest Alliance(RA)、Organic、Nespresso AAA Sustainable Quality、Starbucks Coffee and Farmer Equity(C.A.F.E.)など多数存在している。それぞれのコーヒー認証制度は、ロゴの使用、環境的な基準と社会的な基準などが異なっている(表1)。

表1 主要なコーヒー認証制度の比較

表1 主要なコーヒー認証制度の比較
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(出所) 富士通総研作成
(注) IISD sustainable initiative review に基づき筆者作成。ロゴ使用規定欄のパーセンテージは製品に認証成分のシェアを示す。環境的な基準と社会的な基準欄のパーセンテージは各認証制度の差異を表す相対的指標である。

  • 4C Association は非常に有名な制度ではあるが、環境的な基準と社会的な基準を見ると、その他の認証制度より緩いことがわかる。また、Global G.A.Pの環境的な基準は高いが、社会的な基準は比較的低い。
  • このように様々な認証制度が混在する中、生産農家や消費者にとっても、それぞれのラベルの違いとその環境保全効果は不明瞭である。特に途上国の生産農林家にとって認証コストは非常に高負担であるため、市場において認証製品価格の差別化が認証取得のカギであろう。
  • 環境配慮型農林業の効果に関しては、長期的な観察・調査が必要である。コーヒー認証制度が普及し始めたのは2010年以降のため、コーヒー栽培地域である二次的自然環境への影響は、近年ようやく見え始めた。Blackman and Naranjo(2012)によると、コーヒー認証制度が有意に3種類の化学物質の投入減をもたらしている。また、RA認証農園は非認証農園より生産量が40%も向上したという研究結果もある。
  • コーヒーの例に見るように、認証制度の導入は長期的に二次的自然環境の保全に有益な効果をもたらすが、まずは認証登録のハードルを下げ、より多くの生産者に参入してもらうことが認証制度の普及につながる。しかし、認証制度の標準化・統一化が求められており、様々な認証制度がもたらす効果の違いを科学的に検証した上で生産者と消費者に提供することが望まれる。
  • 入山料・募金制度や認証制度などは利用者(消費者)の環境意識の向上に基づく環境資源の持続的利用を図る手段として、その継続には消費者への正確な情報提供が重要である。
  • それぞれの制度の実施目的や環境資源の現状などに関する情報提供の主体は、関連自治体やNGO、そして、それぞれの認証システムの評価機構となる。しかし、前述したように、複雑な認証基準や明確でない効果など負の影響を与えてしまう可能性もある。
  • 第三者機構による認証の基準項目と保全効果の明示、複合的アプローチによる保全に関する住民参加型検討は、これまで消極的な利用者(消費者)の意識変化をもたらし、二次的自然環境のさらなる保全に寄与できるだろう。

参考文献

野村久子(2016) 「民間の支援手法による環境保全の検討 ―秋吉台草原の維持・継承のための方策」、査読中。
Blackman and Naranjo(2012) “Does eco-certification have environmental benefits?
Organic coffee in Costa Rica,” Ecological Economics 83(2012):58-66.