GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. デジタルからリアルに広がり、ビジネスを変えるサブスクリプション

デジタルからリアルに広がり、ビジネスを変えるサブスクリプション

発行日 2016年11月2日
シニアリサーチアナリスト 柴田 香代子

【要旨】

  • ここ3、4年、Amazon.com等の欧米企業を主として、契約期間中は、定額で商品・サービスを利用し放題にするサブスクリプション・モデルを導入して売上を拡大した企業が増えた。この背景には、消費者の意識が商品・サービスを所有ではなく利用するように変化したことと、スマートフォンの普及がある。
  • Amazon.comでは、動画、音楽、書籍等デジタルコンテンツ中心にAmazon Prime等のサブスクリプションのサービスを提供し、このサービスから得られた膨大な利用データを分析することで、顧客のニーズを把握してビジネスを拡大している。
  • 消費者の所有から利用への意識の変化はリアルにも広がり、洋服借り放題や航空機乗り放題などサブスクリプションの適用ビジネスが広がっている。
  • サブスクリプションを利用する消費者は、その中から商品を探す傾向がある。このため、商品・サービスを提供する事業者にとっては、そこがプロモーションの場となる。サブスクリプション提供者は、消費者ニーズを分析できる場だけでなく、プロモーションの場も手に入れることになるだろう。サブスクリプションは日本でも広がり始めており、様々なビジネスを変えることになるだろう。

1. 台頭するサブスクリプションとその背景

  • ここ3、4年、欧米中心に、契約期間中は、定額で商品・サービスを利用し放題のサブスクリプション(Subscription)・モデルを導入して、売上を伸ばす企業が増えた。代表的なものは、Amazon.comやNetflixの動画やAmazon.com、Spotifyの音楽、Adobe Systemsのソフトウェア等で、デジタルコンテンツが中心となっている(図1)。
  • サブスクリプションとは、本来、予約購読、クラブなどの会費等の意味を持つ。ただ、近年、商品・サービスを利用し放題にするサブスクリプション・モデルが台頭し、ビジネスを大きく変えていく可能性があることから、本論考では、このモデルを取り上げる。なお、Costcoのような入店する権利のための会費や、昔からある雑誌等を毎月届ける定期購読等もサブスクリプションではあるが、利用し放題ではないため、ここでは対象としない。
  • サブスクリプションは、2000年頃より、MP3.com等の音楽聞き放題等から始まった。その後も冒頭の企業等がサービスを提供し、ここ3、4年でこれらの企業が売り上げを伸ばし始めた。サブスクリプション・モデルが広がった背景には、2007年頃から始まった世界金融危機と2008年頃より普及し始めたスマートフォンがある。世界金融危機により、消費者は、経済の先行き不透明な状況で、商品・サービスに対して、初期コストのかかる所有ではなく利用を選択するよう意識が変化した。さらに、スマートフォンによって、手軽にサービスの利用を完結できることがサブスクリプションの実現を後押しした。
  • では、台頭するサブスクリプションは、ビジネスをどのように変えるのかをAmazon.com等の事例を中心に考察する。

  • 図1 デジタルコンテンツ中心に台頭するサブスクリプション(米国)

    図1 デジタルコンテンツ中心に台頭するサブスクリプション(米国)

    (出所:富士通総研作成)

2. サブスクリプションでビジネスを拡大するAmazon.com

  • Amazon.comは2005年、米国で、年会費79ドルで何度でも2日以内に無料で配送するサービスからAmazon Primeを開始し、動画、音楽、写真の保存など、デジタルなものを中心に対象を広げている(図2)。
  • Amazon Primeはここ3、4年で急速に会員数を伸ばし、2015年には世界で前年比51%増の7,000万人(推計)(注1) にまで拡大している。なお、調査会社のCIRPの2016年1月の調査結果によれば、米国のAmazon Primeの会員数は5,400万人で、Amazon.comの全顧客に占める会員比率は47%である。
  • また、Amazon.comでは、Amazon Primeとは別に、電子書籍読み放題のKindle Unlimitedも2014年7月から、米国で、月額9.99ドルで提供を開始している。ちなみに、米国では、Kindle Unlimitedに登録していない利用者の電子書籍の購入額が30%増加しているという(注2)。 これは、Kindle Unlimitedの利用実績が、通常の電子書籍ランキングやおすすめ機能に反映され、Kindle Unlimited非利用者の購入に影響を与えたためと想定される。
  • Amazon.comのサブスクリプションの多くはデジタルである。デジタルは、形のあるリアルな商品と比べると在庫を持つリスクが無く、利用が増えてもコスト増も少ない等、事業をコントロールしやすい。ただし、書籍等、商品の著作権はAmazon.com等に無いことが多いので、コンテンツ提供者への報酬支払基準の設計を間違えると予想以上の報酬の支払いが発生する等のリスクはある。
  • Amazon.comは、このデジタル中心のサブスクリプションで顧客を囲い込み、このサービスから得られた膨大な利用データを分析することで、顧客のニーズを把握することができる。これを元に、顧客が本当に欲しい商品を調達するだけでなく、オリジナルの商品も開発している。例えば、2010年にはAmazon Studiosを設立して映画製作等にも進出した。

  • 図2 Amazon Primeのサブスクリプションに関わる主な沿革(米国)2016年9月時点

    図2 Amazon Primeのサブスクリプションに関わる主な沿革(米国)2016年9月時点

    (出所:富士通総研作成)

3. サブスクリプションはデジタルだけでなくリアルにも

  • デジタル中心に台頭するサブスクリプションだが、米国では4年ほど前から、スマートフォンのみで利用が完結しない、洋服や航空機等のリアルなものへの適用も見受けられ、ここ1、2年、市場が活発化している。
  • 2012年にはLe Toteという日常着る服の借り放題サービスの提供が開始され、ここ2年間で売上が15倍と拡大しており、2016年は5億ドル以上の出荷を予測している(注3)。 また、今年、高級ブランド服のレンタルサービスで有名なRent The Runwayも借り放題サービスのプランを開始した。その他、航空機乗り放題のサービスも活発化しており、2015年にForbesの「米国で最も将来性のある企業100」の27位にランクインしたことのあるSurf Airは、2013年からカリフォルニア州内でサービス提供を開始し、今年、欧州にもサービスを拡大した。更に、今年はOne Goという米国の主要76都市をつなぐ航空機乗り放題サービスも提供を開始した(図3)。
  • このようにサブスクリプションのリアルへの適用が活発化している背景の1つとして、消費者の所有から利用への意識の変化が、デジタルだけでなく、リアルなものにまで広がり、これを対象としたサブスクリプションも受け入れられるようになったと考えられる。

  • 図3 デジタルからリアルへ広がるサブスクリプション(米国)

    図3 デジタルからリアルへ広がるサブスクリプション(米国)

    (出所:富士通総研作成)

4. ビジネスを変えるサブスクリプション

  • 更なる拡大が見込まれるサブスクリプションで、ビジネスはどう変わるだろうか。消費者は、サブスクリプション対象の中から商品・サービスを発見し、試して、良いものは、まず利用する。そして、その商品が本当に欲しくなれば、一部の消費者は購入するといった行動をとるようになるだろう。
  • このため、サブスクリプション提供者は、消費者ニーズを把握する場を手に入れることになる。そして、顧客が欲しい商品・サービスを提供するだけでなく、自らが商品・サービスを作って提供して、顧客の囲い込みを強化するだろう。実際に、Amazon.com以外でも、動画見放題のNetflixは、見放題等で得られたデータを分析し、多くの顧客が好むオリジナル作品(例House of Cards)を作り、顧客の拡大に成功しているのだ(注4)。
  • 商品・サービスを提供する事業者にとっては、サブスクリプションの中がプロモーションの場となる。Amazon.comでは2014年からAmazonに出品している販売事業者向けに、顧客が入力した検索キーワードに対して適切な広告を掲載できるAmazon Sponsored Productという仕組みを提供している。このため、場合によっては現在の音楽業界のように、CD等による楽曲リリースの位置づけを収益獲得の手段からプロモーションの手段と変えて、収益源を楽曲リリース以外のコンサート興行等にするなど、ビジネスモデルを変える必要も出てくるだろう。
  • 日本でもサブスクリプションは広がり始めている。Amazon.co.jpがデジタルでサービスするだけでなく、airCloset等の洋服の借り放題やIDOM(旧ガリバーインターナショナル)による車乗り換え放題などリアルでもサービスが始まった。サブスクリプションは、消費者の意識の変化を背景に、リアルの制約を破ることで、今後、更にデジタルだけでなくリアルにも拡大し、日本の様々なビジネスを変えることになるだろう。

注釈

  1. NewsPicks編集部 2016年7月21日「アマゾン幹部が明かす、無敗の会員ビジネス」
  2. 文化通信速報版 2016年8月3日「アマゾン、読み放題サービスを開始12万冊が対象に」
  3. MLe Tote Launches Four New Subscription Offerings
    http://www.businesswire.com/news/home/20160928005447/en/Le-Tote-Launches-Subscription-Offerings
  4. 一橋ビジネスレビュー 2016年10月号 「特集論文-Ⅰ プラットフォーム」

柴田 香代子(しばた かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
ICTの先進的な活用の分析と提言のほか、製造業のお客様を中心とした新規事業・サービス企画、システム企画構想に従事。