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国際航空分野での温室効果ガス排出規制

発行日 2016年10月26日
上級研究員 加藤 望

【要旨】

  • 国際航空業界は、2020年の水準から温室効果ガス排出量を増やさないという規制を設けた。その達成手段として市場メカニズムに基づく仕組みを導入することが決定した。厳しい排出規制の下、削減クレジットによるオフセットが行なわれることになる。
  • オフセットによって世界の総排出量が増えてしまうことを回避するために、利用するクレジットに求められる基準が設定される見通しである。発行済みまたは発行見込みのいずれのクレジットにも不確実性はあるが、航空会社が先行的にクレジット調達をする場合は、業界の専門委員会の提言を参考にすべきである。
  • 国際航空分野における長期的な削減のためには、エンジンの燃費効率化や機体の軽量化、代替燃料の低コスト化などの技術革新も重要となる。このような技術革新は、全ての国の国際航空業界で普及可能と考えられ、大きなビジネスチャンスを生む。企業と政府が技術開発や効果的な支援のあり方を模索することは、パリ協定の下での削減対策においても有意義といえる。

国際航空に課された厳しい排出規制

  • 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下、2020年以降の気候変動対策の国際枠組であるパリ協定が、2016年11月4日に発効されることが決定した。日本の批准はこれに間に合わず、今後の手続きが急がれる。
  • これまでの国際枠組である京都議定書でも、パリ協定でも削減の対象にはなっていないのが、国際海運と国際航空分野の温室効果ガス排出である。後者については、業界での排出規制が検討されており、2010年の国際民間航空機関(ICAO)の総会で2020年以降の水準から排出量を増やさないことが合意された。
  • 国際線への需要は今後急増する見通しであり、2040年には排出量が現在の3~4倍になると予測されている。輸送量が大きく増加する中で、排出の絶対量をいかに削減するかが検討されてきた。
  • 2016年9月27日~10月7日に開催されたICAO総会では、削減の手段として市場メカニズムに基づくグローバルな仕組みの導入が合意された。今回の総会に先立ち、米中がこの仕組みへの合意支持と参加を表明しており、続いて日本も参加を決定した。
  • ICAOが設けた燃料効率の改善義務や、オペレーションの効率化による削減分を織り込んでも、2040年までに少なくとも約7.8億トン分もの不足分が発生する(図)。効率改善や代替燃料の普及が想定以上に進んだとしても、削減クレジットによるオフセットを利用しなければ達成は不可能だろう。
  • 図 国際航空分野の排出量予測と不足する削減量

    図 国際航空分野の排出量予測と不足する削減量

    (出所)国際航空分野へのREDD+クレジット利用を支持する複数のNGOによるブリーフィングペーパー「Linking Flight and Forests」(2016)

主なクレジットの概観

  • 国際航空分野でのオフセットが、世界の総排出量の増加を招くことも懸念されている。それを回避するため、利用するクレジットが一定の条件を満たすことが求められる。ICAOは、航空会社による適切なクレジット調達を支援する目的で、基準を設けることを検討している。
  • ICAOにおいて環境影響への課題を扱う委員会(CAEP)は、これまでの議論で、利用するクレジットやその制度に求める条件について提言している。制度については厳しい審査プロセスやダブルカウント回避の仕組みが備わっていることや、クレジット発行については信頼性の高いベースライン、追加的な削減、他の場所での排出増加回避、モニタリング・検証の実施に基づくことが提言に含まれている。
  • 利用が認められることが既に決まっているのは、UNFCCCの下での京都議定書およびパリ協定における市場メカニズムからのクレジットである。ただし、今後のICAOの決定内容と整合するならばという条件付きである。
  • 基準が決められ、利用可能なクレジットが明確になるのは遅くとも2018年とされている。それを待たずにクレジット調達に向けて動き始める航空会社もあるだろう。まずは、主にどのようなクレジットが存在し、どのような課題があるかについての把握が必要となる。その概要を下表に示す。
  • 表 主なクレジットの概要

    表 主なクレジットの概要

    (出所)富士通総研作成

  • 京都議定書における排出削減プロジェクトからは、京都クレジットが発行されている。第二約束期間(2013~2020年)における年平均供給量は約2.5~3.7億CO2トンと予測されているが、追加的な削減にはなっていないと見られるプロジェクトも多い。さらに、日本については、京都議定書の第二約束期間に不参加であるため取引ができない。
  • パリ協定においては、新たな市場メカニズムが構築される。日本の二国間クレジットメカニズム(JCM)はその一つで、既に幾つかのプロジェクトにおいて削減活動やクレジット発行も始まっている。
  • パリ協定下の市場メカニズム由来であるJCMクレジットの利用は、前述の通りICAOの今後の決定内容との整合性が確認されれば認められる。しかし、ほとんどのJCMプロジェクトで年間削減量が数百CO2トン程度と小さく、削減量あたりのコストが高いという課題もある。
  • 一方、国の目標達成ではなく、自主的取組に利用されるクレジット(VER)もある。その中で最も普及している認証制度VCSによる2015年のクレジット供給量は、約1,400万CO2トンだった。その4割以上がREDD+(森林減少・劣化の抑制による排出削減)プロジェクト由来である。
  • 自主的取組のためのクレジットの課題は、そのまま国際的な排出規制の達成に利用できるかという点である。特に供給量の大きなREDD+由来のVCSクレジットについては、クレジット発行後に伐採や火災などによって森林が消失する可能性もあるため、利用を認めることを懸念する声もある。
  • 以上のように、現状ではどのクレジットにも不確実性がある。航空会社は、基準設定に関するICAOの今後の議論を注視しつつ、前述のCAEPによる提言に沿ったクレジット調達を模索すべきと考えられる。

パリ協定における削減対策への影響

  • 国際航空分野が他の分野に先駆け、明確な排出制限に向けて動き出したことは、これから本格的なルールづくりが始まるパリ協定にとっても影響や示唆を与える。
  • 国際航空分野での規制によって、JCMクレジットのように国の削減目標達成に利用しうるクレジットの一部が、同分野でのオフセットに流れる。これによって、国の削減目標の達成のため追加的な手段が必要になる可能性もある。
  • 国際航空分野からの長期的な削減のためには、オフセット以外の削減対策の拡大も期待される。ICAOの効率改善義務を上回るエンジンの燃費効率化や、機体の軽量化、代替燃料の飛躍的な低コスト化などを実現する技術革新に対しては、全ての国の国際航空業界による需要が見込まれる。
  • 国際航空分野では、設備やインフラが国によって大きく違わないため、技術の普及の障壁は比較的小さいと考えられる。様々な企業が参入できるビジネスチャンスとして、企業による技術開発と政府による効果的な支援の進め方を模索することは、パリ協定の下での削減対策においても有意義といえる。