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実効性が問われる国内水循環施策

発行日 2016年8月12日
上席主任研究員 生田 孝史

【要旨】

  • 水資源の質と量の安定確保が国際的課題として認識されているが、水問題がそれほど深刻視されてこなかった日本でも、今後、渇水や水災害、水道施設の老朽化への対応に加えて、海外のサプライチェーンの観点からも水問題の重要性は高まる。
  • 水循環基本法および水循環基本計画は、縦割り行政の一本化を図るもので、水に関連する施策の枠組みに大きな転換をもたらした。今後の課題は、地下水保全法の整備と、努力義務とされた流域連携の具体的な進展である。
  • 流域管理の分野は、アジア市場において日本が優位性を持つ可能性があるビジネス機会として期待される。アジアモンスーン気候が類似した日本国内での試行を通じて、豪雨・洪水対策を含めた流域管理ノウハウを蓄積するためには、流域連携を積極的に促す政府の支援と産業界を含めたビジネスモデル構築の取り組みが急がれる。

国際的課題としての水問題

  • 水は、我々の生活や社会経済活動にとって必要不可欠な資源である。国際的に見れば、人口増・都市化・工業化による水需要の増加に伴って、水資源の質と量の安定確保が、多くの地域で喫緊の課題として認識されている。
  • 世界経済フォーラムのグローバルリスク2016レポートによると、「水危機」は、発生した場合に影響の大きなグローバルリスクの第3位に位置づけられている。今後10年間で最も関心が高いグローバルリスクでは、第1位に位置づけられた。

  • 図表1 世界経済フォーラムが認識するグローバルリスク(2016年)

    図表1 世界経済フォーラムが認識するグローバルリスク(2016年)

    (出所:World Economic Forum(2016) “Global Risk 2016” を基に富士通総研作成)

  • 2016年1月から施行された国連SDGs(持続可能な開発目標)においても、「水問題」は重要課題とみなされている。2030年までに国際社会が対応すべきSDGsの17の目標の一つに「水と衛生」が設定されたほか、「持続可能なまちづくり」などいくつかの目標に、水質や水害に関する事柄が含まれている。
  • 海外に比べれば、日常的に水問題を深刻視するというほどではなかった日本でも、今後、「水問題」の重要性は高まる。今夏は関東地方の渇水が懸念されているが、近年は豪雨や洪水、高潮、津波などに伴う水災害も頻発しており、時折、甚大な被害がもたらされている。水道施設の老朽化への対応も、今後の大きな課題である。
  • 海外の水問題も、日本にとってヒトゴトではない。日本は海外からの食料や工業製品輸入を介して生産国の水需給に十分な影響を及ぼしている。海外のサプライチェーン上での水災害は、部品や製品の輸入に支障を来し、国内経済活動に大きな影響を及ぼす。

国内の水関連施策の転換

  • 従来、水に関連する国内の施策は、国交省(水資源・河川・下水道)、厚労省(上水道)、経産省(工業用水)、農水省(農業用水)、環境省(水質)の縦割りで行われてきた。しかし、2014年7月に施行された水循環基本法と2015年7月に閣議決定された水循環基本計画によって、これらの施策の枠組みに大きな転換がもたらされた。
  • 水循環基本法は、縦割り行政であった水関連施策を一本化するための基本法である。水循環に関する基本理念として、「水循環の重要性」、「水の公共性」、「健全な水循環への配慮」、「流域の総合的管理」、「水循環に関する国際的協調」が規定されている。
  • 水循環基本法に基づき、水循環に関する施策を集中的かつ総合的に推進するために、内閣官房に水循環政策本部が設置された。地下水の規制と利用に関して、初めて法的根拠が与えられたことも画期的である。
  • 地下水保全法の整備は、水循環施策の今後の課題である。民法では地下水の所有権は土地所有者に属しており、採取規制は自治体の条例に頼っている状況である。環境省が2016年4月に自治体向けに「地下水保全ガイドライン」を公開しているが、水循環基本法に基づく個別法を制定し、国レベルで具体的取り組みを進めることが望まれている。
  • 2015年度から5年間の水循環施策の推進方針として策定された水循環基本計画の最大の注目点は、流域連携の推進である。流域単位を基本として流域水循環協議会を設置し、流域水循環計画を策定することで、流域の総合的かつ一体的な管理を進めていくことが求められている。
  • 流域連携の進展は、水循環基本計画の実効性を占うものとなる。2016年4月に水循環政策本部が「流域水循環計画策定の手引き」と事例集を公開した。しかし、流域水循環計画の策定は努力義務で強制力はない。計画策定への直接の助成もない中、今後どれだけの地域で流域水循環協議会が設立され、具体的取り組みが進むかは不透明である。

流域管理分野のビジネス機会に期待

  • 国際的に水に関するビジネスは拡大している。Global Water Intelligenceによれば、2016年の国際的な水供給・処理関連市場の規模は8,620億ドル(1ドル=105円の場合、約90兆円)である。その83%を占める上下水道関連ビジネス市場は、2020年まで年平均約4%の成長が見込まれている。
  • 国内の健全な水循環に向けた取り組みの進展に加えて、世界的な水問題解決に資する日本企業のビジネス機会の獲得という面からも、日本の水循環施策の実効性が問われている。海外、特にアジア市場を考えた場合、日本にとってのビジネス機会として期待されるのが、水循環基本計画に明記された流域管理の分野である。
  • 一般的な上下水道関連ビジネスは、水メジャーと言われる欧米企業に資金力や運営ノウハウ等の面で一日の長がある。流域管理は欧米でも行われているが、アジアモンスーン気候が類似した日本国内で、豪雨・洪水対策を含めた流域管理ノウハウを蓄積できれば、優位性をもってアジア地域に展開できる可能性がある。
  • 水循環基本計画の策定後1年を経て、流域連携に向けた動きはあまり活発ではないようだ。複数の自治体・関係者が関与する流域水循環計画の策定は確かに容易ではないが、流域連携の試行はビジネス開発の視点からも重要であり、流域連携を積極的に促す政府の支援とともに、産業界を含めたビジネスモデル構築の取り組みが急がれる。