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悲喜こもごもの様態を見せている中国経済の最新動向

発行日 2016年5月2日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 2016年第1四半期の中国経済成長率は6.7%で尚緩やかな減速を続けているが、政府の成長目標の範囲内(6.5%~7.0%)に収まっている。また、新規雇用数が多く、第1四半期だけで年間目標1,000万人の32%に達成し、求人倍率も1.07と安定している。
  • 消費は弱含みで推移しているが、不動産市場は比較的好況な様態を呈しており、不動産価格も上昇し続けている。市場の好転は不動産投資の増加をもたらし、財政支出拡大によるインフラ投資の増加と合わせて、投資需要全体の回復を支えている。
  • ただ、住民所得の伸びが鈍化しはじめており、また民間資本の投資意欲は一層冷え込む状況にある。「爆買」や対外M&Aの急増で見られる「購買力」と「投資力」の海外流出は課題として残る。

緩やかに減速しつづける中国経済

  • 2016年4月15日に中国は、第1四半期のマクロ経済データを発表した。発表する前に中国の有力官庁は、(1)物価水準がデフレ気味から上昇してきたこと、(2)不動産市場が活況(販売面積と販売総額が急増)であること、(3)固定資産投資の伸びは低下から上昇に転じたこと、(4)企業収益がマイナス成長からプラスに転じたこと、(5)財政収入が加速したこと、(6)景気先行指数としての製造業と非製造業の購買担当者景気指数(PMI)が善し悪しの分岐点50を超えたことなどから第1四半期の経済状況を「開門紅」(幸先よいスタート)と表現したが、発表されたマクロデータを検証してみると、「喜憂参半」(悲喜こもごも)の結果であることが判明した。
  • 今年の第1四半期のGDP成長率は6.7%で、2015年第2四半期から0.1%ずつ緩やかに減速する状態が続いている。全体としてGDP成長は尚緩やかに減速しているが、政府が設定した今年の経済成長目標(6.5%~7.0%)のバンド内に収まっていることは、中国経済のハードランディングを懸念する国際社会に安心感を与え、内外資本市場の反応もこれまでと違って神経質にはならなかった。
  • また、第1四半期の都市部新規雇用者数は318万人で、年間計画目標1,000万人の32%に達した。第1四半期の労働市場の求人倍率も1.07を維持しており、GDP成長率の鈍化による労働市場への悪影響は尚小範囲に止まっているようだ。

不動産市場の好況や財政出動で経済安定の兆しも

  • 需要サイドから消費、投資、外需の三つを検証すると、消費需要の代表的な指標である「社会消費財小売総額」では、名目と実質で昨年第1四半期より0.4%と1.1%低下の10.3%と9.7%の伸びに止まった。3月の消費は1~2月より若干上向きの兆しも見られるが、全体として安定はしつつも弱含みの結果となった。GDP成長に対する消費の寄与率も弱くなると懸念されよう。
  • 消費市場で活況が見られたのが不動産市場である。第1四半期の不動産販売面積では前年同期比で33.1%増(同住宅では35.6%増)、販売額では同54.1%(同住宅では60.3%増)となり、2014年から冷え込んできた不動産市況を一変させた。頭金比率の引下げなどの不動産「去庫存」政策(在庫削減対策)が功を奏し、3月末の在庫は2月末より約0.6%減少した。また、70の大中都市の新設住宅平均販売価格も前年同期比で6ヵ月連続上昇し、3月では約5%上昇(ロイター計算)を記録した。上海市、深せん市などはすでに加熱する不動産市場に対する引締め政策に入った。不動産市況の回復は、上流の素材や下流の内装材、家具、家電、自動車などの市場にも好影響に与え始めている。
  • 近年、中国GDP成長の鈍化は主に投資の冷え込みがもたらしたので、投資の安定がGDP成長の安定に繋がる。中国では製造業の設備投資(投資総額の約30%以上を占める)、不動産投資(同20%以上)、インフラ投資(同20%弱)の三分野が重要な投資セクターとなっているが、設備過剰の環境で製造業の投資は6.4%(昨年同期は10.4%増)の伸びに止まった。上述した不動産市場の好況で不動産投資は、第1四半期は6.2%増になり昨年の1.0%増から持ち直した。
  • インフラ投資では財政支出の加速で19.6%増の高い伸び率を維持している。3月の財政支出は20.1%で1~2月の12.0%を大きく上回り、積極的な財政政策により景気を支えする政策が確認できる。中国では、金融危機時の4兆元対策による過剰投資への反省からこれまで大規模な財政支出による景気刺激は控えてきたが、経済目標を達成するためについに財政出動に動き出した。
  • 外需の弱さについては、大きな変化は見られない。第1四半期の輸出は前年同期比で4.2%(人民元ベース)減少した。3月では昨年同期のきわめて低いベースや季節の影響(特に春節)で18.7%の高い伸びを記録したが、総じて外需の弱さは続いている。金融危機以降、中国の輸出増加をもたらした新興国市場は成長の勢いが衰退し、相対的に重要性が再び高まってきた日米欧市場では、中国製品のシェアが大きく上昇しており、これ以上の輸出ドライブは掛けられないと考えられる。

課題となる可処分所得伸びの低下、「購買力」/「投資力」の海外流出

  • 上述したようにこれまで安定してきた中国の消費需要は、全体として弱くなる傾向が見られる。第1四半期の住民可処分所得の伸び率は6.5%(実質)で、GDP成長率の6.7%を下回った。特に、都市住民の可処分所得の伸び率は5.8%増に止まり、2013年以降GDP成長率を下回る状況が続いている。都市住民の消費額は農村住民の倍以上もあり、高い所得の伸びが期待できなければ、消費需要全体が停滞し、消費による経済成長のシナリオも崩れてしまう可能性が頭をよぎる。
  • 中国経済成長のもう一つの懸念は、民間企業の投資意欲が一層冷え込んでいることである。2011年ごろは約35%増の強い投資意欲があったが、第1四半期の民間企業による投資の伸び率は5.7%で、昨年の10.1%から大きく低下した。民間企業の投資額は全国の60%以上を占めているので、民間資本の信頼回復が中国経済にとって死活の問題とも言えよう。
  • 国内投資への意欲の弱さとは対照的に、中国商務部によると、2016年第1四半期の中国企業による対外投資は、400.9億ドルで55.4%増となった。海外では、中国企業による外国資産へのM&A額は第1四半期だけで昨年年間額に近い約900億ドルを超えた(WSJ誌)ことで、意図せざる「投資力」の海外流出が生じている。近年の「爆買」による「購買力」の海外流出とともに「投資力」の海外流出は、大きな課題となっている。