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地域経済成長につながる木質バイオマス・熱利用

発行日 2016年1月15日
シニアリサーチアナリスト 渡邉 優子

【要旨】

  • 地域主体の再生可能エネルギー事業が進む一方で、多くの地域ではエネルギー支出により地域経済が厳しい状況にある。これを救うのは、エネルギーの地産地消である。政府の後押しもあることから、今後も地域における再生可能エネルギー事業は進んでいくだろう。
  • 再生可能エネルギーの中でも、特に地域経済との関連性の強い木質バイオマスの熱利用事業が注目されている。欧州諸国では、地域熱供給網などエネルギーの地産地消が進み、地域内でエネルギーとお金が循環している。日本ではあまり取り組まれてこなかったが、欧州諸国を手本にした動きが出て来ている。長野県は林業先進国と言われ、木質バイオマス事業でも最先端の技術・ノウハウを持つオーストリアとの連携を表明した。豊富な森林資源を活用した地域経済成長に向けて、国内各地で、熱利用を軸とした木質バイオマス事業が一層進むだろう。
  • 事業推進にあたっては、地域におけるサプライチェーンの構築が必須となる。広範囲にまたがる事業展開となるため、ステークホルダーが多くなるが、その合意形成が事業成否のカギである。成功に導くためには、あらゆる関係者の事業への深い理解と納得のもと、地域が一体となって取り組むことが最も重要である。

1. エネルギーの地産地消を目指す

  • 地域主体の再生可能エネルギー(再エネ)事業が進んでいる。2012年に開始された再エネの固定価格買取制度(FIT)や「地方創生」などの政府の後押しもあり、地域エネルギー会社による事業運営など地域が一丸となった再エネビジネスが展開しつつある。
  • 一方で、多くの地域ではエネルギー支出で赤字となり、地域経済の重荷となっている。2015年10月、環境省は「地域経済循環分析(注1)」を用い、自治体の9割がエネルギー関連(電気、ガス、ガソリン等)の支払いにより、地域外へ資金が流出しているという結果をとりまとめた。2013年のエネルギー価格で試算しているため、資源安の現在は改善しているが、環境省はエネルギーの支出が地域経済を圧迫している構造は続くと見ている。
  • 環境省は、エネルギーの地産地消で地域経済の改善ができるとみており、地域の再エネ導入を支援する方針を打ち出した。2015年12月から分析結果「地域経済循環分析用データ」を自治体等に提供開始し、エネルギーの地産地消を進める市町村に助成するほか、地球温暖化対策推進法を改正するなどして新たな支援策を検討する。今後、各自治体において、この分析結果を活用した再エネ事業の一層の推進が見込まれる。
  • 他の省庁でも、再エネ事業の推進の方向である。経済産業省では、2015年7月、2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)として、現在約11%の再エネ比率を最大24%に高める計画を公表している。再エネ・省エネの設備導入に対する税制優遇の申請期限が2016年3月末に迫っているが、ベストミックスを受けて、関係各省は2016年度の税制改正への要望を2015年8月末までに提出した。対象の拡大や期限の延長など、再エネ・省エネ投資の普及を後押しする内容である。
  • 再エネは、地球温暖化対策の切り札としても期待されている。2015年12月12日に閉幕した国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に先駆けて、日本は地球温暖化対策として、平成42年度までに温室効果ガスの排出量を25年度レベルから26%減らす目標を提示している。政府の再エネ推進の機運にのり、地域における再エネ事業もさらに進展していくだろう。

注1:「地域経済循環分析」とは、生産や支出などから地域の強みや課題を探る分析手法である。環境省は、2015年4月から全市町村ごとに電気やガソリンなどエネルギーを地域外に売って得た収入と購入した支出分を推計し、収支を導いた。

2. 注目を浴びる木質バイオマスの熱利用

  • エネルギーの地産地消を考えた地域の再エネ事業の構築にあたっては、林地残材や製材の副産物である工場残材等を燃料とした木質バイオマスの熱利用が重点分野となる。森林蓄積量60億㎥という世界有数の森林蓄積量を誇るだけでなく、膨大な未利用量が全国各地に存在しており、ポテンシャルが高い。さらに、地元林業・木材産業との連携による産業振興、熱エネルギーの地産地消、サプライチェーン構築による雇用創出など、地域との関連性が強い事業展開が可能である。
  • 政府も、木質バイオマスの熱利用に注目している。日本のエネルギー需要の約半分は熱という割合の高さから、エネルギーミックスの議論においても、再エネの熱の導入拡大を見込んでいる。このため、さらに木質バイオマス熱利用設備等の導入支援(税優遇等)を行うことが必要と、2016年度の税制改正に向けた要望に上がっている。
  • 日本の木質バイオマス事業は、変わり始めている。木質バイオマスの基本である林業と連携した残材の徹底利用と熱利用は、日本では長らく進んでこなかった。しかし、北海道下川町や岩手県紫波町など、地域の豊富な森林資源を活かした木質バイオマスの熱利用を成功させている欧州を見習った動きが出て来た。
  • 欧州諸国では、林業・木質バイオマス産業が進展し、熱利用により地域が潤っている。ドイツ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンなどでは、バイオマスを活用した地域熱供給網の整備により、地域住民に大きな恩恵をもたらし、地域内でエネルギーとお金が循環している。
  • 手本となる国としてオーストリアが着目されている。日本と同様の急峻な地形を有しながら、豊富な森林資源を様々な形で活用し、木材製品を日本にまで輸出するなど林業先進国と呼ばれている。また、長年の取組を経て、世界最先端の林業・バイオマス事業を構築し、様々なノウハウを有している。
  • 2015年11月、「オーストリア森林フォーラムin長野」が開催された。オーストリアの農林環境水資源管理省アンドレ―・ルップレヒター大臣、今井林野庁長官、阿部長野県知事らの出席のもと、筆者も参加したが、会場は盛況であった。

  • 「オーストリア森林フォーラムin長野」の開催の様子

    「オーストリア森林フォーラムin長野」の開催の様子

    (出所:筆者撮影、主催者の許可を得て掲載)

  • これに先駆け、同年10月、長野県とオーストリア農林環境水資源管理省は、森林・林業、自然エネルギー、自然環境の分野での連携を強化するための覚書を締結した。長野県は、森林県から林業県へと生まれ変わるために、オーストリアと技術交流の推進を決定した。
  • 長野県の喫緊の課題は、林業に取り組む他の自治体にも当てはまる。徹底した機械化、最新の技術や価値観を持った人材の養成、世界最先端のバイオマスを含む木材産業技術の導入、林業をサポートする社会システムの構築等があることが、覚書を交わした背景にある。オーストリアとの様々な技術交流を集中的に進め、県内の林業技術者の意識改革、最先端機材等の導入を通じた林業の近代化、双方の技術連携関係の構築を図り、県内林業を発展させていく構えだ。
  • 再生可能な森林資源を最大限利用し、林業・木材産業・バイオマス利用の相互発展により、豊かな地域づくりを欧州諸国では進めている。これらの取組を学び、森林を活かした地域経済成長に向けて、日本の地域でも熱利用を基本とした木質バイオマス事業が一層進むだろう。

3. 地域の木質バイオマス・熱利用における事業推進に向けて

  • 事業推進にあたっては、地域が一つとなり取り組むことが不可欠である。燃料となる木質資源の収集、生産・管理、運搬、熱需要開拓等において、地域の事業者による体制づくりが求められる。つまり、川上から川下まで木質バイオマスのサプライチェーン構築が必要である。
  • 裾野の広い木質バイオマス事業はステークホルダーが多くなるため、事業を成功に導くには合意形成がカギとなる。あらゆる関係者が、事業の意義や推進方法、将来像など理解し、納得しながら事業を進めることで合意が進む。そして、地域にあった工夫をしていくことも重要である。
  • 木質バイオマスに関わる良例を眼で確認することで、理解が深まることもある。例えば、川上(森林組合等)においては、北海道鶴居村森林組合等、最新鋭の欧州林業機械を使い効率的な林業経営をしている様子を肌で感じることで、理想の森林経営や林業のあるべき姿を考えていく材料となる。また、ボイラー関連設備(チップサイロやチップヤード、配管設備等)の建築士や設計士は、熱需要分析や欧州諸国の専門家との連携により、各設備の持つ意味を理解し、その形状や大きさを検討していくことができる。

  • 北海道鶴居村森林組合において欧州製林業機械が稼動する様子

    北海道鶴居村森林組合において欧州製林業機械が稼動する様子(1)    北海道鶴居村森林組合において欧州製林業機械が稼動する様子(2)

    (出所:筆者撮影)

  • 様々な関係者・関連企業に、地域における木質バイオマス事業の特徴や意義を共有してもらい、応援団となって頂く。地域経済成長に向けて、地域が一体となって取り組んでいくことが期待される。

渡邉 優子(わたなべ ゆうこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアリサーチアナリスト
自治体や中央省庁における計画策定支援・行政経営改革や地域経済活性化に関わるコンサルティングおよび調査・研究に従事。