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自然資本経営――新たなイノベーションの創出へ

The age of natural capital management

発行日 2015年12月9日
上級研究員 楊 珏

【要旨】

  • 環境への配慮はこれまで、コスト削減やブランドイメージの向上などの効果がもたらせるため、省エネへの投資や情報開示などの形で多くの企業が行うようになった。しかし、持続可能な発展を達成するためには、企業レベルでのミクロ的転換が求められてきた。現在、自然環境資源を資本として計測し、企業会計や投資基準に取り入れる動きが世界範囲で急速に始まった。このような流れの中、自然資本の概念とその計測をいかに理解し、自然資本をいかに経営するかが、企業の存続にも大きく関わっていく。

自然資本経営の時代

  • 地球環境問題に伴う持続可能な発展に対する脅威は、頻繁となる異常気象などでより多くの人々が懸念するようになった。様々な分野の人材、組織が一貫となって、共同行動(collective action) による変革を興す時代がやってきた。
  • 2015年11月にイギリスのエディンバラで開催された第2回自然資本世界フォーラムは、自然資本に関する最新の情報、ビジネスのチャンスと挑戦などを共有する場であった。欧州、アジア、北米、アフリカから企業、地方自治体、民間団体など約600名が参加し、自然資本評価の必要性と世界的基準作りについて活発に意見が交わされた。
  • このフォーラムでは、国際自然保護連合(IUCN)、国連環境計画(UNEP)、持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)、Desso NLからの基調講演とともに、自然資本に関連するリスクマネージメント、イノベーションの創出とツール、ファイナンス、政策などのセッションが開催された。
  • 以下では、自然資本とその計測の概念、自然資本の持続可能な経営に役に立つ事例を紹介する。

自然資本計測の進展

  • 自然資本とは、人類に便益をもたらす財やサービスを生み出すストックである。たとえば、農産物を生み出す農地は自然資本に分類されるが、食糧供給サービスは自然資本が作り出したフローであるため、厳密には自然資本ではない。また、自然資源は人類との関わりにおいて価値を持つものである。
  • 自然資本の計測とは、自然資源、土地および生態系サービスを定量または金額に換算する(金銭化する)ことである。現段階では、自然資本の経済評価、自然資本会計が主な方法である。
  • 自然資本連合は2014年に自然資本議定書を策定するプロジェクトを立ち上げた。これは、経営において、利潤最大化を求める際、自然資本の最大化も考慮する。また、投資を行う際、投資先(企業)が自然資本に与えるリスクを考慮することである。
  • ブルームバーグ(Bloomberg)社が企業分析ツールの環境・社会・ガバナンス(ESG)についてのデータ項目に投資情報データベースを組込み、自然資本情報を追加すると表明した。ブルームバーグでは、鉱業における水利用とそのリスクを金銭的に評価しており、今後、より多くの自然資本を取入れ、企業の経営水準を判断する根拠として投資者へ公示する予定である。

自然資本経営に関するイノベーションの創出の3つの側面

側面1) 環境認証制度の導入

  • 環境認証制度の率先的な導入や達成、特にサプライ・チェーンにおける認証制度の導入は、今後、国際貿易優位性の獲得や輸出の拡大につながる。認証制度の導入は莫大なコストがかかると思われがちだが、大手カーペットメーカーDesso社は自社の取組みから、環境への取組みと利潤の確保は両立可能と証明した。
  • Desso社は2008年にCradle to Cradle(C2C)認証を始めて以来、2015年9月にはすべての製品が認証された。また、カーペットタイル・メーカーとして初めて新製品ラインアップの1つでC2Cのゴールドレベル認証を獲得した。この新製品は再生糸を使用し、100%リサイクルが可能で、極めて低レベルの揮発性有機化合物などの優位性があるため循環型経済のモデルビジネスとされている。
  • Desso社のターゲットはホテルや航空会社、スポーツ会社などハイエンド市場であるため、顧客層はより環境重視である。ハイエンド市場の商品は、環境への影響が少ないことが広く認識されることによって、ステータス志向による環境配慮型購買活動を促すだろう。

側面2) 自然資源の多面的機能の利用による経営

  • 自然資源は多面的な機能をもっているが、その価値は多くの経済活動の中で価格が付けられていないため計測されていない。この多面的機能を利用することで市場価格が付けられ、自然資本の価値を最大化し、経済活動の中でも重視されるようになる。アメリカでは、Community-supported agriculture (CSA)をはじめ、農業の多面的機能を利用する非伝統的な農場が増えている。
  • たとえば、ふれあい動物園、乗馬、釣り、収穫祭り、農場生活体験、農場宿泊など様々なサービスが提供されている。アメリカの農業ツーリズムの平均所得は約2万ドルで、on-farm収入(農場からの収入)とほぼ同じである。また、これらの農場をサポートするためのファイナンシャル組織も多く成立している。
  • 日本でも農場体験や農業ツーリズムがあるが、主に北海道や熊本県などの大型農・牧場でしか提供されていない。小規模の農家でも共同で企画するCSAができれば、都市部の人たちも気楽に周辺の農場で新たなコミュニティを築く場にもなる。

側面3) 環境イノベーションの創出による人々の行動変容

  • 2014年、環境保護者David Frenchがジュネーヴにある企業と連携し、My Drop in the Oceansプラットフォームを構築した。このプラットフォームでは、リユースとリサイクル、二酸化炭素フットプリント、省エネ、テストなど5つのカテゴリが設けられ、人々が自らの環境配慮行動をネットにアップロードすることで電子マネーを入手することができる。この電子マネーを用いて、連携する21社の製品やサービスを5%の割引で利用することができる。
  • 日本でも、企業のCSR活動としてアサヒグループのエコマイレージや『フェリーでエコ』などが推進されてきた。しかし、選択可能なサービスが少なく、対象が限られているため、普及していない。
  • 韓国のソウル市では以前電気、ガス、水道などの使用量を減らし、温室効果ガスの排出量を削減した分だけインセンティブを受け、マイレージとして積み立てできる制度があった。しかし、政府の支出がなければ制度も続かなかった。
  • My Drop in the Oceansプラットフォームのように、スマートフォンを利用することで、手間もいらず、自らの環境保護行動をアピールすることが可能になる。そこで、たとえば、Tポイントなど既存の成熟したサービスと連携し、持続可能なインセンティブを与えることはより効果的と考えられる。
  • 今後、生物多様性の保全や温暖化問題への対応のため、自然資本利用の情報開示が多くの企業に求められるようになる。企業レベルではエコ効率性(eco-efficiency)からエコ影響力(eco-effectiveness)への転換が求められる。
  • そこで、自然資本をめぐる新たなイノベーションの創出能力が企業の存続にも大きく関わっていくだろう。一早く、その潮流の先に立ち、リーダーになることが言うまでもなく大事である。