GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. ニューズレター >
  4. 2015年 >
  5. 市場について―Uberが示唆するもの―

市場について―Uberが示唆するもの―

発行日 2015年9月24日
経済研究所マネージャー 藤田 英睦

【要旨】

  • Uberが世界中を席巻し、インパクトをもたらしている。「Uber X」という、自家用車によるライドシェアリングのプラットフォーム。「Surge Pricing」という、アルゴリズムの価格変化による需給調整の仕組み。それらをよく見てみると、市場の効率性と公正さについて改めて考えさせられるところがある。

Uberの席巻

  • Uberが世界中を席巻している。日本を含む60カ国、300以上の都市で事業を展開している(2015年9月時点)。Uberは、移動のニーズを持つ人とそれに応えることができるドライバーをマッチングするサービスを提供している。ドライバーとしてはタクシー会社やハイヤー会社に加えて、一般個人とも提携している。利用したい人は、スマホのアプリで簡単に適当なドライバーを見つけて依頼することができる。Uberの事業をよく見てみると、市場というものについて改めて考えさせられるところがある。

「Uber X」のインパクト:外部資源の活用と取引費用の削減

  • Uberが提供するサービスには、高級ハイヤーを配車する「UberBLACK」や、既存のタクシーを配車する「UberTAXI」がある。しかし、最もインパクトをもたらしているサービスは、「Uber X」である。「Uber X」では、供給源として一般個人のドライバーが用いられる。つまり、「Uber X」は、自家用車によるライドシェアリングを実現するプラットフォームである。そこには、信頼性を担保するために、スマホのアプリで簡単に過去の利用者によるドライバーの評価を確認することができる仕組みが備えられている。いまや、簡単に外部資源を活用することができ、著しく取引費用を削減することができるようになっているのである。なお、日本では「Uber X」は提供されていない(2015年9月時点)。福岡市でライドシェアリングの実証実験が進められていたが、途中で中止されている。

「Surge Pricing」のインパクト:アルゴリズムの価格変化による需給調整

  • Uberに関するもうひとつの強いインパクトは、「Surge Pricing」である。需給の状況に応じて、アルゴリズムにより価格を変化させる仕組みである。需要が供給を上回ると、自動的に価格が上がるようになっている。もちろん、動的な価格で需要を制御することは、航空会社などが昔から行ってきているし、電力や高速道路の分野でも試みられている。「Surge Pricing」が根本的に異なっているのは、需要だけでなく、供給を動かすところである。価格を上げることにより、需要を減らすだけでなく、供給を増やすのである。それにより、新古典派経済学が提示した、理想的な市場が完成してしまったとも言える。「Internet of Demand and Supply」とも呼べる情報技術により、価格変化による需給調整が完全に実現してしまったのである。
  • 「Surge Pricing」のアルゴリズムは、まるで市場の指揮者のようである。そう捉えるとむしろ、かつて経済学者のオスカー・ランゲが提唱した「経済計算」や、旧ソ連の科学アカデミー中央数理経済研究所で構想された「経済最適機能システム」が想起される。かれらが夢見たのは、中央当局の価格調節による経済管理であった。かれらは情報技術の発展により、それが実現すると信じていたのである。
  • 「Surge Pricing」は、提供されるサービスがコモディティ的であるがゆえに、単純に実装することができた。それがたとえば、宿泊というサービスになると、もう少し複雑になる。Airbnbでは、部屋のオーナーが価格を設定することになっている。Airbnbは部屋のオーナーに対して、需要の変動に即して導出された参考価格を提示する。それにもとづき部屋のオーナーが価格を設定することにより、需給調整が行われているのである。
  • 「Surge Pricing」を出し抜こうとするものが、当然のことながら現れてくる。「Cut the Surge」は、Uberの価格の変化を予測するアプリである。予約しようとしたときに値上げ価格が示されていたら、いつになれば平常価格で車を手配することができるか教えてくれる。どのサービスを選ぶべきか、どの価格で車を手配すべきか決めるのを助けてくれる。ここでも、機械同士の戦いが始まっているのである。

市場の効率性と公正さ

  • Uberは、シドニーで人質立てこもり事件が起きたとき、「Surge Pricing」により現場付近の価格を4倍に引き上げ、非難を浴びた。そのことについて、よく考えてみる必要がある。供給不足の状態を価格に反映させることが間違っているというならば、基本的に市場経済を受け入れていないのと同じことである。市場におけるコントロールメカニズムは価格であり、市場を機能させるのは価格の変動である。価格の変動が市場を自己修正的なものにしている。価格がフィードバックメカニズムとして機能することにより、市場は多数の人間の行動を調整している。
  • 価格メカニズムに恣意的な手を加えるべきではない。その結果として歪められた価格により、市場に不適切な反応が起こる。必要な量の財が供給されなかったり、無駄に財が消費されたりすることになる。価格操作により社会的公正を実現しようとすべきではない。経済と倫理の問題は正しく捉えられなければならない。格差是正の問題がまさしくそうである。貧困の解決策は、価格操作ではなく、所得分配である。生活が苦しい人を救う解決策は、財の価格を変えることではなく、その人の所得を補うことである。経済システムは効率的かつ公正でなければならない。価格メカニズムの役割は効率性を実現することである。公正さを実現するのは所得分配、つまり税制と社会保障制度の役割である。そして、それこそが、いま我々が取り組むべき最も大きな課題である。
  • Uberは、シドニーで生じた事態において、料金を返金し、無料乗車を提供した。他方、ニューヨークでは、異常気象などの緊急時に価格の上限を設けることで、市当局と合意している。効率性と公正さを実現するには、どうするのが望ましいだろうか。情報技術の発展により、市場は純化されうる。それにともない、暴走を許し、腐敗を招く恐れもある。我々は経済システムを適切に維持するために、市場というものに対して、抜かりなく向き合っていかなければならない。

藤田 英睦(ふじた ひでちか)
株式会社富士通総研 経済研究所 マネージャー
科学技術と公共政策に関する調査・分析などの業務に従事。