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中国における起業家増加の背景とその動向

発行日 2015年8月5日
上級研究員 趙 瑋琳

【要旨】

  • 2015年3月上旬に中国北京で全国人民代表大会(全人代)が開催され、李克強総理が「政府活動報告」を行った。「政府活動報告」のなかで、「大衆創業・万衆創新」が提唱され、熱い議論を呼んだ。
  • 中国では、ベンチャーを起こして、新たな挑戦を通して、イノベーションを目指す人があれば、豊富なビジネス経験を活かし、社会課題の解決を目指すエリートの社会起業家も増えている。
  • 起業家から企業家へ成長・進化し、経済社会全体のイノベーション向上につながると期待されている。中国においては、起業家という側面から中国の経済社会の動向を把握する意義は十分ある。

「大衆創業・万衆創新」の提唱

  • 中国では、国内総生産(GDP)に占める研究開発(R&D)支出の割合が1991年の0.7%から2014年の2.1%まで増加した。現在、世界特許登録における中国からの出願件数は世界一になり、学術論文の数も急増した。しかし、これからは、R&D費用や論文数などの累積よりも、質的な変化が求められている。
  • 2015年3月上旬に中国北京で全国人民代表大会(全人代)が開催され、李克強総理が「政府活動報告」を行った。「政府活動報告」のなかで、「大衆創業・万衆創新」が提唱され、熱い議論を呼んだ。「大衆創業・万衆創新」(大衆による起業および万人によるイノベーションとの意味合い)の狙いは、もっと大勢の人をイノベーション活動に参与させ、中国経済の構造転換を実現し、「中国製造」から「中国創造」への脱皮を図ろうとするものである。
  • ビジネス現場では、近年、ベンチャースタートアップ、とくにネットビジネス関連のベンチャー企業が相次いで現れてきており、起業ブームになっている。「大衆創業・万衆創新」の提唱がこのブームに拍車をかけ、会社登記手続きの簡略化をはじめ、あらゆる制度・政策支援が加速すると見られる。
  • 一方、社会領域では、社会問題の解決に挑む革新的な手法、いわゆるソーシャルイノベーションが注目されている。社会課題の解決を目指すエリートの社会起業家も増えている。

ビジネス起業家VS社会起業家

  • 経営思想家であるドラッカーの著作「イノベーションと企業家精神」では、イノベーションと企業家精神を生み出すための原理と方法を論じている。企業家精神とは気質ではなく姿勢と行動であり、企業家にとって、イノベーションが資源を創造する特有の道具であると強調している。
  • 最近、中国における起業家の意識や起業目的、行動が変わりつつあり、企業家への成長が進んでいる。以下、異なるタイプのベンチャーを起こした二人の起業家を紹介する。
  • 2000年代前半に、知的財産権や商標登録に関連するビジネスチャンスを掴み、コンサルティング会社を立ち上げ、大成功を収めた30代の男性起業家がいる。彼は3Dプリンターの革新性に惹かれ、現在6人の開発チームを率いて、3Dプリンターの開発と応用ビジネスにチャレンジしている。設立してまだ1年も経っていないが、売上高が早くも1000万元(約2億円)を突破した。
  • 中国では彼のような人間は二次起業家とも呼ばれて、幅広い人脈や資金の余裕をもつことが特徴である。金銭に困らない彼の起業動機は、3Dプリンターの活用で、自らイノベーションを引き起こして、より多くの人に豊かな生活スタイルを提供することである。このような夢の実現と共に、ベンチャー起業家からさらに一歩を踏み出して、行動力のある企業家まで成長していくだろう。
  • ビジネスの手法を用いて社会問題の解決に挑む起業家のことを、社会起業家(social entrepreneur)と呼んでいる。豊富なビジネス経験をベースに、社会問題の解決に取り組んでいる女性社会起業家がいる。彼女は有名俳優が作ったチャリティー基金の理事長に選ばれたことで、社会問題の解決に着目し始めた。外資勤務を経て、不動産開発会社を立ち上げて大金持ちになった彼女は、自ら作った会社を見捨てて、社会問題の解決に向かう新しい道を選んだ。
  • 彼女はビジネス経験とチャリティー基金での仕事経験や人脈を融合・活用し、コミュニティーにおける家庭の幼児教育に対する補助サービスの提供に努めている。北京をはじめ、同サービスを他の地域にも普及しようとしている。
  • 近年、中国では社会問題の解決にエリートたちが集まるという現象が起きて、ソーシャルイノベーションの社会的勢力が形成されつつあるように見える。彼女も中国におけるソーシャルイノベーションの推進を積極的に実践している一人である。

「大衆創業・万衆創新」の主語が人であり、その人の意識と行動によって、イノベーション創出の可能性が変わる。単なる起業家で終わるのではなく、より高い行動力をもって、経済社会のイノベーション向上に貢献する企業家への成長と進化が期待される。起業家という側面から中国の経済社会の動向を把握する意義は十分ある。