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不動産総合データベースの試行運用が開始 ~中古住宅取引活性化の起爆剤となるか~

発行日 2015年7月29日
上席主任研究員 米山 秀隆

【要旨】

  • 中古住宅の購入時に物件の履歴情報を参照できるシステムの試行運用が始まった。買主は購入検討時に履歴情報を参照することで物件の状態を詳細に把握でき、売主は適切な維持管理・修繕を行ってきたことで評価額が上がるというメリットが得られる。
  • 不動産総合データベースが軌道に乗れば、中古取引が活性化し、新築が圧倒的なシェアを占める日本の住宅市場に変化をもたらす可能性がある。
  • 将来的には、自治体が履歴情報を活用して物件の状態を把握できるようになれば、空き家対策や課税適正化、まちづくりにも活かしていける可能性がある。

不動産総合データベースの試行運用が開始

  • 国土交通省が整備を進めてきた「不動産総合データベース」の試行運用が、6月から横浜市で開始された(試行運用期間は来年2月までを予定)。不動産を購入する際に判断材料となる情報を集約し、不動産業者から消費者に提供するシステムである。住宅を購入する場合、消費者は不動産業者を通じ、REINS(不動産流通機構)に登録された情報を得られる。この情報に加え、売主が保有するその住宅の履歴情報(設計、施工、維持管理、修繕などに関する記録)などを、利用できるようにしようとするものである。
  • 中古住宅を購入する際にネックになるのは、売主はその住宅の状態をよく知っているにも関わらず、買主はよくわからないという「情報の非対称性」が存在することである。この問題を解決する一つの手段は、買主が、第三者である専門家(インスペクター)に、その物件の検査(インスペクション)を依頼することである。近年は日本でも、こうしたインスペクションサービスを手がける業者が増えている。
  • 情報の非対称性の解消には、住宅所有者が、住宅履歴情報をすべて残しておき、売却時に買主がそれを参照できるようにすることも有効である。きちんと手入れされた住宅は、市場での評価額が高まる効果も期待できる。
  • 図 不動産総合データベースのイメージ

    図 不動産総合データベースのイメージ

    (出所)国土交通省「不動産に係る情報ストックシステム基本構想」2014年3月

アメリカの中古市場を支えるMLS

  • アメリカでは、履歴情報を参照できる仕組みは早くから形成されてきた。MLS(Multiple Listing Service)と呼ばれるシステムで、地域ごとにある。MLSは民間によって運営されており、不動産業者は各地域のMLSに加盟しなければ営業することができない。不動産事業者はMLSを通じ、物件情報、履歴情報、課税履歴、登記履歴、さらには地域情報(ハザードマップなど)やマーケット情報を取得し、消費者に提供する。消費者はこうした豊富な情報をもとに、中古住宅購入の判断を行うことができる。
  • 新築件数と中古取引を足し合わせた全住宅取引のうち中古の占めるシェアは、日本では14.7%(2013年)に過ぎないが、アメリカでは89.3%(2010年)に達し(国土交通省調べ)、普通買うのは中古という市場になっている。中古住宅の円滑な取引を行う前提として、従来からアメリカでは履歴情報が蓄積されてきたが、それを情報システムとし、必要な他の情報も参照できるような仕組みに進化させていったことが、中古市場を支える役割を果たしている。

住宅履歴情報蓄積のインセンティブが必要

  • 新築偏重の市場構造を変え、日本でも住宅を使い捨てではなく、良いものを造って使い継いでいく市場に変えていくため、これまで各種の施策が講じられてきた。住宅の性能を客観的に評価する「住宅性能表示制度」の創設(2000年)や、長持ちする住宅を造った場合には税優遇などが受けられる「長期優良住宅」の仕組みの導入(2009年)、住宅履歴情報蓄積の推進体制の構築(住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会(いえかるて協議会)、2010年)などである。現在では、大手のハウスメーカーなどは独自の履歴情報システムを保有しており、履歴情報システムを提供する専門のサービス機関もある。
  • しかし、住宅所有者にとってみれば、履歴情報を蓄積したとしても、それが売却時に評価されるようなメリットがなければ、手間をかけて情報を蓄積するインセンティブがない。履歴情報を蓄積する住宅は、最近建てられたものでは増えているが、住宅ストック全体の中ではごくわずかに過ぎない。
  • 今回の試行運用では、購入検討時に履歴情報を参照できるようにするため、物件の売主に対し、履歴情報の登録サポートキャンペーンを行っている。売主が希望すれば、売主側の不動産業者からいえかるて協議会に申し込み、協議会が選定した履歴情報サービス機関に履歴情報を登録し、物件購入希望者が不動産業者を通じてその情報を参照できる形にしている。そもそも売却希望物件で履歴情報を蓄積している例は現状ではほとんどないため、まずは登録してもらうことで購入希望者が参照できる環境を整え、その取引上の効果や課題を探ろうとしている。
  • 不動産総合データベースでは、履歴情報に加え、周辺の地域情報(都市計画情報、価格情報、ハザードマップ、公共施設・学区・インフラ情報など)も参照できるようにすることを目指している。ただし、アメリカのように課税履歴や登記履歴を参照できることをまでを目指しているわけではなく、国土交通省の判断で実施できる範囲で進めようとしている。
  • 先にも述べたが、こうしたシステムを作ったとしても、履歴情報を蓄積することによって売却時の評価額が上がるなど、所有者にとって目に見える効果が感じられなければ、情報を蓄積するメリットがない。また一方、現実には履歴情報を蓄積した物件の取引事例が増えていかなければ、評価もどれだけ上がるかはわからない。この仕組みを定着させていくためには、登録した物件の税優遇や補助金などのインセンティブを与えることでまずは物件の数を増やし、同時にその評価の仕組みを確立し、取引事例を増やしていくことが必要である。国土交通省は試行運用の後、2016~17年度に本格運用のためのシステム構築を行い、2018年度には本格運用を行う予定にしているが、今後、普及のためのインセンティブを検討していくことが望まれる。

空き家対策やまちづくりにも活用できる可能性

  • このシステムを将来的に課税情報や登記情報ともリンクさせることができれば、購入希望者が参照できる情報が増えるばかりでなく、自治体にとってもメリットがある。現在、自治体は「空家対策特措法」の施行に伴い、空き家の実態把握、危険な状態になっているなどの「特定空家」の所有者への働きかけ(指導、勧告、命令、代執行)、固定資産税の課税適正化(特定空家のうち勧告の対象になったものについて固定資産税の優遇(住宅用地特例)の解除)を求められるようになっている。このため、空き家データベース構築も必要になっている。
  • もし、不動産総合データベースによって、住宅の履歴情報が蓄積され、それを自治体も参照できるとすれば、空き家対策のために自治体が改めてデータベースを構築する手間が省ける。適切に維持管理されてきたものは問題なく、全くなされていないものは要チェックだということが容易に判断できる。また、課税情報ともリンクされていれば、課税適正化も行いやすくなる。さらには、地域に利活用可能な中古物件がどの程度あるかを把握でき、それを活かしたまちづくりも考えやすくなる。
  • このように、不動産総合データベースは、リンクさせる情報を増やしていけば、自治体にとっても有用性を増していくことになる。もとより、履歴情報は個人的な情報なので、それを誰がどこまで使えるのかについては十分な検討がなされなければならない。まずは、試験運用で課題を洗い出し、単に試験運用で終わらせずに本格運用に確実につなげ、同時に他の情報とのリンクも早い段階から検討していくことが求められる。