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生物多様性地域戦略を地方創生に活かすには

発行日 2015年7月3日
上席主任研究員 生田 孝史

【要旨】

  • 地方創生のメインターゲットである首都圏以外の「地方」が、地域資源の活用や地域産業の競争力強化を図るためには、自然資本の維持・増大が不可欠であり、社会経済活動と自然が調和する地域づくりの推進を目指す生物多様性地域戦略の有効活用が望ましい。
  • 具体的な取り組みを進めるためには、市町村レベルの生物多様性地域戦略の活用が期待されるが、全市区町村の2.6%しか地域戦略の策定が行われておらず、75%が策定済みの都道府県、70%の政令指定都市と比べて大幅に遅れている。国の助成打ち切りもあり、ヒト・モノ・カネに乏しい市町村の策定数が急増することは考えにくい。
  • 自然資本を活用した地域振興の実現を主題とすれば、必ずしも、生物多様性地域戦略の要件を全て満たす必要はない。生物多様性地域戦略(あるいはその考え方)を有効活用するポイントは、自然資本と地域振興の関連付けと周辺自治体との地域連携である。

地方創生と生物多様性地域戦略

  • 人口減少時代到来への危機感から、昨年来、政府は地方創生への取り組みを推し進めている。都道府県と市町村には、2015年度中に「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の策定努力が求められた。このため、多くの地方自治体がその対応に追われている。
  • 地方創生のメインターゲットは、人口流入が集中する首都圏以外-いわゆる「地方」-である。国のビジョンには地域資源の活用や地域産業の競争力強化がうたわれている。実際に「地方」が活用できる地域資源の多くは自然の恵み(食料、天然資源、水・空気、景観など)である。地域産業といっても農林水産業と観光業が機軸とならざるをえない。
  • 人々が享受する自然の恵みをフローとすれば、ストックに該当するのが、その供給源である自然資本(山・森林・海・河川・大気・土壌などの自然や生態系を構成する生物を含む)である。首都圏以外の多くの地方自治体が、地方創生を図り、社会・経済的活力の向上を実現するためには、ストックである自然資本の維持・増大が不可欠となる。
  • そこで注目したいのが、生物多様性地域戦略である。生物多様性地域戦略とは、地域特有の生物多様性を守り、その持続可能な利用を総合的かつ計画的に進めることを目的としたものである。2008年制定の生物多様性基本法は、生物多様性地域戦略の策定を地方自治体の努力義務としている。
  • 生物多様性地域戦略は、国の施策の方向性をまとめた「生物多様性国家戦略2012-2020」に基づくものである。地域ごとに自然環境は異なり、人間活動との関係も一様ではない。国家戦略によって地域の取り組みを検討するのには限界がある。地域の実情を踏まえたきめ細やかな取り組みを行うために、地域戦略の策定が望まれているのである。
  • 生物多様性地域戦略は、社会経済活動と自然が調和する地域づくりの推進を目指している。自然保護だけが目的ではない。その具体的な効果の一つとして想定されているのが地域振興である。「地方」が自然資本の維持・増大によって地方創生を図ろうとするのであれば、生物多様性地域戦略の有効活用を検討しない手はない。
  • 図表1 生物多様性地域戦略による地域への効果

    図表1 生物多様性地域戦略による地域への効果

    (出所:環境省資料を基に富士通総研作成)

市町村レベルの生物多様性地域戦略への期待と課題

  • 地方創生の具体的な取り組みを進めるためには、特に市町村レベルの生物多様性地域戦略の活用が期待される。市町村の地域戦略は、広域的なネットワークを意識した取り組みを進める都道府県と異なり、地域の特色や課題を取り入れたより身近な地域での具体的・個別的な取り組みとして位置づけられており、地方創生の取り組みと親和性が高い。
  • しかし、政令指定都市を除けば、生物多様性地域戦略を策定済みの市町村は少数である。2015年3月末現在の地域戦略策定済み市区町村数は44で、全市区町村の2.6%に過ぎない。地域戦略策定済みの35都道府県(全都道府県の75%)、14政令指定都市(全政令指定都市の70%)と比べて、取り組みは大幅に遅れている。
  • 図表2 生物多様性地域戦略の策定自治体数(2015年3月末現在)

    図表2 生物多様性地域戦略の策定自治体数(2015年3月末現在)

    (出所:環境省資料を基に富士通総研作成)

  • 残念ながら、今後、生物多様性地域戦略を策定する市町村が急増するとは考えにくい。地域戦略策定のための国の助成(100%補助)が2014年度に打ち切られたことも逆風である。実際、地域戦略策定自治体(都道府県・政令指定都市・市区町村)数は、2013年度の25から、14年度には15に大幅に減少した。
  • 生物多様性地域戦略策定に関心を持つ後発自治体は、地域戦略の策定を見送るか、自主財源を確保するかの判断を迫られている。政府目標として2020年までの地域戦略の策定が求められた都道府県の場合、自主財源でも取り組まざるを得ないだろう。しかし、ヒト・モノ・カネに乏しい市町村の場合、地域戦略策定を優先する判断は容易ではない。
  • 生物多様性地域戦略を策定した先行自治体も順風満帆というわけではない。地域戦略策定後は、進行管理が求められる。体系的で横断的・総合的な地域戦略を策定しても、実効性がなければ「絵に描いた餅」になってしまう。首長の交代や担当者の異動なども、進行管理に影響を及ぼすことがある。

生物多様性地域戦略有効活用のポイント

  • 自然資本の豊富な「地方」が地方創生を進めるためには、生物多様性地域戦略の活用は有効である。市町村が地域戦略を策定できればベストだが、自然資本を活用した地域振興の実現を主題とすれば、必ずしも、国が定める生物多様性地域戦略の要件を満たすことにこだわらなくてもよいかもしれない。
  • 生物多様性地域戦略(あるいはその考え方)を地方創生の取り組みに有効活用する際のポイントの一つは、自然資本と地域振興の関連付けである。地域特性を考慮した自然資本と地域振興のターゲット(地産品の販促、観光・交流、職住環境の向上など)を関連付けながら、域内で進行中・計画中の施策を洗い出し、再整理することが望まれる。
  • 地域特性を考慮した自然資本として最もわかりやすいのが、地域のシンボルとなる生きものとの関連づけである。トキをシンボルとした新潟県佐渡市や、コウノトリをPRした兵庫県豊岡市の取り組みは有名である。シンボルとする生きものが生息できる環境を保全し、農産物(及び加工品)や食文化、伝統文化、観光地などのPRに成功している。
  • 自然資本の地域特性に着目した取り組みが各地で行われている。北海道礼文町は、漁業と観光業のために礼文島の保全とPRを手がけている。東京都あきる野市は、「秋川渓谷」を地域資源とした商品開発や観光振興を図っている。大都市の東京都千代田区でも、皇居の豊かな自然環境を核として、職住環境の向上や情報発信・交流を図っている。
  • 一つの自治体ではヒト・モノ・カネに限界がある、あるいは似通った自然資本を共有する複数の自治体が協働することが望ましいという場合、周辺自治体との地域連携は有効な手段である。鹿児島県の奄美大島では、今年3月、島内の全5市町村が協働して生物多様性地域戦略を策定した。市町村共同の地域戦略は日本初である。
  • 北海道の後志地域の連携はボトムアップ型である。2012年に域内の黒松内町が単独で生物多様性地域戦略を策定したのを発端として、地域広域協議会が設立され、昨年3月には地域連携保全活動計画が策定された。後志管内(20市町村のうち)15町村が参加し、共同の取り組みやPRを行っている。
  • 地方版総合戦略の策定を主管している部署と、生物多様性地域戦略を管轄している(すべき)部署の連携が不十分な市町村も少なくないだろう。しかし、多くの「地方」にとって自然資本の維持・増大が地方創生の根幹となりえるポテンシャルを考えれば、地域全体で、地方創生への生物多様性地域戦略の活用可能性を検討してみるべきである。