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中国における外資管理制度改革の最新動向

発行日 2015年6月8日
主席研究員 金 堅敏

【要旨】

  • 外資流入の伸び悩みに直面する中国では、自国企業の対外投資の拡大を鑑み、国内市場のさらなる開放や高いレベルの外資管理制度の確立が必要であると認識されている。全国に適用される「外商投資産業指導目録」の改正により、市場開放はある程度実現されたが、抜本的な外資管理制度改革は見られなかった。一方で、「投資前内国民待遇」と「ネガティブリスト方式」を前提とする「自由貿易試験区」(地域限定)は拡大し、米中投資協定交渉は加速してきた。
  • また、高レベルの外資管理制度改革の集大成として新たな「外国投資法」が制定プロセスに入っており、その行方に注目すべきである。

高いレベルの外資管理制度が必要

  • 中国経済の高度成長は膨大な外資導入によって実現されたと言われてきたが、それは1990年代~2000年代前半までの出来事であった。図表が示すように、中国の対内直接投資(FDI)をGDP比でみると、世界平均値を上回ったのは1995年ごろだけであった。その後、世界平均を下回り、ワニの口のようにその差は広がる一方である。2013年には、中国の10.4%に対して、世界平均は34.3%と中国の3倍ほど高かった。2000年代以降、中国経済の高成長は、(資金投下の意味で)外資導入よりも国内投資と輸出(外資の貢献は大きい)によってもたらされたと考えられる。中国のGDPは世界2位になったが、外資導入(ストック、2013年)は世界の5位でしかなかった。
  • 2000年代半ば以降、経済規模の拡大とは対照的に、中国の外資導入が伸び悩んだ理由としては、以下の3つが考えられる。第一に製造業分野を中心に外資投資は一巡したこと(賃金上昇など)、第二に高付加価値分野の投資環境が魅力的でないこと(知財問題など)、そして三番目にサービス分野を中心に中国の市場開放度合いがなお低いレベルにあることである。しかし、近年の中国では、経済成長の原動力(投資、輸出)が弱くなり、経済成長がスローダウンし、消費主導の経済成長への転換も思うように進まない。また、エネルギーの制約、環境汚染問題の深刻化で経済の高付加価値化、サービス化や産業の高度化は欠かせないが、外資の役割は大きいと再認識されている(新華社「中国が外資に大幅な市場開放へ」)。そのために、国内の外資管理制度は、税制優遇や加工貿易など次元の低い政策レベルではなく、世界における高レベルの枠組みやルールへ融合していく必要性があると認識されている。
  • 他方、図表が示すように資本や技術の蓄積とともに中国の対外投資も拡大する一方である。2014年の中国企業による対外投資額は、外資の対中投資額を上回り、1,300億ドルに達すると推定されている(注釈1) 。海外市場における市場アクセスや投資権益の確保も対外通商政策の優先事項になってきた。特に米国市場や欧州市場への中国企業の投資意欲は高く、投資制限やトラブルが多いと言われている。欧米との新投資協定締結が必要不可欠になるが、相互主義の観点から、自国の外資管理制度の近代化なくして相手から譲歩を引き出すことも無理があると中国では認識されているようだ((XINHUA:中国が外資に大幅な市場開放へ)。
  • 大幅な市場開放約束とともに、「投資前内国民待遇」(これまで中国は外資に投資後の内国民待遇しか与えていない)や「ネガティブリスト方式」(リストに載せている分野だけ認可が必要で、その他は届出ぐらいで済む管理制度)が重要な外資管理制度として取り上げられている。

図 中国の対内直接投資と対外直接投資のGDP比の推移

 

「外商投資産業指導目録」の改定

  • 外資に対する大幅な市場開放と制度の近代化を図るため、2015年3月に中国は、外資の市場アクセスを全国範囲で包括的に規定している「外商投資産業指導目録」を3年ぶり(6回目の改正)に改正した。改正された「目録」のリストは、これまでと同じく投資分野を「奨励類」、「制限類」と「禁止類」に分けて載せており、外資参入への「制限類」は79項目から38項目に削減され、製造業やサービス業を中心に削除が多く、外資出資比率に対する制限についても大幅に緩和された。例えば、電子商取引投資に対する外資の出資規制が削除され、100%の外資投資が可能となった。ただ、「高等教育機関」や「医療機構」への投資は新たに「制限類」にリストアップされるなど、規制緩和に逆行するような動きも見られ、その真意を確かめる必要がある分野も存在する。
  • また、外資管理のルールを定めている「外商投資の方向を指導する規定」は、同時に改正されておらず、「ネガティブリスト方式」も採用されておらず、「奨励類」を含むすべての外商投資は当局の審査を仰ぐ必要がある。このように、中途半端な改革になっているように思われる。

「自由貿易区」の拡大

  • 全国に適用される「外商投資産業指導目録」の改定作業とは異なり、新外資管理制度改革の先頭に立つのが、特定な地域にしか適用されない「自由貿易試験区」という新たな試みである。2013年9月に最初に設立された「上海自由貿易試験区」においては、全国に先駆けて市場開放を行うだけでなく、外資管理関連法規も適用を停止させて「投資前内国民待遇」と「ネガティブリスト方式」が中国で初めて採用された。税制優遇を政策の基本とするかつての「経済特区」ないし「経済開発区」とは違って、外資管理の規制緩和や制度設計(改革)が基本になっている。1年半経った「上海自由貿易試験区」の経験は、数十項目の制度を全国に普及させているという。例えば、電子商取引の市場自由化は、「上海自由貿易試験区」から始まった政策である。また、JTBは、これまでできなかった中国人向けの海外旅行斡旋業務を「上海自由貿易試験区」で設立した現地法人で行うこともできた。さらに、中国企業による対外投資の「ネガティブリスト方式」は、同じく「試験区」から始まり全国に広がったものである。
  • 2015年4月に中国当局は、「上海自由貿易試験区」のエリア拡大とともに「広東」、「福建」、「天津」の三ヵ所に新たな自由貿易試験区を設置した。また、市場開放をさらに拡大し、四つの試験区に等しく「ネガティブリスト」を採用した。ただし、各試験区は独自の市場開放政策、制度改革も許可されている。例えば、福建省の試験区では台湾企業に対してより大きな通信サービス市場開放を、広東省の試験区では一年以内で内外資企業にとも「ネガティブリスト方式」を適用することとなっている。
  • 「ネガティブリスト」を検証すると、122の特別管理項目(制限ないし禁止)は2013年の190項から2014年の139項になり、かなり撤廃されたが、外資が強い関心を有する金融サービス、為替市場、通信サービス市場開放についてはなお慎重な姿勢を見せている。これは、中国当局がこれらセンシティブ分野の市場開放に伴う国内市場へのインパクトにまだ自信を持てないことや、後術する交渉中の米中/欧中投資協定に取引の余地を残す思惑もあるように思われる(楊小輈「四大自貿区始動 どの政策が注目される?」)(注釈2)

制度改革の「外圧」となりうる米中投資協定

  • 中国が外資管理制度改革を急いだのは、米中投資協定交渉という外部要因も絡んでいる。 米中は、2008年6月に開催された「米中戦略経済対話」で米中投資協定の交渉を開始することに合意したが、目立った成果はなかった。2013年6月に米カリフォルニアで行われた米中非公式首脳会談で中国側が「投資前内国民待遇」と「ネガティブリスト方式」を基本とする投資協定交渉を表明したのを契機に、実質交渉が始まり、2014年末までに協定のテキストについて基本合意に達した(2015年3月7日中国商務部長、高虎城の記者会見:「中米は投資協定のテキスト交渉を終えた」)。今年5月か6月にはお互いに「ネガティブリスト」を交換して、交渉する段取りになっている。
  • 米中が基本合意した投資協定のテキストは公表されていないので、詳細は判明していないが、米国は、外国との投資協定交渉に当たってモデル規定(2012 U.S. Model Bilateral Investment Treaty)(注釈3) を公表しており、このモデルテキストに沿った内容であると考えられる。国有企業の経営活動への規制や、環境保護、労働基準などに関しては、中国は米国の要求を相当受け入れたと推測される。
  • 残るのは「ネガティブリスト」の交渉であるが、米国側が提示した「ネガティブリスト」案に対して、中国側はすでに不満を表明している(馮迪凡「中米BIT「ネガティブリスト」の駆け引き」)(注釈4) 。米国の「ネガティブリスト」には定義されていない重要なインフラ、重要な技術、国家安全分野の三項目が含まれており、中国の側は、米政府が恣意的に解釈する余地が残っていると不満を表したのである。他方、米国側は中国側に「ネガティブリスト」の圧縮を要求しており、「ネガティブリスト」を巡る駆け引きはすでに始まっている。

新たな外資管理制度を規定する「外国投資法」の制定へ

  • 以上で見てきたように、経済の「新常態」(ニューノーマル)に入った中国は、経済の安定成長や高付加価値化、サービス、産業の高度化を実現するために外資に目を付け、自国市場のさらなる開放や外資管理制度改革を通じて投資環境の魅力度を高めようとしている。制度改革の集大成と言えるのが、「投資前内国民待遇」と「ネガティブリスト方式」を前提とし、これまでの外資三法(「外資企業法」、「中外合弁企業法」、「中外合作企業法」)を一本化させる「外資投資法」(「中華人民共和国外国投資法(草案)」(注釈5) )の制定と言えよう。その行方に注目したい。

 


(注釈1): “China Could have massive investment in the outside world or create a large social safety net” http://nextbigfuture.com/2014/11/china-could-have-massive-investment-in.html

(注釈2): http://www.jiemian.com/article/266957.html

(注釈3): http://www.state.gov/documents/organization/188371.pdf 実質条文は22ヵ条からなる。

(注釈4): http://finance.sina.com.cn/world/20150422/015622012734.shtml

(注釈5): http://tfs.mofcom.gov.cn/article/as/201501/20150100871010.shtml