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オムニチャネルで大規模小売チェーンはどのように進化するのか?

2014年12月18日(木曜日)

「お客様がいつどこにいても欲しい商品とつながる世の中へ」。セブン&アイグループは、オムニチャネルを第2の創業につながる好機と位置づけてグループ全体で取り組んでいます。実店舗とネットの機能を上手く融合させるオムニチャネルの取り組みは、売上に対するECの影響が出始めたアメリカの小売大手から始まり、日本の小売大手にも広がってきました。オムニチャネルに関しては、EC専業対オムニチャネル化した小売大手の競争はどうなるのか、すべての小売企業がオムニチャネル化するのか、など様々な興味を持つところですが、ここでは大規模小売チェーンにスポットライトを当て、オムニチャネルに取り組む背景と進化の姿を占っていきます。

1. オムニチャネルとは顧客の接点を融合すること

オムニチャネル(omnichannel)とは、ラテン語を語源とした「すべて」を意味するオムニ(omni)とチャネル(channel)を合わせた造語で、顧客との接点になっているすべてのチャネルが関連を持って有機的に融合することを指します。

小売の顧客チャネルに関しては、マルチチャネルやクロスチャネルといったキーワードも使われてきました。マルチチャネルは、店舗とECサイトなど複数のチャネルで顧客と接することを意味しています。ただ、サービス内容や顧客管理はチャネル毎に異なっており、これではチャネルが融合しているとは言えません。クロスチャネルになると、ECサイトで注文した商品が店頭で受け取れるなど、複数のチャネルをまたがった取引が可能になりますが、チャネルの連携は決まったパターンだけになります。これらに対し、オムニチャネルはサービス内容だけでなく、それを支えるオペレーションやデータ管理までがチャネルをまたがって融合しており、顧客がどのチャネルを使っても同じ顧客としてサービスされるようになっています。

オムニチャネルがアメリカで注目されるようになったのは、全米小売業協会のレポートで取り上げられ、アメリカの百貨店メイシーズのCEOがオムニチャネル化宣言をした2011年からです。この背景にはECやスマートフォンの利用が進んだことがあります。アメリカにおける当時のEC化率(商取引に占めるECの利用率)は5%に達し、実店舗の売上に影響が出始めていました。さらにスマートフォンの普及とともに、店頭で現物を確認した上で価格の安いECサイトで購入する「ショールーミング」が広がり、インターネットの影響が小売企業にとって見逃せないものとなっていました。

【図表1】米国におけるオムニチャネルまでの変遷【図表1】米国におけるオムニチャネルまでの変遷

この対策として、小売大手は単にECサイトに力を入れるマルチチャネルのアプローチではなく、ECの手法を取り入れて店舗を強化する戦略としてオムニチャネルに取り組み始めたわけです。それでは、小売大手がオムニチャネルを打ち出す一因となったアマゾンの取り組みを確認した上で、アメリカと日本における事例からオムニチャネルの姿を見ていきましょう。

2. アマゾンはショールーミングと当日配送に力を入れる

ECビジネス最大手のアマゾンは、チェーンストアエイジ誌が発表した2013年の米国小売業ランキングで、前年の8位から順位を上げて5位に入りました。アマゾンは様々な施策を繰り出して小売に対する攻勢を強めてきました。

アマゾンはスマートフォンのカメラで商品のバーコードを読み取ると、アマゾンでの販売価格やユーザーレビューが参照できる「プライス・チェック」アプリを2010年に提供しました。このアプリを小売の店舗内で使うと、最大5ドルのディスカウントが受けられるプロモーションを2011年に期間限定で行った結果、ユーザーにショールーミングが広がったと言われています。

アマゾンは日本と同様に当日配送サービスをニューヨークやロサンゼルスなど主要12都市で行っています。これに加えて、アメリカには生鮮宅配の「アマゾン・フレッシュ」もあります。これは、肉や野菜などの生鮮食品、加工食品、日用雑貨などを自社のトラックを使って配送するサービスで、午前10時までの受注分は当日に配送しています。シアトルから始めたこのサービスは、ロサンゼルス、ニューヨークへと対象エリアを広げており、食品販売でもアマゾンは存在感を示し始めました。

3. ウォルマートは店舗をテザリングで融合してアマゾンに対抗する

このようなアマゾンの攻勢に対し、世界最大の小売ウォルマートは、顧客が商品を受け取る「ラスト・ワン・マイル」の配送のスピードアップに力を入れています。同社は、物流センターではなく店舗から直接配送する「シップ・フロム・ストア」のテストを始めました。アマゾンがアメリカにある約40箇所の物流センターから配送するのに対し、全米に4,000店舗以上を所有し、店周5マイル(約8km)で全米人口の2/3がカバーできるという同社の強みを活かした取り組みと言えます。

さらに、「テザリング」という周辺の中・小型店を巻き込んだエコシステムのコンセプトを発表しています。これは、商品在庫が豊富な大型店舗から遠いエリアは中型店や小型店で「フィルイン(穴を埋める)」するものです。その際、スマートフォン経由で他の端末からインターネットにアクセスする「テザリング」のように、母艦となる大型店が周辺の中・小型店に対する多頻度配送の中継点となります。顧客は、小型店にない商品を頼むと、午後には小型店に商品が届いて購入できるようになるそうです。

【図表2】ウォルマートの「テザリング」【図表2】ウォルマートの「テザリング」

4. セブン&アイはコンビニを拠点として御用聞きに取り組む

さて、日本はどのような状況でしょうか? 経済産業省が発表した2013年の日本の消費者向けEC市場規模は、対前年比17.4%増の11兆1,660億円に達しました。EC化率は3.67%で、アメリカでクロスチャネルに力が入れられていた頃と同じ水準です。まだアメリカほど売上に影響は出ていませんが、小売大手各社はクロスチャネル的なサービスからオムニチャネルを目指した取り組みを始めました。

日本でオムニチャネルが注目されるようになったのは、セブン&アイグループが2013年11月にオムニチャネルを新戦略として宣言してからです。同グループは宣言に先立つ9月、グループ会社の社長など50人の幹部をアメリカに派遣して、オムニチャネルの先進企業を視察しました。この成果を踏まえ、10月にはメーカーなどの外部の専門家を加えて「オムニチャネル推進プロジェクト」を発足し、グループを融合したサービスの検討を始めています。

まずは、顧客がロフトやアカチャンホンポなどグループ各社のECサイトで注文した商品を全国のセブン-イレブンの店舗で受け取れるサービスを開始しました。また、ネットスーパーで注文した商品をセブン-イレブンで受け取れるサービスを相模原市内限定で始めるなど、様々な実験を行っています。今後は化粧品や靴の受け取りと返品などに取り組み、2015年度にはグループすべての商品を全店舗で受け取れるようにする計画です。

将来的には店舗受け取りだけでなく、自宅まで商品を即日配送するサービスも視野に入れているそうです。1万7千を超える店舗網と、専門店からスーパー、百貨店を有するグループの総合力を活かしたオムニチャネルの取り組みが今後本格化することになるでしょう。

5. 大規模小売チェーンの進化の姿と課題

ウォルマートやセブン&アイは、店舗に配送機能を持たせ、実店舗とネットの機能を有機的に融合させた新たな流通システムの構築を目指しています。この考え方は分かりやすいものですが、実現するには乗り越えなければならない課題があります。

まず、いつでもどこからでも注文を受け付けるためには、商品在庫のリアルタイム可視化や、様々なチャネルを通じた受注を可能にする分散オーダー管理システム(Distributed Order Managemen)を構築する必要があります。ウォルマートは数百万ドルをかけて分散オーダー管理システムを構築し、セブン&アイもオムニチャネルのために1,000億円を投資する計画です。

さらに、システムだけでなく接客や商品戦略も重要です。今までの店舗では来店した顧客が求めている商品が売場に無かったとき、店員は顧客をそのまま帰していたかもしれません。しかし、オムニチャネルになると、センターや他店の在庫を探して顧客対応する必要があります。さらに、ECサイトや他店で購入された商品の返品にも対応しなければなりません。オムニチャネルは接客を複雑化させるので、店員の意識改革や場合によっては組織を変更する必要も出てきます。

また、当たり前のことですが、いつでもどこからでも注文できることは、購入の必要条件かもしれませんが十分条件とは言えません。オムニチャネルで得られる情報から、顧客が何を欲しているのか顧客の立場で考え、相応しい商品を提供していくことが重要になります。システム、接客、商品をバランス良く総合的に向上させる方向に進化できた企業が新たな買物体験を創出して、大規模小売チェーンとして生き残ることになるでしょう。


田中 秀樹(たなか ひでき)
株式会社富士通総研 ビジネス調査室 室長
マーケティング戦略支援コンサルティング業務に従事。ネットビジネス領域では、ビジネストレンドと生活者動向を踏まえた上で、ECビジネスや企業のWebサイト活用を支援。
著書に『インターネット広告実践法』(共著)の他、『インターネット白書』等に記事原稿を多数掲載。