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BtoB企業こそデジタルマーケティングに取り組むべきその理由

2016年9月15日(木曜日)

デジタルマーケティングへの取り組みが広がっている。ネット社会の進展による消費者や企業担当者の購買行動の変化に対応し、企業がマーケティング・営業プロセスのデジタル化に取り組んだためだ。先行しているBtoC企業だけでなく、一部のBtoB企業にもこの動きは広がり、マーケティングオートメーション・ツールの導入ブームが起きている。このような状況に対し、対面の営業活動に強みを持つBtoB企業からは、「デジタルマーケティングは縁遠い」との声も聞かれる。デジタルマーケティングの効果は、一部のBtoB企業にとどまるのだろうか?

BtoB企業におけるデジタルマーケティングへの取り組みの必要性と、その実践方法について解説する。

1. デジタルマーケティングへの取り組み

トヨタ自動車は、情報基盤「TOYOTA Digital Marketing Platform(TDMP)」を構築し、Webサイトのアクセス分析結果から消費者の属性や購買意欲を推測して、販売活動やコンテンツ制作に役立てようとしている。将来的には販売店での接客などの情報も分析対象に加え、新規の見込み客や買い換え意欲の高そうな客を発見して、営業現場に情報提供することを狙っている。このようなデジタルマーケティングへの取り組みが広がっている背景には、消費者の購買行動の変化がある。消費者は、スマホやパソコンを使って、価格や評判を確認してから店舗に出向くのが当たり前の行動となった。これと同様の変化が企業担当者の購買行動でも起こっている。

企業における従来の購買行動は、訪問してきた営業担当者から情報収集して商品選定を進める形が一般的だったが、今ではWebサイトを使って必要な情報を集めるようになってきた。例えば、「住宅設備・建材」業界においては、購買における「候補業者・製品選定」プロセスで企業サイトを多く利用していることが調査で明らかになった(注1)。この結果、製品や発注先候補の選定を終えてから営業担当者に連絡するケースも増えている。このような動きに対応して、マーケティングや営業プロセスの中でデジタルを活用する、デジタルマーケティングに力を入れるBtoB企業が出始めた。

一方、対面の営業活動で実績を上げているBtoB企業の営業責任者に、デジタルマーケティングへの取り組みを聞いたところ、「カタログを持っていくのが営業の仕事。顔を覚えてもらい信頼関係でビジネスしてきたので、デジタルマーケティングは縁遠い」とのコメントがあった。インターネットや電子メールが普及したといっても、対面による営業活動が主流の会社は多い。では、このような企業にはデジタルマーケティングは価値がないのだろうか? BtoB企業におけるデジタルマーケティングの取り組みからから、その必要性を読み解いていく。

2. BtoB企業のデジタルマーケティングの取り組みパターン

デジタルマーケティングには数多くの手法があり、様々な適用シーンがある。そこで、マーケティング・営業プロセスを、「リード獲得」、「リード育成」、「商談・受注」、「維持・拡大」の大きく4つの領域に分け、さらにどのプロセスをデジタル化するかで、(1)リードジェネレーション型、(2)デマンドジェネレーション型、(3)EC型、(4)CRM型、(5)ブランディング型の5タイプに分けて、デジタルマーケティングの取り組みを説明していく。

【図1】マーケティング・営業プロセスにおけるデジタル活用のパターン
【図1】マーケティング・営業プロセスにおけるデジタル活用のパターン

(1)リードジェネレーション型

リードジェネレーションとは見込み客(リード)獲得のことで、集客部分にデジタルを活用して、集まったリードに対しては営業担当(リアル)がコンタクトする。例えば人材派遣業では、SEOや検索連動型広告を使って検索結果が他社より上位に表示されるようにして、問い合わせがあったらすぐに営業が対応する体制をとっている。

(2)デマンドジェネレーション型

デマンドジェネレーションとは、営業機会の創出のことで、リードジェネレーションに加えて、リードを育成(ナーチャリング)する段階にもデジタルを活用し、案件の確度を高めてから営業に引き渡す。新たなカテゴリーの製品など、顧客の理解度が低い場合に有効で、適切なコンテンツに誘導するコンテンツマーケティングや、対面しないで電話やメールで営業活動を行うインサイドセールスを活用して育成していく。個別のメール配信やアクセス分析など手間がかかる作業が発生するので、これを自動化するマーケティングオートメーション (MA:Marketing Automation) ・ツールの導入がブームとなっている。

(3)EC型

MRO(Maintenance Repair and Operations)やWebサービスなどでは、受注までデジタル化してしまうEC(ネット通販)が利用されている。カタログ品やJIS材などのコモディティでは、Webサイト上の電子カタログ利用からECへと移行し始めており、営業担当を介さない効率的な受注形態が広がり始めた。

(4)CRM(Customer Relationship Management)型

リードの獲得ではなく既存顧客の対応でデジタルを活用するパターンもある。通常、既存顧客は担当営業がフォローしているが、人的な対応には限界があるので、デジタルを併用するものだ。例えば、顧客が導入していない製品のページにアクセスし、さらにそのページを顧客の会社の複数の人がアクセスし始めれば、その製品の導入検討が進んでいると考えられる。この情報を基に、顧客から声がかかる前に、関連情報をさりげなく提供するようにしている会社もある。また、生産設備メーカーでは、生産設備の稼働状況をWebサイトで閲覧できるようにして、既存顧客のニーズを把握すると同時に、追加発注や新規商談発掘に結びつけているケースもある。

(5)ブランディング型

直接的な営業活動ではなく、コーポレートや製品ブランドの訴求のためのデジタル活用がブランディング型だ。系列外やグローバルのビジネス拡大のために、自社サイト=オウンドメディアを使ったブランディングに力を入れている企業も多い。

このようにデジタルマーケティングの取り組みは、業種や商材特性によって異なる。では、対面の営業活動を主軸としたBtoB企業では、どのような活用があるのだろうか? 商材や対象を限定した活用ではすでに効果を上げているものがある。

新規ビジネスとして3Dプリンターの販売を開始した会社では、既存営業経由で販売を試みたが上手くいかなかった。既存商品と3Dプリンターの利用部署が異なっていたので、営業が案件を掘り起こせなかったためだ。そこで、デマンドジェネレーション型のデジタルマーケティングを実施し、3Dプリンターに興味を持っているリードを探し出し、ナーチャリングしてから専門の営業担当がコンタクトする形に営業体制を変更した。新たなカテゴリーの製品は関心が高く問い合わせが多いかもしれないが、情報収集が目的で商談に進まないことも多いだろう。デジタルで案件を絞り込んで確度が高まった段階で営業リソースを投入する、この形は効率的だ。

また、CRM型のデジタルマーケティングとして、アカウント・ベースド・マーケティング(Account-Based Marketing:ABM)を実施している会社もある。ABMとは、対象を大口顧客など特定の企業(アカウント)に絞って個別にアプローチするBtoBマーケティング手法だ。大口顧客を重視する営業方法自体は多くの企業で行われているので、目新しい手法に思えないかもしれない。しかし、従来のリアルのアプローチにデジタルを加えることで、顧客接点が増えて状況把握と個別対応が効率的にできるようになる。営業担当が分からない顧客のニーズをデジタルで知ることができ、営業体制をより強くすることができる。

このように、対面営業が主流のBtoB企業であっても、デジタルマーケティングの効果は見えてきた。ただ、このような取り組みでは、主力製品を対面で営業している責任者には、デジタルマーケティングに取り組む必要性は強く感じられないかもしれない。そこで、デジタル化の本質的な価値について考えていく。

3. デジタルの本質的な価値

デジタルの活用には、「デジタイゼーション(digitization:デジタル変換)」と「デジタライゼーション(digitalization:ビジネス変革)」の2段階がある。マーケティング・営業プロセスをデジタルに変換するデジタルマーケティングの取り組みの多くは、プロセスは変更するもののビジネスモデルには手を加えないので、デジタイゼーションの段階になる。このデジタイゼーションにも価値はあるが、より価値が大きいのはビジネスモデルを変革するデジタライゼーションだ。例えば、音楽ビジネスでは、CD販売がデジタイゼーションでダウンロード販売に変わり、デジタライゼーションで定額音楽配信に進化している。このとき、販売から利用へとビジネスモデルが変わると同時に、提供プレーヤーが入れ替わって業界変革が起きている。単にマーケティング・営業プロセスがデジタルに転換されるだけでは、営業基盤が強い会社にとって脅威は少ないかもしれないが、デジタルによってビジネスモデルや業界構造が変わるとすれば、その影響は大きいはずだ。

【図2】2つのデジタル化
【図2】2つのデジタル化

このような変化を見据えて、デジタルによるビジネス変革に取り組んでいる企業として、航空機エンジン、発電設備や医療機器を製造するGeneral Electric(GE)がある。GEはシリコンバレーに先端ソフトウェアの開発拠点を作り、機器に取り付けたセンサーからのデータを収集・分析するプラットフォーム「Predix」を構築した。これを使い、航空機エンジンのビジネスでは、センサーによる異常監視だけでなく、燃料消費量の節約できる最適な運行方法を分析して航空会社に提供している。GEは、高性能の製品に加えて、新たな価値を提供してビジネスを変革し、顧客との関係を変えようとしている。航空会社は、単なるユーザーではなく、一緒に課題を発見して解決する継続的なパートナーになるはずだ。

4. デジタルの価値を活かすために

日本でもデジタライゼーションに向けた動きは出始めている。例えば、生産設備メーカーが他社MROのECも行い始めて、製造+小売のビジネスモデルに変革し、顧客にワンストップの価値を提供している。GEのような大きな取り組みではないかもしれないが、変化の兆しなのかもしれない。

では、どのようにデジタライゼーションに取り組めばいいのだろうか? ビジネス変革を行うには、ビジネスとデジタルの両方を理解した人材が試行錯誤していく必要がある。GEはデジタルが分かる人を外部から多く招いて、ドラスティックにビジネス変革を進めた。このようなアプローチは日本の企業には難しいかもしれない。そこで、社内にデジタルの価値を浸透させるために、デジタルマーケティングを実践して経験を積んだうえで、次の段階としてビジネス変革を目指すデジタライゼーションに進んだ方がいいだろう。具体的な進め方としては、ビジネス変革を見据えたうえでビジョンを作成し、それを社内で共有してデジタルマーケティングの試行錯誤に取り組んでいく。ビジネス変革は経営課題なので、ビジョン作成には経営層の参画が必要だ。素早くビジョンを作るには、経営層や部署間の「通訳」として、ビジネスとデジタルの両方を理解した第三者を加えたワークショップが有効だろう。

冒頭で紹介した対面の営業に強みを持つ営業責任者に市場の変化を聞くと、「競合の中小企業がECを始めて、顧客が価格比較をするケースがあり、現場では若干影響は出ている」ともコメントしていた。変化は徐々に起きているのかもしれない。ビジネス変革を実現する第一歩としても、デジタルマーケティングに取り組む価値があると考える。

注釈

(注1) : 知創の杜 2015Vol.8「BtoBサイトの利用状況と効果的な仕掛け」参照。

参考資料

  • 日経コンピュータ「今こそデジタルマーケティング」,2016.8.18号
  • 株式会社富士通総研・知創の杜 2015Vol.8 「BtoBサイトの利用状況と効果的な仕掛け」
  • ITmediaエグゼクティブ「未来のデジタル世界(ファースト・デジタル・ディケイド)の歩き方」,2014.10.9

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田中 秀樹

田中 秀樹(たなか ひでき)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアマネジングコンサルタント 兼 経済研究所 担当部長
マーケティング戦略支援コンサルティングなどを担当した後、経済研究所にてICTが企業や社会に与えるインパクトの調査に従事。現在はデジタルサービス開発室にて、デジタルマーケティングの新サービス開発に取り組んでいる。著書に『プラットフォームビジネス最前線』(共編著)、『インターネット広告実践法』(共著)の他、『インターネット白書』等に記事原稿を多数掲載。