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米国クリック&モルタル最新事情

(株式会社リックテレコム「月刊コンピューターテレフォニー」2001年5月号 富士通総研・田中秀樹)

調査会社ニールセン・ネットレイティングスが発表した2000年の米国クリスマス商戦ECサイト訪問者数ランキングでは、アマゾン・ドットコムと提携したトイザらスを含めて、上位15サイト中11社が実店舗かカタログ通販を手がける企業であった。中でも、ウォルマート、JCペニー、ブルーライト・ドットコム(Kマートの子会社)、シアーズといった大手小売チェーンの健闘が目立っており、昨年初旬から言われてきた、消費者向けECビジネスにおけるクリック&モルタルの躍進が現実のものとなった。

ビジット数ランキング

1999年のクリスマスシーズンまでドットコムEC企業に遅れを取っていたクリック&モルタルが、なぜ消費者向けECの主役に踊り出たのだろうか。この理由はドットコムEC企業の破綻に秘められている。玩具EC分野を取り上げ、この主役交代劇を解説しよう。

多額の顧客獲得コストがドットコムEC企業を苦しめる

3月7日、アメリカのドットコムECサイトeトイズが破産を申請した。1999年のクリスマスシーズンまで同社は、トイザらスやウォルマートといったクリック&モルタルに圧勝し、玩具EC分野で20%以上のトップシェアを誇っていた。しかし、2000年のクリスマスシーズンには売上が事前予測の半分にとどまり、その時点で収益悪化による資金枯渇は確実となっていた。eトイズ破綻の理由は、利益を出せるビジネス構造ではなかったということにある。

eトイズのような、商品を仕入れて販売する小売型のビジネスモデルで利益を出すためには、売上から商品の仕入れ代金を引いた粗利の範囲内に、マーケティングや配送等の費用を押さえる必要がある。商品によって異なるが小売型の粗利率は低く、eトイズの場合は2000年9-12月で24.3%となっていた。

しかし、同期間に投入した広告宣伝費は売上の29.5%に達し、既に粗利の範囲を超えている。大通りに店舗を出せば、集客を見込めるリアルビジネスとは異なり、ネットビジネスでは、サイトを立ち上げただけでは誰も来ない。このため、広告を出稿して顧客を獲得する必要があるが、この費用が大きすぎてドットコムEC企業の重荷となっていた。

オペレーションコストも負担に

広告宣伝費だけが問題ではない。仮に広告宣伝費を一切かけなかったとしても、配送や顧客サービス、クレジットカード手数料だけで売上の25.5%と、粗利率を超えていおり、eトイズはオペレーションコストも賄えないビジネス構造となっていた。

同社は、急成長に備えて1999年に2つ目の物流センターを立ち上げたばかりだった。売上が増えて運営効率が向上すれば1件当たり注文処理コストを押さえることが出来たかもしれないが、トイザらス等のライバルが本格的な販売を開始しており、コストダウン効果を待つ時間的余裕すら無く、eトイズは資金枯渇で破綻の道を歩むしかなかった。

インターネット業界のM&Aに関する情報を提供するウェブマージャーズによると、2000年に破綻したドットコム企業は219社を数え、このうち75%が消費者向けビジネス(ECやコンテンツ・サイト)だ。少ない粗利の中での、新規顧客獲得コストとオペレーションコストの負担が、多くのドットコムEC企業破綻の理由となっている。なお、破綻企業数は2001年になっても減る兆しを見せない。

ドットコム企業の破綻数推移

>弱点を補ったクリック&モルタル

一方、1999年のクリスマス商戦では、トイザらスのネット販売は大失敗に終わり、ドットコムベンチャーに完敗を喫すこととなった。

5月に子会社として設立されたトイザらス・ドットコムは、ECサイトを9月にオープンした。同社は、クリスマス商戦を迎えた11月初旬からサイトのダウンを頻発させただけでなく、配送指令を出すプログラムのエラーで、20件のうち1件はクリスマス当日迄に商品を届けることができなかった。クリスマスシーズンという短期間にトラフィックが集中する、特殊な状況に対応できるECサイト構築技術を持っていなかったことがトラブルの原因だ。

このため、2000年のクリスマス商戦は体制を変えて臨むこととなり、トイザらス・ドットコムは世界最大のECサイトを運営するアマゾン・ドットコムと業務提携する道を選んだ。顧客獲得、商品仕入れ、在庫管理をトイザらス・ドットコムが担当し、サイトの運営、受発注業務、商品の発送、顧客サポートはアマゾン・ドットコムが行う。自社の強みを生かす一方で、外部リソースを活用して短時間に弱点を補強する戦略だ。

この提携が効果を奏し、サイトのトラブルを解消しただけでなく訪問者数ランキングでもトップに躍り出て、トイザらスは前年の雪辱を果した。ただ、クリック&モルタルが主役なったといっても、それはライバルの破綻によるところが大きく、実力とは言えない。まだクリック&モルタルには課題が残されている。

相乗効果がクリック&モルタルの強み

ここで、クリック&モルタルの強みを整理すると次の3点になる。
1.ネットと店舗の連携
2.確立されたブランド
3.経営資源(購買交渉力、資金力等)

クリック&モルタルがマルチチャネルとも呼ばれるように、ネットと店舗の連携が価値を持つ。例えば、ネットで販売した商品の返品を店頭で受付ける等、顧客の選択肢を増やすことができる。

また、ショッピングバックや通販用のカタログにECサイトのアドレスを記載するだけで既存顧客をサイトに誘導できるので、ドットコムEC企業破綻の一因となったマーケティングコストを抑えることが可能だ。実際、1999年のドットコムEC企業の顧客獲得単価が82ドル(売上高に占めるマーケティング費用の比率は119%)だったのに対し、店舗展開のクリック&モルタルは31ドル、カタログ通販のクリック&モルタルは11ドル(同6%)に留まっている。

顧客獲得コストとマーケティング費用比率

経営資源活用もコストダウンに貢献する。店舗と合わせた仕入れの一本化により、ドットコムEC企業より商品調達が有利になる。また、カタログ販売を行っている場合は、配送や顧客サポート等既存のインフラを活用することで、オペレーションも効率よく運営できる。

しかし、このような強みを生かしていない場合はクリック&モルタルであっても、少ない粗利からさまざまなコストを差し引かねばならないという、ドットコムEC企業が苦しんだ小売型コスト構造の欠陥を完全にカバーするのは難しい。

まだまだ少ない強みを生かしたクリック&モルタル

米国最大の書店チェーンバーンズ&ノーブルはアマゾン・ドットコムに対抗して1997年にECサイトを立ち上げた。ドットコム企業と同様に他社から出資を受けて株式公開を目指したため、ECサイトは店舗と完全に切り離して運営される独立子会社となった。これでは、前述の強みのうち生かせるのはブランド力と仕入れの部分に限られる。結果として、独立子会社であるバーンズ&ノーブル・ドットコムの業績は、ドットコムEC企業と同様に赤字続きだ。

バーンズ&ノーブルがECサイトで購入した商品の返品を店頭で受付けたり、店舗とECサイトの会員制割引サービスを共通化するといった連携を始めたのは、昨年の10月からである。

一方、クリック&モルタルの成功例と言われているのがオフィス・デポだ。同社は、ECサイトを単なる販売チャネルの一つと位置づけ、カタログ通販事業のために所有していた、2000台以上のトラックや26の物流拠点、専門スタッフが運営するコールセンター、顧客情報や購買情報が蓄積された情報システムをそのまま転用した。また、ネットで注文した商品を店頭でピックアップできるサービスも行い、ネットと店舗の相乗効果も高めている。

しかし、オフィス・デポは数少ない成功事例で、ネット進出した小売業のうち相乗効果を発揮していない企業は67%にも達する、との調査結果が物語っているように強みを生かしたクリック&モルタルは少ない。

クリック&モルタル

顧客満足度向上と利益確保が今後の課題

その他にも課題はある。既に 国民の半数以上がインターネットを使っている米国では、以前のようなネット利用者の急増は望めない。このため、積極的なプロモーションを行って新規顧客を獲得するよりも、いかに既存顧客を維持してリピート顧客を育成していくかが重要になってくる。

クリック&モルタルは、サイトの訪問者数では主役となったものの、顧客満足度の面ではドットコムEC企業に遅れを取っている。ニールセン・ネットレイティングスとハリス・インタラクティブの共同調査結果によると、2000年12月のECサイト顧客満足度ランキングでは、上位10社のうち7社をドットコムEC企業が占めていた。クリック&モルタルのECサイトオペレーションには改善の余地がありそうだ。

同時に、インターネットユーザーが一般化しているため、商品選択にサイトを使っても、問い合わせや注文は電子メールやサイトを嫌い、電話や店舗を使うユーザーが増えてきた。実際、ジュピター・メディア・メトリクスの調査結果では、ネットショッパーのうち、ECサイトで注文した商品の店舗受け取りを希望する人は59%に達しているのに対し、このサービスを行っているクリック&モルタルは18%しかない。

ネットと店舗でバラバラに対応していては、顧客に満足してもらえないだけでなく、逆にマイナスイメージを与える可能性もある。チャネル別の情報システムの統合が、今後欠かせないものになるだろう。

また、EC事業の利益確保も課題となっている。現状では、バーンズ&ノーブル・ドット・コムのように株式公開した別会社でないかぎり、EC事業による損失額は全体収益にまぎれて明らかにされないため、クリック&モルタルの赤字は目立たないだけである。

利益の出ないECは長続きしない。クリック&モルタルの強みを生かしてコストダウンを行い、ネットビジネスを黒字に導くことが求められている。

今後の課題

全てのクリック&モルタルが成功する訳ではない

ドットコムEC企業に比べて有利な点が多いとはいえ、クリック&モルタルであること自体が成功を意味するものではない。一時のドットコム・ブームのように、ただクリック&モルタルだからといって持てはやすわけには行かない。

アマゾン・ドットコムがスターバックスと提携して店頭で返品ができるようにしたり、ネット証券のE*トレードが大手ディスカウント・チェーンのターゲット店舗内に金融サービスセンターを設置するなど、ドットコム企業も生き残りを賭けリアルとの連携を模索している。
クリック&モルタルかドットコムEC企業か、という企業形態の違いではなく、ネットという新たなチャネルを有効に活用してユーザーニーズを満たした企業だけが生き残ることになるだろう。


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