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アマゾン黒字化への道 ゴール、そしてまた新たなスタートへ

アマゾン・ドットコムが2001年10−12月期に開業以来初の黒字を計上した。しかも、1年前からの公約だったプロフォーマ・ベースの営業黒字ではなく、誰も予想していなかった一般会計基準による正真正銘の黒字だ。これによりアマゾンは、ネットバブル崩壊とともに消えた、凡百ドットコム企業とは完全に異なる轍の上にあることを見事に証明してみせた。同社の黒字はいかにして達成されたのか。業績数値から要因を分析するとともに、新たなスタートラインに立った同社の今後の展望をレポートする。
(富士通総研 倉持真理 2002年2月)

四半期黒字達成、奇跡の逆転大ホームラン

アマゾンが2001年10−12月期(第4四半期)の黒字転換という目標を公に宣言したのは今から1年前の1月末だ。このとき同社は、2001年通年の収入の伸びが、以前の予想を大幅に下回る前年比20−30%増にとどまる見込みであることを明らかにし、ジョージア州の配送センターとシアトルの顧客サービス・センターの閉鎖、15%の人員削減を含むリストラ策を合わせて発表した。それまで成長力を評価されてきた企業が、それに代わる価値を提示するには、利益を出すよりほかになかった。

ただし、黒字といっても一般会計基準による純粋な黒字ではない。同社が公約したのは、プロフォーマ営業収支という条件付きの黒字だった。

プロフォーマ(「形式上の」という意味)営業収支は、買収やリストラなどの一時費用と、現金支出の発生しない株式での報酬支払いや償却費用を除外して計算される。これには、営業外収支を含む一般会計基準で最終的に赤字でも、営業面では、一時的に発生する費用を除けば、キャッシュ・フローが黒字になる状態であることを示す意味がある。1年前の時点でアマゾンに約束できるのは、これが精一杯だった。

開業から6年になる同社が、ネットバブルの後遺症の赤字体質を克服し、長期的に存続可能な事業の構築に成功したことを証明するには、なんとしてもこの公約を実現させなければならなかった。そのために同社は1年間、徹底したコスト削減と新たな高収益事業の開拓に懸命に取り組んできた。

表1.アマゾンの主な収益確保策(2001年発表)
対策 時期 内容
オークション手数料実質値上げ 2001年1月開始 アマゾン・コム・ペイメンツ利用者からも手数料を徴収
アマゾン・オナーシステム 2001年2月開始 中小コンテンツ・サイト向け課金サービスで手数料を得る
書籍プロモーション有料化 2001年2月 開始サイトで紹介する書籍の出版社からプロモーション料を徴収
ボーダーズとの提携 2001年4月発表
2001年8月開始
大手書店チェーン、ボーダーズのECサイト開発・運営を請け負う
AOLタイムワーナーとの提携 2001年7月発表
2002秋開始
AOL参加のサイトのショッピングエリアにアマゾンのプラットフォームを採用
コンピュータ類の販売 2001年8月開始 新商品カテゴリーにコンピュータ類を追加。自社で仕入れた商品ではなく契約サプライヤーの商品を掲載し、注文を仲介する
サーキットシティとの提携 2001年8月発表
2001年12月開始
大手家電専門店チェーン、サーキットシティの商品をサイト上で販売。顧客は配達と最寄り店舗での引き取りから好きなほうを選べる
ターゲットとの提携 2001年9月発表
2001.秋以降順次開始
百貨店、ディスカウントストアを展開するターゲットの商品をサイト上で販売。ほかにターゲット傘下の4つのECサイトの開発を請け負い、2002年夏から運営開始

しかし、同社の業績発表が予定された1月22日の前週、この件について触れたいくつかの報道のトーンは、いずれも「アマゾンは公約を達成できるか?」という期待や疑問ではなく、「公約達成したところで赤字は赤字」という厳しい見方を提示するものだった。つまり、公約未達はまったくの問題外で、せっかく公約を達成しても、それで評価が格別上がることはよもや期待できなかった。

そして当日。ふたを開けてみると公約達成にとどまらない完全な黒字という誰もが予想だにしなかった好結果が飛び出した。同社の先行きに対する根強い疑念や株主の不満を一気に吹き飛ばす、奇跡の逆転大ホームランだった。

黒字の舞台裏

それでは何が同社をこの快挙に導いたのかを、業績数値で詳しく見ていくことにしよう。
【純利益は偶然の産物】

2001年第4四半期の売上げは、前年同期比15%増の11.2億ドルと初めて10億ドルを突破し、一般会計基準による純利益508万ドルを記録した。公約のプロフォーマ営業収支は5686万ドルの黒字で、一時費用と株式による報酬、償却を含めた営業収支も1453万ドルの黒字となっている。

一方、営業外収支では、3529万ドルの利子支出が大きく足を引っ張ったが、ユーロからドルへの為替差益1631万ドルがあったため、最終的に純利益を計上することができた。つまり、同社CEOのベゾス自身もあるメディアのインタビューで語っているとおり、同社の完全黒字化達成の決め手となったのは、ユーロからドルへの為替差益という予期せぬ偶然の要因だった。

【経営効率の大幅改善】

純利益は偶然の産物としても、営業利益は偶然には出ない。運営コストの変化を四半期ごとに追っていくと(表2)、注文処理コストからの無形資産償却まで、定常的に発生するすべての費用項目が対売上げ比で減少していることがわかる。とくに2001年第4四半期は、第3四半期とさほど変わらない運営コストで、1.7倍もの売上げをあげている。コスト削減と経営効率の向上が、営業利益につながったことは間違いない。

【海外事業が貢献】

収入カテゴリー別に状況を見ると、2001年第4四半期の米国での商品売上げ(表2:米国BMVD+米国ETK)は、前年同期比3%のわずかな伸びにとどまったのに対し、海外事業(イギリス、ドイツ、フランス、日本)の売上げが、前年同期比81%もの伸びで成長を牽引した。海外事業のプロフォーマ営業赤字は前年同期の4分の1以下に縮小し、全体の収益改善にも大きく貢献している。同社によると、イギリス、ドイツのプロフォーマ営業収支は、すでに黒字になったという。

また、収益の足かせとなっていた米国の家電、工具、キッチン用品などのカテゴリー(表3:米国ETK)も、粗利が16%に増加し、プロフォーマ営業赤字は3分の1以下に縮小した。このカテゴリーには、トイザラスやサーキットシティのようなサイト出店企業の販売コミッション収入が含まれており、自社仕入れの商品を減らしたことが、収益改善につながったと推測される。

新たなスタートラインへ

完全黒字化によりネットバブルの因縁を断ち切ったアマゾンは、2002年に新たなスタートラインに立った。ただし、偶然の幸運が毎回期待できるはずもなく、これからは再び四半期ごとのプロフォーマ営業黒字を目標とする日々がはじまる。

同社は今年第1四半期の見込みとして、売上げが前年同期比11−18%増、プロフォーマ営業収支はゼロから1600万ドルの赤字を予想している。また、通年では売上げが前年比10%増、営業収支のキャッシュフロー黒字化という現実的なラインを示した。

頼みの綱は、昨年夏以降、次々と提携したAOLタイムワーナー、サーキットシティ、ターゲットへのECプラットフォーム提供事業だ。サーキットシティとターゲットはすでにアマゾンのサイト内に出店して商品を販売しているが、ターゲットはこれに加えて傘下の4つのECサイトにアマゾンのプラットフォームを採用し、この夏からアマゾンに全面的に運営を委託することを決定している。また、アマゾンの少数株主となったAOLタイムワーナーは、今年のクリスマスシーズンからAOL傘下のショッピング・サイトにアマゾンのプラットフォームを導入する予定だ。こうした提携は、アマゾンにより利益率の高い収入をもたらし、さらなる経営改善に貢献すると期待される。

一方、アマゾンは今回の業績発表と同時に、米国で「スーパー・セイビング・シッピング」と名付けた新サービスの導入を明らかにした。クリスマス・シーズンに期間限定で行っていた、合計99ドル以上の購入で送料を無料にするプロモーションを通年で実施するものだ。この方法を選ぶと、配達日数は通常より3−5日余分にかかるが、とくに急いでいない顧客にとっては魅力的なオプションになる。

配送コストの増加は必至だが、このところ低迷している米国内の売上げを伸ばすために、思いきった賭けに出たらしい。厳しい状況のなかでも守勢一方にならず、常に顧客の側を向いてよりよいサービスを追及する、同社の姿勢を表すものだ。

アマゾンには、一山越えても、また次の高い山を越えることが期待されている。

表2.アマゾン・ドットコムの四半期業績の推移(単位:千ドル)
2001年
通年
2000年
10-12月
第4四半期
2001年
1-3月
第1四半期
2001年
4-6月
第2四半期
2001年
7-9月
第3四半期
2001年
10-12月
第4四半期
売上げ 972,360 700,356 667,625 639,281 1,115,171 3,122,433
売上げ原価 748,060 517,759 487,905 477,089 841,122 2,324,875
粗利 224,300 182,597 179,720 162,192 274,049 798,558
(粗利率) (23.1%) (26.1%) (26.9%) (25.4%) (24.6%) (25.6%)
運営コスト(下段:対上げ比)
注文処理 131,028
(13.5%)
98,248
(14.0%)
85,583
(12.8%)
81,400
(12.7%)
109,019
(9.8%)
374,250
(12.0%)
マーケティング 55,195
(5.7%)
36,638
(5.2%)
34,658
(5.2%)
32,537
(5.1%)
34,450
(3.1%)
138,283
(4.4%)
技術/コンテンツ開発 69,791
(7.2%)
70,284
(10.0%)
64,710
(9.7%)
53,846
(8.4%)
52,325
(4.7%)
241,165
(7.7%)
一般管理 28,232
(5.9%)
26,028
(3.7%)
22,778
(3.4%)
21,481
(3.4%)
19,575
(1.8%)
89,862
(2.9%)
*株式による報酬 ▲1,112
(▲0.1%)
2,916
(0.4%)
2,351
(0.4%)
▲2,567
(▲0.4%)
1,937
(0.2%)
4,637
(0.1%)
*無形資産償却 79,210
(8.0%)
50,831
(7.3%)
50,830
(7.6%)
41,835
(6.5%)
37,537
(3.4%)
181,033
(5.8%)
*リストラ費用 184,052
(18.9%)
114,260
(16.3%)
58,650
(8.8%)
3,994
(0.6%)
4,681
(0.4%)
181,585
(5.8%)
運営コスト合計 546,396 399,205 319,560 232,526 259,524 1,210,815
(対売上げ比) (56.2%) (57.0%) (47.9%) (36.4%) (23.3%) (38.8%)
営業収支 ▲322,096 ▲216,608 ▲139,840 ▲70,334 14,525 ▲412,257
プロフォーマ営業収支 ▲59,946 ▲48,601 ▲28,009 ▲21,938 58,680 ▲207,902
利子収入 10,979 9,950 6,807 6,316 6,030 29,103
利子支出 ▲36,094 ▲33,748 ▲35,148 ▲35,046 ▲35,290 ▲139,232
その他収入・支出 ▲5,362 ▲3,884 ▲1,178 ▲2,203 5,365 ▲1,900
その他損益 ▲155,005 33,857 11,315 ▲63,625 16,312 ▲2,141
営業外収支 ▲185,485 6,175 ▲18,204 ▲94,558 ▲7,583 ▲114,170
出資による損失 ▲37,559 ▲13,175 ▲10,315 ▲4,982 ▲1,855 ▲30,327
会計変更累積影響額 ▲10,523 ▲10,523
純損失 ▲545,140 ▲234,131 ▲168,359 ▲169,874 5,087 ▲545,140
表3.収入カテゴリー別四半期業績の推移(単位:千ドル)

2001年
通年
2001年
10-12月
第4四半期
2001年
1-3月
第1四半期
2001年
4-6月
第2四半期
2001年
7-9月
第3四半期
2001年
10-12月
第4四半期
売上げ 972,360 700,356 667,625 639,281 1,115,171 3,122,433
カテゴリー別売上げ(下段:全体比率)
米国BMVD*1 511,671
(52.6%)
409,586
(58.5%)
389,723
(58.4%)
351,431
(55.0%)
538,012
(48.2%)
1,688,752
(54.1%)
米国ETK*2 220,203
(22.6%)
116,507
(16.6%)
110,957
(16.6%)
103,112
(16.1%)
216,614
(19.4%)
547,190
(17.5%)
米国サービス*3 95,601
(9.8%)
42,158
(6.0%)
38,599
(5.8%)
46,247
(7.2%)
98,113
(8.8%)
225,117
(7.2%)
海外事業*4 144,885
(14.9%)
132,015
(18.8%)
128,346
(19.2%)
138,491
(21.7%)
262,432
(23.5%)
661,374
(21.2%)
粗利 224,300 182,597 179,720 162,192 274,049 799,558
(粗利率) (23.1%) (26.1%) (26.9%) (25.4%) (24.6%) (25.6%)
カテゴリー別粗利(下段:粗利率)
米国BMVD 138,989
(27.2%)
109,119
(26.6%)
110,844
(28.4%)
93,354
(26.6%)
139,812
(26.0%)
453,129
(26.8%)
米国ETK 22,407
(10.2%)
17,220
(14.8%)
13,159
(11.9%)
13,327
(12.9%)
34,678
(16.0%)
78,384
(14.3%)
米国サービス 36,672
(38.3%)
28,208
(66.9%)
26,352
(68.3%)
27,348
(59.1%)
44,531
(45.4%)
126,439
(56.2%)
海外事業 26,232
(18.1%)
28,050
(21.2%)
29,365
(22.9%)
28,163
(20.3%)
55,028
(21.0%)
140,606
(21.3%)
プロフォーマ営業収支 ▲59,946 ▲48,601 ▲28,009 ▲21,938 58,680 ▲207,902
カテゴリー別プロフォーマ営業収支
米国BMV D39,122 27,625 38,967 26,223 63,938 156,753
米国ETK ▲72,725 ▲45,833 ▲41,322 ▲33,107 ▲20,423 ▲140,685
米国サービス 17,207 4,176 4,339 7,812 25,715 16,068
海外事業 ▲43,550 ▲34,569 ▲29,993 ▲28,000 ▲10,550 ▲103,112

*1 米国内での書籍、音楽、ビデオ、DVDの売上げ。アマゾン・マーケットプレイス出店企業による中古品販売のコミッションと、提携先のボーダーズ・ドットコムの売上げも含む。

*2 米国内での*1以外の商品の売上げ。家電、工具類、キッチン用品、パソコン、ゲーム・ソフトなど。トイザラス、サーキットシティなどの出店企業からの販売コミッションも含む。

*3 オークション、zショップス、アマゾン・ペイメントの手数料や、マーケティング・サービス収入など。

*4 イギリス、ドイツ、フランス、日本。

このレポートは、ワン・トゥ・ワン・マーケティング協議会の「OTOMA ONLINE」のために執筆した記事に一部加筆したものです。


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