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オービッツ参入で大揺れの米オンライン旅行業界

世界各地でも航空大手の旅行販売サイト設立計画が進行中

米国消費者向けEC市場の最大カテゴリーとして急拡大を続けるオンライン旅行販売の分野に、大手航空会社5社が共同運営する「オービッツ」が参入、6月4日より、正式にサービスを開始した。オービッツの参入で、激しい乱気流に揉まれる米国オンライン旅行業界の模様をレポートするとともに、世界各地で進行する大手航空会社出資の同様の旅行販売サイト計画について紹介する。
(富士通総研 倉持真理 2001年7月)

業界史上最大のカタキ役:オービッツとは

米国国内航空路線の74%のシェアを握るアメリカン、コンチネンタル、デルタ、ノースウェスト、ユナイテッドのジョイント・ベンチャーであるオービッツ*1は、航空券に限らず、ホテル、レンタカー、クルーズ、パック旅行とフルラインを扱う旅行販売サイトだ。とりわけ、5社以外のものを含む世界445路線の航空券を、ライバルに真似できない低価格と品揃えで提供し、最先端の検索技術によって、200万件もの航空料金データをさまざまなオプション、条件で瞬時に検索する能力を誇っている。

オービッツはその安さを証明するため、自らアーサー・アンダーセンを雇って調査を実施。国内トップ100路線の航空券代金の比較調査では、およそ5件に4件の割合で、ライバルのトラベロシティ*2エクスペディア*3よりオービッツが安い結果となったと主張している。また、ホライズン・リサーチに行わせた調査から、インターネットで旅行商品の購入経験を持つ消費者は、3対1の割合で、オービッツの豊富な品ぞろえと低価格をトラベロシティ、エクスペディアより優れていると評価した、などと自社の優位をアピールしている。

さらに、オープン初日の6月4日から7月15日の毎日、期間中合計1000人以上に国内路線の往復航空券を抽選で無料提供し、毎週1度は、ペア1組に海外旅行の全費用をプレゼントする大がかりなキャンペーンでオープニングを盛り上げている。

オープンまでの経緯:激しい反対運動の標的に

そもそも、最初に5社が新しい旅行販売サイトの計画を発表したのは1999年11月だった。当初、オービッツは2000年9月のオープンを目指していたが、準備に手間取り、サイト機能開発と顧客サービスに万全を期すためとして、9カ月もオープンを延期した。

この間、23州の司法当局をはじめ、旅行販売サイトの業界団体ITSA(Interactive Travel Services Association) *4、旅行代理店の業界団体、消費者団体などがこぞって計画に反対し、大手航空5社の旅行販売サイトは、オンライン航空券市場の独占を図るもので、競争上不当であるとして、運輸省(DOT:Department Of Transportation)と司法省に調査を要求する一幕があった。なかでもITSAは、マサチューセッツ工科大学の経済学の教授に委託し、オービッツの参入で市場の力関係が偏り、価格競争やイノベーション、低価格航空会社が阻害された結果、消費者が総額32億ドル分もの余分な航空料金を負担する羽目になるとの試算を発表、懸命なオービッツ参入反対運動を繰り広げた。

しかし、調査を行ったDOTは今年4月、「オービッツに計画停止を求める正当な証拠は見あたらない」という結論に達し、代わりにオービッツにオープンから半年間、当初の事業計画どおりに事業が行われているかどうか、また、事業計画からの変更があればその内容をDOTに報告することを義務付けるにとどまった。

サウスウェスト航空の抵抗

オービッツに反対したのは旅行代理店だけではない。低価格航空会社として有名なサウスウェスト航空が、5月にカリフォルニアの連邦地裁でオービッツを相手取り、商標侵害と虚偽の広告、不当な競争を申し立てる訴訟を起こした。サウスウェストは、オービッツが許可なく同社の航空料金やフライト・スケジュールの情報をサイトに掲載したばかりか、料金やルート、スケジュールに関する誤った情報を訂正することを拒否したと主張している。

航空券販売の3割以上を自社サイトでの直接販売から得ることで低価格を実現し、好業績をあげてきたサウスウェストにしてみれば、旅行代理店や一般の旅行販売サイトを通じた販売に手数料を支払うならまだしも、ライバルである大手航空会社の運営するオービッツに手数料を支払うのは、承服しかねるというわけだ。

サウスウェストは7月初旬、各航空会社が登録したフライト情報を、旅行代理店の使う予約システム(CRS)やオービッツを含む旅行販売サイト向けに提供するエアライン・タリフ・パブリッシング社のデータベ−スに、自社の情報を登録しないという決定を下した。このままでは、サウスウェストの情報は同社のサイトからしか見られなくなり、旅行代理店や旅行販売サイトを通じて航空券を販売するのは非常に難しくなる。かわりにサウスウェストは、セイバーなどの大手CRS運営会社との間で、個別に情報を提供する話合いを進めており、オービッツ以外の旅行代理店や旅行販売サイトに情報を提供する代替手段を講じている。

サウスウェストとオービッツの訴訟の決着は、まだついていない。

オープン当日:アクセス殺到、嬉しい悲鳴

業界内外からの猛反発のなか、オービッツは昨年半ばに広報サイトを立ち上げ、10月に航空料金検索機能の公開と、ベータ・テストの参加ユーザー募集を開始。今年春からのユーザー限定テストを経て、フルサービスでの正式オープンにこぎ着けた。昨年10月から集めた事前登録ユーザーは、オープン時には17万5000人に達していた。

こうして迎えたオープン当日、オービッツのサイトにはキャンペーンと安さに惹かれた消費者が殺到し、光ファイバー・ケーブルのトラブルで、3時間にわたりサイトのレスポンスが鈍ったことに加え、顧客サービス要員不足で、問い合わせの電話にも満足に応じられない事態となった。アクセスと電話問い合わせの集中、サーバーのアップグレード作業などに伴う混乱状態は、さらに3日のあいだ続いた。

同社はオープン2日後、すでに顧客サービス要員の増員に着手し、3週間以内に現在の倍の200人体制とする予定であることを発表、ついでに初日の旅行取扱高が100万ドル、翌日は330万ドルにのぼったと、嬉しい悲鳴をあげてみせた。ちなみに、ベータ・テスト期間中に同社が販売した航空券の取扱高は、数カ月の合計で350万ドルだった。

対抗する既存勢力:競争激化で収益悪化の懸念

一方、オービッツの参入阻止に失敗した既存旅行販売サイトは、強敵の襲来に戦々恐々となり、それぞれにさまざまな対抗手段を打ち出している。

業界ナンバー1のトラベロシティは、オービッツ参入の前週から、全米向けのTVコマーシャルで新しいブランド・キャンペーンを開始した。クリック&モルタルのチープチケッツ*5も、開業以来はじめてという大がかりなTVコマーシャルで、既存顧客と新規顧客の両方にアピールする作戦に出ている。また、ディスカウント専門の旅行販売サイトとして人気のあるホットワイアー*6は、スタンフォード大学ビジネススクールの博士と会計監査のKPMGに協力を仰ぎ、オービッツの価格比較調査に似た調査結果を一足早い5月末に発表した。トラベロシティとエクスペディアの料金と比較すると、およそ4件に3件の割合で、2社よりホットワイアーの料金が安い結果となったというものだ。

夏のバケーション・シーズンを控え、旅行販売サイトのキャンペーン合戦は、今後さらに激化すると予想される。そして、これにより心配されるのが、旅行販売サイトの収益悪化だ。

業界最大手のトラベロシティとエクスペディアは、昨年来、マーケティング・コスト削減などの厳しい経営努力を重ね、今年第1四半期(1−3月)にやっとほぼ黒字という状態を達成したばかりだった。リストラに取り組み、旅行販売に焦点を絞ったプライスライン*7も、第2四半期(4−6月)の大幅な収益改善を目指している。しかし、オービッツはこれらの企業をいやおうなく体力消耗戦へと引きずり戻し、ふたたび改善の目処の立たない赤字の状態へと、転落させる可能性がある。

競争に賭けるか、収益を取るか。しかし、戦い、勝たなければ結局、収益は悪化する。業界史上最大のカタキ役、オービッツの参入により、既存旅行販売サイトは難しい選択を迫られている。

欧州、アジアでも進む航空会社のジョイントベンチャー

オービッツの計画発表以降、世界各地でオービッツと同様の大手航空会社の共同出資による旅行販売サイトの計画が持ち上がっている。欧州では、昨年8月にエア・リンガス、エール・フランス、アリタリア航空、オーストリア航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、フィンランド航空、イベリア航空、KLM、ルフトハンザの9社が計画を発表。この6月にサイト名を「オポドゥ*8」と命名した。オポドゥはロンドンを本拠とし、今年末までにドイツ、英国、フランス向けのサービスを開始、その後2002−2003年の間に、欧州全域にまで拡大する予定だ。

また、アジア太平洋地域でも昨年6月、シンガポール航空、カンタス、キャセイ・パシフィック、中華航空など11社からなるトラベル・エクスチェンジ・アジア*9が発足し、年内のオープンを目指している。この計画には、米国の大手旅行販売サイトのトラベロシティが出資し、技術提供などを行っている。

日本にも同様の計画が二つある。一つは、7月16日にオープンする日本航空、全日空、日本エアシステムの3社の共同出資による国内航空券販売サイト「国内線.com*10」だ。ただし、このサイトは、航空券以外の旅行商品は扱わない。もう一つは、日本航空、全日空、ノースウェスト航空、ユナイテッド航空に、トラベル・エクスチェンジ・アジアが加わった海外旅行販売サイトで、主に海外旅行を個人手配する消費者を対象にするという。昨年8月の発表時には昨年内オープンの予定となっていたが、その後のスケジュールは不明だ。

航空会社にとって一番利益があがるのは、いうまでもなく自社での直接販売だが、消費者にとっては、ほかの航空会社の路線やパック旅行と比較したり、ホテルやレンタカーを一緒に手配できる総合旅行販売サイトのほうが都合よい。直接販売の次善の策として、航空会社が共同出資の旅行販売サイトを立ち上げるのは、当然の理といえる。

米国ほど市場が発達していない地域では、航空会社共同出資の旅行販売サイトは、業界からさほどの抵抗もなく受け入れられる可能性はある。反面、オービッツのように魅力ある機能とマーケティング能力を備え、消費者の関心を惹きつけられるサイトを開発できるかどうかはまだわからない。どの計画も、複数企業が意見の調整を取りながら進める必要があるせいか、サイトのオープンまでにはまだ時間がかかりそうだ。

*1 http://www.orbitz.com

*2 http://www.travelocity

*3 http://www.expedia.com

*4 トラベロシティ、エクスペディアをはじめとするオンライン旅行業界の大手企業が加盟している。

*5 http://www.cheaptickets.com
インターネット、店舗、電話の3つのチャネルで営業。

*6 http://www.hotwire.com
昨年10月にオープンした新しい旅行販売サイト。実は、アメリカン、コンチネンタル、ノースウェスト、ユナイテッドの4社は、このホットワイアーにも出資している。ほかに航空会社2社と、ベンチャー投資会社が出資。

*7 http://www.priceline.com

*8 オポドゥの名前の由来は「Opportunity to Do(行動する機会) 」を縮めたもの。

*9 サイトの正式名称(サービス名)はこれから決まる。出資航空会社は前述のほかニュージーランド航空、アンセット・オーストラリア、EVAエア、ガルーダ・インドネシア航空、マレーシア航空、ロイヤル・ブルネイ航空、シルクエア。

*10 http://www.kokunaisen.com

米国
日本

(注)このレポートは、ワン・トゥ・ワン・マーケティング協議会の「OTOMA ONLINE」のために執筆した記事に一部加筆したものです。


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