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書籍解説『eBayオークション戦略−究極のインターネット・ビジネスモデル−』

米国で多くのドットコム企業が生まれて消えていったなか、どうしてeBayだけは黒字で堂々と花道を歩んでこられたのか −− 世界最大のネットオークション会社、eBayの成功の秘訣を探る『eBayオークション戦略−究極のインターネット・ビジネスモデル(デビッド・ブネル/リチャード・レッケ著、中川治子訳)』が7月にダイヤモンド社から刊行されました。その新刊書籍の解説文を転載します。
(富士通総研 倉持真理)

最近、TVで流れている某外資系IT企業のコマーシャルをご存じだろうか。たしかこんな筋書きである。

ネット上でビジネスを営むある企業で技術トラブルが発生する。幹部らしい白人の中年女性が、休日にオフィスの会議室に呼び集めた部下たちに向かって言う。「今から2時間××分前にシステムがダウンしました」。「現在、1時間で××万ドルの損失です」と脇でノートパソコンに向かう男性。その後、管理会社やデータベース会社がトラブルの原因ではないかと疑ったり、ウェブサイトのデザイナーを呼び出そうとするなど、実はその場にいるスタッフは誰もよく事態を把握していないことが判明し、いらだった女性幹部は思わず声を荒らげる。「すべてを取りまとめる責任者はいったい誰なの?!」。
一瞬シーンとなった後、ささやき声のナレーションが入る。「それはあなたですよ」。

現実にあってもおかしくない光景である。こんな話ではじめたのは、システムがダウンしてビジネスに深刻な被害が発生する状況といい、ネットビジネスの企業幹部に中年女性を据えたところといい、米国で制作されたと思われるこのコマーシャルの企画者の頭には、eBayのイメージがあったのではないかと思えたからだ。

といっても、98年から99年にかけてeBayで現実に発生した断続的な技術トラブルは、間違ってもこのコマーシャルのような展開にはならなかった。同社のCEOであるメグ・ウィットマンが、並外れた決断力を発揮し、同社史上最大の危機であったこのトラブルを見事に乗り越えたのだ。

余談はさておき、本書は2000年9月に米国のジョン・ワイリー・アンド・サンズ社から出版された『The eBay Phenomenon - Business Secrets Behind the World's Hottest Internet Company』の完訳である。

タイトルを直訳すれば「eBay現象」。eBayがP2P(Person To Person)オンライン・オークションという新しいビジネスを立ち上げたことで、多くの中小企業やコレクター、インターネット・ユーザーの活動、生活が変化し、その影響は単なる一企業の枠を越え、社会現象といえる状況をつくりだしたと見るものだ。

そればかりか同社は、短期間に驚異的な成長をなし遂げ、しかもネットビジネスの世界ではきわめて稀な黒字のビジネスを確立した。米国のネットバブルが崩壊し、ほとんどのドットコム企業が資金枯渇による破綻への道を歩んだ2000年春以降も高成長を続け、さすがに一時より下がった株価を再び高水準に戻しつつある事実が、なによりこの見方を補強している。

本書はそんなeBayの誕生から2000年前半にいたるまでの経緯と同社の取った戦略、ユーザーの側から見たeBayの姿を通じ、その成功の秘訣を探っている。本文中で明かしているように、著者は本書を執筆するにあたって、eBay内部の人間に直接インタビューする機会を得ることはなかった。このため、同社の成功のかげには実はこんな事実があった、というような内輪話はあまりない。

しかし、周辺の人物とユーザーへのインタビュー、公式資料やメディアの報道、つまり外側から見た事実だけをベースとしながらも、本書が十分納得のいく内容となっているのは、同社の成功の秘訣がそれほどストレートで明白な要素から成り立っているからだろう。

これはけっして同社の成功への道のりが平坦だったということを意味しているわけではない。eBayはそれまで存在しなかったネット上でのP2Pオークションというビジネスを起こし、成長の過程で次々と発生する新たな事態に急スピードの疾走を続けながら対応し、後に参入したあらゆる企業が取り入れ、いまやP2Pオンライン取引のスタンダードとなった数々のルールや手法、サービス機能を単独でゼロから築き上げた。

また、第5章などで著者が触れている冒頭のコマーシャルの発想の元になったらしい(確認はしていないが)一連の技術トラブルは、あまりに成長が急であるがゆえの試練であり、同社が乗り越えてきた困難を象徴するものといえる。

eBay成功の秘訣

ここでeBayの成功の秘訣を、本書の内容に筆者自身の解釈を加えておさらいしてみたい。

思うに、同社の成功要因はビジネスモデルの卓抜性によるものと、偶然の幸運、そして、同社が意図した戦略によるものの三種類に分けられるのではないだろうか。

ビジネスモデルの卓抜性は、自ら仕入れた商品の在庫を販売するB2CのEコマース・モデルではなく、コミュニティをベースとしたP2Pオークションの場の提供に徹したことによる。このことで、eBayはB2CのEC企業(しかも破綻した)によくある既存のビジネスを単にネット上に移しかえただけのものではない、強力な存在価値と高い収益性を備えたビジネスモデルを持つことになった。

次に、偶然の幸運とは、とりもなおさず「ファースト・ムーバーズ・アドバンテージ(先発の優位)」を確保したことである。本書で原著者も何度か述べているように、売り手は多くの買い手のいる場に集まり、買い手は魅力ある商品を求めて多くの売り手のいる場に集まる。このネットワーク効果が、創業者ピエール・オミディアにとっては予想外の事態だったと思われる中小企業の大量出品業者の誘致という結果に結びつき、個人間の取引だけを頼りにした場合とは比べものにならない品ぞろえの幅と収入を同社にもたらした。

実は、このファースト・ムーバーズ・アドバンテージは、一時期ネットビジネスに欠かせない成功の秘訣と信じられていた。しかし、それを確保していてさえ、バブル崩壊後に生き残れたドットコム企業はわずかである。これは、ファースト・ムーバーズ・アドバンテージはどんなビジネスモデルにも当てはまるわけではなく、コミュニティをベースとするP2Pオンライン・オークションというモデルだからこそ、効果を発揮したととらえるのが妥当だろう。

ネットワーク効果で自然と集まったユーザーたちは、「フィードバック・フォーラム」によって、eBayにロイヤルティを持つコミュニティに変わった。取引履歴と評価が蓄積されるこの仕組みは、どんなライバルにも追いつけないユーザーとの関係における優位をeBayに与えるものだ。

ファースト・ムーバーズ・アドバンテージは偶然の幸運だが、ロイヤルティをつくりだす仕組みによって築かれた競争優位は、明らかに同社の戦略の賜物である。ほかにも原著者は、技術インフラに対する投資、継続的な提供価値向上の努力、フォーカスを保ちながらの事業拡大といった同社の戦略上の成功要因を挙げている。

このように並べてみると、個々の要因が単に存在するだけでなく、互いに連鎖的に影響しあっていることも、重要な成功要因として加えられるのではないかと思われる。

原書刊行後のeBay

本書の原書が書かれた時点以降のeBayの状況はどのようになっているのだろうか。 まず業績から見ていくと、繰り返し発生する技術トラブルへの対応に追われ、営業収支が赤字(利子収入により全体収支は黒字)に落ち込んだ99年の後、eBayはこの問題を克服し、2000年には前年比92%増の4.3億ドルの営業収入を記録。営業収支、全体収支とも黒字を回復した。

その間、安定した環境でさらなる成長を目指す拡大路線をひた走り、2001年4月に発表された同年第1四半期(1-3月期)の業績では、営業収入が前年同期比79%増、株式関連と現金以外による支出を除いた利益は前年同期比592%増と、証券アナリストらの予測を大きく上回る好調ぶりを発揮している。

最近のeBayの拡大路線を支えているのは、もっぱら中古車などの高額品の取引と、かなり積極的に行われている海外進出、それから固定価格の取引である。固定価格の取引とは、P2Pまたは中小企業対個人の取引を、オークションではなく一般小売業と同じようにあらかじめ決まった価格で行うもので、2000年7月に買収したハーフ・ドットコムという別のウェブサイトが主に担っている。

オークションは思わぬ掘り出し物を信じられないほど安い値段で手に入れるチャンスや、競りのスリルといった格別の楽しみを提供してくれる。しかし、その一方で、なんの変哲もない、ほかに値をつける人も現れそうにない中古品を手に入れるのにオークション期間の終了まで待つのは不合理だと感じる買い手や、買う人がいればあらかじめ設定した値段ですぐに売ってしまいたいと考える売り手がいるのも事実だ。

eBayはこの需要に気付き、固定価格のP2P取引サイトのハーフ・ドットコムを買収しただけでなく、2000年11月からは本体のウェブサイトでも、売り手が希望価格を指定し、オークションの最初のビッドが来る前にその値段で買いたいという人が現れれば、その時点で売ることができるオプションも導入した。

2001年6月時点の最新情報によると、eBayは本体サイトに「eBayストアズ」と名付けた新機能を導入し、中小企業の売り手が同社サイト内に自社専用ページを設け、複数の出品商品をオークションまたは固定価格の形態を自由に選んで売りに出せるようにした。また、いずれはハーフ・ドットコムを本体サイトに吸収することも検討しているようだ。

さらに最近目を引くのは、自社の取引プラットフォームを「eBayアプリケーション・プログラム・インターフェイス(API)」と名付け、ネットビジネスを営む企業やEコマースのソフトウェア開発、ウェブサイトのデザインなどを手掛けるベンダーに技術ライセンスを販売しはじめたことだ。

これは、eBayに大量出品する売り手企業が自社サイトを立ち上げる際に、eBayのサイトから出品した商品のオークション部分だけを自社サイトに表示できるようにするといった使い方を意図したもので、ライセンスを取得した企業は、APIをベースにeBayのオークション機能を取り入れたウェブサイトを構築したり、技術ベンダーの場合は自社のソフトウェア製品やサービス・パッケージにAPIを組み込んだりできるようになる。まだ同社の収益に貢献するにはいたっていないが、近い将来、本業を脇から支える柱の一本に育てることを狙った「戦略商品」であることは間違いない。

次から次へと、休む間もなく新しい施策を打ち出してくるeBayの様子は、成長鈍化を恐れるあまり、どこか神経過敏になっているように見えなくもない。実際に、これまでのように毎年倍近いペースでの成長を維持していくのは、すでに難しい時期が来ている。そのことは同社自身も認めており、2001年の第2四半期以降は、これまでのような高成長は見込めなくなるという警告を発している。

成長スピードが衰えれば、現時点でドットコム企業としては例外的な高水準にある株価が落ちる可能性が高い。ただし、黒字のビジネスを確立しているeBayは、外部から資金を調達しなければ経営が行き詰まるわけではないので、株価が落ちてすぐに困ることはない。今後、市場が将来の高成長への期待ではなく営業利益や純利益といった、よりベーシックな評価指標に立ちもどっていくとすれば、これも同社が現在のような株価(第1四半期業績発表翌日の株価終値で2001年の一株あたり予想純利益の約140倍。さらにこの日以降、株価は再び上昇に転じた)を維持できなくなることを意味する。

だがそれは同時に、強迫観念に取りつかれたかのような拡大路線にひとまず終止符を打てるということでもあり、eBayにとっては歓迎すべき事態なのかもしれない。

日本のオンライン・オークション事情

最後になったが、日本におけるオンライン・オークション市場についても少し触れておこう。

筆者が所属する富士通総研の2001年1月の調査では、インターネット・ユーザーのオンライン・オークション経験率は「サイトを見たことがある」人が28.4%、「値をつけたことがある」10.6%、「出品したことがある」5.5%であった。このうち、定常的によく利用する人となると、さらに少なくなるだろう。

もともと、ガレージセールや「売ります、買います」の三行広告を通じた個人間取引という習慣があまりないだけに、日本で今すぐP2Pオンライン・オークションが米国でのような爆発的な成長を遂げるとは考えにくい。また、現時点では、P2Pオークション・サイトを販売チャネルとして利用する中小企業もごく一部のようだ。

しかし、インターネットやiモードを当然のように使いこなし、フリーマーケットも大好きという若い世代がこの状況を徐々に変えていく可能性はある。

イーベイジャパンがサービスを開始したのは2000年3月だ。残念ながら、日本ではそれ以前にヤフー・ジャパン、楽天、ビッダーズなどがこの分野に乗り出していたため、米国でのeBayの成功要因の重要な部分をなす「ファースト・ムーバーズ・アドバンテージ」を確保できず、ブランド知名度の面でも同社は不利な状況にある。

しかし、その分をインターネット接続プロバイダー事業で多くの加入者を持つNECとの戦略提携で補おうとしたり、最近では、本人確認手段の導入の一環としてサービス利用料を徴収しはじめたヤフー・ジャパンから流れてくるユーザーの受け皿となるべく、逆に落札手数料を無料にする作戦に出るなどして、市場への食い込みを図っている。

最近の『週刊ダイヤモンド』(2001年5月12日号)に掲載されたメグ・ウィットマンのインタビューによると、彼女は日本市場での方針について、「最初に多額の広告宣伝費を投じる方法はあえて避け」、「ゆっくりした成長に伴って、コミュニティの価値観やルールが少しずつ育くまれてゆく」のを待ち、「短距離競争ではなくマラソンで勝利を収める」と語っている。本国ではあれほどのスピード経営を実現しながら、日本市場についてこんな考えを持っていたとは正直いって驚かされたし、その緩急自在な対応能力にも大いに感服した次第だ。

日本ではともかく、本国でeBayがたどった足跡を知ることは、消費者を対象とするネットビジネスで成功するにはどんな要素と、要素間の連鎖が必要なのかを理解するうえで役立つはずである。

多くのドットコム企業が生まれて消えていったなか、どうしてeBayはかろうじて生き残るのではなく、黒字で堂々と花道を歩んでこられたのか(正しくは、目にもとまらぬスピードで駆け抜けてきたのだ)。ネットビジネスに限らず、企業が問題に直面したとき、あるいは事業展開に関する選択や決断を迫られたとき、何を指針とすればよいのか(もちろんユーザー=顧客の声である)。本書にはそれが書かれている。読んで損はしないはずだ。

2001年6月執筆


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ダイヤモンド社『eBayオークション戦略−究極のインターネット・ビジネスモデル』


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