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eトイズ破綻に見るドットコムEC企業破綻の原因

3月7日、玩具EC分野の大手企業eトイズが破産を申請し、営業を停止した。1997年にECサイトをオープンした同社は、1999年のホリデイシーズンまで、誰もが認める玩具ECのカテゴリー・リーダーであった。しかし、先行優位とブランド力を備えたeトイズですら、ネットバブル崩壊後の新時代に生き伸びることはできなかった。eトイズをはじめ多くのドットコムEC企業が陥った破綻の原因を解説する。
(富士通総研 倉持真理 2001年3月21日)

eトイズ:破綻までの経緯

eトイズは玩具EC企業の草分けとして、1997年10月に開業。有名ベンチャー投資会社の支援を受け、おりからのインターネット・ブームで急成長の波に乗り、玩具EC分野のカテゴリー・リーダーの座にのぼりつめた。ドットコム企業への投資ブームが最高潮に達した1999年5月に株式を公開し、同年10月には1株あたり84ドルという高値で取引される人気企業であった。

1998年から99年にかけてはトイザらス、ウォルマート、アマゾン・コムが玩具EC市場に参入したきたが、eトイズはトイザらスやウォルマートに対してはサイト運営と注文処理ノウハウで、アマゾンに対してはマーチャンダイジングで勝り、1999年のホリデイシーズンにはこれらの競争相手に圧倒的な差をつけた。

飛躍の年となった1999年には、二つめの物流センターをオープンし、育児情報サイトを運営する「ベビーセンター」を買収、英国にも進出するなど積極的に事業を拡大。2000年3月末締めの年度収入は、前年度の5倍もの増加を記録した。

しかし、2000年に入るとネットバブル崩壊により、EC企業は今までどおりの高成長を維持する一方で、生き残るためにコストを削減し、利益を出す必要に迫られた。同時に、玩具EC分野では、アマゾンと提携したトイザらスや、EC経験を積んだウォルマート、ターゲットなどマルチチャネル小売業が勢力を拡大する。eトイズは玩具とベビー用品のほか、粗利の高いホビー用品などを商品に加えて2000年ホリデイシーズンに臨んだが、売上げは当初予想の半分にとどまり、アマゾン/トイザらス組にまさかの惨敗を喫する結果となった*1

この時点で、すでに遅くとも4月までに資金が枯渇することが確実となったため、今年1月以降は従業員のほとんどを解雇し、身売り先を探しはじめた。しかし、救い主は現れず、負債総額(2億7400万ドル)が残る全資産の価値を越えるにおよび、やむなく3月7日で破産を申請し、営業を停止した。同社の資産のうち育児情報サイトのベビーセンターだけは、消費財メーカーのジョンソン&ジョンソンが約1000万ドルで買収することが決定している。

破綻の原因(1):ビジネスモデルの欠陥

eトイズの破綻は、基本的には昨年来増え続ける破綻ドットコム企業のリストに新たな1社が加わったにすぎない。ただ、同社がECのパイオニアであり、ドットコムEC企業を代表する有名な1社であっただけに、象徴的な意味を持つだけだ。

ドットコムEC企業の破綻の直接的な理由は、2000年春以降のネットバブル崩壊により、株式市場やベンチャー投資会社からの資金の流入が途絶えたためである。しかし、それ以前の問題として、ドットコムEC企業のビジネスモデルが、利益を出せる構造ではなかったということがある。

消費者向けECのビジネスモデルは、大きく2種類に分けられる。一つは仕入れた商品をECサイトで販売する「小売型」、もう一つは自社で在庫を持たない「仲介型」だ*2。eトイズや破綻したドットコムEC企業の多くは小売型に属している。

小売型ECのビジネスモデルは、売上げから商品の仕入れ代金を引いた粗利で、配送コストやクレジットカード手数料、サイトの開発・運営コスト、顧客獲得コストなどを負担する。粗利率は商品によって異なるが、ほとんどの場合、売上げの4割未満だ。eトイズの粗利率は2000年度(3月末締め)19.3%、2001年度(4−12月までの9カ月間)23.6%だった*3。この粗利の範囲内にコストをおさめれば採算は取れるが、それでは規模を拡大することはできない。

しかし、バブル期には成長スピードが絶対的な価値評価尺度であったため、ベンチャー投資会社や株式市場からの資金調達を望むドットコムEC企業が取りうる戦略の選択肢は、事実上、積極的な事業拡大しかなかった。

破綻の原因(2):高い顧客獲得コスト

しかも、ドットコムEC企業は、調達した資金のほとんどをブランド確立のためのマーケティングに注ぎ込んだ。インターネット上にしか存在しないECサイトは、人の目にふれる実店舗とは異なり、待っているだけでは客は来てくれないからだ。さらに、ドットコム企業に対する投資ブームが過熱し、新たに参入するEC企業が増えると、自社サイトに客を集めるには、それまでと比べものにならないほど多額のコストが必要となった。

これにより、EC企業の平均顧客獲得コストは、1998年の一人当たり33ドルから、ピークの1999年10−12月期には71ドルにも拡大した*4。1999年の年間平均顧客獲得コストは一人当たり38ドルだが、企業タイプ別に見ると、店舗やカタログなどマルチチャネルで展開するEC企業が12ドルに対し、ネット専業のドットコムEC企業では82ドルもかかっている。

インターネット上にしか存在せず、消費者になじみのない新しいブランドを広く認知してもらうために、ドットコムEC企業はTV、ラジオ、新聞、雑誌から屋外看板まで、あらゆる広告媒体を占拠した。しかし、結局ブランドを確立し、コストをかけなくても顧客が集まるようになる前に、大半の企業は資金不足で破綻した。

一方、eトイズはバブル期以前の1997年に開業したECのパイオニアである。早い時期に開業したEC企業は、アマゾン・コム、CDナウ、eベイなど数が少なく、物珍しさからマスコミに取り上げられる機会が多かったため、ほとんどコストをかけずにブランドを確立できた。現にeトイズの顧客獲得コストは、2000年度(3月末締め)は一人あたり36ドルで、競争が激化した2001年度(4−12月の9カ月間)にはさすがに46ドルと増加したが、他社と比べてとくに高いわけではない。

それでも、eトイズの顧客獲得コストは常に粗利額を越えていた。たとえ顧客獲得コストを一切かけなかったとしても、配送やクレジットカード手数料、顧客サービスといった必須販売コストだけですでに粗利額を越えていた。同社は二つの自前の物流センターを保有しており、売上げがもっと増えれば、物流センターの運営効率が向上し、1件あたりの注文処理コストを抑えることも可能だったかもしれない。しかし、それを実現するには時間がかかるうえ、競争が激化した2000年後半以降は、時間をかけても実現は難しい状況となった。結局、コスト構造上の問題により、同社が利益を計上できる可能性は低かったのだ。

少ない粗利と高い顧客獲得コスト、この二点が小売型ドットコムEC企業のほとんどに共通するビジネスモデルの欠陥であり、破綻の原因だったといえる*5

不運だった?eトイズ

もうすでに1年近く前のことになるが、同じくビジネスモデルの欠陥のせいで、音楽CD販売のCDナウとオンライン・グローサーのピーポッドが破綻しかけたことがある*6。二社はeトイズと同様、ECのパイオニアであり、違いは単に資金枯渇の時期が早いか遅いかだけだった。

しかし、ピーポッドは救難信号発信から1カ月でスーパーマーケット・チェーンのロイヤル・アホルド社から出資と経営支援を受けることが決定し、CDナウは4カ月後にメディア大手のベルテルスマンに買収された。二社は現在もオリジナル・ブランドで営業を続けている。ロイヤル・アホルド社とベルテルスマンの目的は、ECの有名ブランドを傘下におさめ、自社のEC事業参入の足掛かりを得ることだった。

「もしこうだったら」と仮定の話をしてもはじまらないが、eトイズの破綻も1年前に起きていたら、アマゾン・コムと提携前のトイザらスやほかの大手小売業などに買収されていたかもしれない。しかし、1年長く持ちこたえてしまったばかりに、eトイズを買収する可能性のあった大手小売業のEC事業はなんとか自力でテイクオフしてしまった。さらに、米国経済の減速と消費の冷え込みが懸念されはじめてからは、不採算事業の建て直しに資金を投じる物好きが現れる機会はますます減った。

eトイズの顧客数は、2000年12月末時点で340万人にのぼる。外部機関によるサービス評価でも、常に玩具EC分野のトップであり続けた同社だけに、閉鎖を惜しむ声は多いと思われる。

絶滅する小売型ドットコムEC企業

インターネット業界のM&Aの動向を観測する情報源(http://www.webmergers.com) によると、2000年に破綻したインターネット関連企業は210社あまりとなった。そのうち75%が、ECやコンテンツなど消費者を対象としたドットコム企業であったという。破綻企業の数は、年をまたいで今もさらに増え続けている。

小売型ドットコムEC企業の純粋種はまさに絶滅に瀕しており、生き残るのは、採算の取れる別のビジネスモデルへと進化を遂げたごくわずかな企業に限られるだろう。

*1 eトイズの2000年10−12月期の売上げ1.31億ドルに対し、トイザらスのホリデイシーズンEC売上げは、12月末までの9週間で1.24億ドル。

*2 仲介型EC企業は、オークション・サイト、オンライン証券会社、旅行予約サイトなど。

*3 ちなみにトイザらスの粗利率は、1999年度(1月末締め)26.7%、2000年度29.8%。

*4 Shop.orgとボストン・コンサルティング・グループの調査による。

*5 粗利の範囲内にコストを抑え、採算を取っている小売型ドットコムEC企業もなかには存在する。しかし、そうした企業のほとんどはベンチャー資金や株式公開による大規模展開を狙わない小規模な企業なので、この議論の対象には含まないものとする。

*6 本紙2000年4月5日号(Vol.6, No.121) 8頁参照

eトイズの業績推移
EC企業の一人当たり顧客獲得コスト
1998年 (全体) 33ドル
1999年 (全体) 38ドル
(ドットコムEC企業) 82ドル
(マルチチャネルEC企業) 12ドル
2000年 (1-9月/全体) 35ドル

出典:Shop.org/ボストン・コンサルティング・グループ


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