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ライコスがワイアード・ベンチャーズを買収

マルチブランド・ネットワーク戦略の独自路線を歩む

ポータル競争にしのぎを削るライコスは10月6日、「ホットボット」や「ホットワイアード」など5つのWWWサイトを所有するワイアード・デジタル社を8300万ドルの自社株式+αと交換で買収することを発表した。ライコスにとっては、2月のトライポッド、8月のフーフェア買収に続く今年3件めの大型買収だ。(倉持 真理 富士通総研 1998年10月21日)

拡散するワイアード・ブランド

ワイアード・デジタルの親会社であるワイアード・ベンチャーズは、インターネットの爆発的普及直前の黎明期に登場し、サイバーカルチャーの担い手として一世を風靡した雑誌『ワイアード』により、世間から一目置かれる存在となったが、WWWへの進出以降、激しい競争にさらされ採算面で行き詰まり、2度の株式上場計画も失敗。今年5月に雑誌を7500万ドルで大手出版社に売り渡し、デジタル部門でWWW事業に専念する方針に転換した。

その後、ごく最近デジタル部門は「ホットボット(http://www.hotbot.com)」のポータルとしての集客力を強化すべく、10月第2週から4つの大都市圏でのテレビ・コマーシャルを開始するなど、積極的な姿勢を打ち出したところだった。結局、今回の売却により、一連のワイアード・ブランドを冠した製品はすべて、生みの親であるワイアード・ベンチャーズを離れ、別オーナーの手に渡ることになった。

狙いはホットボット

一方、ライコスにとってワイアード・デジタルの買収は、冒頭で述べたとおり、時価5800万ドル相当のトライポッド(http://www.tripod.com)、3つのサイトからなる時価1億3300万ドル相当のフーフェア・ネットワーク(筆頭サイトhttp://www.whowhere.com)に続く、今年3件めの大型買収となる。

同社は買収で入手したサイトにそれぞれ元のブランド名を残して運営し、全体を「ライコス・ネットワーク」と名付けている。ネットワーク内の各サイトは、必要に応じて機能やコンテンツを共有化し、個々のブランド力で引き寄せたユーザーをネットワークに回遊させ、相乗効果をあげる構造である。新たに加わったワイアード・デジタルの5つを含むライコス・ネットワークの構成は図のようになる。

しかし、今回の買収のライコスの狙いは、なんといっても「ホットボット」の獲得にあったようだ。WWWの視聴率調査機関メディア・メトリクスによれば、検索サイトとしてのライコスが幅広い層のユーザーを集めるのに対し、ホットボットは主に技術指向のベテラン・ユーザーに好まれる傾向にあり、双方のユーザーの重複部分は20%ほどしかない。これはつまり、ホットボットを加えることにより、ライコス・ネットワークの回遊経路に技術指向のベテラン・ユーザーという新たな血を引き入れ、全体規模を効率的に拡大できることを意味する。

独自路線のマルチブランド・ネットワーク戦略

ライコスはトライポッドの買収と同時に開始したマルチブランドのネットワーク化により、今年だけですでにユーザー到達率を14%から40%以上に上げており*1、視聴率向上の面でのネットワーク化の効果のほどについて、絶大な自信を抱いている。しかし、ネットワーク化が競争戦略としても功を奏するかどうかについては、話はまた別だ。

ライコスのポータル競争におけるポジションは、実質的にAOL、ヤフー、マイクロソフト、ネットスケープという4つのトップ・ブランドの1ランク下にあたり、同列ライバルにエキサイトとインフォシークがいる。これら3社は、今年初頭までの横並び状態から抜け出して、それぞれ個別の道を歩み出し、競争の見通しを非常につけにくいものにしているのだ。

ディズニーという大手メディアの後ろ楯を得て、「ゴー・ネットワーク(http://www.go.com)*2」という新ポータルでトップ・ブランドに食い込む構えのインフォシーク。
ネットスケープとの緊密な提携関係を確保し、さまざまな新機能付加に力を入れるエキサイト*3
そして、外部の力を一切借りず、買収による独自路線のマルチブランド・ネットワーク化を進めるライコス。
この三者三様の戦略が、トップの4ブランドを含めたポータル競争のポジションにどんな影響を及ぼすか、これからの動向に注目したい。

*1 数値は同社リリースより引用。なお、メディア・メトリクス調査による98年1月のライコスのユーザー到達率は14.1%、8月はライコス・ネットワーク全体で37.5%。

*2 本紙98年10月7日号(Vol.4, No.87)13頁参照。

*3 本紙98年5月20日号(Vol.4, No.78)5頁参照。


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