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ピーポッドが戦略シフト ビジネスモデル転換でブレイクスルーを狙う

オンライン注文の食品雑貨宅配サービスを手掛けるピーポッド社(http://www.peapod.com)が、大がかりな戦略シフトを実行しようとしている。従来のニッチを前提としたビジネスモデルをマス向けに転換することで、展開地域でのメンバー数と売上をこれまでにないレベルに引き上げ、主要大都市への事業拡大スピードを一気に加速させるのが目的だ。(倉持 真理 富士通総研)

ピーポッドのサービスは、米国各地でスーパーマーケット・チェーンと提携し、チェーンの営業地域内に住むメンバーからPCとオンライン、あるいは電話かファクスで注文を受け、同日か翌日に提携店舗から配達するものだ。店には「パーソナル・ショッパー」と呼ばれる担当者が常駐し、メンバーの注文通りの商品を選んで袋詰めする。料金は月額6.95ドルの会費のほか、注文1回につき商品代金の5%(最低4.95ドル)の配達料がかかり、決して安くはないサービスだが*1、忙しい共働き世帯などから好評を得ている。

現在シカゴ、ボストン、サンフランシスコなど7地域に展開し、今年7月末時点でメンバー数は10万4000世帯に到達。7月下旬には、89年のサービス開始以来、100万回めの注文を記録したばかりだ。

同社は戦略シフトの柱として、今年10月から年末にかけて、ニューヨーク州ロングアイランドに進出、続いて99年初頭からニュージャージー州北部、ニューヨーク市、ウェストチェスター郡、コネチカット州と、米国で最も人口の多い3州にまたがる各地域に進出する計画を明らかにした。これらの地域では、スーパーマーケット・チェーンのジャイアント・フード・ストアズとその関連会社のエドワーズ・フード・ストアズとの提携によりサービスを提供するが、従来のように各店舗でパーソナル・ショッパーが注文商品を袋詰めするのではなく、同社が「倉庫モデル」と呼ぶ新しいビジネスモデルを導入するという。

倉庫モデルへの転換

倉庫モデルは、注文商品の袋詰めを倉庫で行なうもので、提携スーパーマーケット2社がピーポッドに倉庫設備を提供し、商品の仕入れと在庫管理も引き受ける。これにより物流に関わるコストが削減され、新市場では従来の高めの会費や配達料を値下げし、より多くのメンバー獲得と、1回の注文金額の増加を目指す。

倉庫モデルではまた、従来、商品在庫を持たなかったピーポッドが、独自の在庫を持つことになり、商品の卸値と小売価格のマージンを取ることも可能になると考えられる*2

ジャイアント・フードとエドワーズの2社との提携は、フィラデルフィアおよびボルチモア/ワシントンDCの2地域に拡大できるオプション付きで、ピーポッドは倉庫モデルによるさらなる新市場への進出とともに、既存市場の倉庫モデルへの移行を進めていく意向だ。3年から5年以内には、人口で全米40位までに入る大都市すべてに進出することを目標としている。

WWW強化と全国宅配サービス

この事業拡大戦略を補完すべく、ピーポッドはさらに次の3点の新たな戦術を打ち出した。(1) PCでの注文方法を従来の専用ソフトによるダイヤルアップからWWWに変更、(2) 全米を対象とした食品類の宅配サービスの開始、(3) WWWでのマーケティング活動−−の3点であり、これらは新市場でのメンバー獲得をスムーズに行なうための基盤整備の意味を持つ。それぞれの具体的な内容は、以下のとおりだ。

(1) 注文方法の変更
これまでメンバーがPCとオンラインで注文する場合、ピーポッド専用の「SuRF」というソフトを使って、直接ダイヤルアップ接続する必要があったが、これを9月から同社のWWWサイトで、一般のブラウザーを使って行なえるように改める。これまで専用ソフトによるダイヤルアップ方式が採用されていたのは、同社のサービスがWWWの普及よりかなり前に開始された経緯に由来するが、WWWが一般的となった今、家庭や職場など、どこからでもアクセスでき、入会時にソフトを請求したり、ダウンロードする必要のないWWWベースのサービスに移行することで、メンバーや潜在顧客の手間を省くマーケティング効果を見込む。

(2 全米対象の宅配サービス開始
栄養情報やさまざまな調理方法の紹介つきのグルメ食品や、食品関係のギフトをWWWで販売し、全米に宅配する「ピーポッド・パッケージズ」と名付けた新サービスを開始する。新生児が誕生した世帯向けなど、特定のイベントに合わせて必要な商品を詰め合わせてパッケージにしたセットも取り扱う。この全国宅配サービスにより、同社がまだ進出していない地域にも、WWWを通じてピーポッドのブランド名を浸透させ、今後の新規参入市場でのメンバー獲得を容易にすることを狙う。注文の処理は、ロングアイランドの倉庫で行なう予定のため、サービス開始は今年末となる。

(3) WWWでのマーケティング活動
WWWを展開地域でのメンバー獲得や、全国宅配サービスのマーケティングに活用する。手始めに同社は、自社サイトのトラフィックを増やすため、エキサイトと広告契約を結んだ。エキサイトとウェブクローラーの検索サイトおよび、エキサイトが広告販売を引き受けるネットスケープのネットセンター、AOLのWWWサイト内の「クイックン・パーソナル・ファイナンス」のコーナーにバナー広告を掲載するもので、エキサイト子会社のマッチロジック社が保有するターゲット技術を利用する。ピーポッドにとっては、これがWWWで初めての大がかりな広告キャンペーンとなる。

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、同社はこれまで主に地方新聞やラジオ、ダイレクト・メールをマーケティングに利用し、1人のメンバー獲得に30~50ドルかかっていた。エキサイトとの広告契約については、同レベル以上のコスト効果が得られることを期待しているという。

また、自社のWWWを食品雑貨メーカーのマーケティング・メディアとして利用してもらい、商品注文画面で、メンバーのプロフィールに合わせた広告を表示するなどのマーケティング・サービスも計画している。

拡大戦略の背景と今後 ピーポッドがこのように大がかりな戦略シフトに着手した背景には、いくつかの複合的な理由が考えられる。

環境要因から考えれば、注文方法の変更の部分でも触れた通り、WWW普及前の89年にサービスを開始した同社は、WWWが一般的になっても、まだそれを十分に活用できる体制になかったことがある。普通に考えれば、PCやWWWがここまで普及した今こそ、食品雑貨の宅配サービスがニッチからマスへと飛躍する絶好のチャンスであり、同社は多少遅まきながらも、このチャンスを生かす方向へのシフトを開始したといえる。

しかし、ニッチからマスへと拡大するには、従来の高い料金体系がネックであった。これまでと同様の高収入層のメンバーだけをターゲットとしている限り、マスへの拡大は望めない。そして、料金を引き下げるためには、パーソナル・ショッパーによる店舗宅配方式から倉庫モデルに転換し、物流コストを削減すると同時に商品のマージンも確保する必要があった。

同社はこれまで一度も黒字を計上したことがなく、既存のビジネスモデルでの値下げ吸収は難しい。従来の同社のビジネスモデルには自ずと限界があり、そのままではマスへの拡大は不可能だったと見てよいだろう。

一方、昨年の夏、WWWで注文を受け付け、低価格で全国に食品雑貨を宅配するネットグローサー*3というライバルが登場したことも、ピーポッドの戦略シフトのきっかけになったと考えられる。ネットグローサーはピーポッドと異なり、生鮮食品は扱っていないが、すでにAOL、エキサイト、ヤフー、iビレッジと大型広告契約を交わし、WWWでの知名度を上げてきている。近く株式公開の予定もあり、無視できない存在となりつつある。

他方、ピーポッド自身も昨年6月に株式公開を果たしているが、株価は公開当初の16ドル以降低迷を続け、最近では5~6ドル程度で取引されている。黒字転換あるいは事業拡大の明るい見通しを打ち出すことで、株価の復活を願う株主からの圧力も、同社の戦略シフトの背景の一部にあると考えられる。

だれもが今日のインターネットの普及を予想しえなかった早い時期に、次世代を見越した画期的なニュービジネスを立ち上げたピーポッドであるだけに、戦略シフトの成功とWWWのメジャー・ブランドへの発展を期待したいものである。

*1 料金体系は展開地域によって多少異なる。

*2 従来の同社のビジネスモデルでは、商品代は提携店舗の時価で、そのまま店に支払う商品代としてコストにスライドされ、メンバーの会費や配達料などが同社の収入となる。

*3 ネットグローサーはフェデラル・エクスプレスと提携し、全米に商品を配達している。料金は、重量10ポンドまでで1回につき2.95ドル。以降10ポンド増えるごとに0.99ドルが加算される仕組み。商品はネットグローサーが仕入れているので、品揃えは多くないが値段は安い。本紙97年9月10日号(Vol3. No.62)7頁参照。

(表1) 米国のオンライン食品雑貨宅配サービス市場予測
調査会社名予測年市場規模
フォレスター・リサーチ2001年4億6000万ドル
ジュピター・コミュニケーションズ2002年66億ドル
eマーケター2002年336億ドル
アンダーセン・コンサルティング2007年850億ドル
(表2) ピーポッドの最近の業績 単位:千ドル
97年度
(1~12月)
98年第2四半期
(4~6月)
営業収入
   商品売上43,48714,438
   メンバー/小売店収入13,8982,606
   双方向マーケティング・サービス2,222436
   技術ライセンス050
   営業収入計59,60717,530
営業支出
   商品代43,48713,586
   宅配オペレーション17,4965,028
   一般管理費4,1291,626
   マーケティング6,5141,154
   システム開発・保守1,696821
   原価償却・割賦償却1,234509
   営業支出計74,55622,724
営業収支▲14,949▲5,194
営業外収入2,052752
営業外支出8333
全体収支▲12,980▲4,475
1株あたり収支
(発行株数)
▲$0.87
(14,918)
▲$0.26
(16,925)
メンバー数71,500世帯104,000世帯
期間内の注文件数396,600回123,800回
展開地域数8地域7地域
展開地域内の世帯数6,488,000世帯6,273,000世帯

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