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WWWポータルに巨大企業が介入

新旧メディア融合時代のメガ・コンペティションの序章

6月第2週から第3週にかけて、ポータル競争は新たな局面を迎えた。米4大TVネットワークの1つ、NBCのCNETおよび傘下のポータル・サイト「スナップ」への出資に始まり、AT&TのAOL買収未遂、そしてディズニーのインフォシークへの出資。いずれも巨大通信・メディア企業がWWWポータルの潜在的可能性に注目し、本気で関心を寄せはじめたことを証明する出来事だ。(倉持 真理 富士通総研 1998年7月1日)

オーソライズされたインターネットの役割

冒頭で挙げた3件の出来事のインパクトは、巨大資本のポータル流入という事象面だけにはとどまらない。真のインパクトは、インターネットの登場時からしばしば唱えられながらも、いまひとつ具体性を欠いていた「通信とマスメディアの将来はインターネットとの融合にある」というお題目が、ここにきてやっと現実的な意味を帯びてきた点にある。

これまでどちらかといえば技術寄りの視点から、期待を込めて語られることが多かった「PC-TV統合」「通信と放送の融合」といったビジョンが、ポータルというWWWの頂点に立つビジネスモデルの確立によって初めて、旧来メジャー勢力にとっても、一定規模以上のシナジー効果を期待でき、戦略的利用価値のある要素としてオーソライズされたということだ。
以下に3件の出来事をレポートする。

NBCがCNET/スナップに出資

NBCは6月9日、技術コンテンツのオンライン出版やテレビ番組制作などで知られるCNET社の子会社で、ポータル・サービスを展開する「スナップ(http://www.snap.com)」に、少数株主として出資することを発表した。

出資比率は19%、金額にして約590万ドルといわれており、将来的には60%(総額約3800万ドル)まで比率を増やせるオプション付きの取引だ。また、NBCは親会社のCNETに対しても、4.99%(2600万ドル相当)の出資を行なうことを明らかにしている。

スナップはニュースや天気予報、スポーツ情報、テレビ番組表などをユーザーの好み通りに設定できるスタートページのサービスとして、97年9月にスタートした。インターネットの初心者向けに、70社の提供するコンテンツやリンクを16カテゴリーのディレクトリ形式でまとめたもので、最近インクトミ社と提携し、大手サーチエンジンなみの検索機能も装備している。

ISPと契約し、新規加入用CD-ROMにスナップをデフォルト設定したソフトを入れたり、企業スポンサーのプロモーション用インターネット接続CDの共同制作、PCへのプレインストールなどの方法でユーザーを獲得しており、現在契約先は約40社となっている。

しかし、スタートは早かったものの、大手検索サービスのような知名度と集客力を確立できずにいるのが実情で、ポータル競争の中では「第2グループ」の位置にいる(図1参照)。原因は主にCNETの経済力にあり、今までスナップの開発資金をまかなうだけで手一杯で、プロモーションにコストをかける余裕がなかった事情による。

このため、CNETにとってNBCの出資は、大いに歓迎すべき事態だと推測される。コストを負担してくれるばかりか、NBCのTVネットワークでの大がかりなプロモーションも約束されているからだ。

かたやNBC側の事情としては、4大検索サービスを第1候補にポータルへの出資を検討していたが、これらの企業は株価が高いため、やむなく金額的に折り合うスナップで手を打ったものと見られる。NBCは、スナップのポータル・サイトを手掛かりに、自社コンテンツのWWW露出強化とメディア・ミックス効果を狙う意向だが、しばらくはスナップを利用するより、支援する立場が主となりそうだ。

未遂に終わったAT&TのAOL買収計画

AT&TがAOL(http://www.aol.com)に買収の申し出をしていたことは、6月17日の英国の新聞『フィナンシャル・タイムズ(http://www.ft.com)』の報道で発覚した。

同紙によれば、AT&Tは数週間前にAOLに対し、同社の市場価格(190億ドル相当)を上回る金額で買収を提示したが、AOLはこれを数日前にことわったという。同紙はAT&Tの申し出を「仮のもの」と表現しており、両社もこの件については単なるうわさとして、正式コメントを発表していない。

翌日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』および『ニューヨーク・タイムズ』は、AOLの最高幹部2人が、連名で従業員に対し、独立企業の立場を保持する方針を説明した電子メールを送ったことを報道しており、結果としてAT&TのAOL買収の可能性は完全に消えたようだ。

結果はどうあれ、市場アナリストや報道関係者の間には、AT&Tの買収申し出の存在自体を疑う見方はまったくなかった。これは最近のAT&Tの状況からいって、AOLの買収が十分ありうると考えられたからだ。

AT&Tの消費者市場戦略は、長距離通話、市内通話、携帯電話、ポケベル、CATV、インターネットなど、あらゆる通信関連の商品をパッケージ化して消費者に提供していくというものだが、その売り込みチャネルとしてのポータルの有望性に着目している様子は、同社の最近の動向によく表れている。

AT&Tは5月初旬、ライコス、エキサイト、インフォシークと次々に提携し、3社がそれぞれAT&Tのネットワーク・リソースを使って独自ブランドのISP事業を展開する支援を行なうかわり、3社の検索サイトでAT&T商品のプロモーションを行なう計画を明らかにした。その後ほどなく、ISP事業でMCIと組んだヤフーとも、前述3社の提携に含まれるAT&T開発の目新しいコミュニケーション機能を提供する条件で同様のプロモーション契約を結び、4大検索サイトすべてのスペース確保に成功している(コラム参照)。

ちなみに、AT&T自身のインターネット接続サービス「ワールドネット(http://www.att.net)」は、95年半ばにサービスを開始したが、加入者数110万人程度で停滞。規模的にも機能的にもポータルになれるだけのパワーは持ちえていない。

一方、買収ターゲットとされたAOLは、周知の通り1200万人の加入者を有するポータル最強の存在だ。そのメディア価値は、同社と長距離通話の分野で独占プロモーション契約を結んだテルセイブが、今年1~3月の3カ月間で、AOL加入者から50万件もの受注を獲得したことで証明済みである。また、何よりAOLには、広く市場に浸透した消費者ブランドとしての大きな強みがある。

AOLを買収し、消費者市場のマーケティング・チャネルとするAT&Tの野望は今回未遂に終わったが、AT&Tは今後もさまざまなかたちでAOLや主要ポータル・サイトとの提携関係を求めていくものと予想される。

ディズニーの出資でインフォシークが新ポータルを構築

AT&TのAOL買収未遂ニュースの衝撃も冷めやらぬ6月18日、今度はディズニーのインフォシーク(http://www.infoseek.com)への出資が発表され、ポータルに対する旧来メディア勢力の介入は、市場のまぎれもない基調となった。日本でディズニーというと、ミッキーマウスとテーマパーク、アニメ映画の印象ばかりが強いが、実際のディズニーは、NBCとともに4大TVネットワークに数えられるABCを所有する大手メディア企業である。

両社の取引は、複合的な条件で構成されている。中心となる取引は、ディズニーがインフォシーク株式の43%(2580万株)を取得するかわり、インフォシークはディズニー傘下のスターウェーブ社のオーナーの座と、7000万ドルのキャッシュを受け取るというものだ。さらにディズニーは、いずれインフォシークの筆頭株主になれるだけの転換社債を1億3900万ドルで入手する。

インフォシークは、WWWの開発会社であるスターウェーブを吸収するとともに、現在ディズニーとスターウェーブのジョイント・ベンチャーとして運営されているABCとESPN(CATVのスポーツ専門チャンネル)関係のWWW資産を引き継ぐ。

このほかインフォシークは、今年後半にかけて、ディズニー、スターウェーブ、インフォシーク所有のリソースを統合した強力な新ポータル・サイトを構築し、そのプロモーションを1億6500万ドルかけてABCおよびESPNのネットワークで大々的に実施する計画にも同意している。

ディズニーのポータル参入計画は、数カ月前からささやかれており、少し前までは、ディズニーがエキサイトに出資するとの憶測が広がっていた。ディズニーもNBCと同様、ポータル競争におけるポジションと市場価値を見比べながら出資先を検討し、有体にいえば、インフォシークは大手検索4社の中で最も株価が安く、手頃な存在であったために選ばれたと推測される。

とはいえ、ディズニー支援の新ポータル構想により、インフォシークの競争ポジションは、今年後半にかけて変化する可能性も出てきた。なにしろディズニー傘下のWWW資産は、いまやディズニー、ABC、ESPN、インフォシークの4系統に分かれ、それぞれが各カテゴリーで上位クラスのアクセス数を持つ人気サイトの集合体だ(図2参照)。インフォシークの新ポータル・サイトがこれらの総合窓口となったうえ、テレビ媒体での大がかりなプロモーションが加われば、現時点でポータル第1グループのどんじりにいるインフォシークにも、急浮上の望みがないわけではない。

まだ続く? 大手メディアの介入

以上のような大手通信・メディア企業のポータル介入は、まだこの先も続くと見られており、メディア側候補としてタイム・ワーナーやニューズ社、ウェスティングハウス、ポータル側候補には、ライコスとネットスケープの名前が挙がっている。

こうした介入は、短期的なWWWのポータル競争のポジションに影響を及ぼすだけでなく、インターネットと通信・マスメディアの統合が実現した近未来において、必ず起きるメガ・コンペティションの前触れを意味していることは間違いない。

図1 ポータル競争のプレイヤー
第1グループ
(機能、集客力、ブランド力など、あらゆる
面で最も競争力の高いポータル群)
AOL
マイクロソフト
ネットスケープ
ヤフー
エキサイト
ライコス
インフォシーク
第2グループ
(第1グループを追う次点のポータル群)
スナップ
アルタビスタ
ワイアード・ベンチャーズ
スウィッチボード
フーフェア(WhoWhere)
ジオシティーズ
パスファインダー ほか
図2 ディズニーのWWW資産
ディズニー系 ディズニー・コム
ディズニーズ・ブラスト・オンライン(子供向け有料サービス)
ファミリー・コム
ABC系 ABCコム
ABCニュース・コム
ESPN系 ESPNスポーツ・ゾーン(スポーツ情報有料サービス)
NFL
NBA
NASCAR
(以上3つ、スポーツ・リーグの公式WWWサイト)
インフォシーク系 インフォシーク
WBS(コミュニティ・サイト)

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