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激化するポータル競争

サーチエンジン三社のヤフー追撃とネットスケープ参入の影響

ポータル(入り口)・サイトとして多くのインターネット・ユーザーを囲い込み、優位な立場を得るための競争が一段と激しくなっている。本紙では今年に入って以来、ほとんど毎号のようにこの競争の最新局面を追い続けてきたが *1、ポータルを目指す企業の戦略展開スピードはさらに加速しているようだ。
4月中旬から5月初旬にかけて、エキサイト、ライコス、インフォシークの検索サービス三社は、先行するヤフーに追いつくため、いくつかの新サービスの発表を行ない、結果として大手検索サービス四社の横並びがますます進行した。また、ポータルとしてのメディア事業をソフト事業と並ぶ本格的なビジネスの柱にする方針を打ち出したネットスケープも、この競争に影響を及ぼす動きを見せ始めた。この期間に起きた出来事をレポートしながら、激化する競争のゆくえを予想してみたい。(倉持 真理 富士通総研 1998年5月20日)

横並び展開(1)パーソナライズ・スタートページ

エキサイトとライコスの両社は4月13日の同日、ユーザーが検索サイトのWWWページをパーソナライズできる新サービスをそれぞれ開始した。

画面に表示されるニュースや天気、株価、テレビ番組表、星占い、スポーツ試合結果などの情報を、個人の条件や好みに合わせて設定できるようにするもので、狙いはこれをユーザーのWWWブラウザーのスタートページに設定してもらうことだ。ヤフーはすでに、同じような「マイ・ヤフー」というサービスを導入している。

エキサイトも以前から「マイ・エキサイト・チャンネル」を提供しており、これを利用するユーザーのビジット回数が、一般ユーザーの5倍にもなることをつかんでいる。今回、機能を拡充したサービスの再投入で、このような高ロイヤルティ・ユーザーをさらに増やしたい考えだ。

新サービスでは、エキサイトのホームページの約七割のスペースをパーソナライズした情報で埋められる。エキサイトは、電子メールやインスタント・メッセージ、チャットも提供しているが、これらを利用しているユーザーに、パーソナライズ・ページで電子メールが何通届いているか、友人が何人オンライン状態にいるか、関心のあるテーマのチャット・ルームに何人集まっているかを表示するサービスも、近々加える予定である。

一方、ライコスの「ライコス・パーソナルガイド」は、各種情報を個人用に設定できるほか自動生成/更新するアドレスブックや、コンタクト管理機能を装備している。また、ホームページのスペースを無料提供するトライポッドを二月に買収したライコスは、パーソナライズしたページをユーザーの個人用ホームページと連動させる機能で特徴を出そうとしている。

横並び展開(2)AT&T提携による接続サービス参入

ポータル戦略で先行するヤフーは、MCIとの提携によるインターネット接続サービス「ヤフー・オンライン・パワード・バイMCIインターネット」を3月にスタートした。狙いはユーザーの囲い込みだ。

基本的に独立したWWWサイトである検索サービスは、専用接続ソフトを持つAOLや、ブラウザーでユーザーを誘導できるマイクロソフト、ネットスケープよりも、固定ユーザーをつかまえるのが難しい。このため、ヤフーはMCIと組んで、自らがISP事業に参入し、ヤフーのサービスをデフォルト・スタートページとして利用する固定ユーザーを確保しようとしたのである。

ヤフーの打ち出した新領域への拡大に、今回ライコス、エキサイト、インフォシークの三社も揃って追随。5月4日からそれぞれ2日ずつ日をおいて、順にAT&Tとの提携によるISP参入を表明した。

AT&Tは三社とほぼ同じ条件で、契約を交わしたと見られる。契約期間は3年間で、次の三点の内容を含んでいる。

AT&Tとの共同ブランドによるインターネット接続サービス「ライコス(またはエキサイト/インフォシーク)・パワード・バイAT&Tワールドネット」を提供する。開始時期は、エキサイトが六月と発表しているが、残り二社はまだ明らかにしていない。接続料金については三社とも未発表。

三社のユーザーに対し、AT&T開発の新たなマルチメディア・サービスを提供する。計画中のサービスとして、音声でチャットできるボイスチャットや、WWWの職業別/個人別電話帳から該当する電話番号をクリックすると、自動ダイヤルで電話がかけられるクリック・トゥ・ダイヤルなどが挙げられている。実施時期は未定。

三社のWWWサイトで、AT&Tによる長距離通話や携帯電話など各種サービスの注文受付やプロモーションを実施する。

見ての通りこの契約は、検索サービス三社がAT&Tのリソースを利用して独自のインターネット接続サービスを展開するかわり、AT&Tが三社のユーザーに自社の通話サービスを売り込む機会を得る内容となっている。

対象ユーザーは、三社のインターネット接続ユーザーだけに限らず、三社のWWWサイトに集まるユーザー全体であるため、AT&Tにとっては、かなり大規模なオンライン・プロモーションとなる。AT&Tはこの対価として、まとまった金額を三社それぞれに支払うものと推測され、その点でこの提携は双方に納得のいくメリットのあるものといえそうだ。

すでに一部の地域では、カスタマイズ・ブラウザー(IE4.0)で、スタートページがライコスに設定されたAT&Tワールドネットの接続用CD-ROMの配付テストが実施されていると報道されており、AT&Tもこの提携効果に期待している様子がうかがえる。

三社個別の新展開

4月中旬から5月初旬にかけては、前述以外にも三社のポータル戦略に関わるそれぞれ個別の展開があった。

ライコス
ライコスは4月30日、従来から技術を採用していたワイズワイヤ社(http://www. wisewire.com)を3975万ドル相当の自社株との交換で買収。それと同時に、サーチエンジンの検索結果ページにワイズワイヤの技術を応用した自動ディレクトリを付け加える新デザインの導入を発表した。
検索サービスには、ヤフーに代表されるディレクトリ型とライコスやインフォシーク、エキサイトのようなスパイダー技術によるエンジン型があるが、後者は無意味な結果が膨大に出ることが多く、ユーザーの不満のもとになっている。ライコスの新デザインは、この不満解消を狙い、ヤフーの人気要因の一部である検索機能の使いやすさに挑戦するものだ。
ヤフーのディレクトリは専門スタッフが膨大な数のWWWサイトをレビューし、手作業でカテゴリー分類するものだが、ライコスはこれをワイズワイヤのコンテンツ・フィルタリング技術で自動化。ディレクトリには、ユーザーの人気得点の高いページから表示している。人気得点は、ディレクトリからリンクしたページ上部にフレームを表示し、ユーザーにページ内容に関する評価(気に入った/まあまあ/気に入らない)を入力してもらい、その結果を反映する手の込んだ仕組みとなっている。

インフォシーク
インフォシークは4月14日、ウェブチャット・ブロードキャスティング・システム(WBS、http://www.wbs.net)を670万相当の自社株(35万株)で買収した。WBSは270万人の登録メンバーを持つチャットと個人ホームページのコミュニティ・サイトだ。インフォシークはWBSの買収により、他の検索サービスに遅れをとっていたコミュニティ機能を装備できることになる。

エキサイト
エキサイトは、自らもポータル戦略を押し進めようとしているネットスケープと提携を交わした。ネットスケープのポータル・サイトである「ネットセンター」に、エキサイトが検索機能などを提供するというもので、この提携は、互いのポータル戦略の業界内での競争ポジションにも、かなりの影響を及ぼすと予想される。詳しい内容については、後述のネットスケープの動向の中で触れることにする。

ネットスケープの動向

ネットスケープは3月末、「ネットセンター(http://home. netscape.com)」を核としたメディア・ビジネスを手掛ける新事業部・ウェブ・サイト・ディビジョンを設立した。ネットセンターは、同社ブラウザーのデフォルト・スタートページとして多くのユーザーを集めており、これをポータル・サイトとすることで得られる広告などの収入をソフトウェアと並ぶ同社の事業の柱にしたい考えだ。

その背景には、同社が最近、ブラウザーと企業向けサーバーの市場で苦戦を強いられているという事情も見え隠れする。つまり、新たな収入源としてメディア事業に力を入れ、停滞が予想されるソフト事業の穴埋めにするシナリオだ。ちなみに、12月末締めの同社の97年度業績では、ソフト事業以外の収入の占める割合は、全体の17.6%であった。

この夏までにネットセンターを本格的ポータル・サイトに改造する計画に着手した同社は、まず手始めにUSAネット社と提携し、WWWベースの電子メール・サービスを導入することを発表した。

新サービスは「ネットスケープ・ウェブメール」といい、ユーザーに電子メール・アドレスを発行し、ネットセンターのWWWサイト上で、パスワード管理した電子メールを参照できるようにするものだ。すでにヤフー、エキサイト、ライコスは同様のサービスを提供済み、マイクロソフトとAOLもほどなく開始予定だが、ネットスケープは、これをブラウザーのメール機能やインボックス・ダイレクト*2などの同社の既存サービスと連動させ、差別化しようとしている。

続いて同社は5月4日、エキサイトと提携を結び、ネットセンターの検索ページの検索機能を共同ブランドで提供することを明らかにした。この提携は、ほかにも複合的な要素を含む幅広いもので、検索ページの広告販売をエキサイトが引き受け、収入をシェアすることや、ネットセンター内の各所にエキサイト傘下のクラシファイズ2000(http://www.classifieds 2000.com)の三行広告サービス*3へのリンクを置くことも含まれている。

エキサイトはこの権利を獲得するため、7000万ドルの契約金を支払うほか、転換社債による少数株主の地位をネットスケープに提供するという。

7000万ドルという金額もさることながら、この提携の本当のインパクトを理解するには、ネットセンターの検索ページの現状と対比しなければならない。少々こみいった説明となるが、現状は次の通りだ。

現在、このページには、6月までの契約でヤフー、ライコス、インフォシーク、エキサイトの四社が「プレミア・プロバイダー」として権利を保有している。昨年4月にこの契約を交わした際の契約金は、四社合わせて2000万ドルといわれている。

この権利により、ユーザーがアクセスするたび、四社のうち一社のロゴと検索語の入力ボックスが中央に大きく表示され、表示は毎回ローテーションして、四社それぞれに25%ずつの機会を与えられていた。四社は、高トラフィックのこのページに表示機会を得ることで、自社のWWWサイトにユーザーを運ぶことができ、このページ経由で獲得したユーザーの比率はライコスで全体の8%、インフォシークでは27%も占めているという。

今回のネットスケープとエキサイトの提携では、6月末からの一年間、エキサイトが機能提供するネットスケープ独自の検索サービスが25%、エキサイト自身が25%、その他のサービスが50%の比率で表示機会を得ることになる。また二年目はネットスケープ独自が50%、エキサイト25%、その他が25%の割合になる。

つまり、エキサイト以外の検索サービスが表示できる機会は、6月以降50%、さらに来年6月以降にはたった25%しかなくなるのだ。ヤフー、インフォシーク、ライコス、その他の企業のうち、6月からの50%の機会をどこが獲得するかは未定だが、ユーザーの27%をこのルートに依存するインフォシークにとって、契約喪失はかなりの痛手であり、契約金がつりあがっても払わざるをえない状況に追い込まれているのは想像に難くない。

ネットスケープの集客力は、ブラウザーの市場シェアが低下するにつれ、一時より弱まってきているが、それでもまだ集客力をまとまった収入に結び付けるだけの価値を失ってはいない。

他方、この状況をポータル競争の観点でながめると、それぞれポータルを目指すエキサイトとネットスケープの関係は、ライバルであると同時に提携パートナーでもあることになる。激化するポータル競争のゆくえを予想するヒントは、このような関係にあると筆者は考える。

競争のゆくえ

別表にポータル・サイトが備えるべき機能条件と、各企業のカバー状況をまとめてみたが、これを見れば、どの企業もほとんど同じ条件を備えた横並びの状態にあるのは一目瞭然だ。結局こうなると勝敗を決めるのは、コネクティビティ(接続機能)とアクセシビリティ(ブラウザーや専用ソフト、デフォルト・スタートページによる誘導しやすさ)という二つの必須条件と、ブランド認知度の問題になると考えられる。

高度に競争が進んだ市場の行き着く先は、大抵の場合、脱落と統合による二~三社の大企業への集約という結果になる。エキサイトとネットスケープの提携は、すでにそのプロセスが始まっている兆しと捉えることもできよう。

ポータルについて
ポータルの定義

ユーザーがインターネットを利用する際の入り口、または拠点として必ず利用する場所(サイト)。ニュースや株価、天気予報などの日常的な情報と検索、コミュニケーション機能などが集まっており、いちいちほかのサイトを巡る必要がない。ユーザーの個人ホームページやいつも参加するチャット・ルームへのリンクなども揃っている。

ポータル戦略
ポータルでユーザーを囲い込み、広告販売やEC提携などで優位な立場を得ることを目的とした戦略。


ポータルを目指す主要企業

ISP AOL
ブラウザー・メーカー マイクロソフト
ネットスケープ
検索サービス ヤフー
エキサイト
ライコス
インフォシーク

*1 98年1月28日号(Vol.4, No.71)5頁、 98年2月25日号(Vol.4, No.73)14頁、98年4月8日号(Vol.4, No.76)4頁、98年4月22日号(Vol.4,No.77)7頁。

*2 ネットスケープ・ナビゲータ3.0ユーザーが利用できる電子メール・ニュースの無料購読サービス。100種類以上の電子メール・ニュースの中から、好きなものを選んで購読可能。HTMLメールで送られてくる。

*3 求人、不動産、中古車売買などの三行広告を地域別、条件別に検索できるサービス。個人ユーザーは無料で広告掲載も可能。エキサイトはクラシファイズ2000を4月上旬に買収したばかり。

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