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「ポータル」戦略に向かうインターネット業界

カテゴリーを越えたユーザー獲得競争の時代へ

米国の消費者を対象としたインターネット・ビジネスの世界で、入り口や表玄関のことを指す「ポータル(portal)」という言葉が特別な意味を持ち始めた。どれだけ多くのユーザーを集めたかが成功の尺度となるこの業界で、主要企業はこぞって、ユーザーのアクセス拠点となるポータルの立場の確保に照準を定めている。(倉持 真理 富士通総研)

ポータルとは

ユーザーがインターネットにアクセスする際に、必ず通って目にする場所。それがポータルだ。
そこには、ユーザー個人のメールボックスや検索機能をはじめ、ニュース、株価、天気といった日常的な情報、テーマ別に分かれたWWWサイトのディレクトリなどがあり、ユーザーはまずそこに立ち寄って、自分あての電子メールや個人的な関心事項(所有株の値動き、好きなスポーツの試合結果、今晩のテレビ番組、今週の運勢などを自分用に設定可能)をひととおりチェックしてから、お気に入りのWWWサイトを見に行ったり、新しいサイトを探しに散らばっていく。

つまりポータルは、ユーザーの日常アクセス行動に欠かせないインターネットの各種機能やコンテンツを1カ所に集めた便利な場所であり、企業にとっては、ユーザーを高いロイヤルティ、あるいはほかでは得られない利便性によって囲い込む機会なのである。

いうまでもなく、ポータルとして多くのユーザーを囲い込んだ企業ほど、広告販売やオンラインショップと売上をシェアするリンク提携を有利に運ぶことができる。

ポータル概念の発生背景

これまでポータルは、AOLやコンピュサーブ、MSNなど、専用接続ソフトとオリジナル・コンテンツを保有するいわゆる「商業オンラインサービス」が、プライベートなプラットフォームを通じて、加入者に提供してきた機能であった。

一方、それぞれ個別の目的と機能とバラバラな質的水準のコンテンツを持つ独立したWWWサイトの寄せ集めからなるインターネットの中にも、ブラウザー・メーカーのサイトやISP(Internet Service Provider)のホームページ、検索サービスのサイトのように、自然にほかより多くのユーザーを集められる場所がある。

そうした場所にユーザーが集まるのは、ブラウザーのボタンやソフトのデフォルト設定などの仕掛けを通じてアクセスしやすい有利な環境にあるためであり、検索サービスの場合は、ユーザーに不可欠な機能を提供しているためである。つまり、有効性や内容の面白さなどによって、ユーザーに選ばれる大多数のWWWサイトと異なり、既得権的な集客能力を備えているわけである。

しかし、1年ほど前から、ヤフーをはじめとする大手検索サービスが、既得権だけに頼るのではなく、意識的にユーザーを集め、囲い込もうとする動きを見せ始め、これがポータルという概念が発生するきっかけとなった。この背景を踏まえて、再びここでポータルを定義すると、ポータルとは、「ユーザーを囲い込むという戦略的意図を持って作られた、各種機能やコンテンツを集めたオンライン上の場所」ということになろう。

ポータルを狙う検索サービス

そもそも大手検索サービスがユーザーの囲い込みに乗り出したのは、主要四社間(ヤフー、エキサイト、インフォシーク、ライコス)の競争が激しかったからである。同じようなサービスを提供する複数の中から、ユーザーに選ばれるためには、検索以外の機能を充実させる必要があったのだ。

しかし、新たに加える機能は、他社が同じことをすればまた同じ条件下での競争に舞い戻りするような性質のものでは意味がない。この観点で大手検索サービスが注目したのが、WWWベースのメール・ボックス、チャット、インスタント・メッセージ、個人用ホームページなど、コミュニケーションとコミュニティ構築の機能であった。これらの機能拡大が功を奏し、大手検索サービスは一層強力な集客能力を持つ存在となりつつある。

さらに、ヤフーがMCIと組んで自社ブランドのインターネット接続サービス「ヤフー・オンライン」を開始したり(コラム参照)、エキサイトがプロディジーの加入者向けに専用のスタートページを提供するという最近の動きからは、大手検索サービスが、WWWサイトでユーザーが来てくれるのを待つこれまでのスタイルから、ブラウザーやAOL並みの高い囲い込み能力を持つポータルへのシフトを急ぎ進めようとしていることが、はっきりと見て取れる。

カテゴリーを越えた競争へ

これまでブラウザーの仕掛けを通じてユーザーを集めてきたネットスケープとマイクロソフトも、このような大手検索サービスの機能拡大に触発され、同じようにユーザーの囲い込みに本腰を入れ始めた。

マイクロソフトで現在進行中の「スタート」と呼ばれるプロジェクトは、新しいサーチエンジンと個人用メール・ボックス、情報のパーソナライズ機能などを組み合わせたスタートページをつくるもので、同社のブラウザーの最新版のデフォルトになると予想されている。また、ネットスケープも昨年九月に開始した「ネットセンター」のサービスに、ポータルの役割を持たせることを主な目的とした新部門の設立を明らかにしたばかりである。

このほかにも、契約した複数の中小ISPの加入者にさまざまな機能やコンテンツを集めたスタートページを提供することで、ポータルのユーザー・ベース獲得を狙っている企業がいくつかある。中小ISPは、接続サービスを提供している点で、ユーザーを囲い込める立場にいるが、個々の規模が小さいため、その優位性を収入に結び付けるのが難しい。このような中小ISPのユーザー・ベースを統合し、規模のメリットを出そうとするものだ。

中でも一番先にサービスを開始したプラネット・ダイレクトは、250ものISPとの契約を獲得。97年6月からの9カ月間で、同社のスタートページを実際に利用するISP加入者が50万人に到達した。これらのユーザーは、1回の通信で平均15分間を同社のスタートページ上で過ごしているという。

以上のような状況が示しているのは、これまでのように検索サービス、ブラウザー、商業オンラインサービス、ISPといったカテゴリーの枠内で競争が行なわれてきた時代から、いまやカテゴリーの壁を越えた競争の時代に移りつつあるということである。もちろん、その競争の目的とは、ポータルの立場を通じて1人でも多くのユーザーをしっかりと囲い込むことにほかならない。

ポータルをめぐる競争では、AOLの最大のライバルは、ヤフーとマイクロソフトなのである。以下のような機能のうち、多くのものを備えるほど、ポータルとしては有利となる。

  • コンテンツ(情報)
  • コネクティビティ(接続)
  • コミュニケーション(電子メール、インスタント・メッセージ)
  • コミュニティ(チャット、掲示板、個人ホームページ)
  • ナビゲーション(検索、ディレクトリ、チャンネル形式)
  • アクセシビリティ(ブラウザー、デフォルト・スタートページ)
  • パーソナライゼーション(各種設定を個人の好みに合わせる)

【コラム】

ポータルに驀進するヤフー激安接続料金でAOLに挑戦

ヤフーがMCIと協力して提供するインターネット接続サービス「ヤフー・オンライン*1」が、3月16日にスタートした。

ポータル戦略に向けたアグレッシブな取り組みを見せる同社だけに、どのような料金設定になるかが注目の的であったが、ふたを開けてみるとやはり、最初の3カ月間を時間無制限で月額14.95ドルにするというインパクトのあるオファーを出してきた。4カ月めからは19.95ドルとなるが、MCIの長距離通話サービスの加入者に限っては、14.95ドルの激安料金が継続して適用される。これは、すでにMCI自身が、3月5日から開始した長距離通話とインターネット接続のバンドル・サービスと同じ条件である。

ヤフー・オンラインでは、マイクロソフトのIE4.0をベースとしたカスタマイズ・ブラウザーを使い、検索機能をメインとしながらも、ヤフーの公開WWWとは異なるデザインの専用スタートページがデフォルトとなる。ジフ・デイビス、スポーティング・ニュースなどによるプレミアム・コンテンツも付くという。また、いくつでも自由にアドレスの持てるWWWベースのメール・ボックスのほか、一般の電子メール・ソフトとWWWのメール・ボックスを統合して使える便利な機能もあるそうだ。

打倒AOLを目指すヤフーにとっては、MCIとのパートナーシップによる低料金のサービス実現と、4月から21.95ドルになるAOLの値上げのタイミングが何よりの追い風になりそうだ。

*1 正式名称は「Yahoo! Online Powered by MCI Internet」


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