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ダブルクリックの株式公開と米国インターネット業界再編の事情

WWW広告ネットワークのパイオニアとして知られるダブルクリック(http://www.doubleclick.com)がNASDAQで株式を上場。予想を超える高値で取引され、人気を博している。しかし、同社の業績は決してよい内容とはいえない。同社の状況を分析しながら、昨年末からのインターネット広告業界の再編の事情を追ってみる。(倉持 真理・富士通総研 1998年3月11日)

業績はいま1つでも株式は人気

同社は全体の20%に相当する350万株を1株17ドルで売り出す予定であったが、初日の2月20日は、予定を大きく上回る29ドルで取引が始まり、26.75ドルで終わる大成功をおさめた。その後も、3月3日の終わり時点で31 1/8ドルと株価は好調を維持している。

同社は96年1月に事業を開始。複数のWWWサイトの広告スポットをまとめて販売する広告ネットワークのコンセプトを初めて打ち出し、広告主の希望条件に合った最適なスポットに広告を配信する先進的なターゲット技術で業界をリードしてきた。最近では、ネットワークに参加しない個別のWWWサイトにも、ターゲット技術を使った広告配信サービスを提供し始め、事業拡大を目指している。また、97年8月の日本進出を手始めに、英国、カナダ、オーストラリアに進出。ほかにも欧州に4カ所の事務所を構えるなど、国際展開にも積極的だ。

インターネット広告協議会(IAB=Internet Advertising Bureau) の調査によれば、米国のインターネット広告市場は、96年の2億6700万ドルから97年には9億ドル程度にまで伸びる見込みだ。また、調査会社のジュピター・コミュニケーションズは、同市場が2002年には77億ドルに到達すると予測している。

ダブルクリック株の人気も、このような高成長の市場への期待と、最近のインターネット関連株全体の人気を反映したものと推測される。しかし、公開された同社の業績データや市場の環境を見る限り、見通しはそれほど甘くない。

同社の営業収入は、96年の650万ドルから97年には3060万ドルへと目覚ましい成長を遂げた。しかし、収支は96年に320万ドル、97年に840万ドルの損失となっており、同社は黒字転換の見込みは早くて99年以降になることを株式公開に際してあらかじめ警告している。

インターネット広告市場のヒエラルキー

米国でダブルクリックの広告ネットワークを構成するのは、広告スポットの販売・管理をアウトソースする中堅クラスのWWWサイトだ。インターネット広告市場のヒエラルキーでは、ヤフーなど大手サーチエンジンとAOL、ネットスケープ、ジオシティーズなど、単独で広告スポットを販売する力を持つ高トラフィック・サイトが頂上におり、同社のクライアントはそれより一段下に位置している。

しかし、現状のインターネット広告市場は、一部の高トラフィック・サイトに収入の大部分が集中し、中堅以下のWWWサイトの占める割合が薄い構造になっている。インターネット広告市場を調査するIABは、大手約200社の収入が市場全体の9割をカバーする前提で市場総額を算出しており、そのなかでもサーチエンジンによる広告収入が全体の半分ほど(97年7~9月期実績で55%)も占めるとしている。

ダブルクリックのネットワークには約60のWWWサイトが参加しているが、同社の収入自体もそのうち上位4つのサイトが60%を稼ぎ出す構造となっている。実際には、収入全体の43%がサーチエンジンのアルタビスタ1カ所からもたらされるという。

つまり、インターネット広告市場がボトムアップするかたちで成長していかないと、ダブルクリックのビジネスも上位サイトの収入に多くを依存する状況から抜け出せない。また、同じようなクラスのWWWサイトを対象とした広告ネットワークや広告管理サービス業者もすでに数多く存在するため、さほど厚くない中堅クラス層のクライアント獲得競争が激しくなることも予想される。

業界再編の動き

市場の構造に影響を受けるのはダブルクリックだけに限らない。このような状況を反映し、インターネット広告業界では、昨年末あたりから企業同士が経営を統合して基盤を強化しようとする再編の動きが始まっている。

まず、97年11月にフォカリンクとクリックオーバーが合併を発表。両社はアドナリッジ(http://www.adnowledge.com)の新社名で1月から事業をスタートした。続いて12月にペトリー・インタラクティブとカッツ・ミレニアム・マーケティングの双方向広告部門、インタラクティブ・イマジネーションズの3社が合併し、「24/7メディア」を設立することを明らかにした。これらはいずれも、広告ネットワークや広告管理サービスを手掛ける企業、あるいは双方向広告の代理店で、ダブルクリックとは競合関係にある。

さらに1月初旬には、ソフトバンク・インタラクティブ・マーケティング(SIM、http://www.simweb.com)の経営コントロール権がインターネット広告技術の開発会社であるズールーテック社に売却された。SIMはヤフーやネットスケープなど、トップクラスのWWWサイトの広告スポットを取り扱う双方向広告専門の最大手代理店で、97年9月から広告ネットワークにも参入している。

一方、ダブルクリック自身も、株式公開を通じて調達した資金の使い道として他社の買収を挙げていることから、さらに業界再編は続くと見なされている。ズールーテック社はダブルクリックの株式公開から3日後、わざわざリリースを出してダブルクリックによる買収のうわさを打ち消し、独自に株式公開を目指す方針を明らかにする反応を見せた。ちなみに同社の97年の収入は3900万ドルで、ダブルクリックより大きい。

両社の合併の可能性はともかく、このような再編の流れは、業界内の個々の企業の基盤がまだそれほど磐石とはいえないことを示している。インターネット広告市場の将来がどんなに明るくても、その将来に行き着くまでの過程でいかに持ちこたえるかが問題なようだ。

図

ダブルクリックのプロフィール

社名(本社所在地)
DoubleClick Inc.(New York City, NY)

業務内容:
インターネット広告専門の広告代理店。広告を掲載する複数のWWWサイトの広告スポットを内容カテゴリー(ニュース、テクノロジーなど)別にまとめて販売する「広告ネットワーク」を運営。広告掲載サイトに対し、広告スポットの販売と広告配信などの管理サービスを提供している。
広告主がユーザーのドメイン(com/org/netなど)や、OS、ブラウザーなどの条件に応じてターゲットを絞れる独自開発の技術「DART(特許申請中)」を売り物とする。

主要ネットワーク参加サイト:
アルタビスタ(http://www.altavista.digital.com)
トラベロシティ(http://www.travelocity)
ルックスマート(http://www.looksmart.com)
マクロメディア(http://www.macromedia.com)
USAトゥデイ(http://www.usatoday.com)

最近の業績:
営業収入(収支)
96年 650万ドル(▲320万ドル)
97年 3060万ドル(▲840万ドル)


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