Skip to main content

English

Japan

ヤフー・オンライン計画に見るサーチエンジンの今後 ISP化の持つ意味

ヤフーとMCIが共同ブランドによるISP事業を開始すると発表したことをきっかけに、AOLのような大手ISPとの直接競合を目指すヤフーの戦略が明らかになった。最近、同社が行なった買収と出資も、この戦略実現に向けた布石と考えられる。サーチエンジンの今後の方向と、ヤフーの選択の持つ意味を考察してみた。(倉持 真理 富士通総研 1998年1月28日)

ヤフー・オンラインの計画

1月12日のリリースによれば、両社は98年3月までに、全米で「ヤフー・オンライン・パワード・バイMCI」という新サービスを一斉に開始する。このサービスは、MCIのネットワークによるダイヤルアップのインターネット接続に、ヤフーのコンテンツと電子メールやチャット、個人ホームページなどの機能を加えたもので、単純にいえば、デフォルト・ページがヤフーに設定されたISPである。

料金は今のところ未定だが、一般ISPと横並びの月額19.95ドル(接続時間無制限)になる可能性が高い。サービスには、ヤフーの既存WWWサイトでは得られないプレミアム・コンテンツやコミュニケーション機能が含まれる予定だ。基本的に接続料をMCI、広告料をヤフーが取る収入配分を計画しているものと想像される。

サーチエンジンの機能拡張

誕生以来、インターネット利用に不可欠な検索とナビゲーション機能を提供してきたサーチエンジンは、次第に独自コンテンツを増やし、チャンネル形式でまとめたり、情報のパーソナライズ機能を加えるなどして、AOLと同じようなユーザーのネットサーフの起点としての役割強化を目指したサービス拡張を続けてきた。

しかし、独立したWWWサイトであるサーチエンジンとAOLとの最大の違いは、デフォルトの優位性がなく、ユーザーが繰り返し訪れ、時間を費やす必然性を持たないことだ。このため、サーチエンジンはAOLのようなISPよりも、ユーザーの拘束力が弱いと見なされる。

この点を乗り越え、ISPと同じ競争条件を備えるため、サーチエンジン各社はコミュニケーションとコミュニティの機能に着目した。コミュニケーションとコミュニティを実現するサービスとしては、WWWから参照できるメールボックス、チャット、インスタント・メッセージ*1、無料の個人ホームページなどがある。ヤフー、エキサイト、ライコス、インフォシークの4つの主要サーチエンジンは、こうした機能充実化の手段として、他社からの技術ライセンス取得や企業買収に費用を投じている(「各サーチエンジンの機能装備状況」参照)。

中でも、最もアグレッシブな手段で機能の充実化を図ったのがヤフーだ。同社は97年10月に、電子メール・サービスを提供するフォー11社を買収し、既存サービスをユーザーごと手中にした。また、1月5日には個人無料ホームページの人気サービスを展開するジオシティーズ(http://www.geocities.com)に500万ドルの出資を行なうことも明らかにしている。

こうした取引により、検索、ナビゲーション、独自コンテンツ、ショッピング、電子メール、個人ホームページと、AOLの装備する機能をほとんどWWW上で備えたヤフーは、さらにこれらのサービスの入り口をデフォルトで利用する独自のISP加入者を確保し、立場を強固なものにする戦略へと発展させたわけである。

規模をとるか拘束性をとるか

一般にISPの加入者は、インターネットに接続した最初のページをISP自身のホームページに設定している場合が多い。必然的に多くのユーザーの目に止まるISPのデフォルト・スタートページに着目したのが、プラネット・ダイレクト(http://www.planetdirect.com)やCNETのスナップ・オンライン(http://www.snap.com)の手掛けるISP向けコンテンツ配給ビジネス*2だ。これはヤフーの考え方に非常に近いビジネスであり、ヤフー・オンラインと競合する勢力と見なすことができる。

しかし、コンテンツ配給業者があらゆるISPと提携し、カスタマイズしたスタートページを提供して広告視聴者ベースを拡大していくのに対し、ヤフーはISPをMCIに限定してユーザーを集めようとしている。ISP化すれば確かにユーザーの拘束性は高まるが、その反面、規模は限定される。すでに4000万人以上のユーザーがいるといわれる米国のインターネット市場で、これからスタートしてにわかにユーザーを獲得できるのか、そして、拘束した加入者ベースから得られる広告事業にそれほどの収益性を見込めるのかが、成功の分かれ目となる。

図

*1 専用クライアント・ソフトを使い、ネットサーフ中、オンラインにいる知り合いとの間で、リアルタイムにチャットできる機能。

*2 複数のISPと提携し、個々のISPにカスタマイズしたスタートページを提供。提携ISPの加入者を広告視聴ベースとして広告スポットを販売し、収入をISPとシェアするビジネス。スタートページには、各種リンクとニュース、株価、気象情報などのコンテンツを配信する。


ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。