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ブーム終焉後のプッシュ事情 ポイントキャストは生き残れるか?

昨年前半から今年序盤にかけて、一世を風靡し、本紙でもさんざん取り上げたプッシュ・サービスの数々のうち、今でも社名ブランド名ともに残っているのは片手で数える程度しかない。ブームが去った今、かろうじて残ったポイントキャストは、どこに向かおうとしているのか。同社の最近の状況をレポートする。(倉持 真理 富士通総研 1997年12月17日)

ポイントキャスト(http://www.pointcast.com)*1を代表格とする「プッシュ」あるいは「ナロー(パーソナル)キャスティング」と呼ばれるコンセプトは、登場当時、インターネット史上最も画期的な発明と称賛を浴び、その後しばらくブームに乗って大躍進を果たした。しかし、一時は30社近くを数えたプッシュに取り組む企業も、ほとんどが倒産するかほかの企業に吸収され、今ではポイントキャストと、ソフトの自動配信技術を開発する方向に進んだマリンバ、バックウェブの2社以外、ほとんど名前を聞くこともない。

とくにコンテンツ配信の分野では、今年序盤以降、ネットスケープとマイクロソフトが自社のブラウザーにプッシュ機能を組み入れることになって以来、プッシュ企業の淘汰はブームの始まりと同様一気に進み、事実上、存続企業はポイントキャストのみといっても過言ではない状況である。

そのポイントキャストに対しても、情報の定期自動更新機能がインターネットの混雑に拍車をかけていると非難された一時期を過ぎると、メディアで取り上げられる話題は、かつてのブームが単なる一時的なハイプ(浮かれ騒ぎ)に過ぎなかったことを指摘するものばかりになってしまった。

プッシュ不人気を示す調査

最近発表された2つの調査結果も、そんな状況を端的に表している。
広告業界紙の『アドバタイジング・エイジ』が9月に行なった消費者の双方向メディア利用動向調査によれば、現在プッシュあるいはパーソナルキャスティングのサービスを利用しているWWWユーザーは24.5%。また、利用に関心があると回答したユーザーは29.1%であった。要するに、7割以上のユーザーは、利用もしていなければ関心もないという状況である。

さらに、広告主の意向に関するフォレスター・リサーチの調査によると、今後2年の間に実施したいインターネット広告の形態はという複数回答の質問で、プッシュ型を選んだ広告主は28%と少数派であった。ちなみに、多くの広告主に支持された広告形態は、ブランド別WWWサイト(96%)、バナー広告(88%)、コンテンツ・スポンサーシップ(74%)であった。

サービス開発の焦点絞る

プッシュの不人気が定説化していく中、ポイントキャストは、自らの存在意義を証明する道を模索し始めている。
まず手始めに同社は、混雑のもとといわれたパフォーマンスを全般的に改善した32ビット対応の新バージョン「ポイントキャスト・ネットワーク2.0」を開発。新バージョンでは、ダウンロードに必要な帯域幅を従来より最大55%まで減らし、更新するコンテンツのチャンネルをユーザーが指定できる機能を足したことにより、ダウンロードの速度と選択の柔軟性向上を実現した。

また同社は、インターネット・ユーザー全般を対象としたために、焦点のぼやけたサービスの位置づけを見直した。すなわち情報の定期更新にニーズを持ち、なおかつ法人対象のイントラネット・ビジネス*2のエンドユーザーでもあるビジネスパースンや学生を主要ターゲットとして再定義した。

この結果、学生向けのコンテンツを集めた「ポイントキャスト・カレッジ・ネットワーク」が誕生。一般サービスのほうは、「ポイントキャスト・ビジネス・ネットワーク」と呼ぶことになった。

視聴者測定と調査に取り組む

一方で、ポイントキャストは広告主の支持を取り付けるために、「視聴者(ビューアー)」の測定と視聴者像調査にも乗り出した。


WWWサイトの利用測定に関しては、曲がりなりにも業界の標準的な手法が存在するが、プッシュの分野にはまだ測定手法はないに等しい。同社は従来、自社のWWWサイトからのソフトのダウンロード件数を視聴者数として公表してきたが、ダウンロードした全員がサービスを利用するわけではないため、これは正確な視聴者数を表す数値とはいえなかった。

また、マイクロソフトのブラウザーIE4.0からは、同社のコンテンツがプッシュ機能のチャンネルの1つに組み込まれたので、専用ソフトのダウンロードも必須条件ではなくなった。このため、サービスを実際に利用しているアクティブ視聴者数を把握する方法を確立し、広告主に提示することがいっそう重要となった。

同社はこの課題を、出版物の発行部数監査機関ABC(Audit Bureau of Circulations)の双方向メディア部門であるABCインタラクティブに持ち込み、プッシュ・サービスとして初めて、第三者機関による視聴者数監査を受けた。ABCの監査によれば、97年4~6月の間のポイントキャストの月平均視聴者数は、100万人を超えることが確認されている。

さらに同社は、調査会社のインテリクエストに委託し、ポイントキャストの視聴者像を明らかにする調査を実施。この調査によれば、同サービスの視聴者は、一般インターネット・ユーザーよりも、かなり裕福で教育程度の高いビジネス・プロフェッショナルであり、オンラインで物品やサービスを購入する率も、一般ユーザーに比べ2倍近く高いことが判明した。

同社はこうした調査結果を公表することで、ポイントキャストの広告媒体としての価値の高さをアピールすることに努めている(『97ポイントキャストの視聴者像調査』参照)。

ポイントキャストの今後

画期的なコンセプトを引っ提げ、ポイントキャストがインターネットの世界に登場してからすでに1年9カ月が経った。コンセプトのユニークさだけで勝負できる時期はとうに過ぎ、地に足をつけ、継続的に安定した力を発揮できる経営体制に移行しなければならない段階である。

しかし、ブームによる騒ぎが大きかったほど、その反動でブーム終焉後の世間の評価は厳しい。同社にとって安定経営体制への移行難度は、そのハンディキャップを負う分、普通のベンチャー企業以上に高い。

そんな状況のもと、同社は10月に、創業者でCEOのクリストファー・ハセットを会長職とし、地域電話会社のパシフィック・ベルとSBCのCEOを歴任したデイヴィッド・ドーマンを新CEOとして就任させている。この人事も、同社が現在の自社の置かれた状況を十分に認識したうえで、将来に向けての舵取りを慎重に進めていることを物語るものである。

ブームが終わったとはいえ、ポイントキャストがその間、幅広いブランド認知という強みを確立したことは事実だ。プッシュの形態は万人向けとはいえないが、それでも質の高い視聴者に到達できるニッチ・メディアとしての需要は存在する。その点に気づき、方向転換を図った同社の判断は、正しかったと思われる。

今後の競合は、主にネットスケープとマイクロソフトがブラウザーのプッシュ機能をどのようにビジネス化していくつもりなのかにかかっているが、広告メディアとしての価値の面で、両社がポイントキャストのリードにしばらく追いつくことはなさそうだ。ポイントキャストはこの難局を乗り越え、近いうちに株式公開を果たす計画を進めているところである。

*1 PointCast Inc. (Sunnyvale, CA)

*2 ポイントキャストは、企業や大学が従業員や学生向けに内部のニュースや通達事項をイントラネットで流すことのできるサーバー・ソフト(「ポイントキャストIサーバー」)の販売、サポートも手掛けている。広告収入とソフト・ビジネス収入の比率は不明。



コラム

97ポイントキャスト視聴者像調査
平均的インターネット・ユーザーポイントキャスト視聴者
世帯年収10万ドル以上16%31%
(平均10万9080ドル)
学歴大学卒以上42%70%
フルタイム職保有率66%90%
中間管理職以上の役職33%44%
新聞を読む時間が減った46%
雑誌を読む時間が減った23%
TVを観る時間が減った21%
WWWで買い物経験あり27%63%
30日以内にWWWで買い物をした16%32%
オンラインでカード決済した
(今後利用予定)
58%
(68%)
WWWで車を探した
(購入した)
45%
(3%)
WWWでコンピュータ機器を探した
(購入した)
42%
(20%)
WWWで航空券を探した
(購入した)
40%
(16%)
WWWで株や証券類を探した
(取引した)
38%
(10%)

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