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コンピュサーブの新サービス「C フロム・コンピュサーブ」に見る米オンラインサービス業界の変化の兆し

AOLによる買収、主力サービスの定額制料金への移行など*1、激動の状況下にあるコンピュサーブが、従来の商業オンラインサービスの枠から抜け出し、市場での独自の地位確立を狙った新サービスの開始を発表した。このサービスの登場は、米国オンラインサービス業界にとって、市場のあり方が少しづつ今までと異なる方向に向かおうとしていることを予感させるものでもある。(倉持 真理 富士通総研 1997年11月6日)

WWWベースの有料コンテンツ・サービス

年内スタート予定の新サービス「C フロム・コンピュサーブ」は、同社の主力サービスCSiの中で、世間的にも最も価値が高いと評価される約500のフォーラムと情報データベース(DB)をWWWベースに移植し、一般WWWユーザーに有料で提供するというものだ。従来、これらのコンテンツはプライベート・ネットワーク内で保持されていたため、CSiに加入しなくては利用できなかった。しかし、今回これをWWWユーザーの誰もが料金を支払えば利用できるようにすることで、同社は独自コンテンツの市場を大幅に拡大する意味を持つ行動を起こした。
同社によれば、ターゲット層は3000万人といわれるWWWユーザーのうち36%(1080万人)を占める、フリーランスや自営のビジネスパースン、技術系その他の専門的職業につく人々。つまりは、価値ある情報にそれなりの対価を支払うことを必要な投資と見なし、厭わない人々である。

新サービスの料金体系

「C」の料金体系は、利用者のステイタスごとにいくつかのレベルに分かれて設定されている。また、それぞれのレベルにおける同社の収入計画も以下のように定義された。

「ゲスト」レベル
「C」のすべてのフォーラムの内容を無料で読むことが可能。フォーラムに付随する関連WWWサイトへのリンクも利用できる。ただし、内容を読むだけで、ディスカッションに参加することはできない。運営収入源は広告によるものとなる。

「メンバー」レベル
「C」の情報DBを検索結果1件ごとのペイ・パー・ビューあるいはDBごとのトランザクション・ベースで利用可能。支払いはクレジットカードでおこなわれるが、ゲスト・レベルでアクセスし、一度クレジットカード番号を指定すれば、毎回利用のたびに、再指定しない限り同じカードに請求される仕組み。このレベルは、有料DB使用料と広告料の収入で賄われる。

「加入」レベル
加入レベルは、さらに内容オプションによって3つに分かれる。収入源は月別加入料、有料DB使用料、広告料からの3本立て。

(1)通常サービス=フォーラムへの書き込み参加と、特定の付加価値コンテンツへのアクセスが可能。
(2)コミュニケーション・パッケージ=「C」のコンテンツを電子メール、音声メール、FAX、ポケベルを通じて取り出すことのできる機能を含む。
(3)「コンピューティング・プロ」=コンピュータ専門職ユーザーのためのさまざまな付加価値サービス付き。

加入レベルの3種類のサービスの料金はまだ発表されていないが、フォーラムその他のコンテンツへのアクセスを含むCSiの料金が月額24.95ドル(定額制の場合)であることから、通常サービスでも一般ISP料金(月額19.95ドル)とCSiの差額に、いくらかをプラスアルファした月額5~10ドル程度になるものと推測される。

有料コンテンツ市場での優位

「C」への取り組みは明らかに、コンピュサーブが接続料を収入源とする従来のスタイルから、コンテンツと広告料、そして場合によってはAOLと同様、ショッピングサイトとのリンク提携による売上シェア収入を主体とするビジネスにシフトし始めたことを示している。インターネット/オンラインサービス業界の中で、コンテンツ自体の有料の価値を売り物とする方向に進んで成功した企業は、まだそれほど多くない。

わずかに成功に近い例としては、つい先日有料購読者数が15万人を超えたことを発表したウォール・ストリート・ジャーナル双方向版(http://www.wsj.com)と、株価や投資アドバイスを電子メールなどを通じて提供するいくつかのサービスが挙げられるのみだ。しかし、「C」はフォーラムや情報DBへのアクセスをパッケージに取り合わせて販売するという面で、これら単独コンテンツを販売するサービスとは一線を画したビジネスモデルと捉えられる。

今回コンピュサーブがターゲットとするSOHO(Small Office/Home Office)や高度な専門的職業に就く人々からなる有料コンテンツの市場は、早いうちからその存在だけは理論的に認識されていた。この市場を狙ったコンテンツ・パッケージのビジネスは、95年にAT&Tが「AT&Tビジネスネットワーク」として試みたことがあるが、これは主に時期尚早と、AT&T社内における支援体制不在のために離陸しなかった。このため、この市場に対して体系的なアプローチをとる企業は、前述の単独コンテンツを販売するケース以外に、ほとんど存在しなかったといってよい。

このほか、法人ユーザー対象にさらに高価な情報DBのパッケージを販売するダウ・ジョーンズやLEXIS-NEXISなどが競合に当たらないともいえないが、「C」の方が価格的に手頃であること、そして何よりフォーラムというコミュニティ・ベースのユニークな知識源を備えていることが、基本的には個人ユーザーからなるこの市場で有利に働くものと思われる。

業界変遷の中で見る「C」のビジネスモデルの位置づけ

米国オンラインサービス業界のここ2~3年の流れを振り返ってみれば、AOL、コンピュサーブ、プロディジーの「ビッグ3」に後からMSNが加わる、独自コンテンツの価値を中心に据えた商業オンラインサービス全盛期から、次第にインターネット接続だけに機能を絞ったISPの時代に移るにつれ、競争力のないサービスは脱落し、MSNとAOLはISPとの競争対策として無謀な定額制料金導入に運命を賭けた。

しかし、今この時期になって、一方からもう一方への力任せの急激な移動に対する揺れ戻し効果と、サービスの質による差別化志向がわずかながらも生まれた結果、ISPがコンテンツ配給業者*2から広告収入をシェアする形でコンテンツ・メニューの配給を受けるなど、コストに見合う範囲で商業オンラインサービスとISPの中間をとるような形態も定着しつつある。このような市場成熟化の流れとともに、「C」の有料コンテンツ・パッケージというビジネスモデルも、価格がすべてを決した以前と異なり、成立する可能性がなくもない環境に生まれてきたといえそうだ。

コンピュサーブにしてみれば、SOHOや専門的職業の人々は、もとから一番の得意にしていた市場である。「C」が軌道に乗れば、無理なく自然に得意分野の力を生かせる理想的な状況になる。AOLは否定しているが、今後何らかの戦略的判断により、買収したCSiやスプライネット加入者がAOLのサービスに組み入れられることになったとしても、最も価値のあるコンテンツの部分だけは、「C」によってコンピュサーブのブランド名とともに、生き残ることができよう。

どのような形であれ、この世界ではユーザーを1人でも多くしっかり囲い込んだものの勝ちであることは、AOLが実証しようとしている通りだ。コンピュサーブは「C」によって、CSiの接続込みのサービスにとらわれることなく、さらに多くのユーザーを獲得できる戦略に踏み出した。

AOLの軍門に下ったとはいえ、コンピュサーブのブランドと、ブランドに見合う品質を維持しようとするそのこだわりに敬意を表し、この戦略の成功を祈りたい。

*1 97年10月22日号(Vol.3, No.65)18頁参照。

*2 CNETのスナップ・オンライン、プラネット・ダイレクト、ルックスマート・ネットワークなど。97年10月8日号(Vol.3, No.64)17頁参照。


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