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ウェブTV第2世代登場

データ放送受信機能でCATV業界にプレッシャー 対抗勢力にも動き

ウェブTVネットワークス*1は9月16日、テレビとインターネットの統合を従来よりさらに進めた“第2世代システム"の今秋発売を発表した。新しい「ウェブTVプラス・システム」はデータ放送受信機能を中心に据えており、マイクロソフトの描くPCTV統合の将来像に一層近づいたものとなっている。その裏側では、テレビのデジタル化とデータ放送機能に絡んで、CATV業界とマイクロソフトの攻防も始まっているらしい。一方、市場ではウェブTV対抗勢力の活動も本格化しはじめた。最新状況をレポートする。(倉持 真理 富士通総研 1997年10月8日)

第2世代システムの概要

「ウェブTVプラス・レシーバー」という新しいセット・トップ・ボックス(STB)は、米国で10月にソニー、フィリップス、三菱電気の3社から300ドル以下の小売価格で発売予定。これに伴い、新STBによる接続サービス「ウェブTVプラス・ネットワーク」も月19.95ドルの料金でスタートする*2
第2世代「ウェブTVプラス・システム」の主な特徴と機能は、次の通りである。

テレビとWWWの同時表示
ウェブTVのために特別に開発された「ソロ」と呼ばれるチップにより、テレビとインターネットの統合に欠かせないテレビ画像とWWWの同時表示機能「ウェブPIP(Picture In Picture)」を実現。テレビ画像とWWWのどちらか片方ずつのフル画面表示と、同時表示の3種類のモードを瞬時に切り換えられるようになった。ソロは3Dの画像表示にも威力を発揮する。

広帯域データ受信のビデオモデム技術
ケーブルや地上、衛星テレビ放送の電波の隙間(VBI:Vertical Blank Interval)を通じて送られるデータを受信する技術を付加。1Mbpsのスピードでビデオなどの広帯域マルチメディア・コンテンツの受信が可能となった。

1.1Gbハードディスク
STBに1.1ギガ・バイトの容量のハードディスクを装備。データ放送を通じて受信したマルチメディア・コンテンツをローカルに蓄えておける。

電話回線接続のスピード向上
家庭からの上りデータやWWWページのダウンロードは、従来通り電話回線を通じて送受信されるが、ロックウェル社製56Kbpsモデムにより、通信速度が従来の2倍にスピードアップ。

テレビと番組選択コントロール機能
ウェブTVプラス・ネットワークには、インターネット接続時の「ウェブホーム」とテレビ視聴時の「TVホーム」の2つの初期メニューがある。TVホームは、各テレビ・チャンネルで放送中の番組ガイドを表示。ユーザーは、画像入りガイドを見ながら番組を選び、そのままテレビのチャンネルを切り換えることができる。また、48時間分以上の詳しい番組情報も「TVリスティングス」機能で参照可能。

テレビ番組との統合
「TVクロスオーバー・リンク」は、放送中のテレビ番組とそれに関連する情報を同時に楽しむことのできるウェブTVプラスの目玉機能。VBIを通じて送信された番組関連情報をレシーバーがキャッチすると、テレビ画面に小さなアイコンが表示される。ユーザーがアイコンを選ぶと、テレビ画像の周囲に双方向コンテンツが配置され「双方向テレビ」に早がわり。さらに詳しい情報のあるWWWへのリンクボタンを押せば、自動的にモデムが起動し、インターネットに接続してPIPの状態となる。野球中継なら今シーズンの試合実績参照、ドラマならば前回までのあらすじ解説、討論や情報番組ならば世論調査アンケートなど、さまざまな用途に利用できる仕組みである。
ウェブTVは双方向コンテンツ付きのテレビ番組を制作してもらうため、ディスカバリー・チャンネル・オンライン、E!オンライン、MSNBC、ニッケルオデオンなど、テレビ関係のオンライン・コンテンツ・プロバイダーと提携した。また、双方向機能を広告にも活用し、テレビ・コマーシャルの放送中に広告主のWWWサイトにリンクするアイコンを表示するなどして、ダイレクト・レスポンス型コマーシャルを実現する。

マイクロソフトの思惑とCATV業界との攻防

以上の通りウェブTVの第2世代システムは、単にテレビでインターネットに接続するという従来のサービスから、テレビとデータ放送、インターネットを組み合わせた、まさしく「双方向テレビ」へと、かなり大胆に変身を遂げている。この変身の背景には、PCを持たない消費者の双方向サービス・ニーズに対する作り手側の認識転換があることはいうまでもない*3

さらに『ウォール・ストリート・ジャーナル(WJ)』によれば、どうやらマイクロソフトは、新システムの中核をなすデータ放送受信/蓄積機能に関し、今回提示したテレビ番組の双方向化以上の計画を温めているようだ。

おりしもテレビ業界は、98年から移行が始まるデジタル化への対応に追われている。マイクロソフトはCATV会社に対し、デジタル・ケーブル・コンバーターの技術スタンダードを提案する立場にいるが、技術提供だけにおさまらず、デジタル化のあかつきに実現する映画のビデオ・オン・デマンドなどの新サービスから生じる収入に対し、分け前を要求しているのだという*4

CATV業界にとって、これはなかなか承服しかねる条件なので、交渉は難航。そこにマイクロソフトはデータ放送受信/蓄積機能を備えたウェブTVプラスを出してきた。現段階では、まだ映画のダウンロードに利用できるほどの容量は備えていないが、将来その気になれば、CATV会社を中抜きして、データ放送で新たなサービスを実現するのも不可能ではないことを示したわけである。

実際にウェブTVのCEOのパールマンは、夜間のうちに短いビデオのインフォマーシャルを送信してハードディスクに蓄えておき、ユーザーが都合のいい時間帯に見られる仕組みで広告収入を得る計画も進行中、と発言している(WJ紙)。CATV業界の人々は、データ放送によって自分たちがビジネスの枠外に置かれる可能性を思い、顔色をなくしたに違いない。

この攻防の行方がどのような方向に流れるのか、結果を見るのはもう少し先になるが、とにかくウェブTVプラスがテレビ業界に少なからぬ影響を及ぼすことだけは避けがたい。特に、データ放送を使った双方向テレビ・システムの中では、これまで最も有力と考えられていたウィンク・コミュニケーションズ社の「インターテキスト」には、打撃は大きいと推察される。
『ZDネット・ニュース』によれば、パールマンはウェブTV加入者が98年末時点で100万人を超えるだろうと、強気に語っているらしい。

*1 http://www.webtv.net

*2 ウェブTVプラス・レシーバーの発売に伴い、従来型STBは予想小売価格を300ドルから200ドルに値下げ。さらに主要小売チャネルでの100ドルのキャッシュバック・キャンペーン実施により、実質100ドル以下とする。従来型STBによる接続サービス(月19.95ドル)は、新STBによるサービスと並行して運営される。従来型STBのユーザーは、現在15万人(同社発表数値)おり、今回これらの既存ユーザーに対しても、ホームページのデザイン変更や、若干の機能アップグレードを無料で実施。

*3 この認識転換は、今年6月に実施されたウェブTVのアップグレードにも、すでにその萌芽が見て取れる。その2カ月前にウェブTV買収を発表したマイクロソフトの意向が深く関与した結果だろう。97年7月9日号(Vol.3, No.58)10頁参照。

*4 これは、マイクロソフトのビジネス・アプローチの標準形。毎回成功するとは限らないが、ほとんどこの形で交渉を開始する。


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