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ピーポッド対ネットグローサー

食品雑貨配達サービスのビジネスモデル比較

この夏、米国でネットグローサー(http://www.netgrocer.com)*1という新サービスが誕生した。WWWでオーダーすれば、生鮮食品を除く日用品を全米どの地域にでも宅配してくれるというものだ。オンラインでオーダーする食品雑貨の宅配サービスといえば、6月に株式公開を果たしたピーポッド(http://www.peapod.com)*2が有名だが、ネットグローサーのサービスは、さまざまな面でピーポッドとは大きく異なっている。両社を比較しながら、食品雑貨宅配サービスのビジネスモデルを考察してみた。(倉持 真理 富士通総研 1997年9月10日)

地域型と全国型

ピーポッドとネットグローサーのサービスを異なるものにしている最大の要因は、配達地域の違いである。
展開地域内のスーパーマーケット・チェーンと契約し、スーパーマーケットの店舗を拠点として注文商品を配達する「地域型」サービスのピーポッドに対し、ネットグローサーは受けた注文をフェデックスの宅配便を使って全米のどこにでも届ける「全国型」である。最大手のピーポッドに限らず、従来ほぼ例外なく地域型であった食品雑貨宅配サービスの分野で、ネットグローサーは初の全国型サービスに挑戦したのである。

地域型であれば、注文を受けた当日か翌日には届く配達所要時間も、全国型のネットグローサーでは注文を受けてから最低2日以上かかり、このため卵や牛乳、野菜などの生鮮食品は扱っていない。


主力となるのは、缶詰やパッケージ入りドライフード、飲料、そして紙製品などの日用雑貨である。

価格とターゲット市場の違い

価格の面でも両社には明確な違いがある。
ピーポッドは月額6.95ドルの基本料金に加え、注文のたびに4.95ドルの配達料と商品代金の5%の手数料を請求。商品代金は、契約スーパーマーケットの店舗での時価である。

これに対しネットグローサーは、自社で仕入れた商品をディスカウント価格で販売するため、商品の値段を都心部のスーパーマーケットでの買い物よりも2~3割、郊外店より1~2割は安くできる。配達手数料は従量制をとっており、最初の10ポンド(約4.5キロ)までが2.95ドル、以降10ポンドごとに99セント増しだ。

ただし、価格が安いかわりに、ネットグローサーにはスーパーマーケット(=ピーポッド)のような幅広い品揃えはない。また、有名ブランドよりも無名ブランドの商品が中心である。取扱品目数で比較すると、一般スーパーマーケット店舗の2万~3万品目に対し、ネットグローサーはその10分の1の2500品目しかない。
価格の違いはすなわち、ターゲット市場の違いを示している。

ピーポッドのターゲットは、中の上程度の所得層の共働き世帯で、価格よりも買い物にかける手間と時間を節約したいというタイプ。一方のネットグローサーは明らかに、それより価格に敏感な層を狙っている。サンフランシスコ・クロニクル紙が伝えた同社CEOの言によれば、「米国世帯の8割は年収5万ドル以下であり、市場の大部分を占めるその層をターゲットにしている」ということだ。

ピーポッドの設立は今から8年前の89年。当時から、専用の通信機能付きソフトを配付し、PCとモデムを保有する先進的な消費者を対象に、オンライン注文の宅配サービスを提供してきた。ピーポッドの市場リーダー層狙いは、このような歴史によるものである。この点、もっと平均的な所得層をターゲットとするネットグローサーは、PCやインターネットが広く一般に普及した今の時期になってはじめて成立しえた事業であり、今後の市場の成長に期待する面も大きいといえる。

「全米世帯の8割」の発言を短絡的に受け取れば、ネットグローサーの市場の方が大きいように錯覚するが、米国世帯のインターネット普及率が3~4割で、そのうちまだ大部分が中間所得以上の人々で占められていることを考えると、実は現時点ではそれほど大きくもないことに気づく。そして、理論的には2割の世帯を対象としていることになるピーポッドの8つの展開地域内における世帯浸透率は、同社の公開数値によると0.8%なのである。

ビジネスモデル比較/ピーポッドの業績分析

以上は、顧客から見えるサービスの部分での比較であったが、ここからは経営の内側から両社のビジネスモデルを比較してみたい。といっても、ネットグローサーに関しては、スタートしたばかりの私企業で具体的なデータが存在しないため、推論で進めていくことにする。まずはピーポッドの業績分析だ。

ピーポッドが株式公開時に先立って公開した過去数年の業績と、最近発表された97年3~6月期のデータによれば、同社は順調に展開地域、メンバー数、売上を増やしているのだが、その実、今まで一度も黒字になっていない。株式公開を果たして一躍知名度をあげた現在は、積極的な拡大戦略を押し進めている最中であり、利益の確保は当面二の次としているようだ。

表2の業績データを見てわかる通り、メンバーが購入した商品の代金(A)は、同社の収入に計上されてはいるが、契約スーパーマーケットに対する支払いにあてるため、そっくりそのまま支出(a)としても計上されている。このため、同社が事業支出を差し引いて利益を出すことのできるのは、メンバーから毎月徴集する基本料金(6.95ドル)と、注文のたびの配達料(4.95ドル)、手数料(購入金額の5%)、契約店からの収入*3をまとめた(B)および、食品雑貨メーカーなどからメンバーを対象とした新製品テストや市場調査などを請け負う(C)の双方向マーケティング・サービスの収入からとなる。

同社が黒字になるためには、(B)と(C)の収入を増やさなければならない。特に、同社にとってメインの分野である(B)をいかに増やすかが重要だ。その方法は、メンバー数を増やすと同時に、注文回数と購入金額も増やすことである。

しかし、同社の公表数値で97年3~6月期と前年同期を比べてみると、メンバー数は展開地域の拡大(2カ所から8カ所)に伴い約3倍に伸びているものの、1世帯あたりの3カ月間の注文回数は、前年の約2.6回から、1.8回に減っており、1回あたりの購入金額も110ドルから109ドルと低迷している。1回ごとに配達料を取られる料金体系のため、メンバーが注文回数を増やさない傾向にあるのは理解できるが、1回あたりの購入金額の低迷は、同社にとっては危険信号だ。

これらの要素を考えると、同社はスケールメリットを追いかけるばかりでなく、同時にメンバー世帯あたりの利用を増やすことに真剣に取り組まないと、いつまでたっても黒字に転換できない。そればかりか、このままメンバー世帯あたりの利用が減っていくと、赤字幅が拡大する一方になるおそれすらある。

ネットグローサーのビジネスモデル

一方、ネットグローサーの業績データの場合、営業収入の欄には商品売上と配達手数料の項目が並び、この2つは合計してマージンをあげることのできる母体となると推測される。そして支出の欄には、一般的な管理費、マーケティング費などのほかに、商品の仕入れコストとフェデックスへの配送委託費、配送センターの運営費が並ぶ。

メンバーから初回加入料や月々の基本料金を徴集しない同社のビジネスモデルは、単純にいえば商品と配達手数料の価格に支出をカバーできる分を上乗せし、その価格をリーズナブルな範囲にとどめておくことができれば成立するのである。

同社の利益は、商品をいかに安く仕入れて効率よく売りさばくかという経営努力に多くの部分を負っている。メンバー数が増えて仕入れる商品の量が増えるほど、バイイングパワーが増し、さらに商品を安く仕入れることが可能になって、利益は増す。配送手数料に関しても同じで、メンバーの注文回数が増えるほど、フェデックスに対する価格交渉力が増し、委託費を安く抑えて利益を出せる。

つまり、ネットグローサーのビジネスモデルは、一見同業者のようなピーポッドよりも、実はよほどスーパーマーケットなどの小売業に近い。さしづめ宅配専門小売業とでもいう新しい業態として、スーパーマーケットと競合する存在といえる。

小売競合型と小売共存型

ネットグローサーとピーポッドの違いは、サービス上においては「全国型」と「地域型」だったが、ビジネスモデル上においては、「小売競合型」と「小売共存型」と表現することができる。

前者は競争相手であるスーパーマーケットやディスカウントストアが強い基盤を持つため、宅配という強みはあっても厳しい状況にある。しかし、後者も共存とはいいながら、スーパーマーケットと手を組んで有利な立場にいるとはいいがたい。なぜなら、スーパーマーケットにとってピーポッドに対する支出は、余分なサービス・コストとして飲まねばならないものであり、もとから薄利のスーパーマーケットのビジネスにとっては、利益をさらに圧迫する要因となるからだ。

ピーポッドと契約しているスーパーマーケットは、いずれも体力のある大手チェーンであり、顧客サービスと地域内の他店との差別化のために、宅配を導入していると考えられる。同社とっては、スーパーマーケットとの契約を獲得して展開地域を増やすのは、それほど簡単なことではない。

第3のタイプ/地域・小売競合型

このタイプに属する企業としては、ドン・ペパーズ&マーサ・ロジャースの本紙連載記事の中にも取り上げられたストリームライン(Streamline Inc./Westwood, MA)*4と、現在100世帯を対象としたテストを実施中のショップリンク(Shoplink/Sudbury, MA)がある。両社とも生鮮食品を含む食品雑貨の宅配サービスで、メンバーの家のガレージに鍵のかかる冷蔵機能付きの専用宅配ボックスを置き、家に誰もいなくてもボックスの中に注文商品を置いていってくれる。

ストリームラインの場合、初回加入料が49ドル、毎月の基本料金が30ドルだ。この基本料金には週1回の定期配達料が含まれ、定期配達以外のタイミングで頼みたい場合には、別途料金がかかる仕組み。商品の価格は、一般のスーパーマーケットと同レベルに設定されている。レンタルビデオやドライクリーニングも扱う便利なサービスだ。ニューヨーク・タイムズ紙の取材によれば、今年6月時点でのメンバー数は250世帯。1世帯あたりからの平均収入は、月450ドルであるという。

ショップリンクの手数料に関する情報は不明だが、どちらもこの事業コンセプトがうまくいけば、展開地域を徐々に全国にまで広げ、「全国・小売競合型」にもって行きたいという意向を持っている。両社がネットグローサーのように最初から全国展開しないのは、生鮮食品を扱う都合上、自社の配送センター運営が必須となり、不動産取得などのスタート・コストがかかるからである。

このタイプのビジネスモデルは小売競合型だが、配送関係のコスト(不動産費、配送センター維持費など)を小売業における店舗関連のコストより少なく抑えることにより、商品の価格を下げて競争力を得るという考え方を基本としている。

まとめ

以上、食品雑貨宅配サービスを3つのタイプに分けて見てきたが、どの企業もこれから本格的な展開を迎える時期にさしかかったばかりのところであり、まだいずれかの優位性を決める時期には至っていない。

アンダーセン・コンサルティングは、米国でこのような宅配による食品雑貨の売上は、今後10年以内に全食品雑貨小売市場の10%程度にまで浸透するだろうと予想している。忙しい現代の生活と、これからの高齢化社会を考えても、宅配サービスは今後大いに成長の余地のある分野と考えてよい。本格的展開が始まったあかつきには、既存の店舗を有する小売業との攻防を含めて、注目に値するテーマとなるはずだ。

*1 NetGrocer, Inc. (New York, NY)

*2 Peapod, Inc. (Evanston, IL)

*3 契約店からの収入は、毎月の販売額に応じたキックバックと、新しい店舗でのサービス開始時に支払われる一時金からなる。

*4 96年11月20日号(Vol.2, No. 44)4頁参照。

表1 食品雑貨宅配サービスの内容比較
企業名 ピーポッド ネットグローサー ストリームライン
展開地域 シカゴ、ボストン、
サンフランシスコ等8地域
全米 ボストン周辺のみ
ビジネスモデルのタイプ 地域・小売共存型 全国・小売競合型 地域・小売競合型
商品の価格 スーパーマーケットと同じ スーパーマーケットより安い スーパーマーケットと同レベル
品揃え 広い
生鮮食品あり
狭い
生鮮食品なし
狭い(?)
生鮮食品あり
ほかにもレンタルビデオ、靴修理、ドライクリーニングなど
手数料体系 基本料 $6.95/月
配達料 $4.95/回
手数料 購入額の5%/回
配達料 10ポンドまで$2.95~/回
以降10ポンドごと+$0.99
初回加入料 $49
基本料(週1配達) $30/月
表2 ピーポッドの業績データ(単位:金額千ドル)
96年度(3月末締) 97年度3~6月期 96年度3~6月期
営業収入
商品代(A)
宅配サービス(B)
双方向マーケティング(C)
営業収入計
22,015
6,088
1,069
29,172
10,117
3,909
565
14,651
5,025
1,190
207
6,422
営業支出
商品代(a)
宅配オペレーション
一般管理費
マーケティング費
システム開発維持費
原価償却/割賦償却
営業支出計
22,015
8,141
2,919
3,984
1,492
651
39,203
10,117
4,324
1,663
1,008
303
378
17,583
5,025
1,660
574
923
334
150
8,666
営業収支 △10,030 △3,202 △2,244
営業外収入(利息) 537 201 149
営業外支出(利息) 72 30 16
全体収支 △9,566 △3,031 △2,111
1株あたり収支
(発行株数)
-- △$0.22
(13,714)
△$0.16
(12,807)
経営指標
メンバー数
期間内の注文回数
展開地域数
展開地域の全世帯数
43,000
201,000
4
--
51,500
93,200
8
6,414,000
17,700
45,500
2
2,280,000

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