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新たな収入源を求めるAOL 有料ゲームや販売提携など展開急ぐ

昨年末に月19.95ドルの定額制の料金体系導入を敢行して以来、接続キャパシティのオーバーという大トラブルを乗り切ってきたAOLが、新たな収入源確保のために活発に動き出している*1。AOLの最近の活動とその狙いをレポートする。(倉持 真理 富士通総研 1997年7月24日)

接続時間に応じて課金する従量制から、何時間使っても同じ料金の定額制への移行は、加入者獲得面では強力な威力を発揮する反面、トータル接続時間が増加し、設備や運営コストが膨張しても、接続収入は固定化されて、利益の維持が難しくなることを意味する。このため、AOLの定額制移行戦略は、当初から広告料やオンラインショッピングによるコミッションなどの新たな収入源開発とセットとなって、はじめて正当化できるものとなっていた。

最近、AOLが相次いで明らかにしている有料ゲーム・コーナーの開設や、いくつかの企業とのコミッション契約は、定額制移行のセット戦略の一環と位置づけることができる。以下に、それぞれの内容を見ていきたい。

有料ゲーム・コーナーの開設

AOL子会社のワールドプレイ・エンターテイメント社(WorldPlay Entertainment/Burlingame, CA)*2は、6月17日からAOL内に有料のゲーム・コーナーを開設。このコーナーのゲームを利用するAOL加入者には、1時間につき1.99ドルの追加料金が課金される。ゲームの種類は、マルチプレイヤー式のパズルやボード・ゲーム、カード、戦略、アクション系など。一般の人々から本格的ゲーマーまで、幅広い層に対応するものを揃えていく予定だ。

ワールドプレイは、AOL内のゲーム・プロバイダーという役割に限らず、インターネット全体のゲーム配給業者という広範囲な事業構想を持っている。自社開発のゲームだけでなく、他社の開発したゲームのライセンスを取得し配給する事業、そして、パッケージ化したゲーム・サービスをAOL以外の一般ISPにも提供する事業も手掛けていく計画だ。手始めとして、オンライン・ゲーム業者のエンゲージ(ENGAGE Games Online/Irvine, CA)のゲームをメニューに加えるとともに、大手ISPのAT&Tワールドネットとアースリンクの2社に対し、それぞれの加入者にワールドプレイのゲームを再販させる提携を結んだ。

現在のオンライン・ゲーム市場は、いくつかの独立したWWW有料ゲーム・サイトがリードする状況にあるが、それら最大手のサイトでも、加入者数は10~20万人程度である。一方、ワールドプレイは、AOLや提携ISPの加入者(現時点で対象人数1000万人以上)を誘導できる立場にあるうえ、ユーザーが個別のゲーム・サイトと加入契約を交わさなくても、ゲーム利用料を接続料金と同じ請求書で支払える利便性を提供できる。このためワールドプレイは、これから急成長が期待されるオンライン・ゲームの市場でも、かなり優位な立場に立てると予想される。
また、AOLは今秋以降、3Dのコミュニティ・スペース「サイバーパーク」の開設を計画しており、これも有料化する予定だという。

コミッション契約

テルセイブ

新たな収入源確保を狙ったAOLの活動の中で、一番最初に実現したのが、今年3月にまとまったテルセイブ(Tel-Save Holdings Inc./New Hope, PA)との契約だ。
テルセイブはそれほど大きくない長距離通話のリセラーだが、AOL内に長距離通話の加入者募集広告を出す独占権を獲得した。AOLは、長距離通話の分野でテルセイブ以外の他社の広告は載せないという条件で、広告からテルセイブが獲得した加入者数に応じたコミッションを得る。
契約時点でAOLは、コミッションの先払いとしてテルセイブから1億ドルを受け取った。

CUCインターナショナル

次が6月10日に発表されたCUCとの契約である。CUCは家電、旅行、自動車関連など、数多くのカテゴリーにまたがる会員制ディスカウント・ショッピングのサービスを手掛けており、AOLのショッピング・チャンネルから優先的にアクセスできる「キー・テナント」扱いとなる。
またAOLは、CUCのWWWサイト「ネットチャンネル」に加入者をリンクで誘導する。98年半ばからは、ネットチャンネルで提供するCUCの全サービスが、AOL用にカスタマイズされ、AOL内部から利用できるようになる予定だ。
AOLはこのほかにも、加入者に対するCUCのダイレクトメール郵送などで、CUCのマーケティングに協力していく。
CUCはAOLとの提携を通じ、年間100万人以上の新規会員獲得を予想している。AOLは3年契約により、AOL内でのCUCの売上に対するコミッションと、ネットチャンネルへの加入者誘導および売上に対するコミッションとして、先払いで5000万ドルを受け取ることになった。

アマゾン・コム/1-800-フラワーズ

一番最近結ばれたのが、7月8日に発表されたインターネット書籍販売のアマゾン・コムと生花宅配の大手、1-800-フラワーズとの契約である。
アマゾン・コムは、AOLのホームページ(http://www.aol.com)*3と、そのサイトにあるサーチエンジンの「ネットファインド」からの独占リンク権を獲得。ホームページ上部にリンクボタンを置くことをはじめ、ネットファインドの検索結果にアマゾンの書籍リストの検索結果を合わせて表示したり、検索結果ページにアマゾンのバナー広告を置くなどのプロモーションを展開する権利を得る。アマゾンはAOLに対し、3年契約の広告料1900万ドルと、AOLからのビジターの売上に応じたコミッションを支払う。
一方、1-800-フラワーズは、94年からAOL内の生花販売の独占権を保有していたが、このたび契約を更新。引き続き、今後4年間の独占権を確保した。1-800-フラワーズは、4年間のAOL内での独占販売により、2億5000万ドルの売上を予想しており、契約金としてその1割にあたる2500万ドルを支払うほか、売上に応じたコミッションを提供する。

AOLの財務状況

AOLの定額制移行戦略は、頭打ちとなる接続料収入のかわりに、前述のような有料サービスやコミッション収入などの比率をできるだけ高めていくというものである。今年3月末締めの97年第3四半期の時点では、同社の接続料以外の収入比率はまだ全体の16%にしか到達していないが、AOLとしては、今後この比率を少なくとも30%以上にもっていく必要があると考えられる。
AOLは、昨年末から今年はじめにかけて、多くの加入者に不便をかけ、世間を騒がせた接続キャパシティ・オーバーと料金返還トラブルに関しては、3億5000万ドルの集中設備投資とともに、新規加入者の抑制などで、なんとか収束させることができた。
AOLは今夏から、マーケティング・キャンペーンを再開し、今年末には加入者を1000万人の大台にのせる計画を打ち出している。毎月2万5000台のモデムの追加も引き続きおこなう方針という。
再び同じようなトラブルを起こさないペースで設備拡張をおこないながら、マーケティングや運営コストとのバランスに見合うだけの収入を接続料以外で確保できるようになってはじめて、AOLの定額制移行戦略は成功したということができる。その目標に到達するには、有料サービス開発やコミッション契約を今よりさらに加速する必要があるだろう。

*1 本紙97年2月5日号(Vol.3, No.48)14頁参照。

*2 元「イマジネーション・ネットワーク」から社名変更。96年8月にAOLがAT&Tから買い取った会社で、現在はAOLスタジオの100%子会社となっている。

*3 AOLのホームページは、WWW上で最も利用者の多い場所として知られている。インターネット・ユーザー1万世帯のオンライン行動をモニターするPCメーターの調査によれば、全オンライン時間のうち、AOLのホームページで費やされる時間は39.3%を占めていた。


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