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ウェブTVのアップグレードに見るインターネットTVの軌道修正と展開戦略

ウェブTVが、ソフトとサービスをアップグレードする。アップグレードの内容を見てみると、インターネット・テレビのコンセプトが、市場のニーズを汲んだ形で軌道修正していることが見て取れる。とはいえ、全体的にはまだ本格的な普及への糸口をつかめないまま、試行錯誤が続く状況に変わりはない。ウェブTVとその追随勢力の動向を見ながら、軌道修正の意味とインターネット・テレビの展開戦略について考察していきたい。(倉持 真理 富士通総研 1997年7月9日)

マイクロソフトによる買収については、まだ米司法省の反トラスト法抵触審議の裁定待ちの状態にあるウェブTV(WebTV NetworksInc./Palo Alto, CA)*1だが、それでも買収前より、動きはかなり活発になったようだ。6月17日には、ソフトとサービスの無料アップグレードの実施を発表した。

アップグレードの内容は、テレビ番組ガイド、印刷機能、安全なオンライン決済機能の追加と、マルチメディア機能の強化、一般のISP経由でウェブTVのサービスを利用できるようにする「オープンISP」対応である。特に、番組ガイドとそれに関連する活動からは、インターネット・テレビのコンセプト自体が、初めて登場した1年前と比べ、市場のニーズを汲んだ形で軌道修正をしつつあることが伺える。

テレビ番組ガイド

今回のアップグレードで追加されるウェブTVの番組ガイドは、ニューズ社の「TVガイド・オンライン(http://www.tvguide.com)」をコンテンツ・プロバイダーとして採用し、ユーザーにメニュー提供するものだ。TVガイド・オンラインでは、ユーザーが自分の住んでいる地域を選ぶと、その地域でケーブルや放送を通じて提供されているテレビ番組をカスタマイズしてくれる。

このようなテレビ番組ガイド機能は、ウェブTVと同業態の展開を狙うネットチャンネル(NetChannel Inc./South San Francisco, CA)も打ち出している。ネットチャンネルのテレビ番組ガイドは、番組ガイド・プロバイダーのギスト(http://www.gist.com)が提供するもので、ネットチャンネルとハード提携しているトムソンのテレビやセット・トップ・ボックスの機能と統合されている。このため、番組ガイドを直接これから見たいチャンネルを選ぶのに使ったり、選んだ番組をそのままVCRの録画予約に反映させられる便利な仕組みになるという。

テレビ番組用コンテンツの開発促進

テレビ番組ガイドとは別に、ウェブTVは6月初旬、コンテンツ開発業者を対象にした「ウェブTVプライムタイム」という活動を打ち出している。これは、テレビ番組と結びついたオンライン・コンテンツの開発を促進するためのもので、30社あまりの参加業者には、ウェブTVのプラットフォームに合わせたコンテンツ開発のツールとさまざまな支援が、パッケージで有償提供される。

同社の意図は明らかに、番組ガイドと同様、テレビ番組と結びついたオンライン・コンテンツを増やすことにより、消費者にとってのウェブTVの利用目的をインターネット接続よりも、既存のテレビにインターネットで双方向機能をプラスする「テレビ主体」の使い方に変えていくことにあると考えられる。

テレビ主体への移行の意味

ウェブTVをはじめとするインターネット・テレビの試みは、テレビを端末/ディスプレイとして、既存のWWWのコンテンツを見せようとするものだった。狙いはPCに馴染みのない多くの人々に、低価格で使いやすい端末を提供することであり、基本的にはテレビをPCのかわりに使う発想で作られていた。

しかし、ウェブTV自身もその他の家電メーカーのインターネット・テレビも、この路線で消費者の支持を得られたとはいいがたい。主な理由の中には、PCに馴染みのない人は、いくらインターネットがもてはやされ、ウェブTVが簡単だといっても、そのような行動自体を好まないことがある。逆にいえば、インターネットのような能動的な情報選択や、発信活動を好む人は、PCを利用する。すると、PCの代用品としての既存インターネット・テレビには、ほとんどターゲットが存在しないということになる。

一方、PCやインターネットには関心がない人でも、テレビは見る。テレビ番組に興味を引く双方向のサイド・コンテンツがついていて、リモコンで簡単に操作できるというのなら、それがインターネットであろうとなかろうと、あまり意識せずに使うだろう。ウェブTVも、このような観点とマイクロソフトのPC-TV統合戦略とを受けて、テレビ主体の利用方法への転換を図っているものと推測される。

オープンISP対応

今回のウェブTVのアップグレードのもう1つの柱が、どのISP経由でも同社のサービスを利用できるようにするオープンISP対応だ。しかし、実際には完全な意味での「オープン」とはいえない仕組みになっている。

ユーザーはウェブTVと提携したISP経由でウェブTVのメニューやコンテンツを利用できるのだが、それにはISPに払う接続料(一般的には月19.95ドル)のほかに、ウェブTVにもメニューやコンテンツの利用料として、毎月9.95ドルを払わなくてはならない。

しかし、直接ウェブTV自身と接続契約すれば、月19.95ドルだけで済む。するとこれは、ウェブTVでインターネットをはじめる人を対象とするより、ISPに加入してPCでインターネット接続している人が、2台目の端末としてウェブTVを使うことを想定しているとしか考えにくい。そのような使い方のニーズは、現時点であまり多いとはいえない。このためか、今のところまだ提携ISPは現れていないようだ。

これとは対照的に、完全な「オープンISP」の方針をとる追随勢力もある。ダイバ(Diba, Inc./Menlo Park, CA)は、テレビやSTBのハード仕様とソフトの開発を手掛ける会社だが、最近、米国内の11の大手ISPが、ダイバ仕様の端末からの接続をサポートしていることを発表した。提携ISPには、AT&Tワールドネットと主要地域電話会社が含まれている。しかし、自身では接続事業までをカバーする気のないダイバにとっては、オープンISPは市場展開の必須条件ともいえる。

この意味で両社の立場は厳密には並べて比較できるものではないが、インターネット・テレビの市場展開という意味では、ISPがオープンである方が、シナジーを利用しやすいことは確かである。

インターネット・テレビの構成要素と展開方法

一歩深めて、インターネット・テレビの市場展開を成功させるためには、どのような構成要素が必要なのかを考えてみた。表では、ウェブTVと今回登場した2社のカバーする事業範囲を示している。ハード、ソフト、接続、コンテンツという4つの要素がバランスよく揃って、はじめて市場展開がスムーズに進むことはいうまでもない。このため、サービス開始時期の先行は別としても、現時点で総合型のウェブTVが圧倒的に優位な立場にいる。

今後、インターネット・テレビがPCの代用品ではなく、テレビ主体の双方向サービスに変わっていくのが消費者ニーズに沿った方向だとすれば、やはり専用コンテンツは必要だ。ところが、コンテンツ・プロバイダーの立場としては、まとまった規模のユーザーが確保される見込みがない限り、インターネット・テレビ用コンテンツを進んで開発する動機に欠ける。したがって、専用コンテンツ開発が、個々のコンテンツ・プロバイダーではなく、唯一まとまった規模のユーザーを確保できそうなウェブTVの主導でおこなわれる流れができてしまっている。ウェブTVはこのちょっとした「独占的立場」を利用し、オープンISPといいながらも、メニュー/コンテンツを有料にするという計画を出しているわけだ。

インターネット・テレビ市場としては、接続とコンテンツの部分がオープンになり、全体としてシナジーを発揮する構造が望ましい。しかし、このままでは、コンテンツとそこに至る接続の部分がネックとなり、ウェブTV以外のベンダーが展開しづらく、シナジーを発揮できないばかりか、悪循環のまま停滞することにもなりかねないのが実情である。

ウェブTVもインターネット・テレビ全体も、最終的にはもっと別な形態に進化していく途上にある。その展開戦略を現時点で議論しても意味がないという見方もあるのだが、現実にそれに取り組もうと参入する企業の動きは後を立たない。市場全体が正しい流れに乗るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。
ちなみに、この市場をリードするウェブTVでも、加入者数は8万5000人である。

*1 97年4月23日号(Vol.3,No.53)8ページ、97年5月28日号(Vol.3,No.55)9ページ、97年6月11日号(Vol.3,No.56)15ページ参照。

ウェブTVのその他のアップグレード内容

印刷
HP製プリンターでの印刷が可能。プリンター接続用アダプターとケーブルは7月発売。 安全なオンライン決済

安全なオンライン決済
SSL(Secure Socket Layer)をサポート。オンラインショッピングが安全にできるようになる。また、ウェルズ・ファーゴ銀行とファースト・コマース銀行のホームバンキング・サービスも利用できるようになる。

新マルチメディア機能
マクロメディア・フラッシュ、HTML3.2、Java、フレーム、主要形態の音声データに対応。

インターネット・テレビの構成要素と中心企業のカバー範囲
ハード製造ハード仕様提供ソフト開発接続メニュー/
コンテンツ
ウェブTV(総合型)
ソニー
フィリップス
三菱
日立
ウェブTVウェブTVウェブTV・加入者有料制
オープンISP・提携ISPはまだなし
ウェブTV
ダイバ(ハード仕様中心型)
ゼニス
サムスン
松下
ビューネット
(日本)
オープンテル
プリズム
ダイバダイバオープンISP・提携ISPは大手11社なし
ネットチャンネル(コンテンツ中心型)
トムソンNCI
(オラクル)
ネットチャンネルオープンISP・提携ISPはまだなしネットチャンネル

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