Skip to main content

English

Japan

ドロ沼AOL続報レポート新時代の幕開けか、転落か?

定額制開始によるネットワークの混雑で、加入者がサービスになかなか接続できない状況が続き、米国中で大問題となっているAOLは、1月27日、37州の検察当局との間で、加入者の接続時間に応じ、利用料を返金することなどで合意に達した。しかし、回線の混雑に対する対応の甘さや返金条件が不十分なことなど、AOLの今回のトラブルに対する対応には問題も多い。今後のオンラインサービスのあり方を占うケーススタディとして、レポートする。(倉持 真理 富士通総研)

AOLは1月27日、37州との間で加入者の接続時間に応じて利用料を返金することなどを主な内容にした合意に達した(表参照)。
日本のニュース報道では、返金の決定により、ひとまずトラブルは収束の方向と見なしたり、AOLの状況はインターネット・ブームの日本でも「対岸の火事とはいえない」といった結論でまとめたものがほとんどだ。しかし本紙では、インターネットのビジネスモデル考察と、企業の戦略変更のケーススタディという見地から、より詳細な状況とAOLの今後を示唆する材料についてレポートすることに意義があると考える。

AOLは、同社がこの先、これまでにない低価格/高品質の「夢のサービス」を実現し、業界内でひときわ別格の存在として新たな全盛時代を築くことになるのか、それとも誤った経営判断によって、自ら衰退を招くことになるのかの大きな分かれ道にいる。MSNやAT&Tなど、オンラインサービスがメインの事業ではない企業より、オンラインサービスに全社の命運をかけるAOLの動向にこそ、見るべき点は多いのだ。

不十分な返金条件

AOLが合意した返金の条件は、加入者の12月と1月の接続時間に応じて、返金金額を3段階に分けるものだ(表参照)。
それによれば、2カ月分の満額39・90ドルを返してもらえる加入者は、1カ月の接続時間が2時間以下だった場合のみ。月15時間以上接続している場合には、返金はゼロである。月15時間以上使っていても、申し出さえすれば、1カ月分を無料にしてもらえるが、返金にしろ1カ月無料にしろ、加入者が120日以内に電話かファクスか郵便で、自ら申し出る労を厭わない限り、受け取ることはできない。
さらに、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、12月以来のAOL加入者の平均利用時間は、1人当たり16時間であり、アナリストらの計算では、返金の対象となるのは、全体の4割程度に過ぎないという。対象となる4割の人々も、全員が面倒な手続きを行なうとは限らない。同社が合意したのは、この条件なら大した損失にならないと踏んだせいだ、という憶測も飛び交っている。

単純に考えても、今回のトラブルで一番不便を感じているのは、仕事の用事でAOLを使っている人々だ。そうした人々は、接続できるまでイライラしながら何度もダイヤルを繰り返し、ようやく繋がった後は、また繋ぐ手間を省くため、そのまま長時間オンラインに居続けたと想像される。このような人々は、最も大変な思いをした挙げ句、返金の対象からは外される。トラブルで被った時間的、金銭的損害を取り戻すためには、個別の訴訟で戦うしかない。

また、返金の対象期間は、12月と1月の2カ月だが、2月に入ってからも、システムのダウンなどが数回にわたって報告されている。同社はようやく5万台のモデムのリースに乗り出したが、それらが導入される2月末以降までは、基本的に混雑の状況は変わりない。その意味でもこの返金条件は、明らかに十分とはいえない。

居すわる加入者、反省しないAOL

不思議なのは、今回のトラブルで世間を騒がし、加入者に多大な迷惑をかけているわりに、同社とCEOのスティーブ・ケースの経営責任を追及する声が、それほど強くないことだ。

直接の利害者である株主にとっては、AOLの定額制導入が成功するかどうか、まだ判断すべき時期ではないためだが*1、世間全般としては、それが、より安く高品質なサービスを提供しようとする目的を認める心理によるものなのかどうか、そこのところははっきりしない。ただ、トラブルによる加入者の退会が、急激に増加するような事態には至っていないのは事実である*2
とはいえ、今回のトラブルの原因は、明らかにAOLの過失にある。同社は、定額制導入の発表から開始までの新規加入者の見積もりを誤った。そのうえ、混雑が明らかになってもしばらくは、新規加入者の募集と追加を全面凍結しなかったのである。

設備拡張が済むまで新規加入者を凍結することは、37州との合意事項にも含まれているが、返金の決定直後の期間、返金受け付け用の電話は繋がらないのに、新規加入用の電話は、簡単に繋がったという証言もあった。


ある新聞では、「加入者からの苦情がこれほど多いということは、それだけ世間にはAOLのサービスに代替できるものがないことを示している」という、AOL役員の談話を掲載していた。これでは、トラブルさえも宣伝材料に利用しているという非難も免れないだろう。加入者がAOLを見放さないでいるのは同社にとって僥倖であるが、同社はそれを楯に、強引に戦略変更を押し進めている。

経営へのインパクトと今後

トラブルの渦中、AOLの第2四半期(10~12月)の収支結果が公表された。これによれば、当期の収入は前年同期比64%増の4億940万ドルとなったが、収支は1億5480万ドルの赤字であった。このうち7430万ドルは、前期と2回にわたり計上予定だったリストラ・コスト*3で、2400万ドルがトラブルによる返金用のコストであった。これらの一時発生コストを差し引いても、まだ5000万ドル以上の赤字が残る計算だ。

一方、広告やショッピングのトランザクションによる収入は、前期の2400万ドルから、4000万ドルに増加した。AOLは定額制導入に伴い、加入料収入に依存する体質から脱却し、広告やショッピングによる収入の比率を2~3年のうちに最低でも25%に引き上げたい考えだ。しかし当期は前期に比べ伸びたとはいえ、比率で1割弱にとどまった。
定額制により、加入料収入と設備コストや運営コストのバランスを取ることが難しくなる中、利益確保のほとんど唯一の切り札として、この広告・ショッピング収入が今後のAOL盛衰の鍵を握るのは確かだが、それ以前に、混雑の問題が2月以降、本当に解消するのかどうかにも、分岐点はあると考えられる。
なお、AOLは97年末までに加入者数を1000万の大台に乗せる計画であることを公言してはばからない。

*1AOLの株価には1月27日、収支結果発表の2月6日時点で、特に目立った変動はない。

*2 AOLの加入者退会の動きは報じられていないが、ライバル業者のコンピュサーブやMSN、AT&Tなどの新規加入者が、にわかに急増していることは報告されている。AOLが新規加入者を凍結しているためと見られる。

*3 本紙96年11月20日号(Vol.2, No.44)12頁参照。

AOLと37州との主な合意内容

  • 加入者の接続時間に応じ、料金を返還する。返金は、電話、ファクス、郵送による加入者の申し出により行なう。申し出期限は120日以内。
  • 十分な設備拡張が完了するまで、新規加入者の追加を凍結する。
  • AOLは返金人数や、ダイヤル接続までの平均待ち時間など、トラブル対応の状況を、毎月各州に報告する。
AOLの返金対応
条件返金額
12月と1月の接続時間が 月2時間未満$39.90
〃 月2~8時間$19.95
〃 月8~15時間$10.00
〃 月15時間以上なし

ネットビジネスの最新動向は、「サイバービジネスの法則集お知らせメール(登録無料)」でお届けしています。受託調査、コンサルティング、講演も行っていますのでお問い合わせください。