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マイクロソフトの新構想

SIPCによるPC-TV融合の意味するもの

1月9日からラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショーで、マイクロソフトがある発表を行なった。それは、96年4月に同社が打ち出したSIPC(Simply Interactive PC)構想をベースとし、TV番組とデータ放送とインターネットを組み合わせた新しい形の双方向エンターテイメント・サービスを実現するための技術を提供する、という内容だった。(倉持 真理 富士通総研 1997年2月5日)

マイクロソフトの構想

意外にも、この発表に注目した報道はごくわずかしかなく、マスコミや一般には、この発表の意味するところはあまりよく伝わらなかったようだ。

しかし、PCやTVでTV番組と同時にデータを受信し、インターネットで双方向の通信が可能な仕組みをマイクロソフトが作るといえば、それは業界内の誰もがその将来に期待する、PC-TV融合の大本命に最も近いものになる可能性も少なくない。
今回発表されたのは、構想を実現する一連の技術のうち、PCでTV番組とデータ放送を受信するためのブロードキャスト・アーキテクチャーと、VGAモニターやTV画面で、離れた場所からでもリモコン操作できる、ウィンドウズの新しいエンターテイメント用インターフェースの2つである。
同社はこの構想により実現するゴールを、次のように描いて見せた。

PCとTVの融合による、新しいタイプの双方向エンターテイメント番組の創造。この中には、オン・デマンドの番組予告など、デジタルCATVやDBSによる多チャンネル時代には欠かせない選択機能も含まれる。
データ放送の「プッシュ」モデルで、マルチメディア・コンテンツを家庭に配信することにより、インターネットのボトルネックを解消。同時に、ソフトのダウンロード販売や継続的アップデート、ニュースや情報の有料サービスなどの新しいビジネスを構築することができる。

そして、具体的なコンテンツのイメージとして、料理番組が例に挙げてあった。イメージでは、端末画面の右隅に調理方法のビデオが流れ、周囲を文字といくつかのボタンのあるHTML形式が取り巻いている。説明によれば、料理の材料やレシピなども一緒にダウンロードされ、必要な情報を表示しながらビデオを見ることができ、人数分の材料や栄養価を計算することも可能。関連アイテムのショッピングをオーダーしたり、他の視聴者とのチャットに入るボタンもあるということだ。

また、「エンターテイメント・センター」と名付けられた新しいインターフェースのイメージは、拍子抜けなほど単純だが、ウィンドウズのスタートボタンからテレビ、映画、インターネット、音楽CD、ゲームなどの機能のメニューが、リモコンで選べるくらいの大きさで出ているものだった。

マイクロソフトは、すでに家電やPCメーカー、テレビネットワークやDBSなど関連業種の企業から、この構想に基づいた機器やコンテンツを開発する同意を取り付けている。ソニー、シャープ、日立、IBM、NEC、富士通、コンパックなど、大手メーカーは軒並み顔を揃え、放送業界からは同社と関係深いNBCとDBSのディレクTV、パーフェクTV。コンテンツ系としては、CATVチャンネルがいくつかと、TV番組ガイドのスターキャスト・テレサイトなどが参加した。

これらのパートナー企業向けの最初の開発キットを2月に配付し、97年末には、この技術を採用した製品やサービスを公開したいというスケジュールである。

インターキャストと似てる?

下りをデータ放送で流し、上りの通信をインターネットで受ける構造は、基本的には先行するインテルのインターキャストと同じといってよい。大手メーカー、放送、コンテンツと、関連各方面の企業をパートナーに揃え、ハードとソフト開発を同時進行させるのも、定石通りだが、両者は似通ったアプローチを取っている。
といっても、当のインターキャストは、アトランタ・オリンピックでの実験以降、システムの手直し中とのことで、最近は特に目立った動きもない状態である。

一方、両者の違いは、マイクロソフトのブロードキャスト・アーキテクチャーはネットワークの種類に依存せず、VBIやMPEGなど、さまざまな規格に対応するため、応用性が高いという点。そして何より、PCでの利用を主体に考えるインターキャストに対し、マイクロソフトの構想は、PC機能を持ったTVで、家族がリビングルームに集まって楽しむものという家電的イメージにこだわっている点である。

PC-TV融合の姿

96年に登場したウェブTVをはじめとするインターネットTVは、PCを所有しない家庭を取り込むことを意図して開発された。しかし、インターネットTVの問題は明らかに、現在のインターネット自体が、まだテレビのように誰もが気楽に楽しめるものではないことだ。
ポイントキャストのようなプッシュ型のサービスが増えてきたとはいえ、インターネットを利用するということは、情報を選んだり、設定したり、かなり能動的な行動を要求する。これに対してテレビは、電源をいれて、おおむね内容の把握が可能な範囲のチャンネルなり番組の中から1つを選ぶだけで、あとは受動的に楽しめばいいだけだ。

しかし、たまにテレビを見ている最中に、能動的な行動にかりたてられるときがある。その最たる例がテレビショッピングで、何気なくテレビを見ていたが、突然、汚れがきれいにおちる家庭用洗剤がほしくなり、フリーダイヤルでオーダーした。旅行番組を見ていたら、その場所にどうしても行ってみたくなり、パンフレットを取り寄せたなど。テレビにはそうした衝動を起こす力があるが、インターネットではこれは弱い。
普段はテレビとして気楽に受け身で楽しむことができるが、気が向けばレスポンスを返すことも可能。もちろん操作は簡単で、複雑な設定もいらない。そういう製品と多くの番組ができれば、PC所有世帯かどうかにかかわらず、大多数の世帯が今あるテレビを買い換えるだろう。

最終形は家電の統合?!

マイクロソフトがこの構想の最終的な理想形と考えるのは、家の中のAV機器やゲーム機を、PCあるいは新しいPC-TV端末をベースに統合し、一括コントロールできるようにしてしまう、ということらしい。そうすれば、スタンダード化が進み、個別目的の機器がいくつもあって、セガサターンではプレイステーションのソフトは使えないといった不都合はなくなる。そして、マイクロソフトはすべての開発プラットフォームを掌握して大儲け、というわけである。
ここまでいくと、あまりに都合がよすぎて到底現実的とはいえなくなるが、その手始めの部分であるPC-TV融合の構想は、これまで両方に欠けていた機能を合わせて1つの姿にしようとしている点など、少しは期待をかけてもよさそうに思えるのである。


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